WinterGhost Frontline   作:琴町

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この世界の正規軍の戦力はゲーム本編と同じくらいという前提でお読みください


少女前線異常アリ ①

 鋼鉄の防護壁が、まるでプラスチックのように溶解した。熔鉄(ようてつ)の輝きが、引き締まった基地の空気を引き裂く。

 突然の異常事態に声を上げようとした兵士は、始めの一音を放つより早く熱線の中に消えた。

 たった一度の砲撃。何の前触れもなく突き抜けた一条の光によって、正規軍本部は真っ二つに両断された。当然、レッキセンターやアケロンをはじめとする施設も兵器も、射線上にあったものは一つ残らず焼き払われた。大音声の警報が鳴り響く。

 遥か東の都にあった朱雀大路がごとき通りを悠然と進むのは、狂ったように武装が敷き詰められた要塞だ。辛うじて人型に見えなくもないそれの胸元では、大きな砲門が薄く煙を上げている。

 

「はー、めっちゃ気持ちよかった!トーチャラーの中でイったときと同じくらい」

『こら、はしたないわよクレンザー。でもいい一撃だったわ。

 今ので軍人さんたちがいっぱいやってくるはずだから、私の用事が終わるまで遊んでもらってね。

 兵器はどれだけ壊してもいいけれど、保管庫は残しておくのよ』

「おっけ、任せて」

 

 暢気に通話を終えたクレンザーが周囲を一瞥すると、夥しい数の無人兵器が彼女を取り囲むところだった。

 クレンザーは不満げに眉を顰めて、眼前に(ひし)めく無数のオルトロスを徹甲弾の掃射で薙ぎ払った。

 

「なんか少なくない?崩壊液爆弾で数減ったんだっけ」

 

 遅れて迫るテュポーンやコイオスはミサイルの雨で叩き潰した。飛来するレールガンやガトリングを意にも介さず、より多くの敵がいる方向を探す。その横腹に、次々とハンマーのような武装が叩き込まれる。

 とはいえ、機体へのダメージは無いに等しい。クレンザーは機体の下部から熱風を放つ。構えた防弾シールド諸共、突っ込んできたクラトスたちは熔解してアスファルトの染みと化した。

 どんな攻撃にも怯むことはなく、近寄るものもそうでないものも鎧袖一触。クレンザーは退屈そうに空を見上げた。辺りは炎に包まれて、黒い煙が青い空へ高く立ち昇っている。

 

「つまんない。

 早く帰ってトーチャラーとエッチしたいなぁ‥‥」

 

 そのとき、強化外装のレーダーが大きな敵影を感知した。そちらに振り返ると、外装込みのクレンザーを遥かに上回る巨体が地下から押し上げられてくるところだった。巨大な砲門とミサイルポッドを携えたその影を見て、クレンザーの口の端が吊り上がる。

 

「そうそう!せめてAA-02(ソレ)くらいは出してくれなきゃね」

 

 

 

 一方その頃。カーターは基地を脱出するため、最低限の荷物を持って部屋のドアに足を向ける。窓の外では黒煙が上がっていて、空まで赤く炙られている。

 しかしその手がドアノブを握るより先に、背後からの声が彼を呼び止めた。「こんばんは」

 自分以外誰もいないはずの密室という状況下、カーターは飛ぶように背後を振り返った。

 

「お、お前は‥‥!」

 

 その目に映ったのは、蠱惑的な肢体をモノクロの衣装に包んだ女性――の形をした人形。その意匠から、一目で鉄血人形であると分かる。

 断っておくと、彼は曲がりなりにも准将という立場まで上り詰めた男である。その胆力を以てすれば、突如姿を現した鉄血人形ごときに仰天することなど無い。

 にもかかわらず彼が衝撃に身を震わせたのは、人形の顔が自分の知っている人間と瓜二つだったからだ。

 

「お久し振りねカーター准将。最後にお会いしたときからあまり階級が上がっていないようだけど、野心は消えたのかしら」

 

 そう言って笑ったトーチャラーが、怯えた様子のカーターに顔を顰める。

 

「嫌ね、そんなに怖がらないでくださいな。

 私はただ、あの日の慰謝料をいただきに来ただけなんだから」

「い、慰謝料だと‥‥?ふざけるな、化け物め!

 体を機械にしてまで生き延びて、お前は何がしたいんだ!」

「その発言は、今は亡き右腕(大尉)まで(そし)ることになるわよ、准将」

 

 呆れたようにトーチャラーが肩を竦める。「そもそもこうなったのは私の意志じゃないもの」

 気付けば、カーターがゆっくりと右手を腰のホルスターに伸ばしている。その人差し指をトーチャラーが無拍子で蹴り潰す。尋常外の速度で放たれた蹴りがカーターの視界に映ることはなく、何をされたのか分からないまま、彼は短く叫んで蹲った。右手を押さえて呻く。

 額に脂汗を浮かべ震えるカーターの、押さえた傷口から鮮血がぼたぼたと落ちていく。トーチャラーは凄絶な笑みを隠すことも無く、広い額を指で突いた。

 

「そのくらいで音を上げてはダメよ。貴方にはたっぷりとお返しをしなきゃいけないんだから」

 

 

 二時間後。血溜まりに沈む男からは、悲鳴はおろか呼吸さえも聞こえなくなった。トーチャラーは(しな)びた死体を蹴ってひっくり返し、冷めた目で見下ろす。「これでも釣り合いは取れてないけど。まぁいいわ」

 血塗れのポケットから携帯端末を抜き取って、起動してみる。当然生体認証を要求されるが、彼女がわずかに視線を動かせばすんなりとホーム画面へ遷移した。アプリもカメラロールもまるですっからかんだが、通話履歴だけは残っていた。昨日以前のものは消えているので、毎日0時に消去しているのだろう。

 

「不用心ね」

 

 そこに記されていた電話番号を記憶して、端末を握り潰す。(ひしゃ)げた液晶の板を投げ捨てて窓の外を窺えば、来たときに立ち並んでいた施設や兵器たちは跡形もなく消え、最も大きな保管庫を残して辺り一帯は更地になっていた。向こうはとっくに仕事を終えていたらしい。

 

「流石クレンザー」

 

 頬の返り血を拭い、トーチャラーは上機嫌で部屋のドアを開け放つ。ブーツ型装甲をカツカツ鳴らして廊下を歩いていく彼女の目には、辺り一面に転がる兵士たちの死体など映らない。

 

「あぁ‥‥でも匂いが気になるわね」

 

 パチン。

 トーチャラーが指を鳴らすと、瞬く間に床や壁が凍り付いていく。

 やがて5分もしない内に、正規軍本部の中心部は氷の城へと変貌した。

 外からその様子を見ていたクレンザーが、興奮した声を上げる。

 

『トーチャラー凄い!こんなことできたんだ』

「まぁね。貴女が邪魔な連中を綺麗に片づけてくれたし、これからはここをお家にしましょう」

 

 わーいとはしゃぐ相方の声を聞きながら、トーチャラーは兵器保管庫に足を向けた。

 

「正規軍の価値なんて、アレくらいしかないわよね。

 さて、いただこうかしら。――アルゴノーツを」




さよなら正規軍
人類最後の壁がカジュアルに瓦解するお話でした。

この話で色々と察した人もいるかもしれない。

僕は「正規軍なら鉄血を3日で撲滅できる」という設定にちょっとだけおこなので、鉄血に1日で正規軍を滅ぼしてもらった次第です。

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