WinterGhost Frontline   作:琴町

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幕間に投げられた思い出話・その二 ②

 副官と一襲(イッシュウ)からの解任を告げられて、一週間。自分が絶不調であることを、416は理解していた。

 あんなにも優しい人を怒らせたのだと実感してしまったのは、二日目の朝のこと。それから必死になってメッセージを送ったが、その全てに返信は無い。

 

「何なのよ‥‥既読つけてるんだから一言くらい返事してくれたっていいじゃない‥‥」

 

 SNSを見れば、他の人形たちがノアとの写真をアップロードしている。副官がいない以上、事務仕事の負担は増したはず。それでも写真の中の笑顔はいつもと変わらず、416は堪えようのない苦い感情を抱いた。

 それはさておき、416は普段通りに過ごすことを心掛けていた。謹慎を命じられていない以上、部屋の中でじっと反省することはノアも望んでいないと推測したからだ。しかし全く上手くいかず、404の三人にも迷惑をかけてしまっている。

 9が気を遣って街へ出ないかと誘ってくれたが遠慮した。街の風景を見ると、ノアとの仕事を熟すために学んだ知識が否応なく思い出されてしまうから。

 眠ろうとする自分にG11がしがみついてきて、「抱き枕代わりにしていいよ」と言ったときには、思わず笑ってしまった。まぁ次の瞬間には、この寝坊助にさえ気を遣われたという事実に自己嫌悪が加速したのだが。

 45は特に何も言わない。スクラップ扱いでもされそうだと思っていただけに、これが一番意外だった。

 三人が、彼女たちなりに自分のことを思いやってくれているのだとは理解している。理解しているから、416は早く普段通りの自分に戻ろうと焦りを感じていた。

 しかし、何をしようにもノアとの時間を思い出してしまうのだ。

 本を読めば、感想を語り合った時間を。

 キッチンに立てば、彼のために食事を用意した朝を。

 

「訓練でもしようかしら‥‥いや、意味無いわね」

 

 今となってはノアとAUG、IWSくらいしか適当な相手がいないのだ。

 どちらを向いてもノアの面影がちらついて、立っているのすら辛くなる。

 

 自分は誰よりも研鑽を積み、ノアの背を追っていた。突撃銃とスティグマを繋いだ戦術人形でありながら“絶火”を習得し、第一強襲部隊で五五二体のハイエンドモデルを殺した。他の隊員が戦闘不能に陥る中、エクスキューショナー・モデル・ミョルニルを撃破してみせた。ノアが熟していた膨大な量の行政事務や指揮業務を、同じスピードで捌けるまで仕事を覚えた。

 戦闘においてもデスクワークにおいても、自分の実力を示し続けていたはずなのに。伸ばした手は振り払われて、握りしめた掌には何も無い。

 やがて焦燥と寂しさと怒りは絵の具のように混ざりあい、黒い感情へと変わっていった。

 そんな感情データを持て余して数日間。何度目か分からない歯軋りに応えるように、ピアノ調の通知音が聞こえた。跳び付くように端末を手に取る。待ちわびた相手からの返信が、画面に映っていた。

 

  『今夜零時、宿舎前で会えるかな』

 

 ごく簡潔な文面からは、彼の真意は分からない。彼には大事な話をするとき夜を好むところがあるから、深夜という時間設定は自然なものだ。

 416は、笑わない。今や胸中に渦巻く感情は敵意にすら近く、もはや復讐心とすら呼べそうな代物だったから。

 装備品をかけているラックを一瞥する。爆発に巻き込まれたので新調した武装は、既にカスタマイズと整備を済ませてあった。

 

「拳銃とナイフで充分ね」

 

 どうせ彼に長物の弾は当たらないのだ。今の自分ならば、不意を突いた近接格闘で一矢報いることくらいはできるはず。

 そうすれば、流石に彼も自分の実力を認めるだろう。

 

「‥‥ふふ」

 

 一人ぼっちのベッドの上で、416の唇が三日月を描いた。




はいじゃないが?(半ギレ)

仲直りしてよ(必死)悪化してるじゃん(発汗)どうして(眩暈)

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この絶望を切り抜ける燃料が欲しい

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