WinterGhost Frontline   作:琴町

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雪の木曜 ⑫

「ごめ゛ん゛な゛ざい゛~!!」

 

 C■■地区、鉄血領最奥。剥き出しの配線が生い茂る管制室に、小柄な鉄血ハイエンドの泣き声が響き渡った。

 ドリーマーは耳を塞いでいた手を放し、溜め息を吐いた。ツインテールを振り乱すデストロイヤーが、両目から滂沱(ぼうだ)と涙を流しながらしゃくりあげている。

 

「もう、どうしてそんなに泣くのよ」

「だって、折角ドリーマーが最前線を任せてくれたのに、アタシ失敗しちゃった‥‥。

 エクスキューショナーだって、あんなに資材使ったのにぃ‥‥」

 

 デストロイヤーの言う通り、改造型エクスキューショナーーー“Keraunos(ケラウノス)”の開発には多大なコストを費やした。鉄血工造の製造ラインは全ての工程が独占運営されているため、経済的制限は基本的に無い。しかし大容量バッテリーや無線高圧送電、対カストラートを想定した火器管制コアの調整および内骨格の原料改善など、資材のみならず時間と手間もかかった。

 そして、結果的にそのコアも奪われてしまった。今までに投入したピーキーなモデルと同様、カストラートは手に入れたコアを解析するだろう。これからケラウノスの費用対効果は劇的に低下するはずだ。もう作らない。

 だが実際のところ、ドリーマーはさして悲嘆していなかった。その態度を見たデストロイヤーが、訝しげな声を上げた。

 

「どうするのドリーマー?また対策されちゃうよ」

「どうって、どうもしないわよ?

 元々コストのかかりすぎるモデルだったし、エクスキューショナーは旧式に戻すわ。あの子は嫌がるでしょうけど」

「やめちゃうんだ‥‥。じゃあ、何であんなの作ったわけ?アンタの遊びってわけじゃないんでしょ」

 

 小首を傾げるデストロイヤーに、ドリーマーはコンクリートの欠片を軽く投げつけた。額を押さえてデストロイヤーが憤然と抗議する。

 

「痛いじゃない!何するのよ!」

「前に説明したでしょ、おバカ。それともバックアップを読み込み損ねたの?」

「え、そうだっけ?‥‥待って二発目投げないで。

 そうだ!カストラートの首でも晒せばトーチャラーを釣れるってヤツ?アレ冗談だと思ってた」

「そんなわけないでしょ」

 

 思わず天井を仰いだ。発言の重要度を判別する能力すら無いなんて。

 

「本気で身を隠しているトーチャラーたちを、正攻法で見つけるのは至難の業。

 クレンザーは私が手慰みに設計図を書き殴ってただけのロマン兵器だけど、トーチャラーは違う。

 あのお方の命令で、この地区の戦術指揮を丸々任せるために作ったハイエンドだもの。狡賢さは折り紙付きよ。

 けれど、あの子には一つ、決定的な弱点――アキレス腱がある」

「それがカストラートなの?」

 

 頷いて、『第三種遺存生命体に関する報告』という題のファイルを一瞥する。――トーチャラーの製造過程を思い返すと、少し気分が悪くなる。

 胸の中にもう少し空気が欲しくて、ドリーマーは気持ち大きく息を吸った。

 

「トーチャラーとカストラートとの間には、切っても切れない関係があるの。

 彼を捕らえるか殺すかすれば、あの子は必ず彼の体を奪いに来る。

 ま、こっちはほとんどついでみたいな作戦だったんだけど」

「え?じゃあ本命って何‥‥待って!コンクリ片ぶつけないでよ痛い!

 ソレ、ホントにアタシに言った!?一ミリも憶えてないんだけど!」

 

 破片を握った手が止まる。そういえば言ってなかった気がする。まぁ言っていたとしてもどうせ忘れていただろうし、大して変わらないか。

 

「‥‥ナハツェーラのテストとデータ収集から、彼の目を逸らすのが本命よ。こっちは今のところ上手くいってる。

 軍とはぐれ人形共が勘付いてるみたいだけど、まぁカストラートにさえバレなければ問題ないわ」

 

 その言葉を聞いてしばらく考え込んだ後、デストロイヤーが目尻に涙を浮かべて叫んだ。

 

「やっぱりアタシ、聞いてないわよ!」

 

 そのままわんわん泣き出すものだから、ドリーマーは額を押さえた。彼女を苛めるのは楽しいが、泣かせると非常に面倒なのだ。だが今回は仕方がない、最後のは自分の不手際だ。

 今日はいかにしてデストロイヤーの機嫌を誤魔化そう。ドリーマーは最適な言葉(エサ)を探しながら、無骨なハイスツールから飛び降りた。




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