今回はかなり後味の悪い結末になっています。
キャプションにもありましたが、普通ならアンチ対象にならないキャラが、この作品ではアンチになることがあります。
強いヘイト要素を含んでいますので、いつものように閲覧は自己責任でお願いします。
由比ヶ浜さんに電話で呼び出された私は彼女から指定されたカフェに入る。
宿泊用のバッグは雪ノ下さんたちに見せるわけにはいかないため、カフェの近くにあったコインロッカーに預けた、コインロッカーのお金が無駄になったからその分を切り詰めないといけないな…
そう思いながらカフェに入ると、他の学生たちも試験勉強をするためにここを選んでいたのか、高校生や中学生で店内はごった返していた。
「あっ! ふらのん! こっちだよ!」
マニュアル通りに接客する店員に適当に応対しながら、由比ヶ浜さんを探すために店内を見渡すと声がかかった。
声のした方を見ると由比ヶ浜さんが私に向かって手を振っている。
由比ヶ浜さんに言われるままに彼女が手を振っているテーブルに向かうと、そこには彼女の他に雪ノ下さんや比企谷君の奉仕部のメンバーと戸塚君がいた。
その向かいには中学生らしき男女が座っている。今回の依頼人とは彼らのようだ。
1人は目がパッチリと大きく、アホ毛が髪にあるいかにも元気っ娘という表現が当てはまりそうな少女。
もう1人はイケメンの部類に入りそうだが、どこか内気で気の弱そうな印象を与える少年。
奉仕部の面々は雪ノ下さんはいつも通り澄ました顔で椅子に座っており、比企谷君は気の弱そうな少年を見つめている、いや睨んでいると言った方が正しいね。
『何か嫌な予感がする』という考えを顔に出さないようにしながら、私は由比ヶ浜さんに言われるままに椅子に座った。
「それで、一体どうしたの?」
私は椅子に座ると、依頼内容を聞くためにこの中では一番頭のいい雪ノ下さんに尋ねる。
私がそう聞くと雪ノ下さんが簡単に依頼人と依頼内容について説明してくれた。
簡単に纏めるとその少年はやはり依頼人で川崎大志と言って、依頼内容は姉が不良化して夜遅くに帰ってくるから何とかして欲しいということだった。
でも、驚いたな、大志君の姉が私と職場見学で一緒の班の川崎沙希さんだったなんて。
まあ、川崎さんは比企谷君と同じように社交性皆無みたいだから、クラスメイトととはほとんど関わり合いを持ってないし、私自身も川崎さんとの関わりは職場見学の班決め以外は持ってないから、彼女がどんな人間なのかは分からないけどね。
私が雪ノ下さんの説明にそう感想を抱いていると、話し合いが動き出した。
「大志くんのお姉さんっていつからそんな風になったの?」
「姉ちゃん、総武高校行くぐらいだから、中学の時とかはすげえ真面目だったんです。それに、割りと優しかったし、よく飯とか作ってくれてたんす。高1の時も、そんなに変わんなくて……。変わったのは最近なんすよ」
「高2になってからってことか」
比企谷君が言うと大志君は「はい」と相槌を打って肯定の意を返す。
「それに帰りもずっと遅いし、親の言う事全然聞かないんすよ。俺が何か言ってもあんたに関係無いってキレるし……」
「遅いってどのくらい?高校生なら、遅くもなるんじゃない?お兄ちゃんもたまにあるし」
「……でも五時過ぎとかなんすよ」
「いや、むしろ朝だな。寝れても精々、二時間やそこらか」
比企谷君がそう言うと大志君が「そうなんすよ」と再び相槌を打つ。
「そ、そんな時間に帰って来て、ご両親は何も言わないの、かな?」
そんな中で、戸塚君が心配そうに話し掛ける。
「そっすね。うちは両親共働きだし、下に弟と妹居るんであんま姉ちゃんにはうるさく言わないんす。それに時間も時間なんで滅多に顔合わせないし……」
大志君はそこまで話すと目を伏せて、一旦話を区切った。
「まぁ、子供も多いんで結構暮らし的に一杯一杯なんすよね。たまに顔を合わせても何か喧嘩しちまうし、俺が何か言っても『あんたには関係無い』の一点張りで……」
大志君は困り果てた様子で肩を落とす。
それを見て雪ノ下さんがポツリと呟いた。
「家庭の事情、ね……。どこの家にもあるものね」
そう言った雪ノ下さんの顔は今までに見たことがないほどに陰鬱なものだった。その顔は悩みを話しに来た大志君と同じように、否、それ以上に泣き出しそうだった。
雪ノ下さんの家庭にも何か大志君と同じような問題があるのだろうか、まあ、私ほど酷くはないと思うけど…
私がそう思っていると、雪ノ下さんは気を取り直したのか、大志君に向かって口を開く。
「さすがに朝方まで総武高校の生徒が働いているのは見過ごせないわね。奉仕部として川崎さんを更生させましょう」
はぁ…? またなの……?
……とテニスコートやチェーンメールの時のように部長が、部員である私たちへの確認もせずに自分で勝手に奉仕部の依頼として受けた。
つまり私もそれに含まれているということだ。
周囲のことを無視して自我を貫き通す、独りよがりな部長に思わずため息をつきたいが、何とかそれを飲み込んで話を聞く。
それから川崎さん宛あてに変な所から電話がくるらしく、『エンジェル〜』とかいう店で、大志君は「その店は絶対ヤバイっす!」と興奮している。
比企谷君の妹の小町さんと戸塚君はよく分かっていないようだが、比企谷君はすぐに分かったのか「キャバクラエンジェルとかありそうだよな」というと、大志君は恥ずかしさの余り、テーブルに顔を突っ伏した。
………にしても意外だったのは、その依頼の承諾には比企谷君が特に異議を唱えなかったことだった。
怠惰で捻くれ者を形にしたような彼なら、雪ノ下さんたちにいつものように難癖をつけるとかするかなと思っていたけど、それを特にしなかった。
疑問に思ってたけど、その理由はすぐに分かった。
比企谷君が依頼人の大志君に『小町の彼女ならしばく』とか物騒なことを言っていたからだ。
どうやら比企谷君は妹の小町さんを溺愛しているらしい、世間一般でいうシスコンというもののようだ。
その可愛い妹がお願いしてるのだから、兄としていい格好をしていたいのだろう。
でも、比企谷君のその姿は第三者の私から見てみればこうだ。
『気持ち悪い』
この一言に尽きるけどね。
普通は妹のことが大事ならば、本当に彼が妹の彼氏だったとしたら、その彼氏と仲良くするべきでしょうに『俺の妹に近寄るな』と言ってるなんて、俺のものに近寄るなと言ってるようなものだろう。
見た感じ大志くんは不良やヤンキーのような人には見えないから、比企谷君の大志くんに対しての発言は妹のことを心配している感情からそう言ってるのではないのだ。
つまり、比企谷君が大志くんに向けている感情は、向けられた方からしてみれば理不尽なことこの上ないものであり、ただ『自分の妹を他人に取られたくない』という醜い独占欲からくるものだ。
何ともまあ醜いものだ。由比ヶ浜さんが比企谷君を『キモい』と言っている理由が少しだけ分かった。
とまあ、比企谷君のシスコンについて考える、軽い現実逃避はこれくらいにして依頼の方に考えを戻そう。
私がそう考えているうちにも話し合いは進み、奉仕部の3人と大志君たちは依頼について話し合っている。
でも、私は話し合いの最中はほとんど発言せずに、適当に彼らの話に相槌を打ちながら聞いていた。
……本音を言えば、私はこの依頼には関わりたくない。
ていうか、そもそも雪ノ下さんに言いたいんだけど、この依頼を受けることは私たちは大きなデメリットがあるのに気づいてるの?
大志君から『エンジェル〜』とかいういかにも夜のお店らしき名前が出てきた時、何だか依頼の雲行きが怪しくなってくるのを感じた。さらに、姉は朝の5時くらいに家に帰ってくるときている。
これから推測すると、おそらく大志君の姉がしている仕事はいわゆる『夜の仕事』なのだろう。
何の理由でそうしているのかは分からないが、夜の仕事をしている人に関わるのは私たちにとって大きなデメリットがある。
それは、私たちがその『夜の仕事』をしている人と関わったことにより私たちに火の粉が飛んでくるかもしれないからだ。
私たちは高校生だ、万が一深夜の店で働いている人と関わりを持ったことが知られたら最悪の場合は私たちまで停学などの被害を被る。
そんなの真っ平だ、何で赤の他人のために私がそんな目に合わないといけないのだ。
それに依頼を引き受けた時に雪ノ下さんが言ってた『川崎さんを更生させる』なんてことは出来ないと思う。
雪ノ下さんの考える川崎さんを更生させる方法は、彼女の性格とチェーンメールの時の行動から考えるに、川崎さんの働いてるお店に行って川崎さんを説得するか、学校側に報告するかのどちらかだろう。
正論を振りかざして自分の自我を貫き通す彼女らしい選択だけど、そうなると私が危惧しているような事態になってしまう。
そうなったら最悪だ。彼女は自分だけではなく私たちまで下手をすれば被害を被るのを理解しているのだろうか?
そもそも『夜の仕事をしている人を更生させる』と言っても弟の大志くんの言葉にすら耳を傾けなかったんだから、友人でもなければ恋人ですらもない赤の他人である奉仕部のメンバーが説得したところで結果は一緒だ。
むしろ、夜の仕事をしていることをバラしたとして大志くんが姉から責められるかもしれないのだ。
それなら姉弟の兄弟仲は却って悪化するから逆効果だ。
それに、私たちが関わったことにより深夜の店で働いていることが公になったら学校側から川崎さんには重い処罰が下されるだろう。
進学校である総武高校ならば推薦での進学は絶望的、処罰も良くて停学、下手をすれば転校という形の退学処分になってもおかしくない。
それに加えて夜の店で働いているということは店側にも年齢詐称して働いているのだろうから、店側からも損害賠償を請求される可能性だって多いにある。
そうだと本末転倒、川崎さんには辛い未来が待っている。
他にも考えれば考えるほどデメリットがある。
正直に言って、この依頼は私たちのようなただの高校生が何とかなる依頼ではない。
それなのに雪ノ下さんは『総武高校の生徒が深夜働いているのは私は見過ごせない』などと言う軽はずみかつ身勝手な理由で受けた、彼女はこの依頼のリスクも事情も理解していないように感じる。
平塚先生に問いたい、『本当にこの人のもとで人間は矯正できるのか? この人自身が矯正されるべきなのではないのか?』と。
奉仕部に入部させられるまでは、雪ノ下さんの表面しか私は知らなかったから、成績も良く頭の良い人だと思ってたけど、これを見ているととてもそうだと思えないな…
まあ、問題は起こしたくないからそんな事はみすみす言わないけど…
私がこの依頼と雪ノ下さんたちへの不満を内心で呟いている間にも話し合いは進んでいる。
独裁者のような部長の一声により依頼を受けることが確定したため『川崎さんを更生させる』という名目の元で話し合いが進んでいるようだ。
「何にせよ深夜に高校生が働くっていうのはまずいよな、法律で禁止されてるんだからな」
「そうっすよね! お義兄さん!」
「お義兄さんと呼ぶな、クソ野郎。 ……となると、その店は川崎が高校生だということを知っていてこっそり働かせているのか。それとも、川崎さんの方がそれを隠しているのか…」
「とにかく、これ以上は川崎さん本人に聞いて辞めさせるしかなさそうね」
比企谷君の意見に雪ノ下さんが川崎さん本人に確かめるべきだと言った。
てか、家族にも隠してるんだから、赤の他人の私たちが出しゃばって聞いたところで正直に答えるわけないでしょう…
「で、でも、どうすればいいのかな?だってどこで働いているのかも分からないし、働いているお店を辞めさせることができたとしても、また他のお店で働き始めたら意味無いよ?」
戸塚君が核心を突いた事を言う、この意見には私も賛同する。
その通りだ、川崎さんは何らかの事情で朝方までバイトをしているのだろうから、依頼解決をするならその根本的な問題の解決をしないと意味が無い。
「つまり、対症療法と根本治療、どちらも並行してやるしかないというわけね」
「そうだな。ちょっと待ってろ」
そう言って比企谷君がスマートフォンを取り出した。
「何してるのヒッキー?」
「この近辺にある朝方まで営業している店で、‘‘エンジェル’’の名前が付く店を探してるんだよ。…………お、ヒットしたぞ」
「それで?」
どうやら比企谷君は大志君が言っていた『エンジェル〇〇』に当てはまる店がないか検索をしていたようだ。
検索結果がヒットしたと聞いて、雪ノ下さんが先を促す。
「あるのは二店舗だけだ。一つは『メイドカフェ・えんじぇるている』。もう一つは『エンジェル・ラダー 天使の階きざはし』」
「一つ目はメイドカフェだって分かるけど、もう一つのお店は何のお店なの?」
戸塚君も興味を引かれたように聞いてくる。
「こっちはバーだな。ホテルの最上階にある店みたいだ」
「川崎さんはどちらかの店で働いているとして、どちらから周ろうかしら」
「川崎が働いていそうな店から周ればいいだろう」
「そうだね、富良野さんはどちらだと思う?」
話し合いで発言しなかった私に戸塚君が意見を求めてきた。
そう言われても、こんなリスクの大きい依頼に関わりたくない私は川崎さんがどこで働いてるかなんてどうでも良いし、どうやってこの依頼から抜け出そうかの方に考えを移したいくらいなのに…
でも、そんな事を言えるはずないのでなるべくまともな意見を頭の中で検索してみんなに話すように返す。
「大志君はどう思うかな? この中で川崎さんを1番よく知ってるのは、弟の大志君だと思うんだよね。 お姉さんの性格や趣味から考えてどっちを働き先に選んだのかな?」
私は大志君に意見を求めた、何と言ってもこの中で川崎さんと強い繋がりのあるのは弟の彼だ。
私の見た限りだけど、ぼっちで協調性もなく無愛想な川崎さんは友人もいないだろうし、この中でもクラスのみんなでも川崎さんの事をよく知っている人はいないだろうからね。
それならば、弟の大志君に尋ねた方が1番真実味がある。
大志君は私から話を振られて驚いた顔をした後『そっすね…』と顎に手を当ててしばらく考えこんで口を開いた。
「聞いたわけじゃないんすけど、姉ちゃんは『メイドカフェなんてくだらない』とか言いそうなんで、どっちかと言えばバーだと思うっす。今思い返して見れば、電話をかけてきた店長の人も、話し方が落ち着いているというか、紳士的というか、そんな感じがしたんで」
「ならそう見た方が良いみたいだね、川崎さんはバーで働いてるんじゃないかな?」
「なら決まりね、今夜行ってみましょう」
「………はぁ……」
私たちは大志君と連絡先を交換し、一度それぞれの家に帰ることになった。
なぜなら、こういった店ではそれにふさわしい服装でなければ入店を断られるかもしれないらしい。今までバーになんぞ行ったことの無い私たちにそう語ったのは雪ノ下さんであった。
ちなみに戸塚君は家に帰らなければならないらしく、バーに向かうのは奉仕部の4人ということになった。
私も戸塚君と同じように断ったのだが『貴女も矯正の一環として来なさい』と雪ノ下さんに言われて、由比ヶ浜さんからも『ふらのんも行こうよ! 大志君のお姉さん助けてあげようよ!』と言ったため断れずに行かないといけない羽目になってしまった。
私は川崎さんのお姉さんがどこで働いてるかの意見を出したら適当な言い訳でこの依頼から抜けようと思ってたのにこの有様だ。
おまけに雪ノ下さんの『ふさわしい服装に着替えてくるように』と言われた事で、大人っぽい服装なんて持ってない私は貸衣装屋を探し出して着ることになった。
ホテルの最上階にあるようなバーに入るのに相応しい綺麗な服装は借り賃もとても高い、お金のない私は1番安い藍色のドレスっぽいのを借りたけど、借り賃だけで貯めておいた今月中のネットカフェの宿泊代の半分がなくなってしまった。
コインロッカーのお金を差し引いても予定外の出費に大赤字だ。
そのせいで今月はもし追い出されたら寝泊まりは公園で、水だけの食事をしないといけないかもしれない…
本当にこの依頼のせいで踏んだり蹴ったりだ、何で私がこんな目に合わないといけないのだろうか…
私がそう憤りながら待ち合わせ場所に向けて歩いていると、比企谷君と雪ノ下さんと由比ヶ浜さんはもう集合していた。
ちなみに比企谷君はスーツ姿、雪ノ下さんは白いサマードレスに黒いレギンス、由比ヶ浜さんは上にはデニム生地の裾の短いジャケットを羽織り、下は黒いチノに金ボタンがあしらわれたホットパンツ。
「スーツは良い物なのに、目が腐っているせいで台無しね。比企谷くんはギリギリアウトとして……」
「アウトなのかよ」
雪ノ下さんが比企谷君にいつものように毒を吐くと今度は私の服装を値踏みするように見始める。
「まあ、富良野さんの服装ならそこまで言われないでしょう。けれど、由比ヶ浜さんは厳しいかもね」
「え?だめなの?」
「ええ。女性の場合、そこまで小うるさくはないけど……」
そう言って雪ノ下さんは由比ヶ浜の服装を上から下まで目を通す。
まあ、確かに普段の彼女と同じような服装だからね、雪ノ下さんの言うようなバーへの入店は断られても不思議はない。
「しょうがないわね。私がコーディネートしてあげる。私の家に来なさい」
「え、ゆきのんの家、行けるの!?行く行く!……あ、でもこんな時間に迷惑じゃない?」
「気にしなくてもいいわ。私、一人暮らしだから」
「この子、できる女だ!?」
雪ノ下さんの一人暮らし宣言に由比ヶ浜さんが大袈裟に驚く。
てかその基準は何なのだろう、一人暮らししている女性は全員できる女だと思ってるのかな?
「じゃあ行きましょうか。すぐそこだから」
雪ノ下さんが後ろの空を振り仰いだ先には、この一帯でも特に高級なマンションがあり、彼女の住まいは摩天楼の大分上らしい。
由比ヶ浜さんを着替えさせるため雪ノ下さん達と別れ、立っているのも疲れるので私と比企谷君はマンション内のエントランスにあるソファーに腰掛けた。
流石、マンションのソファー、家の物とは一味違うなと密かに座り心地を堪能して2人を待つ。
ソファーの座り心地にリラックスしていると、横から声がかかった。
「………お前、何でこの依頼を受けたんだ?」
「……え?」
会話もなく静かな空間を壊すように比企谷君が私に問いかけた。
突然話しかけられた事にも驚いたが、何より質問の意図が分からずに思わず素っ頓狂な声を上げる。
ポカンとしている私に比企谷君はこちらを見ないまま話を続ける。
「お前、戸塚が『門限があるから帰る』と言ってた時に一緒に帰ろうとしてたよな、それに話し合いにも積極的に参加せずに戸塚に話振られるまで意見すらも出してなかったな、あれはお前の『この依頼に関わりたくない』という意思表示だろ?」
『まあ、その後に雪ノ下たちのせいでダメになったみたいだがな』と比企谷君は言った。
比企谷君の言葉を聞いて私は冷や水を浴びせられたかのような錯覚に陥った。
思わず比企谷君の方を見ると比企谷君は『あの時』と同じ目をしていた
『あの時』、それは奉仕部に材木座君がラノベ原稿を読んでほしいと言う依頼を解決して彼が帰った時だ。
彼の腐った目から『疑い』や『不信感』などのマイナスな感情を含んだ視線が私に向けられる。
比企谷君の目がこう言っている。
『お前、本当にそう思っているのか?』と
「あ……! あ……!」
背筋がさらに寒くなり背中に気持ちの悪い汗が流れ始めた、彼が自分に向ける視線に強い恐怖心を抱いた、あまりの恐怖に声も上手く出すことができない。
あの時のように心の奥底から気持ちの悪い何かが上がってくる、まるで自分を奈落の底に引き込もうとするような感情だ。
唇を震わせながら声にできない悲鳴を口から出していると、比企谷君は再び口を開く。
「気になるんだよ、それなのに何でお前がこの依頼を受けたのかが」
私が答えられずにいると比企谷君の疑いの視線がさらに強くなった。
普段ならよく回る頭も観察眼も今は恐怖心が理性より勝ってるせいか上手く働かない。
それでも必死に頭を働かせて言葉を引き出す。
「な、何を言ってるか分からないよ… わ、私は川崎さんを助けてあげられたらなと思ったからだよ…?」
必死に頭を働かせて何とか捻り出せたのは、いつもの自分なら失笑してしまうほどの陳腐な言い訳染みた言葉だった。
おまけに比企谷君の疑問にも答えられてない、自分で自分を首を絞めている。
でもそれを説明できるほど今は頭が働いていない、そのせいで私の中の恐怖心がさらに大きくなっていく。
比企谷君は「ふーん… そうか…」と釈然としないような声を上げた。
これでは何も解決していない、彼の追及から逃れたい、私は心の奥底でそう叫んだ。
「それにお前…「あら、ゴミガヤ君、こんな所で不貞行為を働くのはやめなさい、富良野さんも怯えてるわ、警察に通報しましょう」……」
「ふらのんをナンパしてるの⁉︎ ヒッキーキモい! ふらのんも嫌がってるじゃん‼︎」
その時、横から聞き覚えのある2つの女性の声が聞こえた。
そこには、携帯を持って画面に110と表示された画面を見せつけるようにしている雪ノ下さんと、ドレスに着替え終わった由比ヶ浜さんが立っていた。
雪ノ下さんも着替えたらしく先ほどと打って変わって漆黒のドレス、由比ヶ浜さんは深紅のドレスを着ていた。
彼女たちには比企谷君が私に言い寄ってるように見えたのだろうか、いつもの罵倒ともに比企谷君詰め寄る。
いつもなら内心で彼女たちの毒舌や理不尽さにツッコムのだが、今は彼女たちの登場に感謝している。
彼女たちの登場のおかげで比企谷君の視線から逃れることが出来て、この場を誤魔化せた。
「は、早く行こうよ、あまり遅くなると大変だしね!」
チャンスは今しかない、さっきのような状態に戻るのを防ぐために私は早くバーに行くように提案した。
思わず少し大きな声が出てしまったが、雪ノ下さんが『そうね、行きましょう』と言ったことで、由比ヶ浜さんも賛同し、川崎さんの働いているバーに早速行くことになった。
比企谷君は微妙な表情を浮かべたまま2人に着いて行ったが、それでも私は良かった。
あの場を切り抜けられたことに私はホッとして小さく息を吐いてソファーに力が抜けたように座り込んだ。
「ふらのん、どうしたの、行くよ?」
「う、うん… そうだね…」
由比ヶ浜さんの声に我に返ってソファーから立ち上がる。
私は気持ちの悪い汗をハンカチでふき取ると、奉仕部の3人に足を引きずるように歩きながらついていった。
だが、比企谷君のあの疑いの視線は頭に焼き付いて離れない。
私はそれを払拭しようと頭を大きく振って雪ノ下さんたちを早歩きで追いかけた。
前を歩いている奉仕部の2人とそして私の恐れている彼を見て私は心中で一言呟いた。
いつになったら私に平穏が訪れるのだろう………と……
今回はここまでです。
いつも以上にめちゃくちゃで申し訳ありません…
感想やメッセージまでいただきありがとうございます。
ご指摘、感想がモチベーションに繋がるのでコメントをいただけたら嬉しいです。