4人目の奉仕部員は平穏に過ごしたい…   作:レッドクロス

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続きです。


今回は賛否分かれる結末になっています。


タグにもありましたが、普通ならアンチ対象にならないキャラが、この作品ではアンチになることがあります。

視点も変わることが多いですが、視点が変わった時のキャラクターの心境は自己解釈です。

川崎沙希はアンチ対象にならずらいですが、この作品では少しアンチです。

『川崎沙希は天使!』や『川崎沙希のアンチは認めん!』という方はこの話は読まない方が良いと思います。


強いヘイト要素を含んでいますので、いつものように閲覧は自己責任でお願いします。


自分のために平穏を脅かされたくない。

ー富良野英理華 sideー

 

 

「さぁ、行きましょう」

 

 

あれから私は雪ノ下さんたちについていきながら恐怖心から震える身体と波立つ感情をなんとか鎮めて心を落ち着かせた。

 

でも、歩いている最中に比企谷君がこちらを見るたびに感情が波立ち心臓が早鐘を打ち、その度に自分の心を落ち着かせなければならなかったが、そこは辛い生活で培った自制心で何とか外に出さないように頑張る。

 

これから川崎さんが働いているかもしれないバーに行くのだ、私の正念場はここからなのだ、比企谷君に怯えて気を乱してなどいられない。

 

何とか心を落ち着かせて私は、先導する雪ノ下さんについていき、目的地のバーにたどり着いた。扉を開くとそこは異質な空間だった。

 

明かりは優しく穏やかで、どこか薄暗いとも感じる。きらびやかではなく、落ち着いた雰囲気。

 

間違いなく大人のバーだ、正直、私たちのような高校生が来るような場所ではない。

 

 

「ね、ねぇ、あたしたち場違いなんじゃない?」

 

 

バーの空気に圧倒されたのか、由比ヶ浜さんは怖気づいている。

 

 

「そう思えば余計に場違い感が出るよ、もっと毅然としていた方がいいと思うけど…」

 

 

「なんでふらのんはそんなに自然としてるの?」

 

 

「だってここまで来て帰るわけにもいかないよ、だったらもうなるようになれだよ」

 

 

いまさらドタバタしたところでしょうがない、さっきのこともあるから比企谷君からは一刻も早く離れたいけど、そんな事を言えるはずもないから、ここは我慢するしかない。

 

 

「そうね。あまりキョロキョロしていると怪しまれるから、ごくごく普通にしてちょうだい」

 

 

「その普通が難しいよ……」

 

 

雪ノ下さんから言われても嘆いている由比ヶ浜さんを鬱陶しいと思いながらも、私と比企谷君と雪ノ下さんは奥へと進む。

 

てか、私を呼び出して率先して依頼を受けたのは貴女なんだから、ここまできて嫌だと騒ぐようなことはしないで欲しいんだけど…

 

 

私がそう由比ヶ浜さんに対して内心で毒づき、雪ノ下さんたちの後に続いた。

 

 

ー富良野英理華 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー川崎沙希 sideー

 

 

夜も更けて大人たちの時間になったバーで、私はバーテンダーの制服に身を包み、グラスを磨いていた。

 

 

此処でバイトを始め、しばらく経つが、やはりこんな夜遅くに働くと言うのは、周りの目が気になるし正直辛いことが多い。

 

今日もいつものように仕事をする、私が高校生だとバレないように最新の注意を払って。

 

 

私の家は裕福ではないし、今年中学3年生になって受験を控えた弟の大志が塾に通うようになった。

 

 

来年、私の受験の時は大志は受験を終えて塾も辞めてるだろうし余裕はあると思う。

 

でも今年は無理だ。

 

私は将来を見据えて今のうちから予備校や夏期講習とかに通いたいと思う。だからバイトをすることにした。

 

コンビニやファミレスとかの時給850円そこらのバイトでは塾の学費や予備校の夏期講習に参加できるだけの目標金額にはとても届かない。

 

それに、空き時間を全てバイトに当てるのでは勉強ができないから本末転倒だ。

 

そのため、私はどうせ同じ時間を割くならと深夜のバイトをすることにした。

 

もちろん怪しい職業で無く、ホテルのバーテンダーである、当然年齢は誤魔化して働く。

 

 

でも、寝不足は思った以上にあたしに悪影響を与えていた。

 

遅刻は増え、授業は集中できない日が増えていき、この間の行われた小テストでは平均点を下回る散々な結果になっていた。

 

 

 

 

 

嫌な事を思い出してため息をつきながら仕事をすると、弟達の事が頭を過ぎる。

 

 

今朝もまた『こんな時間まで何をしているんだ』と、大志から問い詰められて、最終的に口論になってしまった。

 

大志が心配してくれているのは、私にも痛いくらい分かっている。

 

しかし、明け方まで仕事をして、過労により疲れていたのと、もう何度も関係無いと言ったのに、未だに何をしているのかしつこく聞いてくる事に苛立って、それを大志にぶつけてしまった。

 

 

大志だけでなく、両親や、下のきょうだいにも悪いとは思っているが、この事を話すつもりも、バイトを辞めるつもりも無い、大志たちのためにも辞める訳にはいかないのだ。

 

 

誰も気付かない程小さく、しかし、それに込められた苦悩は計り知れない溜め息を吐くと、カウンターに三名の客がやって来る。

 

 

ああ、客がやってきた。

 

 

ダメだ、仕事中にこんな事を考えるのは…

 

 

私は家族のことを考えて緩んでいた気を引き締めるとやりかけの仕事であるグラス磨きにに意識を集中させた。

 

 

 

ー川崎沙希 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー富良野英理華 sideー

 

 

「あ、あれ川崎さんじゃない?」

 

 

少し進んだところで、由比ヶ浜さんがカウンターに立つ女性バーテンダーを指す。

 

私ほどではないけどすらりと背が高く、顔立ちは整っていて、泣きほくろが印象的な女性、あの人は間違いなく川崎さんだ。

 

 

「あれが川崎か…」

 

 

「うん……。ってヒッキーも同じクラスじゃん!」

 

 

由比ヶ浜さんが比企谷君に小声で指摘しているが、同じクラスと言われても、ぼっちで他人との協調性が皆無の比企谷君にそう言われても分からないだろうね。

 

 

 

「とりあえず行きましょう」

 

 

雪ノ下さんが先陣を切ってカウンター席に座る。

 

 

「捜したわ。川崎沙希さん」

 

 

「雪ノ下……」

 

 

カウンター越しに座り、雪ノ下さんが話しかけると、川崎さんの顔色が変わる。その表情は親の仇でも見るかのようなもので、はっきりとした敵意が込められている。

 

近くで見ると、とても美人だけど彼女はもともと目つきが悪いのもあって、さらに怖い顔になっているけどね。正直に言ってヤンキーとかと間違えそうになった。

 

 

「こんばんは」

 

そんな川崎さんの気持ちを知ってか知らずか、雪ノ下さんは涼しい顔で挨拶する。

2人の視線が交差し、火花が散りそうな雰囲気だ。

 

 

「ど、どもー……」

 

 

雪ノ下さんに続いて由比ヶ浜さんも挨拶するが、川崎さんと雪ノ下さんの迫力を見てビビったのか、風見鶏らしい日和った挨拶をする。

 

 

「由比ヶ浜か……、一瞬わからなかったよ。そっちの奴は富良野か。じゃあ、残りの彼も総武高校の人?」

 

 

川崎さんは私のことも職場見学の班が同じだったため覚えていたようだ、でも、彼女もクラスメイトとの付き合いが殆どない比企谷君のことは知らなかったらしい。

 

 

「あ、うん。同じクラスのヒッキー。比企谷八幡」

 

 

「つーか、由比ヶ浜、俺のフルネームちゃんと知ってたのな。驚きだ」

 

 

「どう言う意味だ⁉︎」

 

 

「由比ヶ浜さん、うるさいわよ。それにしても、同じクラスの人に顔も覚えられてないなんて、流石は比企谷くんね」

 

 

 

雪ノ下さんが感心したような侮蔑の言葉を比企谷君に投げかける、自分が見下す相手には一々毒舌を吐かないと気が済まない性質なのだろうか。

 

そんな私達を見て、川崎さんはふっと何処どこか諦めたように笑った。

 

 

「そっか、ばれちゃったか。……何か飲む?」

 

 

「私はペリエを」

 

 

「あ、あたしも同じのをっ!?」

 

 

「富良野は?」

 

 

「……なら、私も同じので良いよ」

 

 

「比企谷だっけ?あんたは?」

 

 

「俺はMAXコー」

 

 

「彼には辛口のジンジャエールを」

 

 

 

 

比企谷君の注文を雪ノ下さんが容赦無く遮さえぎった。

 

川崎さんは注文を受けると慣れた手つきで、4人分のグラスにそれぞれの飲み物を注ぎ、そっとコースターの上に置く。

 

にしても、飲み物代の出費も増えたな… これは追い出された時は本当に公園生活を検討しないといけないかもしれない…

 

私は増える出費に内心泣きたくなったが、何とか顔に出さないようにする。

 

 

 

 

 

「それで、何しに来たのさ?」

 

 

 

 

 

 

そんな私の内心とは裏腹に川崎さんは、雪ノ下さんと異なる冷たい視線で、私たちを見る。

 

大方、自分がこんな時間に働いている事を咎めにでも来たとでも思ってるのだろう。

 

まあ、それ以外でここに来るなんて考えられないからそうなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

「何、大した理由じゃない。最近帰るのが遅いことを心配したお前の弟に、相談を受けた。そして、此処ここで働いているんじゃないかと思って来た。それだけの話だ」

 

 

「そんな事言いにわざわざ言いに来たの?ごくろー様。あのさ、見ず知らずのあんたにそんな事言われたくらいで辞めると思ってんの?」

 

 

 

 

 

 

まあ、私の予想通りの返答だ。

 

身内である大志君の説得にも応じなかったのだ、赤の他人である私たちの説得なんて聞く耳を持つはずがない。

 

私はグラスに注がれたペリエを一口飲み、そう内心で呟いた。

 

 

 

 

「大志に何言われたか知らないし、どう言う繋がりかも知らないけど、あたしから言っとくから気にしないで良いよ。……だから、もう大志と関わんないでね」

 

 

 

 

 

そう言って、川崎さんは目に強い拒絶の意志をはっきりと灯して、私たち4人を睨む。

 

 

 

「止める理由ならあるわ」

 

 

雪ノ下さんが川崎さんから左手の腕時計へと視線を動かして時間を確認する。

 

 

「十時四十分……。シンデレラならあと一時間ちょっと猶予があったけれど、貴女あなたの魔法は此処ここで解けたみたいね」

 

 

「魔法が解けたなら、あとはハッピーエンドが待ってるだけなんじゃないの?」

 

 

「それはどうかしら、人魚姫さん。貴女に待ち構えているのはバッドエンドだと思うけれど」

 

 

 

バーの雰囲気に合わせた、何ともお洒落な掛け合いを二人は始める。

 

てか、雪ノ下さん… そんなまどろっこしい言い方しなくて良いからさっさと趣旨を伝えればいいのに。

 

 

 

 

 

「……ねぇヒッキー。あの二人何言ってんの?」

 

 

 

場の状況が理解できてない由比ヶ浜さんが説明を求めるために、比企谷君の肩を叩く。

 

由比ヶ浜さんは理解していないようだが、私には雪ノ下の言わんとする事が分かる。

 

十八歳未満の人が夜十時以降働くのは労働基準法で禁止されている。この時間まで働いていると言うことは、どう考えても川崎さんは年齢詐称と言う『魔法』を用いている訳だ。そして、それは雪ノ下さんの手によって解かれてしまった、大体こんな所だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「辞める気は無いの?」

 

 

 

「ん?無いよ。……まぁ、此処は辞めるにしてもまた他の所で働けば良いし」

 

 

 

 

しれっと答える川崎さんの態度にイラッときたのか、雪ノ下さんはペリエを軽く煽る。ピリついた険悪な空気の中、由比ヶ浜さんが恐々と口を開いた。

 

 

 

 

「あ、あのさ……川崎さん、何で此処でバイトしてんの?あ、やー、あたしもほら、お金無い時はバイトするけど、年を誤魔化してまで夜働かないし……」

 

 

「別に……。お金が必要なだけだけど」

 

 

「や、それは分かるんだけど……」

 

 

「分かる筈ないじゃん……。雪ノ下も由比ヶ浜にも、あと……比企谷だっけ?あんたにも分からないよ。別に遊ぶ金欲しさに働いてる訳じゃない。そこらのバカと一緒にしないで」

 

 

 

 

私達を睨み付ける川崎さんの目には力がある。邪魔する者を排除するような、そう力強く吠えている獣のような目だ。

 

どうやら、カフェの相談の時に言っていた、川崎さんの家はどうしてもお金が必要な理由があるのだろう。

 

 

 

「やー、でもさ、話してみないと分からない事ってあるじゃない?もしかしたら、何か力になれる事もあるかも知れないし……。話すだけで楽になること、も……」

 

 

 

 

 

由比ヶ浜さんの声は途中から途切れ途切れになる。

 

川崎さんの眼力にビビったのか、周りの険悪な雰囲気に気後れしているのか由比ヶ浜さんの声はだんだんと小さくなっていった。

 

そんな由比ヶ浜さんに私はため息を吐きたくなる。

 

そのような、『自分はいかにも心配している』かのような発言はこの場合では悪手だ、中途半端に分かった気になって相談に乗ると言われたところで、相手の反感を買うのは明らかだ。

 

おまけに具体的な解決策も無しに言った結果、打つ手無しと言うことになれば無責任にもほどがあるということになり、川崎さんの神経を逆撫でするようなものだ。

 

まあ、思慮の浅い由比ヶ浜さんのことだから、とりあえず力になろうと思っただけで、具体的なことはなにも考えていないのだろうけどね。

 

そんな由比ヶ浜さんを鼻で笑い、川崎さんが冷えきった視線で由比ヶ浜さんの言葉に噛み付くように言った。

 

 

 

 

 

「言ったところであんた達には絶対分かんないよ。力になる?楽になるかも?そう、それじゃ、あんた、私の為ためにお金用意出来るんだ。うちの親が用意出来ないものをあんた達が肩代わりしてくれるんだ?」

 

 

 

「そ、それは」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に困ったように顔を俯うつむかせる由比ヶ浜さん。

 

どうやら反論する言葉が見つからないようだ。

 

 

 

 

 

 

「その辺りでやめなさい。これ以上吠えるなら……」

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下さんが凍えるような声で言った。本人は制止のつもりだろうが、途中で言葉を止めたせいで、脅しているようにも感じられる、正直に言って近寄りたくない。

 

川崎さんも一瞬たじろいだが、小さく舌打ちをして、雪ノ下さんに向き直り、さらなる火種を生み出した。

 

 

 

 

「雪ノ下だっけ? アンタんとこって金持ちなんでしょう? だったら私の学費を出してよ、だったらバイトを辞めてもいいわ。確か県議会議員よね? 県民が困っているんだから自分の資産をあたしに使ってほしいね。」

 

 

 

 

 

 

 

こんな事を言ったところで、雪ノ下さんにとっては、僻みにしか聞こえないだろう。

 

川崎さんもそれは分かっているのだろうが、言わずにはいられなかったのだ。

 

静かに囁くような口調で川崎さんがその言葉を口にした時、雪ノ下さん返ってきた反応は私の予想を大きく覆すものだった。

 

カシャンとグラスが倒れる音がする。

 

見ると、横倒しになったシャンパングラスからじわりとペリエが広がっており、雪ノ下さんは唇を噛み締め、カウンターに視線を落としていた。

 

 

 

 

「……雪ノ下?」

 

 

「………え?あ、ああ、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

あまりの反応に思わず比企谷君が声を掛けると雪ノ下さんはいつも通りの表情でテーブルをお絞りで拭く。

 

だが、態度からしてやはりどこか様子が変だ。

 

 

 

 

 

どうやら、雪ノ下さんに家族の話はタブーらしい、彼女の家には彼女の家なりの事情があるのだろう。

 

 

 

 

 

私がそう思っていると、カウンターがダンッと叩かれる。

 

 

 

「ちょっと!ゆきのんの家の事なんて今、関係無いじゃん!」

 

 

 

 

そこには、普段の彼女からは想像がつかない、強い語気で川崎さんを睨む由比ヶ浜さんの姿があった。

 

彼女からしてみれば親友を悪く言われたように感じたんだろうから、ここまで強く言うのだろうけど、私は彼女に軽蔑の感情をさらに抱く。

 

 

由比ヶ浜さんの言った事は間違ってはいない。

 

この場において雪ノ下さんの家の事なんざ関係ないことだ、そこだけ見れば、由比ヶ浜さんは雪ノ下さんの事を気遣って川崎さんに対して怒るという、至極当然なことをしてるにすぎない。

 

 

川崎さんだって売り言葉に買い言葉で雪ノ下さんにきついことを言ったかもしれないしね。

 

けれど、川崎さんだって今の話に関係ない事を言った事の自覚ぐらいあるだろう。

 

 

ならば、『どうして川崎さんは雪ノ下さんにそこまで言ってしまったのだろうか?』

 

 

答えは簡単だ。

 

 

由比ヶ浜さんが知ったような口をきいて川崎さんの神経を逆撫でしたからだ。

 

 

それで川崎さんも頭に血が登ってしまい、つい余計な事まで言ってしまったのだろう。

 

 

 

もちろん、さっきの会話の流れから雪ノ下さんも川崎さんに対して刺々しい言い方をしたかもしれないが、それは雪ノ下さんと川崎さんの間でのやりとりであって、由比ヶ浜さんはそれに関与していない。

 

にもかかわらず、感情の赴くままに川崎さんに対して怒りをぶつける、彼女らしいけど相手や周りのことを本当に何も考えてない行動だ。

 

私にしてみれば救いようがない。

 

にしても、以前の三浦さんとかには強く出れなかったくせに、自分より立場が下と見てる川崎さんが相手だとこう強く出れるものなんだね、相手が自分より立場が上の人間だったら言えなかったでしょうに…

 

まあ、流石は強者の腰巾着と言うべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なら、私の家の事も関係無いでしょ」

 

 

私がそう由比ヶ浜さんに呆れと軽蔑の感情を抱いていると、川崎さんのふて腐れたような声が聞こえた。

 

由比ヶ浜さんの責めるような言い分に川崎さんはそう吐き捨てる。

 

確かに彼女の言ってることはごもっともだ。

 

ぶっちゃけ、私達は川崎さんとは何の関係も無い、彼女が間違った行いをしていても、それを咎とがめるのは教師や両親であり、裁くのは法だ。私たちではない。

 

川崎さんの言う通り、私たちには川崎さんをどうこうできる権利も理由もないのだ。

 

 

 

「そうかも知れないけどそう言う事じゃなくて!ゆきのんに」

 

 

「由比ヶ浜さん。落ち着きなさい。只ただグラスを倒しただけよ。別に何でもないわ。気にしないで」

 

 

 

 

 

 

カウンターから身を乗り出しかけていた由比ヶ浜さんの身体を雪ノ下さんが優しく制止する。その声は先程よりも落ち着き払っていて、その分とても冷たかった。

 

雪ノ下さんの反応から、触れられたくない事を川崎さんは言ったのだと思う。

 

しかし、それでも川崎さんは雪ノ下さんを強く睨んでいた。

 

 

彼女からしてみれば、雪ノ下さんは恵まれた人間である、だから、そんな恵まれた人間にそうでない者の気持ちなど理解できるはずがない、ましてや、そんな人間からの説教など聞きたくもない、とでも思っているのだろう。

 

まあ、恵まれる人間云々に関わらず雪ノ下さんは自分中心の志向が強い人みたいだから、川崎さんでなくても他人の気持ちなんて理解できそうにないだろうけどね。

 

 

 

 

 

「……で、富良野、ずっと黙ってるけど、あんたはどうすんの?」

 

 

 

川崎さんは最初に注文をしただけで、後はずっと黙っている私の方を見る。

 

川崎さんにもこの依頼にも関わりたくない私は成り行きを見ながらグラスを傾け、チビチビと注文したペリエを飲んでいるだけだった。

 

 

「この中でアンタには話が通じそうだからね。 もう分かったでしょ?あたしは働くの、辞める気無いから。アンタらが何を言ったって無駄だよ」

 

 

 

 

『アンタなら分かるでしょう?』と私に川崎さんは強くて毅然とした態度で言い、思わす私は目をパチパチと瞬かせる。

 

雪ノ下さんや比企谷君、由比ヶ浜さんも私の方を見る。

 

中でも由比ヶ浜さんは期待するような眼差しを私に向けてきた。

 

何を期待しているかは大体想像つくけど、私からの返答はこうだ。

 

 

『……何を勘違いしているの? 貴方達』だ。

 

 

 

 

私はチラリと彼の顔を見ると、川崎さんに言う。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね」と

 

 

 

 

 

 

「川崎さんが何を勘違いしているかは分からないけど、私は別に川崎さんをバイトを辞めさせようとは思ってないよ?」

 

 

予想外の一言に、川崎さんだけでなく、雪ノ下さんと由比ヶ浜さん、比企谷君までも唖然とした表情になる。

 

私はそれを気にせずに言葉を続ける。

 

 

「最初に比企谷君が言ったでしょう? 川崎さんが此処で働いているかも知れないから確認のために来ただけだと、バイトを辞めるかどうかは家族内での問題だからね、私たちにどうこう言う権利はないし」

 

 

 

「ち、ちょっと! 待ってよ、ふらのん! それって……!」

 

 

「貴女、川崎さんの弟さんからの依頼を無視するの……?」

 

 

由比ヶ浜さんと雪ノ下さんが信じられないと言いたげに私を見るが、私は冷静な口調で言い返す。

 

 

「無視なんてしてないよ、あの相談は川崎さんが本当にこのバーで働いてるか確かめようと言うことに落ち着いたでしょう、川崎さんがバイトを辞めるかどうかは別物じゃないの?」

 

 

「た、大志君から相談されたのに……!」

 

 

「あの場に最初からいた雪ノ下さんたちはともかく、私は相談『されただけ』だよ、私はせいぜい川崎さんが働いている店を特定して、大志君に教えて、川崎さんがバイトを辞めるかどうかの検討は川崎さんの家族に委ねようと考えてたよ、その方が赤の他人の私たちからいきなり『辞めろ』と言われるより説得力があるし、川崎さんも納得できるでしょう? そもそも、川崎さんにバイトを辞めさせようってのは、雪ノ下さんたちが言い出した事だしね」

 

 

私はそう言うと、ペリエを飲み干して席を立つ。

 

こう言えばここには用はない。

 

 

 

「どんな理由で夜遅くにバイトしてるかは知らないけど、頑張ってね」

 

 

 

 

私はそう言うと川崎さんに背を向けて歩き出す、この依頼はこれで完了だ。

 

 

 

 

 

「あ、ち、ちょっと待ちなさい!」

 

 

「ふ、ふらの〜ん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから声が聞こえるけど、お会計を済ましてさっさとバーを出た。

 

 

 

 

ー富良野英理華 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー雪ノ下雪乃 sideー

 

 

「あれはどう言うつもり…⁉︎」

 

 

ホテルから出て帰ろうとした富良野さんを私は肩を掴んで呼び止める。

 

 

「あれは、一体何のつもり…?」

 

 

「あれって…?」

 

 

彼女は私の問いかけの意味が分からないと言うように首をかしげる。

 

 

「川崎さんの事だよ!ふらのん! 何であんな事言ったの!?川崎さん可哀想じゃん!!」

 

 

由比ヶ浜さんが甲高い声で富良野さんに言う、それでも彼女は首をかしげるだけだった。

 

 

「私たちの目的は川崎さんにバイトを辞めさせることのはずよ、バイトを辞めさせるつもりがないってどう言うことよ…!」

 

 

私は富良野さんを睨みつけてそう言うと、富良野さんは片眉を上げて困ったように微笑みを浮かべて私たちに言う。

 

だが、次の瞬間、彼女から予想だにしない発言が飛び出した。

 

 

「あれしか川崎さんも大志君も納得できる解決は出来ないでしょう?」

 

 

 

「「「はぁ…?」」」

 

 

 

彼女からの発言から私も由比ヶ浜さんも腐り目の男も疑問符を浮かべた声を出す。

 

富良野さんはそんな私たちを苦笑すると説明を始めた。

 

 

 

「さっきも言ったけど、川崎さんは自分が深夜に働いてるんじゃないかと勘付いてる弟の大志君の言葉にも耳を傾けなかったんだよ? 川崎さんとほぼ接点がゼロの赤の他人の私たちがいきなりやってきて『バイトを辞めろ』と言われて『辞めます』なんて素直に川崎さんが言ったと思う? 私たちが奉仕部の魚の取り方を教えるという理念を元にして出来ることは、川崎さんが働いている場所はこのホテルのバーだったことを川崎さんの弟の大志君に教える事くらいだよ、後は彼女の家族が解決する問題だよ、親とかに言われたら流石の川崎さんも辞めざるを得ないでしょう?」

 

 

「そ、それはそうだけど、あんな言い方って…」

 

 

「なら、川崎さんを他に納得させる解決策はあった? 私はあれが最善だと思ったんだけど…」

 

 

困ったような笑顔から不安そうになって私に富良野さんは視線を向ける。

 

 

「………」

 

 

私は答えられなかった、私の言うことは間違ってはないのに、川崎さんは私の助言を聞こうとする様子はなかった。

 

確かに彼女の言う通り、あの川崎さんを説得させるには赤の他人の私たちではなく彼女の親御さんが適任であろう。

 

彼女の解決策の方が効率的で川崎さん自身も納得できると言わざるを得ない。

 

 

思わず唇を噛み締めて俯くと、富良野さんから声がかかった。

 

 

 

 

 

「まあ、私に出来るのはここまでだよ。 優秀な雪ノ下さん達ならもっと良い解決策を考えついたかもしれないけどね、明日、私は大志君にこの事を報告するね、ここから先は川崎さんの家の問題だし」

 

 

 

そう彼女はニッコリと笑って私たちに言った。

 

私は彼女に反論したかったが、反論する根拠が見つからないため、黙るしかない。

 

彼女の言ってることは理にかなっている、私たちより川崎さんの親御さんが説得は適任だと言うのも正しい。

 

彼女の言う通り、この依頼で私たちが出来るのはここまでだろう…

 

 

納得は出来なかったが、せざるを得ない。

 

 

 

 

大きな石が背中に乗っかったような錯覚を覚えながら、私は『今日は帰りましょう… 川崎さんの弟には明日、報告ね…』と言って重い足を引きずるようにして解散した。

 

ー雪ノ下雪乃 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー富良野英理華 sideー

 

「……さて、本番はこれからだ…」

 

 

私は雪ノ下さん達が帰ったのを見届けると、ホテルの最上階を見上げた。

 

この依頼はここからが勝負だ、私の平穏のために彼女にはバイトを辞めてもらわなくてはならない。

 

奉仕部の3人にはああ言ったけど、私の解決方法は奉仕部の3人の前では、今後のためにも使いたくなかったのだ。

 

私の本性がバレてしまうし、何より彼がいるからね…

 

 

 

 

 

 

さて、邪魔者が帰ったことだし、考えの甘いヒロインに駄目押しに行きますか…

 

私は営業スマイルを引っ込めてニヤリと笑い、来た道を戻りホテルのエントランスをくぐった。

 

 

ー富良野英理華 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー川崎沙希 sideー

 

 

「…………」

 

 

奉仕部の4人が帰り、私は普段通りの業務に戻っていたが、その中の1人『富良野』の言葉が頭から離れない。

 

私は雪ノ下たちの口ぶりから大志から相談されてバイトを辞めさせるためにここに来たのだと思っていた。

 

私の推測通り、雪ノ下と由比ヶ浜は私にバイトを辞めさせようとしていた、比企谷とかいう腐り目の男はほとんど何も言わなかったが、おそらく同類だろう。

 

でも、富良野だけは『私をバイトから辞めさせるつもりはない』と言っていた。

 

私のバイト先がこのバーである事を大志に教えて、後は私の家族に任せると言っていた。

 

 

 

 

……まあ、長く隠し通せるとは思ってなかったし、ここらが潮時だとは思ってたけどね。

 

どっちみちアイツらは明日にはこのバイトのことを大志にバラすだろう、そうしたら私はこのバイトを辞めざるを得ないけど、それならまた別のバイトを探せば良いだけのことだ。

 

アイツらに私の事なんてわかるわけが…『川崎さん』………っ⁉︎

 

 

 

その時、私に声がかかった。

 

見るとそこには考え事の渦中にいた富良野が立っていた。

 

 

 

「何だアンタ…! 帰ったはずじゃあ…!」

 

 

「ゴメン、ちょっとここに忘れ物をしてね、取りに戻ったんだよ… あ、あった、あった…!」

 

 

私の問いかけに富良野は眉を下げて笑い、椅子の下にあったボールペンを拾いあげた。

 

……何だ、本当に忘れ物をしただけだったのか…紛らわしい…

 

 

 

 

「何? 用が済んだならさっさと帰ってよ…!」

 

 

「もちろん、すぐに帰るよ、仕事頑張ってね」

 

 

富良野はそう言うと私にニッコリと笑って背を向けた、でも、次の彼女の一言に凍りつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仮に学校にこの事が知られて、処分を受けたとしてもね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ…⁉︎」

 

 

ニッコリと笑顔で呟かれたその言葉に、私はは動揺した。

 

 

 

 

「そ、それってどう言う事…⁉︎」

 

 

条件反射のように聞き返す、でも、富良野は笑顔を崩さないまま話を続けた。

 

「深夜に年齢を偽っての違法なバイト……学校にバレたら当然辞めさせられるし、両親も呼び出されるだろうね、処分は……良くて停学だね、この間の三浦さんのように…」

 

 

「………」

 

 

私は唖然として言葉が出ないが、富良野は更に言葉を続ける。

 

 

 

「まあ、どちらにせよ何にせよ内申には響くでしょうね、だとしたら、進路にも酷く影響するね、まあ、総武高校ほどの進学校なら学校の名誉にも傷をつけないために、そう言う問題のある生徒には退学もあり得そうだね…」

 

 

停学、内申、進路、退学。

 

富良野が放つ一言一言が、私の脳内に毒のように食い込んで侵食してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大志君も大変だろうね、姉が夜遅くにバイトをして、退学させられるなんて、それも朝帰りだと援交とか、淫らな仕事でもやってた、なんて根も葉も無い噂で苛いじめられたりしても可笑しくないよね…… 」

 

 

…大志が虐められる…⁉︎

 

私のせいで……⁉︎

 

 

 

 

 

「それに、この店側も、貴女が年齢詐称した事で訴えてくるかも知れない…… このバーはどう考えても未成年の高校生を雇うとは思えないしね。そうなったら、一体どれだけの迷惑が家族に掛かるのだろうね……?」

 

 

「………やめて…!」

 

 

 

語られる内容に私は戦慄する、顔は青ざめ、嫌な汗が背中から気持ち悪く出ており止まらない。

 

呼吸は乱れ、心臓は痛いくらい早鐘を打っている、手足は小刻みに震えていて、吐きそうな気分だ。

 

そんな私の沈みきった心象とは、逆に富良野は気味が悪いくらいの笑顔で終始話している。

 

富良野はさらに言葉を続けた。

 

 

 

 

「でも、良いんだよね? 川崎さんは遊ぶ金欲しさに働く、そこらのバカとは違うんだったよね、だったら、こんな事わざわざ言うまでもなかったよね、ごめんね」

 

 

 

「………違う……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違法に働く事のリスクなんて、当然理解してるんでしょう? だったら、それが露見した時の対応だってしっかりとしてあるんはずだよね、こうして私たちにバイトのことが知られても平然と『バイトを続ける』と言えるんだからね」

 

 

「そんなこと……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だってさ、リスクも理解しないでこんな所で働いているような、考えの甘さなら……」

 

 

 

 

 

その時、富良野の声から感情が消え、顔に浮かべていた笑顔がフッと消えた。

 

 

 

 

「『あんたには関係ないこと』なんて無責任な台詞は言えない筈だからね」

 

 

「………っ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は一瞬息が止まった気がした。

 

 

当然、それは錯覚に過ぎなかったが、その時本当に意識を刈り取られたかのように感じた。頭の中はもうどうにかなりそうだった。

 

さっきまでの笑顔を消し、こちらを真っ直ぐ見つめる富良野の瞳には暗殺者が宿っている、闇のような真っ暗な瞳に潜んでいる、暗殺者は逃げる自分をこちらに飲み込もうとしているような錯覚に襲われた。

 

まともに思考する事もできない。

 

それでも、私はどうにか富良野に声を絞り出して問いかけた。

 

 

 

 

「……私が、このバイトを辞めないなら……富良野はこの事を学校側に報告するの……?」

 

 

 

富良野は『そんな事はしないよ』とニッコリとさっきの笑顔に戻って言った。

 

 

「そんな脅迫じみた事はしないよ、何度も言ってるでしょう? 別に私は川崎さんのバイトを辞めさせようとは思ってないって…」

 

そこまで言って一旦言葉を止め、富良野は「でもね」と言って私に向き直った。

 

 

 

 

「私が黙ってても、意味は無いかも知れないね、ここにいた奉仕部の3人も、川崎さんがここでアルバイトをしている事は知っているし、私と違ってあの人達は川崎さんのバイトを辞めさせようとここに来たみたいだったからね」

 

 

「……そんな…!」

 

 

 

 

 

確かにこのバイトを知られたのは富良野だけではない、雪ノ下と由比ヶ浜、比企谷までも居るのだ。

 

この中の誰か一人でも、この事をバラせば、私たち一家は終わりだ。

 

富良野の言った通りとまではいかないだろうが、それに近い悲劇が自分達家族を襲うだろう、全部私のせいで……!

 

恐怖と情けなさで感情は限界を迎えて泣きそうだ、私は震える手でカウンターに視線を落とす、

 

 

 

「私から言いたい事はそれだけ、じゃあね」

 

 

 

 

言いたい事は言ったと言わんばかりにバーを出て行こうとする富良野、だが、ピタリと何か思い出したかのように足を止める。

 

「家族のことを思いやるなら、今日にでも辞めた方が良いよ? お金のことが心配なのなら家族に相談すれば良いし、まあ、明日にはどっちみち雪ノ下さん達が大志君にこの事を話すみたいだからね」

 

 

そう言い残してバーを出た富良野、私は後を追って言い返そうとしたが、言い返す気力すら残っていなかった…

 

 

 

ー川崎沙希 side endー

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

ー比企谷八幡 sideー

 

〜翌日〜

 

 

 

 

川崎が働いていたバーに行った次の日の放課後、俺たち奉仕部は今回の依頼人の大志を呼び出して、昨日の事を報告するためにマックに来ていた。

 

平日の夕方だが、老若男女問わず人気のファーストフード店にはスーツ姿のサラリーマンや学校帰りの中学生など年齢問わず賑わっていた。

 

 

「あ、奉仕部の皆さん!」

 

 

待ち合わせの時間ちょうどに大志がやってきた、

 

俺たちのテーブルに向かってやってくる。

 

 

大志を見て雪ノ下が言いにくそうに昨日の事と、今後の解決策を大志に話そうとする。

 

 

「それで…その…言いにくいんだけど…『本当にありがとうございます!』……え?」

 

 

「皆さんのお陰で姉ちゃんは夜のバイトを辞めてくれました! ありがとうございます!」

 

 

「「「………え?」」」

 

 

いきなり満面の笑みでお礼を言われた俺は思わず面食らう、雪ノ下も由比ヶ浜も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 

キョトンとしている俺たちをよそに大志は嬉しそうに奉仕部への感謝の気持ちを述べる。

 

 

「バイトを辞めるって言ったんすよ! 姉ちゃん、今日の朝に帰ってきてから俺や両親に今までの事を全て打ち明けてくれたんす! 店側には後日、バイトを辞める事を伝えに行くって!」

 

 

「……本当にそう言ったのか…?」

 

 

俺は思わず大志に聞き返す、流石に急展開すぎる。

 

昨日の川崎の様子からバイトを辞めない意志はとても強かったのに、それが今日になって急に『バイトを辞める』だなんて言い出すなんて…

 

俺の問いかけに大志は『もちろんっすよ!』と喜色満面で言った。

 

 

「そ、それで川崎さんはどうなったのかなぁ…?バイトがバレたのならお父さんたちに怒られたんじゃあ…」

 

 

恐る恐る由比ヶ浜が問いかける、 バイトのことがばれたのなら川崎はどうなったのだろう。

 

「その逆っすよ…ウチの両親は自分たちの不甲斐なさのせいで姉ちゃんを夜に働かせた事を悔やんでました… なんでも姉ちゃんが働いていたのは自分の予備校の学費のためだったそうで… 俺が受験で塾に行き始めたから金に余裕がなくなって…」

 

大志は苦虫を噛み潰したような顔をする、川崎の両親からしてみれば自分たちの不甲斐なさ故に娘を夜に働かせてしまったと思ったのだろう。

 

「でも、大丈夫っす! ウチの親が姉ちゃんの学費を稼ぐために貯金を切り崩して予備校に通わせるそうっすから、もう姉ちゃんもバイトはしないって言ってましたし!」

 

 

大志はそう言って俺たちに『本当にありがとうございました!』と再度お礼を言った。

 

 

 

これで依頼達成なのだが、どうも釈然としない…

 

 

 

何か都合が良すぎる展開だ…

 

 

バイトを辞めないとあれほど意固地になって言っていた川崎が今朝になって急に全てを話してバイトを辞めるだなんて…

 

 

 

……これは、一体どういうことなんだ…?

 

 

 

俺はどうも釈然としないまま依頼が解決したのを見届けた。

 

そんな俺の近くで顔を俯かせて肩を震わせている『アイツ』がいるのに気づかずに……

 

 

ー比企谷八幡 side endー

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー富良野英理華 sideー

 

 

~富良野家 納戸~

 

 

「フッ…! アッハハハハハハハ……!」

 

 

自宅に戻り、私は自宅の自室になっている納戸で大きな声を出して笑う。

 

信頼は塾でいないし、義父母は夜遅くまで仕事をしているため家には今私だけ、今なら私が何をしようが義父母にも信頼にも気づかれない。

 

ここまで予想通りにことが運んだとは、あんな依頼の解決に流された、奉仕部の人たちの思慮の浅はかさと大志君のマヌケぶりに笑えてくる。

 

今回のことで比企谷君への恐怖心も薄まった、私の恐れるほどの人ならこの不自然さに違和感を感じるはずなのに彼は何も言わなかったからね。

 

私の予想通りに川崎さんは動いてくれた、私のような人でない限りは家族の話を持ち出されたら辞めざるを得ないからね。

 

それに学校側への報告するような匂わせも効果覿面だったようだ。

 

 

にしても、川崎さんもあの場では冷静に考えることができなかったみたいだね、私たちが学校側に川崎さんのバイトのことを報告するはずないのに。

 

なぜなら、川崎さんのバイトのことを学校側に報告すれば、私たちもそのバーにその時間に行ってたことになり、学校側から処分が下されるからだ。

 

 

故に、川崎さんは脅える心配は何もなかったってこと、私たちから昨日のことを聞いて大志君から問い詰められても惚ければ済んだ話だし、最悪バレたとしてもそれは親御さんにだけで、店側にも学校側にもその時点ではバレる事はなかった。

 

 

まあ、その事に自分の信念に愚直な雪ノ下さんや馬鹿な由比ヶ浜さんは気づいてなさそうだったから、バーで『自分たちでは川崎さんのバイトを辞めさせる事はできない、親御さんに任せるのが良い』と言って学校側への報告を遠回しに辞めさせたのだ。

 

でも、それだけではまだ不完全だった。

 

大志君に報告しても川崎さんがバーのバイトを辞めなければ、痺れを切らした雪ノ下さんたちの誰かが外部にこの事を漏らす可能性があったからだ。

 

だから私は昨日、雪ノ下さんたちを帰らせて川崎さんのバーに戻ってあんな脅すような事を言ったのだ。

 

ああ言ったら、冷静に考えることが出来なかった川崎さんは急いでバイトを辞めるはずだからね。

 

店側としては驚いたかもしれないけど、川崎さんは半ば強引にその店を辞めたみたいだし。

 

まあ、強引に辞めてもそれで良かった、こうすれば雪ノ下さんたちが学校側に報告する意味はもうなくなるし、私たちが停学になるような事をしていたのも同時に隠蔽されるのだから。

 

川崎さんもバイトでのことは自分の家族のためにも言わないだろうしね。

 

川崎さんがその後もバイトをしたいのならそれで良い、深夜に働こうがどうでもいい、私は今度はそれに関わらなければ川崎さんが破滅しようがどうでも良いのだから。

 

今回のことを乗り切れば彼女に関わらなければ、私の平穏は守れる、私はそれで良いのだ。

 

自分以外の人がどうなろうと私には関係ない、自分さえ何ともなければそれ以外のことなんて知ったことか。

 

 

 

 

 

てか、私が言えることじゃないけど、川崎さんとしてもこれで良かったんじゃないの?

 

学校側に報告されることもなくなったし、予備校の学費は親が貯金を切り崩したり、もう一つ仕事をする事で工面できたんでしょう?

 

それに、私がした事がバレたら奉仕部の3人や大志君から袋叩きにあうかもしれないけど、私としてはこの解決策が1番良かったと胸を張って言える。

 

川崎さんは私に脅されてバイトを辞めざるを得なかったけど、雪ノ下さんたちとして川崎さんにバイトを辞めさせたかったのだから不満を持つ理由はないし、大志君としても姉がバイトを辞めてくれて嬉しがっていた、寧ろ喜ぶべき結末なんじゃないの?

 

まあ、雪ノ下さんが聞いたら『奉仕部の部長として、人の弱みに付け込むようやかたちで辞めさせるなんて認められないわ』とか言いそうだけど、雪ノ下さんたちはあそこで奉仕部として何か行動を起こしてたのだろうか。

 

そもそもこの依頼は辞めさせるだけでは大志君の依頼は解決しても川崎さんのバイトの始めた目的は解決しない。

 

大志君の話を聞かなくても川崎さんはこう言っていた『どうしてもお金が必要だと』ね。

 

雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも大志君も川崎さんが夜にバイトを始めた事にしか焦点を当てておらず、肝心な問題点であるバイトを始めたきっかけに目を向けてない。

 

川崎さんがバイトを夜遅くにバーで始めたのはあくまでも副次的なものだ、本質的には川崎さんはお金が必要だったから働いていたのだ。

 

 

大志君曰く川崎さんは自分の塾や予備校の学費のために働いていたらしいけど、進学校に通う人たちが目指す難関大に進学するための塾や予備校のお金はそう安くない、だから自分の学費のために給料の良い夜のバイトを川崎さんは選んだのだろう。

 

でも、あの場で雪ノ下さんが川崎さんに強引にバイトを辞めさせても川崎さんの問題は何一つ解決しないし、その後は川崎さんはどうやって金を稼げば良かったの?

 

結局、雪ノ下さんや由比ヶ浜さんのやり方では何一つ解決しないし、黙っていた比企谷君は何を思ってたかは分からないけど、彼も似たようなものだ。

 

それに、雪ノ下さんにずっと言いたかったんだけど、奉仕部の理念は『飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える』なんでしょう?

 

そうだったら、川崎さんのお金の稼ぎ方が間違ってるというなら、雪ノ下さんが問題であるちゃんとしたお金の稼ぎ方、予備校の学費の工面の仕方などを川崎さんに教えるべきだったんじゃないの?

 

これが魚の取り方を教えるような解決策だし。

 

 

でも、雪ノ下さんは『バイトを辞めろと』頭ごなしに説得するだけ、だから話は平行線で何も解決できなかった。

 

つまり、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんのやり方では飢えた人間に魚を捕ることを禁止したようなものだ、これのどこが解決なのだろうか?

 

 

バーから出た時、奉仕部の人たちは不満そうだったけど、私のおかげで貴方たちも深夜にバーに来ていたという事が露見するのを免れたんだよ?

 

感謝しろとは言わないけど恨まれる筋合いはないと思んだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに、川崎さんのバイトの理由にも私は失望した。

 

大志君は川崎さんのバイトの理由は予備校のための学費の言っていたそうだけど『そんな事のためにだったの⁉︎』と言いたかった。

 

 

私は深夜にバイトをするくらいだから、もっと大きな事情があると思っていたのに予備校の学費が欲しかったからという事に愕然とした。

 

塾や予備校の学費のために深夜にアルバイトをしていた? ならば、私はどうなるんだ。

 

私は生まれてこのかた塾にも予備校にも通わせてもらった事はない、信頼と違って私はあの家族からしてみれば腫れ物のようなものだからね。

 

高校受験の時にも周りの設備の良い塾に通っている人たちを抜いて定期テストや学力テストではトップを取っていた。

 

私は何も親からのテコ入れはされてない、問題集やテキストも買い与えられてないから、盗んだへそくりや信頼の使わないテキストやノートを駆使してそこまでなったのだ。

 

私は自力で成り上がった、その私からしてみれば川崎さんはただの甘ったれだ。

 

川崎さんは甘えてるのだ、『塾や予備校に行かないと成績が伸びない』というのは私からしてみればただの言い訳にすぎない。

 

総武高校は進学校だから塾や予備校に2年生の頃から言ってる人は大勢いるだろうけど、その人たちを乗り越えて私はトップクラスに食い込んでるのだ。

 

川崎さんは私と違って家族というスポンサーがあるのにもかかわらず、そんな事をしていたのだ。

 

深夜にバイトをしてまで予備校に行くくらいなら親というスポンサーに頼むか、夜はじっくり寝て昼間に勉強した方が効率的だ。

 

私の知っている限りだけど、学校での川崎さんはいつも眠そうだった。

 

授業でも眠そうだったしね。

 

夜に働いて昼間の授業を受ける時に寝てしまえば本末転倒だ。

 

彼女はそれさえにも気付かずに夜のバイトなんてリスキーな事をしていたのだ、考えが甘いにもほどがある、私からしてみれば贅沢な悩みだ。

 

 

 

 

私は自分のために平穏を脅かされたくない、川崎さんの甘えのために平穏を脅かされるなんて冗談じゃない。

 

まあ、川崎さんは最終的に両親がテコ入れのために貯金を切り崩して予備校に通わせてもらうことになったんだから、目的は達成できたという事だし、これで万々歳じゃないの?

 

 

奉仕部の3人は今回の依頼が突然解決したことに不満そうな顔をしていたけど、誰も傷つく事なく依頼が解決したのだ、これのどこに不満があるのだろう。

 

私はそう内心で呟くと心の中のものを吐き出すように笑った。

 

 

まるで、自分の抱えた不安や孤独、恐怖心を全て吐き出すように…

 

 

 




今回はここまでです。

いつも以上にめちゃくちゃで申し訳ありません…

感想やメッセージまでいただきありがとうございます。


ご指摘、感想がモチベーションに繋がるのでコメントをいただけたら嬉しいです。









話は変わって今後についてです。



遊戯部と柔道部とかのも入れた方が良いですかね?

2次創作では、この部分はカットされてる事が多いので…



まあ、女主人公主体ですので、アンチ描写が入りますけど…

時間軸もその場合は前後します。


よければ意見をお聞かせ下さい。
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