あれから無惨の居場所を探ってどれくらい経っただろう……。といっても数十年くらいかもしれない。
探っていると、無惨の血を分けられた鬼に遭遇した。平気で人を襲う者もいれば、鬼になった時の衝動で肉親を食べてしまい、後悔している者達もいた。
前者は、このままいても平穏に生きている人達に害が及ぶだろうと思って滅しておいた。後者の方は……
人の身でこんなことをしたら絶対に死ぬ行為だ。それに時代が時代だ。そんな都合良く医療器具など存在しない。だが俺には
まずは俺の血を鬼に注入する。すると鬼の身体が拒絶反応を起こしてのたうち回る。そこをクレイジー・ダイヤモンドで激痛を和らげながら奴の血を抜く。それから数分……奴の濁り切った血は俺が作った筒の中に全て入り、鬼にされてしまった者は生前と同じ姿にまで戻る。そして人を食べたいという衝動も起こらないし、日の光に当たっても消滅はしない。
想い人と寿命を迎えるまで添い遂げたいと希望がある者には、俺の血を分け与えて鬼にした。しかしながら食人衝動は怒らないし、日に当たっても身体が朽ち果てる事はない。
(大切な人とは……何年も添い遂げたいよな)
自分勝手なエゴだと理解はしている。それでも俺は……俺の様な想いをしてほしくなかった。
ただ鬼に一度されてしまっているから、何十年何百年と生きてしまう。だからこそ俺は作った。鬼と人間が一緒に暮らせる村を……
広大な土地を切り開き、その周りを藤の花を咲かせる木々で覆わせた。その木々にはゴールド・エクスペリエンスの生命の力を与えている為に、年中藤の花が咲き乱れ、枯れる事もない。
こんな風にしながらも、最初はそんな生活をしながら各地を転々としていた。
(まぁ人を襲っていると勘違いされて攻撃された事もあったな……)
しかもついこの前の事だ。ただ、そうされた事で収穫もあったな。今回はその話をしよう。
数ヶ月前……
とある田舎道を歩いていた時だ。周りを田畑と細い道しかない長閑な土地だった。そこに1軒小屋がポツンと建っており、ここら一帯の田畑を世話している人が住んでいるんだろうと思った。
夜の帳が下りたばかりなので、今が夕食どきなのだろうか。灯が見える。
(だが妙に騒がしいし……この不穏な匂い……)
急ぎ早でその小屋に近付いた。中を覗いた。するとそこには、飢えた鬼とそれに襲われている女性がいた。そしてお腹あたりが膨らんでいる事もあり、多分身篭っているんだろう……
「おい……」
「っ⁉︎」
鬼に殺気を放ちながら声をかける。
「お前……何をしようとしている?」
鬼は振り向く。しかしながら俺を自分の同類と思ったのだろう。俺を認識するとホッとした顔になった。
「な、なんだ〜……俺と同じ鬼じゃねぇかよ。腹減ってるのか? 多分飢えてここまで来たんだろう? 俺もコイツを襲って食べるところだったんだよ」
(……あっ?)
「だからな? 半分分けてやるからよ。その殺気をしまってくれよ。じゃないと落ち着いて食事もできねぇからよぉ」
(……)
ここにも、絆を引き裂く輩がいた。今から産まれてくる我が子との絆を……それも普通の事と同じ様に……
「ガッ⁉︎ な、何を⁉︎」
「……」ギリギリッ
俺は無言で鬼の首を片手で持ち上げた。その時に万力を込めるのを忘れない。
「……貴様みたいな奴が」
「っ⁉︎」
「貴様みたいな奴が他者の幸せを踏み躙るな……‼︎」
「ガァァァッ⁉︎」
そのまま奴の気を失うまで力を込めた。やがて鈍い音と共に奴は気を失った。それを確認して明後日の方向へと放り投げ、その後血鬼術というもので作った大きな鉄柱を2本作って空に放った。
放り投げた鬼は、多分東の方角の比較的開けた人などが微塵も寄り付かないところで、俺の作った鉄柱が腹と頭に刺さっている状態だろう。抜けたとしても明け方で日の光で消滅しているだろう。
それをして俺は小屋に戻る。すると、さっきまで襲われかかっていた女性が少し怯えた様子で見ていた。
まぁそれもそうだ。あんな怪物を片手で持ち上げ、しかもどこぞと知らない土地まで放り投げたのだから。
「怖がらせてしまって申し訳ない」
「えっ?」
俺はその場で土下座をした。
「あんな異形なものがあなたに襲いかかって、その上で俺みたいなどこの馬の骨かも分からない奴がそんな化け物を何処かへ放り投げた時点で怖がる事は分かる。怖がらないで欲しいというのも無理がある」
「そ、その……」
「だから俺はこのまま立ち去る。今回の事は……どうか悪夢にでもあったと思って欲しい」
俺は相手の言う事を聞かずに立ち上がり、小屋から一歩踏み出した時だった。
「っ⁉︎」ザシュッ
俺の左腕が宙を舞った。何かに感づいて半歩右にズレたのが幸いしたのだろう。それがなければ胴体ごと真っ二つだった。
「……うたに何をしようとした?」
黒髪を後ろで結った男の人が、血に濡れた斧を持ってこちらに問いかける。それは静かな声ではあったけれども、怒りと殺気をこれでもかと言うほど内包されたものだった。
少し黙っていた瞬間にいつのまにか懐に入り込まれ、下から上へと斬撃を振りかぶっていた。俺はそれを避けようとせず、逆に鉄の部分を持ってそれ以上降らせない様にしする。
それを男は察知したのか、急に振りかぶっていた動きをキャンセルして、俺の右手を真っ直ぐ真っ二つに斬り裂かれた。
「もう1度言う……うたに何をしようとした?」
さっき以上の殺気を放っていた。しかしながら怖くはなかった。家族を失った事に比べれば……
「……ただその人に謝っていただけだ」
「なに?」
俺の放った一言が、自分の想像したものと違ったのだろう。少し怪訝そうな顔になる。
「その人の言っている事は本当だよ!」
うたと呼ばれた女性が、男の人に必死になって弁明する。
「……そうか。その……すまなかった」
ぎこちなさそうに俺に対して謝罪してくる。別に勘違いというものはいつの世にもあるから仕方ない事だと言っておいた。
「で、ででででもどうしましょう縁壱さん⁉︎ 助けに来てくれた事は嬉しいけれど、この方の腕が……」
「あぁ、それについては大丈夫です」
俺はそう言いながら斬れた腕と切断された腕を元に戻した。
「鬼……と呼ばれる者か?」
「そうだな。俺は鬼と呼ばれる存在だ。それで女の人を襲おうとした奴も、俺とは違う鬼だった。そいつについては人がいないところに投げ飛ばして、鉄の棒で貫いて身動き取れない様にしてある」
「……ならばお前も人を喰ったのか?」
「いや……俺は今までと、人間だった頃と同じような生活をしている。各地を旅しながらな」
「まぁ、旅の人だったのね! なら立ち話もなんだし、それに助けてくれたお礼もしないといけないから入って下さいな。縁壱様も」
「……俺も色々と聞きたいことがある。中で話そう」
竜二は縁壱の言葉に従い、小屋の中へと入っていった。
中途半端に終わって申し訳ありませんが、自分としてはキリが良いところだと思っております。もう少し読みたかった方々には申し訳ありませんが、また次回をお楽しみ下さい。