事は約2週間前に遡る。
その日はいつもと変わらない何気ない1日だった。夕食後、錬がある一言を発する迄は。
「実家に帰らせてもらおうと思う」
「「「「「「はい?」」」」」」
その場にいた全員がほぼ同時に聞き返した。
みんなにせがまれて、久しぶりに俺が腕によりをかけて夕飯を振る舞った日の事だった。
ちなみに俺の食事にありつけるとどこからか聞きつけて絆の世界の連中も来ていた。
余談だが世界融合後は割としょっちゅう食事を食べに来るので食堂はかなり拡張する羽目になった。
話を戻そう、いつもと変わらないはずの夕食後に錬が唐突に爆弾発言をした。
錬がなんの理由も無しにこの世界つまりは異世界を離れて実家、もとい元の世界に帰りたいと言うはずはない。
だとするとなにか理由があるはず。
俺は咄嗟ににある二人に目を向ける。
するとどうやらその二人ももしや自分達が原因なのではないか?とオロオロしているようだ。
「レン!わっ私達が何かしてしまったのだろうか?」
とエクレールが慌てふためき。
「ふんっ貴様が居なくなってくれれば娘に付く悪い虫がやっと居なくなる!」
と、いろんな平行世界のやり直しを経て帰還した元康の話の中でガエリオンの中に自我が残っている事がバレてからは開き直っている親ガエリオンが悪態をつき。
「お父さんは黙ってて!!」
そう言って谷子、もといウィンディアは自分の父の人格が表層に出ているガエリオンを睨みつけた。
他にも周りがどういう事だと騒ぎ始めた段階で爆弾発言をした当人が一番オロオロと慌てふためき始めた。
「おっ落ち着いてくれみんな!」
「これが落ち着いていられるか!」
そもそもの問題発言をしたのはお前だろうが!
「で?人間関係が理由でないとしたら別の理由があるんだろ?そこら辺ちゃんと説明してくれるんだろうな?」
「ああもちろんだ、みんなが集まっている時がいいかと思って夕食後の今話すことにしたんだ」
で錬の話を整理するとだ。
クソ女神の攻撃を受けて一度は死んだと思われた錬は剣の精霊の力で元の世界に帰還していた。神の力を得た俺やラフタリア達が迎えに行くまで、元の世界で2年間ほど過ごしたらしい。
しかもその間に一度別の異世界にも召喚されていたとか。
ここら辺は以前にも聞いた話だな、確かその召喚された別の異世界でも満足の行く結果は得られなかったからこそ、剣の精霊に世界を救った報酬としていつでも望めば元の世界に帰れるように。と願ったらしいし。
「それが今回実家に帰る事とどんな関係があるんだ?」
「ああ実は…」
なんでも錬の元いた世界で異世界と交流する術が開発されたらしい。一番メインで交流しているのは錬やその他大勢の人間も巻き込まれて召喚された世界らしいが。
ちなみにその時に召喚されてしまった多くの人間達は錬の活躍によってその殆どが無事に元の世界に帰還できたらしい。それでも錬は「満足のいく結果は得られなかった」と辛そうな表情で語っていたので俺もそれ以上は聞かなかった。
そして今、どうやってだかこの世界の錬に対して連絡を取る方法を開発して正式に救援要請、「世界を救ってくれ」と頼み込んできたそうだ。それも一番交流のある錬がこの異世界以外で召喚された例の異世界と共同での依頼らしい。
ついでに実家の母親や幼馴染にも一度帰って顔を見せたらどうか。という提案までしてきたらしい。
「なんか怪しくないか?」
「やっぱり尚文もそう思うか…」
「そりゃあ、なぁ」
いくら連絡手段を開発したとはいえ、元の世界では錬はごく普通の高校生の筈だろ?それをわざわざ異世界から見つけ出して助けを求めてくるって…。
それに確か神としての力を有していた俺が錬の世界を外側から見た感じだと、異世界がある事は周知の事実となっているが自力で異世界に渡る方法を確立するのは、何十年後かになりそうだったのに。
いくら錬の元いた世界の時間の進みが早いとは言っても早すぎないか?
錬の母親の事を仄めかすと言うことは少なくとも錬の母親が存命、つまりはそこまであちらの世界で年数が経っていない事を示唆している。
更に言えば母親や幼馴染を手中に収めているとも捉えられる。
「お前の母親や幼馴染を人質に取って、お前をいいように利用しようって魂胆かもしれないんだぞ」
「だからこそだ。母さん達の身に危険が迫っているなら放っては置けない。それにもし本当にあの世界に危機が迫っているなら…俺は、少しでも助けられる人々がいるなら助けたい…。
それが俺の贖罪だから」
錬の決意は固いらしい。
「それにもしかしたら、俺の別の目的も達成出来るかもしれないんだ」
「別の目的?」
「ああ。俺は…俺はアイツを…友達を助けに行きたいんだ!」