WinterGhost Frontline   作:琴町

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無自覚と自覚の恋色戦線 ②

「や‥‥っと自覚したわよこの子。

 ホント、傍から見てて莫迦らしいったらないわね」

「長かったねえ」

「そ、そんなに酷かったかしら」

 

 眉尻を下げて416が首を傾げる。

 45が心底呆れたように溜息を吐いた。両肩を思い切り下げて、全身で「あほくさ」の構えである。

 

「そりゃあ酷いわよ。

 あそこまで距離感近くて、しかもベッタベタに依存しといて『惚れたなんて話じゃないのよ』とか通らないでしょ」

「い、依存なんて――」

 

 反射的に否定しかけた口を噤む。

 一度認めてしまった時点で反論は全て言い訳になる。自分がノアに対し抱いている惑星の如き感情の正体が分かった今、「実は最初から好きだったんじゃないか」という気すらしてきた。

 恋を自覚する瞬間は明確だが、その恋に落ちた瞬間は得てして曖昧なものなのかもしれない。

 

「‥‥でも」416は眉を顰めて俯いた。「やっぱり、この感情は無くしてしまうべきだわ」

「え!?どうして、416!?」

 

 9が全身で驚きと悲しみを表現する。「せっかく気付けたのに‥‥」

 416は肩を竦めて首を振った。

 

「私たちがここにいるのは、あくまで“欠落組”を仕留めるため。

 ただでさえ作戦期間を延長して長居してるのに、その後も居させてくださいなんて、それこそ通らない話でしょ」

 

 窓の外に灯りはほとんどない。諦めたような自分の表情が暗闇に反射する。

 

「離れ離れになることは分かってる。

 仮に結ばれたとして、その後苦しくなるのがオチよ。私もノアも」

 

 ただでさえ難攻不落の人だしね、と付け加えた。

 ふと、くつくつという笑い声が聞こえた。視線を声の主に向ける。

 

「‥‥私、何かおかしなこと言った?45」

 

 45は肩を震わせている。「いや、今更すぎると思って」

 目尻に浮かんだ涙を拭うが、それでも上がった口角は中々戻らない。そんな面持ちで放たれた問いは、416の胸に突き立った。

 

「例えば、明日にでもここを離れなきゃいけなくなったとして。

 貴女は苦しくならないの?416」

「そ、れは‥‥」

 

 痛いところを突かれ、416は眉を顰めて唇を噛む。

 諦めることは、できると思う。自分は完璧な戦術人形であり、己の使命を理解しているから。それに伴う心痛にも、きっと耐えられる。

 でも、ふと気持ちが緩んだとき。ノアの声や表情を思い出して、そのたび胸を締めつけられるのだろう。セカンダリレベル以深で記録された情報は劣化と無縁だから、その痛みが風化することも無さそうだ。

 416がどんなことを想像していたか、眉間に作られた深い皺で悟ったのだろう。45はひらひらと白い手を振った。

 

「我らが404小隊の誇るアタッカー様が、随分と消極的ね。

 とにかく告白でもなんでもしてみればいいじゃない。

 振られたら振られたでスッキリするでしょ。後腐れなく離脱できるわよ」

「アンタ、楽しんでない?」

「もちろん」

 

 半眼で睨みつけると、45は笑う。

 相談相手がこんなに気楽なものだから、もしかしたらそこまで考えこむべきことではないのかもしれないと思えてきた。

 しかしもう一つ考えなければならない問題があって、

 

「もしOKだったらどうするのよ」

「自分でその仮定する?」45が苦笑いを浮かべる。

「そりゃあするわよ。成功時のことを考えない作戦行動なんて、ただの自爆じゃない」

 

 眉根を寄せて呟く。「もし‥‥もしもよ」

 

「もし、ノアも私と同じ気持ちでいてくれたとして。

 別れのときに一番辛いのは、きっと彼よ。

 彼は誰よりも『置いていかれる』ことを恐れてるから」

「貴女がそんな殊勝なことを言うなんてねぇ」

「莫迦にしてるの?」

 

 まさか、と45は首を振った。こちらに身を乗り出して、416の胸を指差した。

 

「取り残される側のことなんて気にしなくていいのよ。

 ノアは賢いわ。受け入れた時点で別れのことなんて了承済みでしょ。

 もちろん貴女もね」

「‥‥そうね。アンタの言う通りだわ、45」

 

 ようやく表情が緩んだ416だったが、すぐにキッと視線を鋭くした。

 

「まぁ、どうせ想いを伝えるなら首を縦に振らせたいわね。

 敗色濃厚のまま挑むのは完璧じゃないもの」

「か、勝ち負けなの‥‥?」9が眉尻を下げた。

「当然よ」

 

 416が立ち上がる。ペリドットのような瞳を爛々と輝かせ、拳を握っている。

 

「悪かったわね、こんな話に付き合わせて。

 ここからは自分で考える。まずはちょっと外を走ってくるわ」

 

 言うが早いか、416はすぐさま部屋を後にした。

 火を点けたのは自分だが、こんなに勢いよく動き出す416を見たのは初めてだ。

 45はやれやれと嘆息して、自分を見つめる妹の視線に気が付いた。

 

「どうしたの?9」

「45姉は、大丈夫なの?」

 

 こちらを案じる声音と問いに、45は目を見開いた。

 9は好奇心旺盛だ、恋バナとあらばもっと根掘り葉掘り訊こうとするだろう。それが今日はやけに口数が少なくて、楽しいというよりも困ったような様子だった。45でなければ気付けない程度の違いだが。

 そういうことだったかと、45は苦笑する。

 

「‥‥そんなに分かりやすかった?」

「ううん。416は多分気付いてないよ。でも、私は‥‥ずっと45姉を見てたから」

「もう‥‥姉想いの妹を持って、私は幸せ者ね」

 

 結び目に向かう流れに沿って、9の頭を撫でる。9はその手に頬を寄せながらも、心配そうな視線を投げることをやめない。

 

「416はああ言ってたけど、あの子は特に策を弄さなくたってノアを落とせるの。きっと」

 

 416専用に設定した端末の着信音と、それが聞こえたときのノアの表情。

 どこかで似たような顔を見たことがあると思ったが、ようやく思い出した。

 昔滞在していた基地の指揮官と、付き合いで見た旧時代の青春映画のワンシーン。待ち合わせ場所で恋人を見つけた若者にそっくりだったのだ。

 窓の外を見る。当然外の景色など見えるはずもなく、ただ自分のつまらなそうな表情と翳った9の横顔だけが映っていた。

 先の自分は、ちゃんと笑えていただろうか。

 

「ノアの態度を見てれば、こっちに勝ち目がないのは一目瞭然。

 気付いてないのは当人ばかりってね。

 ‥‥ホント、傍から見てて莫迦らしいったらないわ」




テテテッテテテテー(空耳)

今週は知られざる恋心のお話でした。

いや別に「45がノアに惚れる描写入れたけど、アレ以来45の心情描写してなかったな‥‥」とか思い出して捩じ込んだわけではないです。マジで。

他の作品だと悪女として描かれることもある45ですが、拙作では「必要とあらば冷淡になれるけど、根はいい子だしそこまで自己中心的でもない」って解釈です。

ただ、筆者のイメージ内で416以外の子はディテールが凄く粗いんです。基本的に416のことしか見ていないので。
なのでUMP姉妹の描写に関して、どこか抜けているところがあるやもしれません。そこは皆さんの方で適宜脳内保管してもろて‥‥

来週はノアくん視点です。

感想や高評価などお待ちしております。
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