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…………――――――――ん?
バタバタバタバタバタバタ…………。
「ねぇ、ヤエちゃん。ヤエちゃんってば」
揺り起こされる。眠ってたみたいだ。
ずいぶん長い夢を見ていた気がする――――
「デーリッチが空飛んでる夢を見たわ……もしかして、今も飛んでるんじゃ?」
私は、起きてすぐ、右隣にある窓辺から空を眺めた。
雲ひとつない青い空。いい天気だ。
「ヤエちゃん、デーリッチならあそこに居るでしょ?」
と、誘導されて視線を反対側へと移す。
「おっほー。これが数量限定コカトリス卵バケツプリン……! ふふ、これほどの代物をヅッチーに邪魔されずに食せるとは…………マリ後屋おぬしも悪よのお」
「デーリッチ。食べたら歯を磨くんだよ」
「わうわう」
ここは、こたつ喫茶だ。
私と雪乃は空いた時間にここに来て、軽い休憩を取っていた。
向こうの席では、新メニューを聞きつけたデーリッチとローズマリーが、ベロスを連れて、とんでもなくでかいプリンを前に目を輝かせていた。
バタバタバタバタバタバタ…………。
「あ。よだれ。ホラ、これで顔拭いて」
ぼふっ。顔におしぼりを押し付けられる。暖かい。
「雪乃。あなたよく疲れてないわね……」
「私ゆきんこだから」
あれから、冥界には雪が振り続けた。
最初は喜んでいた悪魔達も、一向に降り止まない雪にやがて危機感を募らせていった。
イリスの館は天井に穴が空いたまま補修ができず、積もり積もった雪で逆に全体が倒壊しそうになってしまった。
「……さすがに三日三晩も続けて雪下ろししたら、太ももパンパンになるわよ。ホラ見てよこれ」
「はわー。ムッチムチだねヤエちゃん」
「なんか擬音違くない?」
そこで、私達王国のメンツで、手が空いているものが駆り出されたわけだ。雪下ろししたり、館の補修を手伝ったり、雪だるまキックを冥界の仲間と楽しんだり、とにかく忙しかった。
バタバタバタバタバタバタ…………。
「うむ。バターは美味い」
また別の席では、柚葉がバターのたっぷり乗ったフレンチトーストを食べている。
普通に洋食するのねダイミョーって。
――――みんなの顔を見ていると、あの騒動が本当にあったのかどうか、実は夢なのではないか、という気持ちが薄れていく。私は目が冴えていく。
「あー大変だったわ本当。あ、そういえばさ。リューコのあの格好、見た?」
「あれね。めっちゃ可愛かった。長身でメイド服ってすごいね」
騒動は、父親が折れて終わった。
というか、とてつもない終幕を迎えていた。
《このパワー…………私が最初の妻と初めて出会った時を思い出す……12の勇者。12の武器》
記憶の中のゲオルグが回想を始める。
《私は地を這いつくばった。許しを請い、そして共に闘った。だが、私はあれの最後の時、側に居てやれなかった。かつての勇者達すら駆け付けなかった。だから、リューコ、お前は、その過ちを繰り返さぬよう、ひとりでも強く――――》
彼が私達に向けた怒りは、自分への無念さだったのだろう。
問題はその後だ。
《ドラお君。私のリューコを頼んだ。君ならば、配偶者として申し分ない。君ならば…………私と違い、彼女を守ってやれるだろう》
なんと、ゲオルグは最後までこドラを男だと思っていたようだ。こちらが弁明して、性別をバラしても、冗談だと笑い飛ばして聞き入れる様子はなく――――
結果、リューコは本物の花嫁修業を冥界でやりつつ、それ以外は自由に過ごせるようになった。
何よりも驚いたのは、彼が、料理を台無しにしてすまないと謝ったあと、炭の中から出てきた元料理のダイアモンドを、《これ、リューコが作ったのか!?》と喜びながら食べた事だ。
あれ、本当に竜族の料理だったのね。
バタバタバタバタバタバタ…………。
「はい! かき氷ダブルデラックスゼリー」
今、彼女は、こドラは、ここ、こたつ喫茶で忙しく走り回っている。
騒動から少しして、喫茶店にはメニューが少し増えた。
特に茶碗蒸しがシニアに人気で、満員御礼な店内には、毎日のようにドタバタというこドラの足音が響くようになった。
イリスとゼニヤッタの座った席に、彼女は別の新メニューを持ってきた。
「オー! これが噂の冥界かきアイス! 見た目からしてすでにデリシャスデスねー!」
「こドラちゃん。お仕事、頑張ってください。応援してますわ」
「うん。頑張る!」
彼女の腕には、新しいミサンガが巻かれていた。
見遣ると、店員全員にそれはある。
「そいや、ヤエちゃんは何か食べないの?」
雪乃が聞いてくる。
「私はその、昨日食べ過ぎちゃったし」
答えたはいいが、タイミング悪く、ぐぅ、とお腹が鳴る。
減量中だなんて言えないじゃない恥ずかしいし。
「うっそだー。ホラ、ヤエちゃん。あーん」
エスパーみたく、雪乃は私の心を見透かして、その手にある熱々のドリアのスプーンをこちらに差し出してきた。
「わ、わたしは」
湯気立つ、美味しそうなチーズとケチャップの匂い……。
「しょうがないわね。そんなに言うなら」
我慢できず、私は雪乃のものを口で迎えにいった。
が――――、
いつまで経っても舌の上に味が広がらない。
雪乃はひょい、と私を避けるとUターンして、その一口を自分の口に運んでしまった。
「あっ、ずるいじゃない!」
「ヤエちゃん我慢は体に悪いよ?」
咀嚼しながら、口元をにこーっと雪乃は笑わせた。
あーもう! こんな事されたら、注文するしかないじゃない。
「こドラ、あのさ――――」
私はヤケクソになって、なすのホイル焼きとオムライスを頼んでやろうとした。
こドラの姿を目で探して、そして、見つける。
店に入口付近に彼女は居た。
バタバタ音は止んで、立ち止まっている。
チリンチリン、という入口ドアの、ベルの音が反響していた、
こドラは、その来客に向かって言う。
「あ、久しぶりだね――――ぶへっ」
その人物は、手に持っていた汗拭き用のタオルを、こドラの顔に投げつけた。
ランニングをしていたようで汗だくで、息があがっている。
「おい、こドラ。かき氷寄越せ」
そして、そいつは、すかさず、こドラにデコピンをお見舞いした。
( だめドラ→こドラ おわり)
読んでくれてありがとうございます!
こドラちゃん可愛いですよね!
わいわいがやがやしてるのって、すごく描くの楽しかったです!
原作のパワーが凄くて、特に何も意識しなくてもキャラがスラスラ動き出していくので、一気に完成までこぎつけられました!
私絶望的なレベルで口下手ですので、感想の返信はできるかどうかわかりませんが、感想いただけたら嬉しいです!
2019/10/17 名状しがたいわてり的なもの