WinterGhost Frontline   作:琴町

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アンバーズヒルの吸血鬼・後篇 ⑦

 45からもたらされた報せに、416は思わず悲鳴を上げた。

 

「血液がもらえないって‥‥どういうことよ!?」

『元々そういう取り決めだったらしいよ、”猫の鼻”と病院は。つまりはノア自身の根回しだね。

 人形だけで運営するように切り替えるための措置だと思う』

「そんな‥‥!」

「落ち着いて、416!」

 

 倒れそうになった416を、Shortyが受け止める。

 416は額を押さえて俯いた。

 せっかくノアを目覚めさせる手掛かりを掴んだのに、実現する手段は無い。このままだと、寝たきりの彼を軍の追撃から庇いつつ逃げる羽目になる。

 45は口にしていなかったが‥‥そのとききっと、404小隊はノア=クランプスを見捨てることになるだろう。

 どうする。どうすれば状況を好転させられる‥‥?

 そこで416はふと、ノアに言われた言葉を思い出した。

 

 

『ほとんどの場合、問題を解決する手段は視界の中にあるものさ。

 単純に気付いてなかったり、無意識に避けている手段だったりはするけどね』

 

 

 ノアのような高速格闘戦も熟せるようになりたいと考え、教えを乞うた時の発言だ。あの文脈では「新たな分野に手を出すより、自分に今できることを最大限に伸ばす方が有意義だ」というような意味だったが‥‥。

 

「416?ちょっと、聞こえてる?‥‥はぁ」

 

 沈思黙考している彼女の様子を見て、これ以上の会話ができないと判断したか、AK-12が話を継いだ。

 

「久しぶりね、UMP45。本当ならもっと昔話に花を咲かせたいところだけど、早速本題に入るわ。

 現在の戦況は?私たちはどこから合流すればいいかしら。

 いえ、そもそも指揮権は誰が持ってるの?」

 

 アンジェリアの横たわる担架を押さえながら、矢継ぎ早に繰り出される質問。45は同じく早口で返していく。

 

『まず、指揮権は私が持ってるよ。指揮モジュール積んでるのが私だけだからね。

 次に戦況。南方防衛線は突破されたけど、IWSとAUGの率いる防衛部隊が敵戦力を4割は削ったわ。

 こっちは人形大勢と”ガニメデ”をやられてるから、若干不利ね。

 ルートは‥‥悪いけど、こっちからは正確なナビゲートができないの。

 上手く戦場を避けて基地まで来て。くれぐれも軍の部隊を連れて来ないように頼むわよ』

 

 45が語る間も、前方から爆発音と煙が迫ってくる。

 12の目配せ——目は閉じたままだが——に首肯して、AN-94がハンドルを切った。45の言う通り、主戦場を迂回して”猫の鼻”へ向かう。

 

『それから注意だけど、向こうにも一人化け物がいるの。エゴールって憶えてる?正規軍の』

「前回の戦いで、軍側の指揮を執っていた奴だっけ。そんなにやばいの?人間でしょ?」

 

 MDRが口を挟んだ。12は肩を竦めたが、スピーカー越しの45は否定した。

 

『あの戦いで、奴も被曝したんでしょうね。体の大部分を機械に替えてて、今はただのサイボーグ。

 出鱈目な耐久力と機動力を兼ね備えてて、結局は南方もアイツ一人に落とされたようなものよ。

 有人機と無人機の混成部隊を連れての移動だからそこまで早くないけど、あと30分もしたら基地まで到達されるわ』

「そんな奴とぶつかったなら、IWSたちは‥‥」

 

 そう言ったG28の顔から、さぁっと血の気が引く。

 たしかに、”猫の鼻”の双璧と謳われるIWS-2000とステアーAUGが破壊されてしまったら、こちらの勝ちの目は限りなく少なくなるだろう。

 しかし彼女の心配とは裏腹に、45は呆れたような声で告げた。

 

『アイツらは無事よ。流石に無傷とはいかないけど、突破されてからは地下通路でこっちに戻ってもらってる。

 AUGとIWSだけは、軍の部隊と並走しながら今も撃ち合って足止めしてるけど』

「こっちも化け物じゃないの‥‥」

 

 12の眉尻が困惑に下がった。

 ちょうど話が一段落したとき、それまで大きく揺れていた車体が落ち着きを取り戻してきた。

 窓の外を見渡した64式が、スピーカーに向かって語りかける。

 

「45さん。0E-99-A3の地下通路進入口は今も使用可能ですか?」

『ちょっと待ってね‥‥えぇ。通路内も問題なく通れるわ』

「分かりました。そこから基地に戻りますから、開放をお願いします。

 94さん、そこを左に曲がってもらえますか?

 路地の突き当たりにハッチが開くので、このまま車両で進入できます」

「分かった」

 

 住む者がいなくなった市街地跡、通りの真ん中を装甲車が爆走する。

 94のハンドル捌きで、64式の言った路地にピタリと入るような形で方向転換した。病人を乗せた走りとは到底思えないが、彼女が何も言わずとも12がアンジェリアの体や器具を押さえている。

 フロントガラスの向こう側、416たちの眼前でハッチが開いていく。

 

『開けたよ!

 そこから基地に入ったら、正門方向に来て。私たちもそこにいるから』

「——私は、行かないわ」

 

 そこでようやく、416が口を開いた。

 その内容にG28はひっくり返り、AK-12は眉根を寄せる。

 

「貴女、自棄になったのかしら?

 この状況でそんな我侭を言っていられると——」

「自棄じゃないわ。

 私は途中で降りて、人間職員用宿舎へ行く。

 用を済ませたらノアのいるところに向かうわ」

『——分かった。所要時間は?』

「えっ‥‥と、”絶火”を連発したとして‥‥探し物がすぐ見つかれば10分強、最長でも30分で着くようにするつもり」

 

 そう答えながらも、すんなりと45が了承したことに416は驚いていた。

 しかし、彼女以上に驚きを隠さなかったのは12だ。

 

「ちょっと、いいの45!?

 416は貴重な戦力でしょう、遠回りをさせる理由はないはずよ。

 それにもし単身で敵と遭遇したら‥‥」

『向こうの動きは妖精で見てるけど、そっち方面に敵影は無いよ。

 より安全なルートでノアの護衛につけるし、強ち非合理的でもないかなーって。

 それじゃあ416、時間は厳守でね』

「当然よ。私を誰だと思ってるの」

 

 さっきまでショックでフリーズしてたじゃない、と呟いたG28の頬を抓る。「いふぁいいふぁい!」

 

「手伝いは必要?」

「いいえ、私一人で十分よShorty。

 ここで降りるわ。ご苦労様、AN-94」

 

 地下通路で走行を続ける装甲車のドアを開け放って、416の髪が風に踊る。

 飛び出さんとする背に、12の声が掛かった。

 

「しっかりね」

「えぇ。アンタたちも」

 




こんにちは。お久し振りです。

中々場面を切れなくて、だらだら書き続けてしまってました。
これは拙いと文章を整理しなおして、2500字で一旦切った次第です。

そのせいで薄味になっちゃったなぁとは思ってます。

次回、AUGが怖いです。お楽しみに

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