WinterGhost Frontline   作:琴町

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ドルフロのほんへは2062年から始まるってことと、拙作が11戦役辺りの時間軸ってことを念頭に置いていただけるとよろしいかなって


幕間に投げられた思い出話・その一 ⑤

 結論から言えば、45の悪寒は正しかった。

 先日手に入れた『オペレーション・サンタクロース』なるファイル。そこに記されていたのは二〇四七年に展開された、とある脱走兵の追走及び抹殺作戦だった。対象の追跡に当たったのは、五つの特殊部隊。

 しかし彼らは全滅し、二人を除いては遺体すら見つかっていない。その二人も、死体の損壊があまりに酷く死因を特定できなかった。結局、正規軍の追跡を完全に振り切り、対象は行方を眩ませた。そして、その脱走兵の名は、ノア=クランプス。

 

「いくらなんでもおかしいと思うんだよね~」

「‥‥そうね」

 

 部屋のベランダ、フェンスに凭れる416が頷いた。その眼差しはいつもと変わらず、退屈そうな、不機嫌そうな色を湛えている。

 45は目に掛かった髪を払って、コーヒーカップに口をつけた。

 

「驚かないね。これが正しかったら、指揮官は七歳くらいの頃に軍人二十九人を虐殺したことになるんだよ?」

「驚いてるわよ。‥‥というより、よく分かんないわ。

 そもそも、正規軍にいたのね、あの人」

 

 416の視線は遠く、どこか寂しそうに細められた。「私たち、何も知らないのね。あの人のこと」

 まるで恋する乙女のようなその声色に、思わず笑いが零れた。

 

「‥‥すっかり指揮官に首ったけだね、416」

「はぁ?」

 

 予想外の反応。てっきり、顔を真っ赤にして大声で取り乱すと思っていたのだが。

 416はあくまで落ち着いたまま、小さく笑っただけだった。

 

「別に好きとか惚れたなんて話じゃないわよ」

「説得力無いなぁ。毎朝ご飯作りに行ってるんでしょ?最近は更に部屋を出る時間が早くなったし。

 副官も連続殺人の捜査も、全部自分から立候補したじゃん」

 

 416が面倒くさそうに顔を顰めた。風に遊んでいた銀髪を一房捕まえて、指先で弄ぶ。

 少し考えるような様子を見せて、それからゆっくりと口を開いた。

 

「‥‥違うのよ、本当に。ただ放っておけないだけ。

 私たちが生きる理由も、“欠落組”を殺すっていう目標も忘れてない。あの人はそのためにとても役立つわ。それはアンタだって分かるでしょ?

 それなのに、彼は自分の重要さを理解していないとしか思えない生活をしているから、私が支えてるってだけ。要は銃のメンテと同じ。

 最初は、初対面のときの印象を払拭したいってのもあったけどね」

 

 実にHK416らしい理屈だ。G11を見捨てないところからも、彼女が「放っておけない」という感情を放っておけないというのはよく分かる。

 しかし、ならばどうして、

 

「何でそんなに悩むような顔してるの」

「してないわよ」

「してたよ~。

 ほらほら、感情を整理するついでにさ。指揮官について思ってること、全部話しちゃいなよ。

 ――まだ言ってないこと、あるでしょ?」

「うざったいわね‥‥」

 

 夜空を仰いで、416は小さな声で呟いた。

 

「指揮官に訓練をつけてもらってると、アイツを思い出すことがあるの」

「‥‥M16?」

 

 416の昔の同僚にして、その立場を奪った張本人。その後も顔を合わせる度に突っかかっては返り討ちにされている。以前はAR小隊に所属していたが、今では鉄血の先兵だ。

 45自身も、一度正面から彼女と戦ったことがある。性能と経験の双方に恵まれた彼女は、確かに強かったが‥‥

 

「どう考えても、指揮官の方が強いよね」

「あの二人の優劣はこの際問題じゃないわ。私と比べての話よ」

「あぁー‥‥」

 

 つまるところ、416にとってはノアも越えるべき壁なのか。だからこそ、彼の体術を教わっているのだろう。

 段々目の据わってきた416が、グラスを握りしめて吐き捨てる。

 

「指揮官ったら、私が後を追ってることを分かってて、それでもずっと優しくするのよ。

 あの人が人形にやたらめったら優しいのは分かってるけど、何なのよあの余裕!あぁもうっ、ムカつく!」

 

 ‥‥これ、酒が入っていれば暴れ出していたのではなかろうか。

 グラスの中身が炭酸飲料であることに、45は心底感謝した。

 

「なぁに、416は指揮官から冷たくあしらわれたいわけ?」

 

 そう訊ねると、416はうぅんうぅんと頭を捻る。「そういうわけじゃないんだけど‥‥」

 その悩みよう、感情の拗らせようで、45は確信した。最早、416がノアに向ける感情は引き返せない領域まで達している。

 もし、あの男が自分たちを脅かす存在であると分かったそのときは、自分が彼を排除するしかない。

 己の中に湧き出た決意諸共、45はカップの中身を飲み下した。

 

「じゃあ、私はもう寝ようかな。416も早く寝ないと、今日も早いんでしょ?」

「そうね。――あぁ、一つ言い忘れてたわ。45アンタ、ヘリアンに指揮官の情報流してるでしょ。アレ止めなさいよ、下手したら本当にクビになるかもしれないんだから」

「あぁ、アレね。しょうがないじゃん、指揮官の履歴書を貰う交換条件だったんだもん。

 今回のネタは入手手段がグレーゾーンだから、ヘリアンにも教えないよ~」

 

 そう。ヘリアンに教えたら、ノアは今の立場を追われてしまうかもしれない。それは彼に自由を与えることとも同義だ。

 これは、45自身の手でノアに突きつけるべき証拠。この目で、この耳で、彼の説明を確かめるべきだ。

 待っていろ、ノア=クランプス。お前が一体何者なのか、謎を暴く日はすぐそこだ。

 

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