WinterGhost Frontline   作:琴町

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416の日だぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


少女戦線異常アリ ③

「そんな‥‥正規軍が」

「信じられないだろうけど本当の話よ」

 

 ”猫の鼻”の執務室にて、ノアと416、アンジェリアと45が顔を合わせていた。

 ソファに腰掛けていた45が、眉をひそめた416を見ながら肩を竦める。

 

「昔のアニメ映画みたいだったよ。基地全体が氷漬けになって、中央からは氷の城が生えてたんだから。

 事情を知らなければ、ロマンティックと思えたかもね」

「他に何か情報は?」

「見るからに生存者は0、ってことくらいかしら。

 誰かさんが敷地から800mの範囲に近づかせてくれなかったから、望遠距離で掴める情報しか無いわ」

 

 45がちらりと隣に視線を投げる。

 正規軍本部跡地へ偵察に行ったのは第二偵察部隊と反逆小隊だった。彼女たちを率いていたアンジェリアが、真剣な表情で口を開く。

 

「あくまで推測だけど、あれ以上近づいてたら全滅してたわよ。

 外壁から800mの範囲は、全ての木々が焼き払われてたの。

 恐らくその距離が連中にとって、接近を察知してから迎撃するのに十分な距離なんでしょうね」

 

 アンジェリアの言葉を聞きながら、416はノアの表情を窺う。彼の視線は、45たちが撮ってきた”城”の写真に注がれている。

 その額に脂汗が滲む予兆を察知して、思わず声を掛けた。

 

「ノア、どうしたの?いつもより顔色が悪いわ」

「――あ、いや、何でもないよ。

 少し体調が悪いだけ。季節の変わり目だからさ」

「ちょっと。人類にとっては危急存亡の秋なんだから、しっかりしてよね」

 

 眉尻を下げたノアを、45が心にもない台詞で窘める。

 しかし416は、彼の額に脂汗が滲みそうになっているのを見逃さなかった。

 もっともこの場で追及するほど、416も空気を読めないわけではない。

 

「これだけ豪勢な拠点を作ったんだ、”欠落組”はしばらくここを動かないと見ていいだろう。

 狙いが分からない以上、慎重に情報を探りつつ向こうの動きを待とう」

「こっちから仕掛けないの?」

「地区が違うし、相手は完全に待ち構えてる。

 戦うにしても、この城から引きずり出さないと」

「ノア」

 

 隣で名前を呼ばれたノアが、416の方を見る。

 416は彼の耳に口を寄せて、45に聞かれないよう、ごく小さな声で囁いた。

 

(その人は絶対に関係ないわ) 

 

 ノアが目を見開く。やがてその目が微笑んで、無言の感謝を伝えてきた。

 先ほど彼が浮かべた笑顔は、間違いなく作り笑いだ。

 そして416には、彼が感情を押し殺した理由に心当たりがあった。

 ノアがかつて身を置いていた超常特殊部隊――”重大犯罪特務分室”の隊長、アルグリス=ファンブルメイドは、氷を生成する超能力者(サイキック)だったらしい。彼に伝え聞いたアルグリスの自己申告と、彼女の最期がその事実を物語っている。

 一夜でこれほど大質量の氷を生み出すことができる存在はそういない。というか、普通はいない。彼がかつての仲間のことを思い出すのも仕方のないことだろう。

 しかしアルグリスは人間で、既に死亡している。この一件には、関係のしようがない。

 416が顔を離すと、45がうんざりした顔で天井を仰いだ。

 

「まーた見せつけてくれるんだから。

 少しは緊張感持ちなよ」

「悪かったわね。愛が溢れて止まらなかったのよ」

「そう言うってことは、少なくとも愛の言葉じゃなかったわけね」

 

 アンジェリアと45の言葉を聞き流しながら、もう一度ノアの横顔をちらりと窺う。

 その面持ちが先程よりいくらかマシになっていたので、416もほっと胸を撫で下ろした。

 

***

 

 砂塵の舞う荒れ地で、2つの勢力がせめぎ合っている。

 一方は銃火器を構えて引き金を引く少女たち――グリフィンS02地区基地の主力部隊。

 もう一方は、虚ろな足取りで前進し続ける骸の軍勢――E.L.I.Dの群れ。

 E.L.I.D側に超大型個体(スマッシャー)はいないものの、固い外殻を持つ上に絶え間なく押し寄せてくるので、人形たちの疲労は色濃い。

 MG5が舌打ちした。

 

「クソッ、もう弾が無いぞ!

 どうする、ネゲヴ!下がるか?」

「私もコレで撃ち止め‥‥みんな下がるわよ!防衛線を狭めるわ!」

 

 号令に隊員たちが身を翻したそのとき、絶望を告げる音が振動となって人形たちを襲った。

 たたらを踏んで転びそうになったKordの顔が、後方を確認して蒼白になる。

 

「あ、あ‥‥どうして?

 さっきまで、いなかったのに‥‥」

「嘘、スマッシャー!?」

 

 逃げようにも、アレが一歩歩みを進めるだけで体が軋む。

 最も敵に近い位置にいたCAWSの両足が、致命的な音を立てて折れた。

 

「CAWS!」

「くそッ、近寄るな‥‥!」

 

 しかし抵抗虚しく、走れなくなった彼女は瞬く間にE.L.I.Dの向こうへ消えた。

 ガンッガンッと何かを激しく殴打する音と、合間に響く苦悶の声。

 逃れようのない絶望感に放心していた人形たちの視界に、新たな影が躍り込んだ。

 

「――え?」

「‥‥やはり、グリフィンの人形では、この星の防人たり得ない。

 この程度の災禍に膝をつくなど、あぁ、惰弱のあまり哀れでさえある」

 

 どこか遠くから響いてくる鐘のような、荘厳で重苦しい声だった。

 戦場には似つかわしくない、スカートが大きく広がったゴシックドレス。いや、ドレスのように見えるそれは、間違いなく装甲だ。

 本来ならば地面についているはずの長い黒髪は、不自然に浮き上がっている。双眸は紅い光を放っていて、総じてその影は不気味であった。

 

「鉄、血‥‥?」

 

 未知の鉄血人形は、スマッシャーの放つ放射線や振動に動じることもなく目を閉じた。

 大きなスカート型装甲が唸りを上げると、風がそこに向かって吹き込み始める。

 やがて彼女が歌うように口を開いた瞬間、

 

 

 戦場から、全ての音が消えた。

 

 

 ネゲヴは、自分の視覚モジュールがハッキングされたのだと思った。そうでないなら、絶望に負けて都合のいい妄想を見ているのだと。

 一瞬前までE.L.I.Dがいたはずの場所には、深く抉られた地面だけが残っていた。奥にいたはずのスマッシャーは、胸から下を失ってこと切れている。

 ドクンドクンと自分の鼓動ばかりが五月蠅かった。状況を把握しようにも、激痛と疲労で身動きもとれない。

 眼前に影が差す。倒れ伏したまま見上げると、先程の鉄血人形が自分を見下ろしていた。

 

「‥‥論外。所詮は人間の代替でしかなく、あまりに弱い」

 

 こちらを真っ直ぐに侮辱する物言いに怒りを抱いても、言い返すほどの力も今のネゲヴには残っていなかった。

 血を吐くように喘鳴するネゲヴから視線を外して、鉄血人形――夜陰姫(ナハツェーラ)は呟いた。

 

「やはり、まず断つべきは()の病魔。あれは星の宿痾(しゅくあ)となりうる。

 ――立ちなさい、弱き者たち。私の羽根として、牙として」

 

 夜陰姫の瞳が一際強く光った瞬間、電源を落とすようにネゲヴの意識は闇へと消えた。

 

 

 その光景を生きて見た者はいない。

 黒き女王に付き従う無数の影たち。それに人と人形の違いはなかった。ただ虚ろに光る赤い目と力ない歩みだけが、彼ら全てが同じ地獄に見舞われたという事実を示している。

 どこへ向かうのか、何をしようとしているのか。

 誰もそれを知ることが無いまま、百鬼夜行が如き葬列は夜陰に消えた。




お久し振りです。
在宅勤務だと外に出る理由が無いので、ポストに郵便物がめっちゃ溜まります。

今回は鉄血サイドが頭おかしいという話でした。
いやぁ‥‥氷結能力は流石に被らんやろと思ってたら出てきちゃいましたね‥‥。
「このくらいはやってもいいよ」という公式からのゴーサインだと思うことにします。

拙作の一つの目標として、「戦力面では原作より地獄にする」というものがあります。
まぁ既にOGASくらいならどうにでもできちゃいそうなんですけども(反省)

次は日常回です。
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