雪廻り 作:春雨
私は何度でもやり直す。
貴方に振り向いてもらえるまで。
いえ少し違うわね。
貴方を手に入れるまで。
目を覚ますと見覚えのある教室。私達が奉仕部で活動していた楽しくも懐かしい大切な場所。もう何度目かなんて覚えていない。けれど、今度こそ貴方を。貴方を手に入れて見せるわ。
覚悟しておきなさい。
比企谷君。
ガラッと仰々しく平塚先生が部室に入ってくる。後ろにチラリと見える懐かしいアホ毛の少年。少し頬が緩んでしまうのは仕方がない。
「やあ雪ノ下実は...て、どうしてそんなに笑顔なんだ?」
気持ちが出過ぎていたみたいね、反省しなくては。
「いえ別に。それよりも先生、ノックをしてくださいといつも言っていますよね?」
「ノックをしても君は返した事が無いじゃないか」
平塚先生には悪いけど、今は早く彼と話したい。またあの時のように。
「それで後ろにいるのは...比企谷君ですよね?」
「おお、なんだ雪ノ下。こいつの事を知っていたのか」
こいつと言われると反応してしまう。いままで経験してきた時間の中で平塚先生と比企谷君が結婚するなんてこともあったのだし、回数は少ないけれど油断は出来ない。私なんて一度もないのに。
「ええ、同じ学年ですから」
「ガルルルル」
「くすっ」
そう言えば最初彼は私を威嚇しようとしてきたのよね。可愛く見えてしまって笑ってしまったけど大丈夫よね?
「うっ...平塚先生、悪いんすけど用事を思い出したので」
「こら待たんか。これは罰だと言っただろう?逃げては罰にならん」
「いやでもですよ?教育的に無理矢理動かそうとするのはよくない筈です。生徒の自主性を重んじて教師は影ながら応援を」
「君は応援だけでは先に進めないだろう。だから私達教師が道を示してやるのも必要な事なのだよ」
むっ、二人の会話に入れなくて少し胸の辺りがチクチクしてくるわね...この感情は知っている。何度も否定して何度も経験して何度も気付かされた感情。嫉妬だわ。
「んんっ、あの結局平塚先生は何をしに来たのでしょうか?」
平塚先生の部分を強調してしまったけれど仕方ないわ、私もまだ子供なのよ。
「ああ、すまんな雪ノ下。知ってるなら話は早い。こいつは見ての通り捻くれていてな」
そこが良いのでしょう?可愛くて。
「自分の感情を中々表に出せないんだ、でも悪いやつじゃない」
知ってます、とても優しい事も。
「だが世間はこいつを否定するだろう。こいつのやり方は中々理解してもらえないからな。そこでお前に依頼だ。こいつの性根を鍛え直してやってほしい。ま、人と一般レベルに会話できるようにしてやってくれ」
「いや、さっきから何言ってるんですか?それに俺はそもそも入るなんて」
「分かりました。その依頼お受けします」
「いや、え?」
「お、おう。そうか、もう少し嫌がると思っていたが任せても良いんだな?」
「私で務まるか分かりませんが私なりに頑張ります」
「そ、そうか。それではな、比企谷。雪ノ下もこう言ってるんだ、少しは頑張ってみろ」
「.....」
貴方は変わる必要なんて無い。
本当に変わらなければいけないのは私だから。
でも私には変わる勇気がない。今の自分を変えてしまうのはとても怖いから。だから。
「奉仕部にようこそ。歓迎するわ、比企谷君。よろしくね」
「俺はまだ入るなんて言ってないんだが...」