4人目の奉仕部員は平穏に過ごしたい…   作:レッドクロス

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今回はチェーンメール回です。

少し時間軸が話の都合上変わることがあります。

私はアンチ作品を書く時は基本的にキャラ贔屓はしません。

いつものように閲覧は自己責任でお願いします。


悪質なチェーンメールに平穏を脅かされたくない。

 

私にとって『平穏』というものは何物にも変えがたい大切にしたいもの。

 

戸塚君の依頼が終わり、三浦さんがいなくなったことでしばらくは平穏に過ごせていた。

 

そのため私は油断してしまったのだろう、奉仕部に入部してから平穏な時間を過ごすことが出来なくなってしまったため、久しぶりに平穏を取り戻せたということが。

 

でも、現実はそう甘くはない。

 

故人がよく言っていた『災いは忘れた頃にやって来る』という言葉があるように、私が油断してきた時に次の厄介事が持ち込まれてきたのだ。

 

 

しかも、その依頼主はこの間のテニスコートの一件により、女王様から平民に成り下がった女子のそばにいつも寄り添っていた王子様だった。

 

 

今回の厄介事はその王子様による依頼である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひま〜…」

 

 

 

 

葉山グループとの騒動からしばらく経ち、奉仕部は戸塚君の依頼を完了して、いつもの部室で過ごす日常となっていた。

 

私は勉強、雪ノ下さんと比企谷君は読書、由比ヶ浜さんはだらしなく椅子に座ってボーッしているという静かな空間が広がっており、勉強する空間にはうってつけだ。

 

だが、そんな快適な空間を由比ヶ浜さんの間延びした声が壊した。

 

まあ、確かに暇なのは頷ける。 依頼が来なければ私たちはすることがないからね。

 

 

 

 

それにしても、由比ヶ浜さんはあのテニスコートの事件の後も何ともなく過ごせていることに驚いた。

 

 

 

あのテニスコートでの暴行事件の後、葉山グループのメンバーは三浦さんを見捨てる形で切り捨てた。

 

この間も思ったけど、今の彼女と一緒にいることは葉山グループのメンバーにはデメリットにしかならないからだ。

 

クラスでの権力を失い、トップカーストという城から追い出された女王様は今はクラスでポツンと1人でいる。

 

正確にいえば、停学が明けてからも彼女は最初はいつも通りにグループの人たちに親しげに話しかけていたのだが、グループのメンバーは彼女と関わるのはデメリットが大きいことを分かっているため、彼女に対して塩対応になっていた。

 

さらに、日頃の傲慢な振る舞いから誰も彼女に手を差し伸べようとせず、グループのメンバーでさえも彼女に話しかけることがなくなり、今ではクラスメイトからの陰口や罵倒などの嫌がらせも受けるようになっている。

 

葉山君だけは、停学明けにみんなからボロクソ言われる三浦さんのフォローに回っていたこともあったけど、それもろくに意味をなさずに終わり、結局葉山君も三浦さんをクラスの雰囲気に流されて切り捨てるしかなかったのだろう。

 

それから葉山グループには相模というクラスで2番めくらいのグループに属していた女子が三浦さんの後釜に座る形で入り、今は葉山グループはこの間のことなんて何もなかったかのように過ごしている。

 

彼らがギクシャクしていたのは三浦さんがグループにいる時までだった、故に三浦さんがいなくなった途端にギクシャクした様子はなくなったのだ。

 

 

 

 

まあ、諸悪の根源がいなくなっただけで元通りなんて、何とも都合のいいグループだね…

 

 

 

 

 

そう私が心中で由比ヶ浜さんに毒づいていると、雪ノ下さんが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「暇なら勉強でもしたら? 中間試験まであまり時間がないんだし」

 

「勉強なんて意味なくない? 社会に出たら使わないし…」

 

 

 

 

優雅に読書をする雪ノ下さんに由比ヶ浜さんが勉強はやる意味がないと言い返す。

 

なんともまあ、貴女が言いそうな『馬鹿の常套句』だね。

 

 

 

「勉強なんて意味ないってば!高校生活なんて短いし、そういうのにかけてる時間もったいないじゃん!人生一度きりしかないんだよ?」

 

 

そう熱く語る由比ヶ浜さんに私は冷めた目を送る。

クラスの中のリア充の一員である彼女らしい言葉だけど、それらは奉仕部の2人によって切り返される。

 

 

 

「そういうことを言うやつに限って後悔する嵌めになるんだよ。『ああ、あの時もっと勉強していればこんなことにならなかったかもしれないのに』とかって」

 

「で、でもでも!そんな先の事考えたってしょうがないじゃん!今を一生懸命、楽しく生きようよ!」

 

「だからこそ今、一生懸命勉強するのではなくて?」

 

「うわーん、ゆきのんとヒッキーがいじめるー! ふらのん、助けてー!」

 

 

 

由比ヶ浜さんは、自分のふざけた発言に対して正論で雪ノ下さんたちに言い返されたことに、泣き真似をしながら私に抱きついた。

 

そんな由比ヶ浜さんに私は密かに冷めた視線を送る。

 

貴女と違ってこっちは真剣に勉強してるんだ、鬱陶しい邪魔な茶番は貴女たちだけでやってほしい。

 

私はイライラする気持ちを心の奥底に引っ込めて、いつもの営業スマイルを顔に貼り付けて由比ヶ浜さんの話に適当に相槌をうち、彼女を自分から引き剥がした。

 

それからまた暫くたち、私を除いた奉仕部の3人は互いの進路について話し合い始めた。

 

と言っても私はあの人たちの輪の中には入れてもらえてないので、1人で黙々と勉強に励んでいるのだけれどね。

 

そうしているうちに下校時刻になり今日の部活は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、私が奉仕部の部室に到着すると由比ヶ浜さんと比企谷君が何やら言い争っていた。

 

「あら富良野さん、こんにちは」

 

「こんにちは、雪ノ下さん。 比企谷君たち言い争っているけどどうしたの?」

 

 

私がそう尋ねると雪ノ下さんはため息をついて説明した。

 

どうやら由比ヶ浜さんは比企谷君と一緒に部室へ向かいたかったそうで探していたらしいが、比企谷君は既に部室に到着しており、今後入れ違いがないようにメアドを交換して連絡し合おう的なことになったそうだ。

 

いかにもリア充の彼女らしい考え方だな。

 

 

「あっ! そうだ! ふらのんも私と交換しようよ!」

 

 

比企谷君とメアドを交換した由比ヶ浜さんが今度は私のメアド交換を申し出る。

 

 

 

 

「ごめんね、私はメールはしないんだ、電話番号なら良いよ」

 

「ええっ‼︎ そうなの⁉︎」

 

 

 

 

由比ヶ浜さんにいつもの営業スマイルを顔に貼り付けてそう言うと由比ヶ浜さんは大げさに驚いた顔をした。

 

まあ、確かに今時の高校生が携帯のLINEもメールもしないなんて驚くだろう。

ましてやそれがメールやLINEを使う頻度の多そうな由比ヶ浜さんなら尚更のことね。

 

でも、私の持っているこの携帯は型落ちの古いタイプのガラケーだ。

 

義父に連絡用のためだけに買ってもらったガラケーなので余計なオプションはついてないし、私自身も要件は電話で相手に伝えるため、メールは全くと言っていいほど使わない。

 

だからといって由比ヶ浜さんの申し出を断れる雰囲気ではないので電話番号くらいなら教えてあげるよ。

 

私の携帯に由比ヶ浜さんの携帯番号を登録し、由比ヶ浜さんにも私の携帯番号を教える。

 

これで、私の携帯の連絡先の項目に由比ヶ浜さんの名前が追加された。

 

といっても私の携帯に登録されているのは義父母と信頼のだけだけどね…

 

この間の材木座君のはすぐに消した、彼と付き合ってもメリットはないだろうし、私も彼とはそんなに長い付き合いはしたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の電話番号を登録した後もキャンキャンとうるさく騒いでいる由比ヶ浜さんを煩わしく思いながらも私はいつも通りルーズリーフと教科書を机に広げて勉強を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーピロン…!

 

 

話を終えて数分後、ピロンと着信音のような音がする。

 

どうやら由比ヶ浜さんの携帯からのようで、私や比企谷君が彼女に目線を移すと、由比ヶ浜さんは曖昧な笑みを浮かべて、うっすらと誰にも聞こえないような、けれども深い溜息を吐いていた。

 

 

 

「どうかしたの?」

 

 

彼女のため息が聞こえていたのか、雪ノ下さんが声をかける。

 

 

「あ、うん……何でもない、んだけど。ちょっと変なメールが来たから、うわって思っただけ」

 

「比企谷くん、裁判沙汰ざたになりたくなかったら今後そう言う卑猥なメールを送るのは止めなさい」

 

「なら訴えてみろよ、証拠もないのに訴えたら確実に負けるぞ。」

 

 

 

 

雪ノ下さんの根拠のない乱暴な物言いに比企谷君が反論する。

 

雪ノ下さんの頭の中は問題事=比企谷君の仕業という方程式でも組み込まれているのだろうか?

 

 

 

 

「清々すがすがしい程のクズね。由比ヶ浜さん、今すぐ着信拒否することをお勧めするわ。でないと貴女あなた大変な事になるわよ?」

 

 

「いやー。ヒッキーは犯人じゃないと思うよ?内容がうちのクラスの事だし」

 

 

 

 

比企谷君の反論に早速雪ノ下さんが比企谷君をdisり始めた。

 

相変わらず口も悪いし、本人は事実を言っているだけだから何も悪くないと思ってるんだろうけど、相手のことを何も思いやれない物言いだね、こんな人が部長だなんてこの部活も末だな。

 

でもまあ、由比ヶ浜さんの言う通り、比企谷君は犯人じゃないだろうね、彼はぼっちで友人もいないし。

 

あ、そういえば、比企谷君は先日のテニスコートの依頼人である戸塚君と仲良く話すようになってたっけ。

 

でもまあ、戸塚君と話している時の比企谷君はニヤニヤ薄気味悪い笑顔を浮かべていたけどね…

 

にしても、比企谷君は戸塚君のことを『天使だ…』とかうわ言のように言ってたけど、彼のどこが天使なのだろう。

 

私が彼に関わったのは先日のテニスコートの一件だけだから、そんなに接点があるわけじゃないけど、私から見た戸塚彩加という人は『自分の意見をはっきり言えない、言ったことに責任を持てない臆病者』だけどね。

 

先日のテニスコートの時の依頼主は自分なのに、ちょっと問題が起きれば自分は何もせずオロオロとみっともなくコートの外で右往左往するだけで、面倒な問題事の解決は私たちに丸投げして、最後にいかにも心配してましたよという風に振る舞う『要領の良い卑怯者』ともとれるけど。

 

まあ、彼の捻くれてて卑怯者のような生活から相性は良いんじゃない?

 

なんて、こんなの考えてもしょうがないな…

 

 

 

 

 

私がそう考えている間にも雪ノ下さんの比企谷君へのdisりは激しくなっていったが、比企谷君の『クラスメイトだけでなく、家族以外にもこんなメールを送る相手はいない』という何とも彼らしい卑屈な物言いのおかげで彼の潔白が証明された。

 

 

「そう、なら比企谷くんは犯人ではないわね」

 

そして、比企谷君の発言を聞いて雪ノ下さんのこの一言により、彼女も比企谷君の潔白を認めた。

 

 

 

 

……ちなみに、私もその怪しげなメールの犯人じゃないよ。

 

私はクラスメイトにもクラスの雰囲気にも興味はないし、もっと言えば自分以外に興味はない。

 

そんな私にクラスの内情に関するメールを送れるはずがないし、送る動機もない。

 

私は平穏に過ごしたい、だから、トラブルの火種になりそうな、そんな下らない怪しげなメールを送る暇があるのなら将来のために勉強していた方が合理的だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーコンコン…!

 

 

そうこう言っているうちに陽が傾いて、そろそろ今日の部活も終了しようとしていた時、部室の扉をノックする音がした。

 

ノックをするということは平塚先生ではないね。

 

私が入部して後も何度か平塚先生はこの部室に訪れていたけど、ノックをしたことは一度もなかったから。

 

だから、おそらく依頼人だな。

 

でも、こんな時間に依頼だなんて誰だろう。

 

 

 

「どうぞ」

 

 

 

雪ノ下さんが返事をして部室の扉が開く。

 

 

ーーガチャ…!

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

 

イケメンによく似合う爽やかな笑顔とともに入って来たのは、クラスの王子様である葉山隼人君だった。

 

「こんな時間に悪い。ちょっと相談があってさ」

 

 

葉山君はエナメルバッグを床に置くと、軽く断りを入れて雪ノ下さんの正面の椅子に座る。

 

その際、ちらりと比企谷君を見て、その後、比企谷君の隣にいた私が視界に入ったのか、顔を引きつらせたけど、すぐに雪ノ下さんに向き直った。

 

 

「いやー、なかなか部活から抜けさせて貰もらえなくて。試験前は部活休みにメニューをこなしておきたかっ「能書きは良いわ」 …た…」

 

 

 

優しい笑顔で快活に葉山君が話し始めるのを、途中でバッサリと遮る雪ノ下さん。

 

その雰囲気は普段よりも刺々しいように感じる。

 

 

「何か用があるから此処ここへ来たのでしょう?葉山隼人くん」

 

氷のような冷たい響を滲ませた雪ノ下さんの声にも、葉山君は笑顔を崩さない。

 

 

「ああ、そうだった。奉仕部って此処ここで良いんだよね?平塚先生に、悩み相談するなら此処だって言われて来たんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え? 平塚先生から紹介された…?

 

ここは紹介制で依頼を承る部活なの…?

 

でも、そうだとしたら何で平塚先生は私たちに相談もなしに生徒の悩みを聞かせるのにわざわざここを紹介したのかな、私たちがたまたまここにいたから良かったけど、いなければ依頼人は待ちぼうけだよ……

 

それに、大事な相談ならこんな高校生の子供に聞かせるより、生徒指導で色々な生徒を見てきた平塚先生が聞いた方がまだ良いだろうに…

 

何か変な違和感を感じる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?どんな用かしら」

 

「これなんだけどさ」

 

 

私がそう考えている間も依頼の相談は続いており、葉山君は雪ノ下さんに依頼は何かと聞かれて、カバンから自分の携帯電話を取り出し、画面を指差して私たちに見せる。

 

「あ……‼︎」

 

 

葉山君の見せた携帯の画面を見た由比ヶ浜さんが小さく声を上げた。

 

 

「どうした?」

 

 

 

比企谷君が尋ねると由比ヶ浜さんは自分の携帯を取り出して見せてくる。そこには葉山君の携帯にあったものと同じメールがあった。

 

私も考えを中断して比企谷君と雪ノ下さんに倣い由比ヶ浜さんの携帯の画面を見る。

 

そこに表示されていたメールの内容はどれも似たようなものでこう書かれていた。

 

 

 

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』

 

『大和は三股かけている最低の屑野郎』

 

『大岡は練習試合で相手校のエースを潰す為ためにラフプレーをした』

 

 

 

 

要約すると大体こんなところで、それらがいくつものアドレスから送られていた。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

「チェーンメール、ね」

 

雪ノ下さんが口を開くと由比ヶ浜さんがこくりと無言で頷いた。

 

「これが出回ってから、何かクラスの雰囲気が悪くてさ。それに友達のこと悪く書かれてれば腹も立つし」

 

そういう葉山君の表情は何処どこか疲れて、うんざりとしているように見える。

 

「止めたいんだよね。こう言うのってやっぱりあんまり気持ち良いが良いもんじゃないからさ」

 

そう言ってから葉山は、明るく付け足した。

 

「あ、でも犯人捜さがしがしたいんじゃないんだ。丸く収める方法を知りたい。頼めるかな」

 

 

なるほど、つまり葉山君の依頼を要約するとこうだ。

 

 

クラスメイトを貶すチェーンメールが出回っていてクラスの雰囲気が悪くなっている、しかも、それが自分のグループなためグループの雰囲気が険悪になっている。

 

だから、彼はグループの雰囲気がこれ以上悪くなるのを防ぐために、犯人を探すのではなくこのチェーンメールを止めて欲しいってところだろうね。

 

まあ、いかにもクラスの王子様らしい解決方法だな…。

 

 

「なるほど、つまり事態の収拾を図ればいいのね」

 

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 

「では、犯人を捜すしかないわね」

 

 

 

「うん、よろし、え? あれ、なんでそうなるの?」

 

 

前後の流れを完全に無視された葉山が一瞬驚いた顔を見せるが、次の瞬間には取り繕つくろった微笑みで穏やかに雪ノ下の意図を問う。

 

…っていうか雪ノ下さん、今の葉山君の依頼内容聞いてた?

 

葉山君は『犯人探しをするな』と言ってるのに…

 

自分の理想通りに動かない雪ノ下さんに取り繕った笑顔をしている葉山君に密かに哀れみの視線を向けていると、雪ノ下さんが何かを告白するかのように語り出した。

 

 

 

 

 

「チェーンメール……。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さず、只ただ傷付ける為ためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。悪意を拡散させるのが悪意とは限らないのがまた性質たちが悪いのよ。好奇心や時には善意で、悪意を周囲に拡大し続ける……。止めるならその大本を根絶やしにしないと効果が無いわ。ソースは私」

 

 

雪ノ下さんは何かの告発文を書いているように悔しそうにチェーンメールがどれだけ酷いものかを語り出した。

 

彼女のそれは私が初めてこの部室に連れてこられた時に聞かされたご高説と同じようなものだ。

 

それにしても、チェーンメールって雪ノ下さんの実体験だったんだね。

 

もしかして、彼女は過去に虐められていたのかな…?

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく、そんな最低な事をする人間は確実に滅ぼすべきだわ。目には目を、歯には歯を、敵意には敵意で返すのが私の流儀」

 

 

私がそう思っていると、雪ノ下さんは冷たい目で『犯人を見つけるべきだ』と言い放ち、葉山君に向き直る。

 

 

「私は犯人を捜さがすわ。一言言うだけでぱったり止むと思う。その後どうするかは貴方あなたの裁量に任せる。それで構わないかしら?」

 

 

「……ああ、それで良いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山君、相談するところを間違えたね…

 

 

私のその考えに賛同するように葉山君は諦めたように言った、雪ノ下さんは机に置かれた由比ヶ浜さんの携帯をじっと見つめる。

それから顎に手をやって仰々しく考える仕草をした。

 

 

 

 

 

「メールが送られ始めたのはいつからかしら?」

 

「先週末からだったかな」

 

「あたしもそのくらいからかな」

 

「先週末から突然始まった訳ね由比ヶ浜さん、葉山くん、先週末クラスで何かあったの?」

 

「特に……、何も無かったと思うけどな」

 

「うん……いつも通り、だったね」

 

葉山と由比ヶ浜は互いに顔を見合わせる。

 

 

「富良野さん、あなたは?」

 

 

雪ノ下さんが私にまで何かクラスであったのかと聞いてくる。

 

そんな事を聞かれても私はクラスメイトとほとんど交流をもたないから何が起きたかなんて知らない。

 

 

「特に… 何もなかったと思うけど…」

 

 

「そう…」

 

雪ノ下さんはそれを聞くと今度は比企谷君への方に顔を向けた。

 

 

 

「一応聞くけれど比企谷くん。貴方は?」

 

 

 

「一応って何だ、うーん… ああ、確か職場見学のグループ分けがあったな… 確か3人1組で」

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そういえばそんなのあったな。

 

大体それくらいに職場見学の希望調査票も配られていたし。

 

確かに比企谷君の言ったとおり、3人で1組のグループ分けだったっけ。

 

……あれ? もしかして……

 

 

 

「うわ、それだ、グループ分けのせいだ」

 

 

「あー… 成程な」

 

 

比企谷君は理解したようだけど、葉山君と雪ノ下さんはそうではないようで、由比ヶ浜さんのに視線を向ける。

 

 

「どう言う事だ?結衣」

 

「どう言う事かしら?由比ヶ浜さん」

 

 

 

「いやー。こう言うイベントごとのグループ分けはその後の関係性に関わるからね。ナイーブになる人も、居るんだよ……」

 

 

 

やっぱりそうか…

 

由比ヶ浜さんの考えに私も同感だ。

 

いつも一緒にいる人たちが1人ハブられれば、その後の付き合いにも影響が出てもおかしくない。

 

まあ、グループ分け程度で切れるような関係ならその程度の関係だったってことなんだろうけど。

 

 

 

「葉山君、あなたの友達が書かれているのよね?あなたのグループは?」

 

「ああ、そう言えばまだ決めてないけど、とりあえずその中の誰かと行くことになると思うけど」

 

「あー…! 犯人わかっちゃったかも」

 

 

 

 

その時、由比ヶ浜さんがげんなりした表情で言った。

 

 

「説明してもらえるかしら、由比ヶ浜さん。」

 

 

 

「ヒッキーも言ってたけど職場見学は三人一組だから1人がハブられるってことじゃん?そのハブにされた人はかなりきついよ」

 

 

 

 

 

 

まあ、普通に考えたらそうだよね。

 

私の思った通りのことを由比ヶ浜さんが言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

「動機はグループ分けで外されたくないからか」

 

「……では、その三人の中に犯人が居ると見てまず間違い無いわね」

 

 

 

 

 

比企谷君が賛同し、雪ノ下さんが『葉山君のグループの3人の中に犯人がいる』と、そう結論を出した。

 

 

その時、葉山君が声を荒げる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はあいつらの中に犯人が居るなんて思いたくない。それに、三人それぞれを悪く言うメールなんだぜ?あいつらは違うんじゃないのか」

 

 

 

葉山君が慌てたようにそう言いだした。

 

おそらく葉山君はグループの今後のことを心配しているのだろう。

 

チェーンメールの内容が自分のグループの自分以外の男子3人のことしか書いてないなんてどう考えてもおかしい。

 

それに、葉山君がこの奉仕部に依頼に来たのは、これ以上グループの雰囲気を悪くさせないためだろう。

 

先日の三浦さんの一件でグループの雰囲気はとても悪くなっていて、相模さんがその三浦さんの空いた席に座ってグループのギクシャクした雰囲気が漸く落ち着いてきたその時に、チェーンメールという葉山君のグループに望まれない変化が起きていた。

 

葉山君は自分のグループの雰囲気を悪くしないために、その対応に追われて疲れ切っていたのだろう。

 

 

悪い事は続けて起こるとはよく言ったもので、平塚先生に『クラスに出回る悪質なチェーンメールをどうにかしたい』と相談したところで紹介されたのがこの奉仕部だったのだろう。

 

 

でも、この奉仕部で決定権を持つ部長は自分の依頼なんて全て無視して自分のエゴに従って依頼を行おうとしている。

 

もし、この部長に従って自分のグループの例の男子3人の誰かがチェーンメールの犯人だったらまたグループの雰囲気が険悪になってしまう。

 

そうなれば、葉山君にとっては最悪の事態だ。

 

でも、葉山君は犯人探しをするべきだと主張するこの奉仕部の部長である、雪ノ下さんには逆らえないらしく犯人探しをすることは受け入れたが、自分の考える最悪な事態になりそうで焦っているのだろう。

 

なんとも大変なものだ。

 

クラスの王子様というべきか、空気清浄機というべきか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカかお前?」

 

 

私がそう考えてると、横から低い声が飛んだ。

その方に視線を向けると比企谷君が持ち前の腐った目を葉山君に向けながら吐き捨てるように言っていた。

 

葉山は比企谷君の発言に怪訝な顔をする。

 

 

 

 

 

「何がだ?」

 

「その三人が犯人じゃないって、本当にそう思ってるのか?お前がどう思っていようと、そんなことに意味は無いんだ。事実には全く関係無い」

 

 

 

 

 

比企谷君がそう言うと葉山は悔しそうに比企谷君を睨んでいた。

 

まあ、実際に比企谷君の言っていることは間違ってない。

 

感情論で犯人じゃないという主張が通れば犯人探しなんてする必要はないからね。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、その人達の事を教えてくれるかしら?」

 

 

 

雪ノ下さんに情報の提示を求められたので、葉山君は気を取り直したのかそれぞれの人柄を語る。

 

 

 

「戸部は、俺と同じサッカー部だ。金髪で見た目は悪そうに見えるけど、一番ノリ良いムードメーカーだな。文化祭とか体育祭とかでも積極的に動いてくれる。良い奴だよ」

 

「騒ぐだけしか能がないお調子者、と言うことね」

 

「………」

 

 

雪ノ下さんの一言に葉山が絶句した。

 

 

 

「どうしたの?続けて」

 

 

 

葉山君が急に黙り込んだのが、雪ノ下さんは首を傾かしげる。葉山君は気を取り直して続ける。

 

 

 

「大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりしたマイペースさとその静かさが人を安心させるって言うのかな。寡黙で慎重な性格なんだ。良い奴だよ」

 

 

「反応が鈍い上に優柔不断……と」

 

 

「…………」

 

葉山君は何とも言えない、苦々しい顔で沈黙したが、諦めたように溜息を吐いて続ける。

 

 

 

 

 

「大岡は野球部だ。人懐っこくいつも誰かの味方をしてくれる気の良い性格だ。上下関係にも気を配って礼儀正しいし、良い奴だよ」

 

「人の顔色窺うかがう風見鶏、ね」

 

「………………」

 

 

 

 

酷い言い回しだね、雪ノ下さん。

 

雪ノ下さんからの例の3人への批評を聞いて葉山君の顔は明らかに引きつってるし。

 

雪ノ下さんはまずコミニュケーション能力と道徳を学んだ方が良いと思うよ…

 

 

 

 

そんな中でもマイペースに雪ノ下さんは自分が取ったメモを眺めながら唸る。

 

 

 

「どの人が犯人でも可笑しくないわね」

 

「お前が一番犯人らしいけどな」

 

「私がそんな事する訳ないでしょう。私なら正面から叩き潰すわ」

 

「こえーよ」

 

 

比企谷君の発言を無視して雪ノ下さんは今度は私たちに向き直る。

 

 

「葉山くんの話だとあまり参考にならないわね…。 由比ヶ浜さん、比企谷君、富良野さん、あなた達は彼らのことどう思う?」

 

 

 

「え、ど、どう思うって言われても、、」

 

 

「俺はそいつらのこと知らんからな」

 

 

「この時点では彼らが犯人だという明確な証拠はないからなんともいえないよね」

 

 

 

 

急に『彼らのことをどう思う?』だなんて話を振られても平穏に過ごしたいがために人と関わりたくない私は葉山君のグループの男子なんて興味はない。

 

 

どう思うと聞かれても気にしたことすらないから彼らがどんな人間だなんて分かるわけがない。

 

 

それでも、自分の本性がバレないようにいつもの営業スマイルを浮かべてなるべく角の立たない言葉を返す。

 

雪ノ下さんはそれで納得したらしく再び私たちを見て命令するように口を開いた。

 

 

 

「じゃあ、調べて貰もらって良いかしら?グループを決めるのは明後日、よね?それまで一日猶予があるわ」

 

「う、うん」

 

 

 

 

 

雪ノ下さんに言われて、由比ヶ浜さんは嫌そうな表情を浮かべる。

 

 

「ごめんなさい、あまり気持ちの良いものではなかったわね。忘れて貰もらって良いわ」

 

「ううん。あたしやるよ!ゆきのんのお願いだし!」

 

 

由比ヶ浜さんは『ふんす!』と擬音がつきそうな鼻息を吐き出してやる気があることを示している。

 

ていうか、貴女のグループがチェーンメールの犯人に疑われてるのに引き受けていいの…?

 

その3人の中に犯人がいたら貴女のグループが壊れるかもしれないのに…

 

 

 

「それ、俺もやるのか?」

 

「貴方には最初から期待はしていないわ」

 

 

 

比企谷君は面倒臭そうに頬杖をついていたけど、どうやら拒否権はないみたい。

 

まあ、クラスでぼっちで社交性もない比企谷君があの3人から情報を引き出すことなんてできなさそうだから、雪ノ下さんの言い分は正しいのかもね。

 

そして、私は部長からの命令に拒否権があるわけないから営業スマイルを浮かべて引き受けた。

 

 

こうして私と比企谷君と由比ヶ浜さんは、チェーンメールの犯人を捜すために、例の疑わしい三人を調べることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー翌日ー

 

 

翌日の昼休み、由比ヶ浜さんは同じグループの眼鏡をかけた女子に話を聞いてみたが、繰り出されるBLマシンガントークにタジタジになっていた。

 

由比ヶ浜さんはいろいろ一生懸命にグループの人たちに話しかけて調査をしているが、比企谷君は彼らを観察しているのか、ぼーっとしているだけなのかよくわからない表情をしていた。

 

ちなみに私は由比ヶ浜さんのように行動はおこしていなかった。

 

 

何故って?

 

 

よく知りもしない相手から情報を聞き出すのに、私のようなぼっちが話しかけたところで得られる情報はたかが知れてるよ。

 

ましてや相手はトップカースト、下手をすれば『ぼっちのくせに生意気』とか適当な理由をつけて、目をつけられて何かしらの嫌がらせを受けるかもしれないのだ。

 

もちろん、ただの可能性の話だけど、可能性がゼロでない以上は安全ではないから私は平穏のために危険を犯すような愚かなことはしない。

 

他人のために平穏を脅かされるなんて冗談じゃないからね。

 

でも、私も全く調査をしていないわけではない。

 

 

私がしている調査は由比ヶ浜さんのように話しかけたりして犯人探しのための調査ではなく、こうやって客観的な視点から例の男子3人の様子や態度を観察しているのだ。

 

 

由比ヶ浜さんだと例の男子3人とは親しい関係だから、無意識に悪いところを見ないようにしているかもしれないけど、私なら由比ヶ浜さんからは見えない部分が見えるかもしれないからね。

 

今のところ、例の3人は葉山君を取り囲んで仲よさげに談笑している。

 

 

側から見ると仲のいいグループに見えるのだけれど、観察を続けているとそうでもないということが分かった。

 

 

 

葉山君がいないときにそれは顕著に現れた。

 

 

私は葉山君はグループのリーダーではなく、王様みたいなものなのだと思う。

 

何をするにもあのグループは彼が中心で動くため、彼さえいなければあのグループは崩壊する。

 

まさに扇子の要の位置に彼はいるのだ。

 

そんな事を考えていると、葉山君が比企谷君のところへと行った。

 

おそらく調査の進行状況を聞きに行ったのだろうけど、おかげであの3人の本当の関係が分かった。

 

葉山君が会話から離脱した途端、3人はピタリと談笑をやめて静かになったのだ。

 

べーべー喧しかったチャラそうな男子は腕を組んで険しい顔をしているし、坊主頭の小柄な男子は他の2人には目もくれずにポケットから出した携帯を弄っているし、巨漢でゴリラのような顔をした男子は他の2人の様子を眺めていた。

 

葉山君が抜けた後の彼らの中にはさっきまでの賑やかな雰囲気はなかった。

 

やっぱり扇子の要の部分がなくなったから、彼らは会話をやめたのだ。

 

おそらく、あの男子たちはクラスの中心人物である葉山君の威光が欲しくて集まったのだろう。

 

イケメンで文武両道、さらに親は弁護士という高スペックの男子は間違いなくクラスのみんなから人気が出る。

 

その人のグループに属していれば自分も中心人物からのお零れをもらえると思っているのだろう。

 

そうだとしたら、薄い信頼と人間の打算の上に成り立ってるグループだね、確かな信頼がないのならあのグループの男子3人は赤の他人同然、あのチェーンメールを流した事で他の2人を蹴落とそうとしているというのも強ち否定はできないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、この依頼は考えれば考えるほど厄介なものだな。

 

よくもまあ、葉山君はこんな厄介な依頼を持ってきたものだ。

 

 

犯人が誰なのかなんてあのチェーンメールだけじゃ分からないし、もっと言えば、犯人だと言えるのはあの3人に限ったことじゃないと思う。

 

 

もしかしたら、葉山グループの席を狙っている誰かが3人を蹴落とすために送っている可能性もあるしね。

 

 

そう考えれば、怪しい人は沢山いる、正直言って犯人探しをするには情報が少なすぎる。

 

雪ノ下さんの言った通り本当に犯人を探すのならば、この事を先日のテニスコートの時くらいの大きな騒ぎにして生徒の携帯をチェックするしかないだろう。

 

でも、それを葉山君が承諾するとは思えないからこれはダメだ。

 

 

それに、奉仕部の3人と葉山君は職場見学があのチェーンメールの原因だと言っていたけど、私はそうだとは言い切れないと思う。

 

あのチェーンメールは由比ヶ浜さんの言った通り職場見学のためではなく、3人を蹴落とそうとグループ外の誰かが送った可能性もあるのだから。

 

考えれば考えるほど可能性はたくさん出てくる。

 

 

あー…! 本当に厄介なことに巻き込まれたな…

 

 

ていうか、何で葉山君のグループの問題に私が巻き込まれなくてはならないの…⁉︎

 

 

とにかく犯人が誰なのか分からない以上は、1番良い方法なのはこのチェーンメールを送る犯人を挙げることなんだけどな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん? 待てよ…

 

もしかしてこの方法を使ったら……!

 

 

 

 

 

その時、私の頭の中に1つの解決策が浮かんだ。

 

私のこの方法が上手くいけば、チェーンメールは一発で出回らなくなると思う。

 

上手くいくかわからないけど何もしないよりかはマシだろう。

 

 

 

 

 

 

解決策が浮かんだ私は葉山君の方に視線を向けて話しかける。

 

「何だい? 富良野さん」

 

 

爽やかな笑顔を浮かべるチェーンメール騒動の根幹に私は作り上げた笑顔を浮かべて彼の耳元で囁く。

 

 

 

 

「葉山君、チェーンメールの依頼のことでお話があるんだけど、放課後、部活が終わった後2人きりで人気のないところで会えないかな… 実は私、犯人が分かったんだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー問題事を持ってきたのは貴方だ…!

 

 

ーーさらにこの犯人の動機もおそらく貴方だ…!

 

 

ーーならば、貴方の手でこのチェーンメールの騒動の幕を引いてもらう…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬驚いた顔をして、私を見返すと彼はグループの男子3人を見て「ほ、本当かい⁉︎ なら放課後に…」と承諾の意思表示をした。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ…」

 

顔に明らかに喜びの色を浮かばせた葉山君に思わず笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

 

ふふっ… せいぜいグループを守るために頑張ってね、葉山君…

 

チェーンメールを止めるのは協力するけど、私はそこまでしかしない。

 

それ以降は貴方の問題だからね…

 

 

私は私の平穏が護れればそれで良いのだから…!

 




いつもよりめちゃくちゃでしたが、読んでいただいてありがとうございます。

長くなりそうなのでここでチェーンメール回は一旦切ります。

次回は完全なオリジナル展開です。


感想やメッセージまでいただきありがとうございます。

ご指摘、感想がモチベーションに繋がるのでコメントをいただけたら嬉しいです。

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