強き信念を抱いて/新説 鬼となった竜の道   作:橆諳髃

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長い期間が空きましたが、2話目となります。では、ご覧下さい。


弐話 鬼の目にも涙

 

 

 

 

 〜100年後〜

 

 

 

 あれからも各地を練り歩いていた。勿論人を助ける為に……

 

 ただ……おかしな事に鬼の数が前よりも多くなっている気がする。いく先々の町で出会すのだ。

 

(まさかあの野郎が出てきたって言うのか?)

 

 いや、それは多分ないはずだ。何せあいつを封じている血鬼術には、まだ平安だった頃にとある陰陽師から習った術式を組み込んであるからだ。だから数十年で簡単に出れるはずがない。

 

 まぁ封印を施した自分が対象をどこに封じたか分からなくなる……っていうヘマはしない様に印は付けたが……思ったよりも地下深くまで突き刺さっているらしい。だからこそ簡単に出れるはずはない……と鷹を括っているのかもしれないが、封印を解いたなら解いたで俺が知らないわけがない。だから気のせいか程度に思う事にした。

 

(だが……微かに奴の力が抜け出ている様な……そんな感じがする)

 

 そう思う事にして、やっぱり1回様子を確認しに行ったほうが良いのかもしれないと、既に夜ではあったが思ったら即行動、そこから大まかにではあるが、封印されたところに行こうとした矢先だ……

 

「貴様……鬼の類だな?」

 

 目の前にいつの間にか侍がいた。それも奇妙な形の痣を顔に作ってはいるものの、かなりの美形だと思わせる侍が……

 

「確かに俺は鬼だが……」

 

「そうか……ならば」

 

 ちょっと瞬きしただけだった。その間に侍は俺の間合いに入ってきて……

 

チャキッ……

 

「っ⁉︎」

 

 俺の第六感がマズいと告げたのか、無意識のうちに飛び退った。すると少しだけ胸元が一閃されていた。

 

「今のを避けるとは……貴様、強いな」

 

「おいおい! いきなり斬りかかるのはやめてくれ‼︎ 俺が何をしたって言うんだ⁉︎」

 

「珍妙な事を言う……貴様も鬼ならば分かるだろう?」

 

「た、確かに俺は鬼だけど……でも誰も襲ってもないし人も食べたりしねぇよ‼︎」

 

「……確かに貴様からは他の鬼と違う感じがするな」

 

「だがそれでもだ。他の鬼と同じ様な術で誤魔化しているだけかもしれない。問答無用だ」

 

「この分からず屋‼︎」

 

「鬼は平気で嘘をつくからな……もし貴様が本当に誰も襲っていないと言うのなら……俺と斬りあって証明して見せろ」

 

「……分かったよ。やれば良いんだろやれば」

 

 そして俺は、あの鬼と戦った時に出した大剣を血鬼術で出した。

 

 そこからはまさに死闘だった。町中と言うことでもあったし、ビームの刃は出せない。それでも高質量の鉄の塊だ。そんじょそこらの金棒ではへし折れない程の強度は持っている。

 

 そのはずなのにあの侍なんなの⁉︎ 普通に両断してくるんですけど⁉︎ 常識疑うよ‼︎ 俺が言うのもなんだけどさ‼︎ だから途中から腕を増やした上でそれぞれに武器を持たせて対応したよ……えっ? 生身の腕を増やしたらグロイって? 何勘違いしてるか分からないけど、これも血鬼術で増やしたからね? しかも腕8つ。えっ? その時点でもグロイ? 知るかそんな事! じゃないとやってられなかったんだよ!

 

 とりあえずまぁそれでやり合ってたんだけど、どこからともなく悲鳴が聞こえた。それに気を取られていると左腕を斬られた。初めてまともに斬られたから痛かったけど、その侍との斬り合いは中断して現場に向かった。そしたら侍も付いてきた。というかこの速度について来るとか速くね?

 

 それで現地に着いたら、男が倒れていた。近くにいた女の人を庇ったのだろうか。まぁそんな事よりも……その場には鬼が2体いた。倒れている男ごと女性を襲おうとしたのだろう。なにやら血鬼術を発動していた。それが当たる前に、侍に斬られていない右腕で持っていた武器で全て掻き消した。

 

 その際鬼2体に、自分達の獲物を横取りするつもりかと言われたが、そんなものに対しては何も返事をせずに持っていた刀、大剣、ハンマー、ハルバート×2で一閃ずつした。すると鬼は消えていった。それと同時に左腕も回復したのでもう1体の方をやろうとしたのだが……既に侍が鬼の首を斬っていた。ホントいつの間にという感じで……

 

 そこからは、俺が傷を負った男をいつもの様に助けた。自分の左腕から血を流し、それを球体状にして男の中に入れ込んだ。

 

「貴様……何をした?」

 

「何をしたって? そんなの……ここに倒れてる男の人を治したに決まってるだろ?」

 

「なぜ鬼であるはずのお前がそんな事をしている? 鬼は人を喰らうのではないのか?」

 

「確かにそういうもんかもな……だが俺は、俺の中にある信念で行動してる。それに、確かに最初は俺も人の血を嗅いで頭の中を鬼の本能が囁いてきた。食べたちまえってな。だが俺はそんなことよりも目の前に傷ついた奴がいたなら助ける……その信念で今まで生きてきたしこれからも誰に何言われようが変わるつもりはねぇ。それでも鬼だからって理由で俺を襲うのなら……俺はテメェの武器がなくなって気を失うまで戦ってやるよ」

 

 それからは……その侍は俺を攻撃しなくなった。逆に謝ってきたから、俺は別に過ぎたことだから気にしないと言って許した。

 

 んで俺たちが助けた人達……炭吉さんとすやこさんって名前なんだが……あの後侍と一緒に家に招かれた。あっ、因みに侍の方は縁壱って名前だ。それでご飯を食べていって欲しいと言われたが、俺は前と同じ様にさっさと断って去ろうとした。

 

 しかしそこで思わぬ所から援護攻撃を食らってしまった。なんと縁壱も一緒に食えと言い出してきた。

 

(なんか思惑があるのか?)

 

 まぁ……結果としては前の様にはいかず炭吉さんの所にお世話になってしまったが。しかも数日間も……

 

 数日間に伸びてしまった理由としては……炭吉さんとすやこさんの間に子供が産まれたからだ。前世含めてそんな経験に立ち会った事は無いはずだが……そこは俺の血鬼術を使って、すやこさんが感じている痛みを和らげつつこれから産まれてくる赤ちゃんを取り出す手伝いをさせて貰った。その時縁壱はというと、結構あたふたしてたかなあれは……それでも産まれたばかりの赤ちゃんを持った時は穏やかな顔してた。

 

 俺は……自分が鬼だから、やすこさんが赤ちゃんを産んだ後はどこ吹く風でさっと去った。その時は……赤ちゃんを無事生まれてくるのを見届けたら去るつもりだった。あの優しい人達の事だから俺にも赤ちゃんを抱いて欲しいと言ってくるかもしれないが……常時鬼の状態の俺がもし抱いたとして……その後の事を考えると何故か怖くて、その時は去った。

 

 でも翌日になると……今度はまた縁壱も子供を抱けと言ってくる始末で

 

(アンタら俺が鬼って事を忘れてないか?)

 

 勿論その事は話したはずなのに……

 

「縁壱さんと灯さんがいたから、僕達とこの子の命があるんです。だからあなたが鬼だからとかは関係ないんです! 抱いてやって下さい‼︎」

 

 炭吉さんにそう言われて根負けした俺は……やすこさんから渋々と子供を受け取って抱いた。

 

 そしたら……その赤ちゃんはキャッキャッと笑ってくれたんだ。それを見た時……なんだか懐かしい記憶を思い出した気がした。前世で生まれたばかりの頃……まだ満足に何もする事が出来ない俺を、慈愛ある笑顔で抱いてくれた母親らしき人の記憶を……

 

「灯さん……泣いているの?」

 

「えっ? ……っ⁉︎」

 

 気付いたら俺は……涙を流していた。どうして流しているのかすぐには分からなかった。だけど……

 

(ほんの少しだけど……大切な事を思い出したからかな)

 

 この記憶も多分……血鬼術で人を助けていたらすぐに薄れてしまうかもしれない。それでも俺の中には……まだ大切な記憶が残っている。いつ消えてしまうか分からないけど……大事にしたいと思った。

 

 それと数日の大半を占めたのは……縁壱が俺に日の呼吸とやらを教えたいからだ。正直身体が崩れて死んでしまうかと思ったが……どうにか耐え抜いて呼吸を覚えた。後は全集中・常中も覚えた。

 

 にしても本当にきつかった……。特に全集中・常中は寝ている時もやれと言われて、出来ていなかったら問答無用で木刀で叩き起こされる。しかもめちゃくちゃ本気で叩かれた。俺の身体が鬼の身体である事を良い事にだ。ま、まぁ……これで戦い方に幅が出てくるのだろう。

 

 そんな時が過ぎて俺と縁壱は、同じ日に炭吉さん達と別れる事になった。確か炭吉さんも縁壱から日の呼吸を教わっていた様で、護身のためにとの事だが……優しい彼らや彼らの子孫が、その呼吸を生涯戦いに使う事はしない様にと願いたい。

 

 それで縁壱は自分の耳飾りを渡していた。まぁお世話になったお礼も含めてなんだろうが……後なんか俺の方にも縁壱は渡してきた。見ればそれは、炭吉さんに渡した耳飾りと、そして予備で持ち歩いていた縁壱の刀だった。そういえば刀で斬られた時は傷が直ぐに治らなかった。後から聞いた話でもあるが、その刀はどうやら鬼にとっては弱点となる素材が使われているらしい。

 

(貰ってばかりと言うのもあれだから……俺も何か渡すか)

 

 それでまず炭吉さん達に渡したのが、血鬼術で作った紅色の首飾りと紅色の珠を付けた簪である。お世話にもなったし、そのおかげで忘れていた記憶の断片も思い出す事が出来た。そのお返しに、首飾りと簪をつけている一族を守って欲しいという想いを込めて作った。

 

 縁壱に渡したのもまぁ……炭吉さん達に渡した首飾りであるが、効果は一緒だ。

 

(確か……500年前くらいにも同じ様なことしたな)

 

 あの親子は元気に育ったのだろうか? 今となっては分かりはしないが……どうか無病息災を願いたい。

 

「世話になった」

 

「あぁ。鬼の俺にまでこんな優しくしてくれた。あなた達と次代に生まれる子孫が無病息災である事を願うよ」

 

「いえ! 僕達もあの日縁壱さんと灯さんに助けてもらわなければ、今ここにいない訳ですし……それにこの子も無事に生まれる事はなかったと思います。だからお礼を言うのは僕達の方ですよ。本当にありがとうございます」

 

 炭吉さんとやすこさんがお礼を言いながら頭を下げる姿を見て……俺はまた泣きそうになっていた。この数日のうちに涙腺が脆くなったのかな……? でも……こんな鬼がいても許してくれるよな?

 

 そして炭吉さんとやすこさんが送り出してくれる中俺と縁壱は別々の道を歩む。縁壱は鬼を滅するために……俺も基本的に一緒ではあるが、それ以外に助けを求めている人達を助ける為に。

 

(まぁその前に……)

 

 俺はある所に行った。縁壱が鬼に遭遇する確率と、俺達が炭吉さん達を助けた時に同じ町に2体鬼がいた事……これを加味するに、あいつは何らかの形で封印から一部分だけでも脱している。その為に封印した場所に赴いた訳だが……

 

「……クソッ‼︎」

 

 封印した場所は、とある山の麓にある。そこにがっぽりと開いた大きな洞窟。勿論それは、俺が封印した時にハンマーが止まるまで掘り進めたやつだと思うが、それが随分下まで続いた。

 

 そこで見たものは……目だけを見開いた肉塊がウネウネ動きながらハンマーによって封印されていた。だがこれだけは分かる。あいつはどんな方法か知らないがこの封印からすんでのところで逃れたんだと。

 

 だから……最低でもこいつは滅しきる。ただ……多分こいつは俺の血鬼術だけでは消え去らないと考えた。だからここで縁壱から貰った刀を構えた。そして縁壱から教わった日の呼吸……それを俺なりに改良した呼吸を用いて目の前の鬼を滅ぼす。

 

 右手で刀を持ち、そこから突きを繰り出す構えでいると、刀の周りに次第に空気が集まり、刀に沿って循環し始め、やがてそれは赤い稲妻を伴った。

 

 それを相手も気付いたのだろう。どうにか肉塊から出てくる触手みたいな物がウネウネしながら俺に伸びてくるが、封印のせいで全然届いていない。まぁ封印したままでは完全に滅する事は出来ないと考えているから、一旦ハンマーは消した。

 

 俺の血鬼術は、作った物は基本的に俺が念じなければ消えない。そして作った物は基本的に真新しく、今回施したハンマー付きの封印も、全然錆びつかず綻びもなくいつも新品な状態だ。それをどんな方法かは知らないが、アイツは逃げ出した。予測としては飛んでいる最中にアイツ自身が千切れて逃げおおせたぐらいだが……まぁ今は考えない様にしよう。今は……目の前のこいつを滅するだけだ。

 

 ハンマーを消すと、肉塊は物凄い勢いで身体ごと触手を伸ばして俺を貫こうとしてくる。

 

(だが……もう遅い)

 

「機の呼吸……衝動の章……赤雷爆風(せきらいばくふう)‼︎

 

 赤い稲妻を伴う風圧が肉塊を襲った。巻き込まれた肉塊は触れた箇所からどんどん塵になっていき、風圧が収まる頃には最早何も無かった。

 

 それを見届けた灯は改めて決心した。悲しき鬼という存在を生み出す元凶をこの手で滅すると……




解説

機の呼吸・衝動の章・赤雷爆風(せきらいばくふう)

赤い稲妻を伴った風圧を相手に向けて突きを繰り出す。突きから放たれた風圧は、飲み込まれた相手は塵すら残らない。

次回……戦国時代から江戸時代初期の時代へ

元凶に鬼にされた1人の女性。願いはたった1つ……家族との時を過ごす為。だがその想いは無残に踏みにじられる形に。その時偶々出会した灯は……

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