それは今にも星が降ってきそうな程の満点の星空の夜だった。
この異世界での四聖勇者の一人。盾の勇者である俺岩谷尚文は今、同じく四聖勇者の一人で剣の勇者である天木錬を村の自宅に招き、あるワガママを叶えてやっていた。
膝の上に乗る髪をかき混ぜるように撫でてやると、くすぐったいと笑いながら
俺の手のひらに頭を擦り付けてくる。
なんだか猫みたいだなと思いつつ、指通りのいい髪質を堪能する。
きっかけはいつだったか。
錬が酔った勢いで男で尚文の添い寝要員をしていたフォウルの事を羨ましい!とうっかり本音をこぼしたのが原因だ。
その話を聞いた当初はからかい半分だったのだが。その日から時々こうして錬に膝枕をしてやって撫で回したり、添い寝してやっているうちに何だかんだで俺自身も悪くないなと思うようになっていった。
まるで弟とスキンシップを取っているような。けれどもそれとは確実に違う甘やかな雰囲気を時々感じつつも、今のところ添い寝以上には発展はしていないし、する様子も俺から見ればなかった。
少なくともこの日までは。
「いよいよ明日だな」
ぐしゃぐしゃに撫で回した髪の毛を丁寧に撫で付けてやり、錬が上半身を起こすのを待ってから声をかける。
「ああ」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ少し様子を見て、もし俺一人では対処できないようなら必ず連絡する」
「そうか、約束だぞ」
「ああわかってる」
「そうだ尚文」
「なんだ」
「大事な事を一ついい忘れてた、ちょっと耳を貸してくれないか」
まだ何かあったのか…?と思いつつ錬の方へ顔を近づけた。
ちゅっと可愛らしい音が聞こえた。
は?
こめかみにキスされたのだと気付いたのは数秒が経過してからだった。
「ずっと伝えたかった事が、信じてほしいと思っていた事があるんだ。帰ったら必ず伝えるから覚悟していてくれ」
顔を赤く染めながらも俺を真っ直ぐに見つめて錬はそういった。
顔が熱い、きっと俺の顔も同じように真っ赤なのだろう。恥ずかしさから手で覆ってしまいたいが、俺を見つめる真っ直ぐな青い瞳から目をそらすことができない。
相変わらず引き込まれそうな程、深く濃い紺碧の瞳はとても美しかった。
「それと」
「なんだまだ何かあるのか」
「ああ、とても大切な事だ。尚文これだけは何があっても忘れないでほしい。」
俺の右手を両手で包み込んだ錬はその手を持ち上げて祈るように目を閉じたかと思うと、やがて決心したように瞼を開き再びまっすぐに俺の目を見てこう言った
「俺は尚文を信じてる。」
「だからーー」
はっとそこで目が覚める。
あれからまだ2週間程しか経っていないのに、いやもう2週間と言うべきか。
此処の所毎晩のように夢にあの日の錬が出てくる。
俺も相当重症だなこれは…錬が帰ってきた時の事をいよいよ真剣に考えなくてはいけないかもしれない。
だが、ひとつだけ気になる事がある。
毎晩のようにあの日の錬との会話を夢に見る、なのに
「俺は尚文を信じてる。だからーーー」
その後の言葉がなぜかいつも思い出せない。
まるで靄でもかかったように。
何かが思い出すな、と阻んでいるかのように。
いや、流石に考え過ぎか。
クソ女神は倒したし、他の神を僭称する者達が入ってこられないように展開している結界にも異常はない。
そう今この世界は災厄の波という脅威も神を僭称する者たちから与えられる理不尽もない。
何も異常はない平和な世界そのものなのだ。
今この村に。いやこの世界のどこにも「剣の勇者である天木錬が居ない」という一点を除いては。
読んでくださりありがとうございます。
pixivで18話目分まで掲載していますがまだまだ先は長いです。
完結まで気長にお付き合い頂けると嬉しいです。
よろしくお願い致します。