スクリーンの光が、人間離れした美貌を照らしている。
副官の同伴も禁止されたため、一人きりの薄暗い執務室。ノアは気だるげな表情で、ホログラムに向かって口を開いた。
「それで、どうしたんですか?ヘリアンさん。
緊急の会議、それも僕まで強制参加だなんて」
『いや今までの会議も貴官は強制参加だったが?』
こめかみに青筋を浮かべるヘリアンの形相を見て、他の指揮官たちがぶるりと肩を震わせた。
肩に届く程度の明るい髪をゆるく巻いた女性――S09の指揮官だ――が、こちらを見て困ったような笑顔を浮かべる。
『忙しいのにごめんね、ノアくん。
そうだ、前は私を庇ってくれて有難う。助かったよ』
「‥‥いや、忙しいのはキミも同じでしょ。
あと、その件なら気にしなくていいよ。一番面倒臭い案件を押し付けてるだけだから」
高い実力ゆえ様々な作戦に駆り出される彼女は、今となっては鉄血・正規軍・パラデウスによる混沌の渦中に身を置いている。正規軍の崩壊は、彼女にとってもきっと朗報だったことだろう。
ノアは大きく溜息を吐いた。
彼女がNYTOによる拷問の憂き目にあった際、外傷の治療とカウンセリングを担当したのもノアだった。
そのときの憔悴ぶりを目にしているノアは、その境遇をある程度気の毒に思っている。
しかし彼女を激戦の渦に放り込んだのは他の誰でもない、ノアなのだ。
何しろノアの考えが正しければ、彼女に任されたM4A1は――
『今回の議題はその「一番面倒臭い案件」についてだ。
先日のタリンにおける戦闘と敵勢力の動向について、前線にいた彼女に報告してもらう』
ヘリアンの声で、思考の海から浮上する。
その戦役については、超望遠妖精――ノアの趣味の産物だ――とアンジェリアの協力により、大まかな情報を得ていた。
ちなみにアンジェリアはすっかり本調子に戻ったようで、既に反逆小隊を率いて戦場を走り回っている。
(僕がお邪魔したときは
ロマノフくん家で食べたトヴォロークと黒パンも美味しかったし)
戦闘については、正規軍が崩壊したことで予想よりもすっきりしたな、というのが雑な所感だ。その分G&Kや反逆小隊の被害は大きいが。
S09の指揮官が展開した資料を暗記しつつ、淀みない報告を聞き流す。
(肝心なことが書いてないじゃん)
何よりも考慮すべきは、パラデウスの急激な戦力減少だ。
パラデウス側は終始優勢だったが、あるタイミングで唐突に戦力を別方面へ移動。
G&Kとしては追撃する理由が無いので放置していたようだ。しかしアンジェリア曰く、そちらへ向かったパラデウスの兵器やNYTOは全て跡形もなく消えていたらしい。ただ帰っただけならいいのだが。
いつの間にか報告は終わっており、ヘリアンが締め括るところだった。
『パラデウスの狙いが不明である以上、いつどこでテロ活動を行うか分からない。
指揮官諸君も、該当勢力への対抗策を用意し、警戒を怠らないこと』
(は?狙いなんて一目瞭然でしょ)
NYTOおよびその上位個体、OGASやM16A1の動向。そしてM4A1の製造過程。
これだけ情報が揃えばE.L.I.Dでも分かる。パラデウスの狙いはM4A1だろう。
S09の彼女はそのことを理解しているのだろうか。もし知らなかったとしても、自分が助言する義理は無いが。
(連中を壊滅させた上でM4を鼻先にちらつかせたら、黒幕を引きずり出せるかもしれないしね)
そして会議は終わる。ノアも通話終了ボタンを押そうとして、ヘリアンに言いたいことがあるのを思い出した。
「そうだ、ヘリアンさん」
『何だクソガキ』
「ペルシカ女史に伝えていただけますか?
趣味の悪いお節介は控えるように、って」
『は?どうして私が貴官の伝言を――』
「んじゃおつかれさまでした~。
ボタンを押下する。
音が消えた執務室。窓の向こうから微かに響いてくる蝉の合唱を聞きながら、デスクの引き出しを引く。
その一番上に収められているのは、ベルベット素材の小さな箱。先日、I.O.P社から送りつけられてきたものだ。名義こそ会社だが、犯人は間違いなくあのコーヒー中毒者だろう。
手に取って、そっと開けてみる。
「まじでさぁ。嫌がらせか?コレ。
買ってないんだけど‥‥」
I.O.P社謹製、銀に輝く誓いの輪。
婚約指輪と同じ形をしたソレ――誓約の証をねめつけて、ノアは大きく嘆息した。
今回はかなり短めです。
念のため補足しておくと、会議で言及されているのは異性体のことです。
本編と比較して、正規軍が参加してない代わりにパラデウスからのヘイトが全部プレイヤーサイドに向いてた感じです。かわいそ
ノアくんは各イベントの戦況も全部把握してますが、手助けするつもりは微塵もありません。ひどいね
利害の一致という点では味方してもいいんだけど、他人と連携すると手間やスパイ発生のリスクが増すよね、という考え方です(ある戦術人形の方を見ながら)。
次回はたぶん飲み会。密です