4人目の奉仕部員は平穏に過ごしたい…   作:レッドクロス

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続きです。


今回はアンチ要素はいつもより少ないです。


いつもの通り閲覧は自己責任でお願いします。



この小説は女主人公主体なので、今回は駆け足で話が進みます。





話の都合上で時間軸を少し変えています。



ほとんど独自解釈です。



今回は女主人公が視点です。


かなり強いヘイト要素を含みますので閲覧は自己責任でお願いします。


仮面の魔王に平穏を脅かされたくない。

ー奉仕部部室ー

 

「ふぅ…」

 

 

放課後、授業が終わり、私はいつものように奉仕部の部室で勉強をする、勉強が一段落ついたので少し休憩の意味合いを込めて息を吐く。

 

川崎さんのバイトの件が解決し、職場見学も終わり暫く学校行事はなく依頼人も来ないため、放課後は奉仕部で静かに勉強できている。

 

静かな環境のおかげで勉強が捗る。なにしろ、現在奉仕部には雪ノ下さんと比企谷君と私だけ、奉仕部が静かなのは常に騒がしい『彼女』がいないからだ。

 

 

 

彼女、由比ヶ浜さんは先日の職場見学から奉仕部に来ていない。

 

 

 

私は彼女がこの奉仕部の部員かどうかも怪しかったけど、あれだけ奉仕部に入り浸っていた由比ヶ浜さんが急に来なくなったのには、私も少し驚いた。

 

興味本位で比企谷君に『何か知らないか』と聞いてみると、原因は比企谷君が職場見学の時に入学式時の事故について言及したからだそうだ。

 

 

 

 

 

 

何でも1年前の入学式の時に比企谷君は車に轢かれそうになっていた犬を助けて、車に轢かれて怪我をしたらしい。

 

その時の犬の飼い主が実は由比ヶ浜さんで、その時のことを、比企谷君にクッキーと共に飼い犬を助けてもらったお礼を言いに来たのだそうだ。

 

でも、比企谷君は最近までそのことを知らず、知ったのはつい最近であり、彼の妹が助けた犬の飼い主が、お礼をしに来たと聞いたからだそうだ。

 

比企谷君はその時は会ってはいなかったそうだけど、彼の妹がその相手の名前を覚えていたため、由比ヶ浜さんと分かったそうだ。

 

由比ヶ浜さんのクッキーのことは、私が奉仕部に入部する前のことだから知らないけど、由比ヶ浜さんがその事故から『一年も経って』犬を助けてもらったお礼を比企谷君に言いに来たと聞いた時は驚いたな…

 

まあ、クラスでぼっちの比企谷君とクラスのリア充グループに属している貴女とでは天と地ほどのカーストの差があるからね。 比企谷君はその事故のせいで友達を作らなくて高校1年生の頃からぼっちだったんだろうから、由比ヶ浜さんもお礼に行って比企谷君と関わりがあると思われたくなかったんだろう。

 

まあ、今なら比企谷君は自分が入り浸っている奉仕部の部員であり自分に近い存在になったからね、由比ヶ浜さんもこれを機にお礼を言ったのだろう。

 

逆に言えば、比企谷君が奉仕部にいなければ、このままずっと彼に謝罪もお礼も言わなかったんだろうけどね。

 

…グループの風見鶏、強者の腰巾着である、いかにも彼女らしい言動だ。

 

 

 

 

まあ、由比ヶ浜さんは比企谷君と気まずくなっても教室では葉山君たちといつものように親しげに過ごしてたから、それほど気にしてないのかもしれないけどね…

 

同じグループの人たちから奉仕部に行くのを止められてるわけでもなさそうだから自分の意思で来ないという事だし。

 

 

 

 

 

比企谷君は『同情で接するのは辞めてくれ』と言い、由比ヶ浜さんは涙目で比企谷君を睨んでそのことに否定的だったそうだけど、それ以降は接してくることはないらしい。

 

 

多分由比ヶ浜さんが奉仕部に来ない理由は、奉仕部には気まずくなった相手の比企谷君がいるためパッタリと来なくなったということだろう。

 

まあ、孤独に慣れてない彼女からしてみれば、そんな相手がいる奉仕部に来るという選択肢はないだろうね。

 

 

 

……私としては、彼女がこのまま子ない方が平穏に過ごせそうなので、二度と来ないでほしいと内心では思ってたりするんだけど、雪ノ下さんと比企谷君はそう思ってないみたいだから彼女は近いうちに、またこの奉仕部にやってくるだろうな…

 

私は内心でため息を吐いて、再びテキストとルーズリーフを用いて勉強を始めた。

 

 

……そして、そんな私の予想は的中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「6月18日、この日が何か分かるかしら?」

 

 

「……さぁ…?」

 

 

由比ヶ浜さんが部室に来なくなって数日後、奉仕部で私と比企谷君は突然訳の分からない質問をされた。

 

いきなりそんなことを聞かれてもピンとこないんだけど…

 

 

「…知らなかったのね…由比ヶ浜さんの誕生日よ」

 

 

「へぇ、お前ら相手の誕生日を知るほど仲が良くなったのか?」

 

 

「いいえ、ただ彼女の携帯のアドレスに0618と入っていたから分かったのよ…」

 

 

「本人から聞いていないんですか…」

 

 

 

 

 

 

そんな不確かな情報なのね…その0618が彼女自身の誕生日かどうかの確証はないし…

 

それにしても誕生日ね…

 

年に一度、人間なら誰でもある記念日だけど、私には縁のないものだ。

 

むしろ、私は誕生日というものが嫌いだ。義父母か信頼の誕生日の時は毎年家から追い出されて野宿かネットカフェで夜を過ごさなければならないのだから。

 

あの家族からしたら腫れ物のような私は誕生日を祝ってもらったことなんてない、私にとって誕生日なんてただの年を重ねるだけの通過儀礼にしかすぎないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「つまり由比ヶ浜さんの誕生日を祝いたいのよ。だから貴方たちも協力しなさい」

 

「由比ヶ浜の誕生日を祝いたいだ?誕生日なら葉山のグループが祝ってくれるだろ。 俺たちがやる必要なくね?」

 

 

私がそう思っている間にも話し合いは進んでおり、雪ノ下さんはいつものように高圧的な態度で私たちに言い、それを比企谷君が捻くれた態度で返す。

 

 

 

「二人とも由比ヶ浜さんにはお世話になったことがあるはずでしょう? それならこれまでのお礼に彼女の誕生日くらい祝ってあげるべきだと思うのだけど」

 

 

「……お世話になった覚えはないんだがな…」

 

 

 

 

雪ノ下さんの道徳的に正しい発言を比企谷君が捻くれた態度でぼやいて返す。

 

……この2人の言葉の応酬はもはや見慣れた光景だけど、私としては今回ばかりは比企谷君に賛成したいな…

 

こう言ったら悪いけど、私は由比ヶ浜さんにお世話になった覚えはない。

 

奉仕部に入る前は彼女と会話したことすらもなかったしね。

 

奉仕部に入部してからもテニスコートの時は三浦さんの横暴を止めもせずオロオロしていただけだし、チェーンメールの依頼では調査をしていたかどうかも怪しいほどだったし、川崎さんの時に至っては無責任な事を言って、彼女を怒らせてより一層ややこしくしただけだったしね。

 

彼女にお世話になったことなんて一度もない、比企谷君はどう思っているか分からないけど、私が雪ノ下さんの発言を元に彼女の誕生日を祝う理由なんてどこにもない。

 

それに、誕生日というには『プレゼント』という名の貢ぎ物を買うために、また私は少ない所持金から金を出さないといけなさそうだから…それが最も嫌だ…

 

 

 

 

 

「それでは奉仕部で由比ヶ浜さんのお誕生日を祝ってあげましょう、彼女も喜ぶわ、貴女たちに拒否権はないわよ?比企谷くん、富良野さん」

 

 

 

 

私がそう思っていると、部員をコントロールするための魔法の言葉である『奉仕部として』が飛び出した。

 

これを言われたからには私も比企谷君も否が応でも由比ヶ浜さんのために動かなければならないだろうしね…

 

他人の誕生日を祝うなんて時間と金の無駄遣いだ、ましてや由比ヶ浜さんと私は友達ですらないし。

 

……それにしても、本当にこの部活の人たちは相手の都合を考えられる人はいないんだよね

 

否定的な比企谷君のことをスルーして雪ノ下さんが強引に誕生日会を実施することを決めてるしね。

 

テニスコートの時からずっと思ってたけど、雪ノ下さんは私たちのことを自分の言うことを何でも聞く駒とでも思っているのだろうか?

 

…まあ、こう思っていても仕方ない…

 

部長の決定に逆らうと平塚先生から何言われるか分からないし、私は平穏に過ごせなくなる。

 

何言っても私たちに拒否権がないのなら、この部活の支配者に平民は従いますか…

 

私は内心でため息をついて、雪ノ下さんに営業スマイルを浮かべながら、承諾と心にも思ってない賛同の意を含めた言葉を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に最悪……!」

 

 

由比ヶ浜さんの誕生日近くの休日、私はショッピングモールの入り口で、数少ないよそいき用の私服に身を包み、カリカリと爪を噛みながら憂鬱に一言呟く。

 

少し早く来すぎたからか、まだ雪ノ下さんたちは来ていない。

 

今日は義父母は仕事、信頼は塾に行っているため、あの家には私1人だった。

 

そのため、今日は宿題や授業の予習をしようと考えていたのだが、部長の理不尽な発言のせいで親しくもない人の『誕生日を祝う』とかのくだらない友情ごっこに付き合わされるのだ。

 

おまけに今日は由比ヶ浜さんのためにプレゼントを買わないといけないのだ…

 

雪ノ下さんや比企谷君は誕生日プレゼントくらいは買えるだろうけど、私は貴女たちと違ってお金に余裕がない。

 

ただでさえ、川崎さんの依頼の時のドレスの借り賃で赤字になり掛けてるのに、誕生日プレゼントまで買うとなると、追い出された時は私は本当に野宿をしないといけなくなりそうだ…

 

……本当に踏んだり蹴ったりだ……!

 

何で私がこんな目に合わないといけないのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が爪をカリカリ噛みながら奉仕部への不満と憤りを内心で呟いていると、比企谷君と雪ノ下さんもやってきた。

 

比企谷君はいつもと違ってラフな服装、雪ノ下さんは柔らかそうな生地のスカートに、いつもと髪型を変えて、ツインテールの髪型をしていた。

 

そんなこんなで集まったため、早速プレゼント選びが始まった。

 

 

 

「よう。それで、どういう店から回るつもりだ?目星はついてるのか?」

 

 

「……そうね、普段から使えてかつ長期間の使用に耐える耐久性を持ったもの、かしら」

 

 

「オーケー、よく分かった。それは目星とは言わない」

 

 

「そうかもしれないけれど、間違ってはいないとも思うのだけれど」

 

 

いや、そうだけどさ…そういうものじゃないでしょう…

 

日頃の行動も残念ならば、プレゼント選びすらも彼らは残念な会話をしている、まともなプレゼントをこれで買えるのだろうか…

 

てか、雪ノ下さんは自分が言った基準を満たしているものならなんでもいいと思っているのだろうか?

 

それこそ、彼女の好みではない服や掃除道具一式などを渡されて喜ぶと思っているのだろうか?

 

人と関わろうとしない私が言えることではないけど、雪ノ下さんのように難しく考えなくても、普通に考えてが由比ヶ浜さんが喜びそうな物でいいでしょう?

 

由比ヶ浜さんの思慮の浅そうな雰囲気に合うような物でさ…

 

まあ、高校生が買える誕生日プレゼントなんてたかが知れてるんだからそんなに悩む必要なんてないと思うんだけどね…

 

 

今までプレゼント買うなんて経験のなかった私には由比ヶ浜さんを喜ばせるプレゼントはどんなものがいいのかよく分からないけど、常識的に考えれば相手を不快にさせないプレゼントは買えるのだ。

 

目の前にいる2人はまだあーだこーだと無駄な会話をしているけど、私はその会話に入らずに成り行きを見ていてなるべく安価で由比ヶ浜さんの喜びそうなプレゼントを頭の中で模索した。

 

 

 

 

そうこうしている間に目的のエリアに到着する。

 

雪ノ下さんは手近な服屋に入ると、並んでいる品々を真剣に検分し始め、比企谷君も取り敢えず店内を適当にウロウロする事にしたらしい、私もそれに倣って安価なものを探す。

 

店員からの売りつけのための口説き文句や視線を受け流し、適当に時間を潰して雪ノ下さんの所へ戻れば、彼女は何やら手に取った服をグイグイと縦横に引っ張っていた。

 

 

 

「丈夫な物が良いなら俺のお薦すすめは防弾チョッキだな」

 

 

比企谷君がそう言うと雪ノ下さんは手に持っていた服を畳んで棚に戻した。

 

 

「……仕方が無いじゃない。私、由比ヶ浜さんが何が好きかとか、どんなものが趣味かとか……少しも知らなかったのね」

 

 

 

雪ノ下さんの表情は暗く、前もってリサーチをしていなかった事に対しての後悔の念が伝わってくる。

 

でも、そんなのは当たり前のことだ。

 

雪ノ下さんの性格上、彼女の方から由比ヶ浜さんについて知ろうとしなかったんだから、彼女のことを何も知らないのは当たり前。

 

そもそも由比ヶ浜さんだって自分の事を雪ノ下さんに何も言わなかったんでしょう?

 

誕生日を祝うだなんて言うくらいだから、雪ノ下さん自身は由比ヶ浜さんとの間に少しは信頼関係があると思っているのかもしれないけど、私からしてみれば貴女たちの中に信頼関係なんてあるようにみれない。

 

でも何の問題もない、寧ろ教えてもいないのに、自分の好みや趣味を知られてたら、相手からは気持ち悪いと受け取られる。

 

変な詮索をするより、自分の良いと思ったものをプレゼントする方が自然なのだ。

 

 

 

私がそう思っている間にも、雪ノ下さんは比企谷君とまた会話を始める。そして、会話の最中に何を思ったのか、こんな事を話し始めた。

 

 

 

「話した事もない男子から猫やパンさんのグッズをプレゼントされた事があるけれど全く嬉しくなかったわ……あの時は思わず鳥肌が……」

 

 

雪ノ下さんはそう言って顔を歪ませて両腕を両手で掴む仕草をした。

 

いかにもわざとらしい仕草に私は内心で呆れる。

 

……ここに来て自分はモテますと言う自慢? 雪の下さんは哀れそうに言ってるけど、そう言うのは常人の前では嫌味にしかならないよ。

 

まあ、だから彼女の周りには人が寄ってこないんだろうね、今までの依頼から彼女に友好的に話しかける人は殆どいなかったし。

 

 

だか、次の瞬間、彼女は言葉を止める。

 

 

 

「好きなのか。猫とパンさん」

 

「…………」

 

 

比企谷君に言われて雪ノ下さんは顔を赤くして黙り込む、どうやらさっきのは失言だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

その後もいろいろ見て回って、プレゼントを買うために一時別行動を取ることになった。

 

私はその辺の雑貨屋で適当に見繕った、なるべく安価で由比ヶ浜さんのような人が好みそうなウサギのプリントされたマグカップを購入した。

 

購入したマグカップをラッピングしてもらい、プレゼントとして渡せるような見栄えになったが、財布の中身が軽くなったことに私はため息をこぼす。

 

親しくもなければ、お世話にもなったことのない人のために、なけなしのお金で物を貢ぐなんて本当に最悪だ…! 何で私がこんな目に合わないといけないのだろうか…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ買い物が終わった以上、ここに長居は無用、雪ノ下さんたちと合流してさっさと帰ろう…

 

私はそう気持ちを切り替えて雪ノ下さんたちを探す、ペットショップのケージに行くと雪ノ下さんと比企谷君がいた。

 

「ごめんなさい、遅くなって…もう買うものはないよね?」

 

 

「……ああ、用事も済んだし帰ろうぜ」

 

 

「そうね」

 

 

私は適当に謝罪の言葉を述べて、2人に早く帰ろうと促す。

 

行きは雪ノ下さんの方向音痴を発揮したので、帰りは私が誘導することになった。

 

 

 

……はぁ…やっと帰れる……

 

今日の『誕生日プレゼント選び』という面倒くさいイベントがやっと終わることに、私が内心で息をついた。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれー?雪乃ちゃん?あ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」

 

 

無遠慮な声がその場に響いた。

 

 

思わず声の主を捜して周囲を見ると、一人の綺麗な女性がこちらへ向かって来た。

 

その女性は友達と遊びに来ていたのか、後方にいた男女数名に「ごめん、先行って」と両手で拝んで謝るような仕草を送る。

 

 

「姉さん……」

 

 

さっきまでの柔らかくなった表情とは打って変わってとした様子の雪ノ下さんの声に振り向くと、雪ノ下さんはその女性を睨むように視線を向けて肩を強張らせていた。

 

 

「……え? 姉さん?」

 

 

思わず疑問が口から出る。

 

私は目の前の女性と雪ノ下さんを見比べてみる、年齢は私たちより少し上、20歳くらいだろうか、服装は白を基調としたレースを縁ふち取った柔らかい印象の物、肌の露出が多いがそれでも不思議と上品に見えた。

 

雪ノ下さんが静かなの美しさだとすれば、彼女は動く美しさと言うべきだろうか、雪ノ下さんの姉だけあって、整った顔立ちで顔も似ている。

 

 

 

「こんな所でどうしたの? ……あ! デートか!デートだなっ!このこのっ!」

 

 

「…………」

 

 

雪ノ下さんの姉が『うりうり~』と肘で雪ノ下はんを揶揄い始めたが、雪ノ下さんは冷めきった表情で鬱陶しそうにしているだけだ。

 

 

 

「ねぇねぇ、あれ雪乃ちゃんの彼氏?」

 

 

「…………違うわ、同級生よ」

 

 

「まったまたぁ!別に照れなくても良いのにっ!」

 

 

「…………」

 

 

雪ノ下さんが鋭い視線で睨むが、雪ノ下さんの姉の方はニヤニヤと笑って受け流す、妹が嫌悪感を剥き出しにしてるのにも関わらず、それを少しも意に介してないようだ。

 

 

「雪乃ちゃんの姉、陽乃です。雪乃ちゃんと仲良くしてあげてね」

 

 

 

「はぁ…比企谷です…」

 

 

雪ノ下さんの姉に名乗られたので、比企谷君も名乗り返した、いつも通りのやる気なさそうな声で。

 

 

「比企谷……へぇ……」

 

 

雪ノ下さんこ姉は、一瞬だけ何かを考えるような仕草をとってから、比企谷君の爪先から頭のてっぺんまでざっと流し見た、さっきまで妹と話していた時とは雰囲気が違った。

 

 

「あの、俺の顔に何か付いてます?」

 

 

「ううん、何でもないよ。比企谷くんか、よろしくね♪」

 

 

雪ノ下さんの姉は比企谷君の問いかけにニコリと微笑んでいた、さっきまでの雰囲気は元に戻っていた。

 

 

「で、彼氏くん。雪乃ちゃんとはいつから付き合ってるの?」

 

 

「いや、彼氏じゃないですけど。何なら友達でもありません」

 

 

「またまた照れちゃってー。お姉さんにコッソリ教えてよ〜」

 

 

雪ノ下さんの姉はピッタリと身体を比企谷君にくっつけて左頰を指でグリグリ突っついている。

 

比企谷君の抗議にも御構い無しだ、『いつから付き合ってるの〜?』とか『照れないでよ〜』等と同じような質問をしつこく繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……雪ノ下さんの姉には私が視界に入ってないのか、雪ノ下さんと比企谷君がデートをしているのだとしきりに冷やかしていた。

 

いや、私のことを敢えていない存在にして会話から外しているのだろう、分かりやすく言うとハブっているのだ。

 

まあ、私もあの会話に入ろうとは思わないから、それで良い。

 

このまま傍観者を決め込もう、そう思っていたら雪ノ下さんの姉がこちらを見た。

 

 

「あっれ〜、君もいたんだ〜…雪乃ちゃんのお友達かな? 雪乃ちゃんと仲良いの?」

 

 

 

雪ノ下さんの姉は今度は私の方を見てそう言った。

 

彼女の顔は笑顔だったが、威圧感を含んでいた。少し気圧されながら、私はいつものように営業スマイルの仮面を付けて、相手の喜びそうな言葉を模索して発言する。

 

 

「……えぇ、まあそう言いますかね… 富良野英理華です、雪ノ下さんと比企谷君とは同じ部活に所属しています」

 

 

「そうなんだ〜…ふ〜ん…」

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下さんはそう言うと、私の身体を比企谷君にしたようにジロジロ見始めた。

 

正直、あって間もない見ず知らずの人物に身体を無遠慮に見られるのは嫌悪感と不快感が湧き上がってくるが、彼女に逆らうのは危険だと本能で感じ黙っていた。

 

一通り私を見て彼女は顔を上げた、だが、その顔は先ほどのような笑顔ではなく、むしろ驚きの感情を含んだ顔だった。

 

そして、私に向かって一言こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「……君は不思議な子だね…」

 

 

 

 

 

 

雪ノ下さんは比企谷君と同じように私を見定めるように見たが、私を見た途端に真顔になってそう言った。

 

 

「まあ、これからよろしくね! 富良野ちゃん! 君とは仲良くなれそうな気がするよ!」

 

 

だが、それはほんの一瞬だけだった。

 

雪ノ下さんはさっきまでの表情なんて感じさせない笑顔になって、私の手を握り、私に対して友好的な態度をとる。

 

その態度に面食らったが、何とか営業スマイルを浮かべて『こ、こちらこそ』と返事を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………姉さん、いい加減にしてちょうだい」

 

 

その時、底冷えするような低い声が聞こえた、それは今までずっと黙っていた雪ノ下さんだった。

 

雪ノ下さんは自分の姉への嫌悪感を隠そうともせず、すっと髪を掻き上げると、姉に侮蔑の視線を向けた。

 

「あー……ごめんね、雪乃ちゃん。お姉ちゃん、ちょっと調子乗り過ぎた…かも…」

 

 

妹からの侮蔑の視線に、申し訳なさそうに笑った雪ノ下さんの姉は、比企谷君に耳打ちして何かを話していた。

 

 

何かを話すと雪ノ下さんの姉は、比企谷君からすっと離れた。

 

でも、比企谷君は、じっと雪ノ下さんの姉の顔に視線を向けている。

 

 

 

 

「……ん?どうしたの、比企谷君? お姉さんの事じっと見つめちゃって…」

 

 

雪ノ下さんの姉は『ちょっと恥ずかしいなかな~』と頬に手を添える、同性から見ても可愛らしい仕草に、近くに居た数人の男性たちが見とれて足を止めていた。

 

でも、比企谷君はそんな仕草に特に気を止める様子はなく、雪ノ下さんの姉に呟くように問いかけた。

 

 

 

 

 

       

「疲れませんか? 『それ』」

 

 

 

 

 

その一言で雪ノ下さんの姉の表情が変化した、笑顔を浮かべているが、その質が先程とは違う。

 

 

 

「…………へぇ、分かっちゃうんだ」

 

 

「別にそれだけです」

 

 

陽乃はふ~んと興味深そうに頷いた。

 

 

「君、面白いね」

 

 

 

「よく嘲笑の的にはされますね」

 

 

「あっははは!やっぱり比企谷くん、凄い面白いよ!」

 

 

雪ノ下さんの姉は、笑いのツボに嵌まったのか、爆笑して比企谷君の背中をパンパン叩いている。

 

 

 

「あ、そうだ。比企谷くん、富良野ちゃんも良かったらお茶して行かない? お姉ちゃんとしては雪乃ちゃんの彼氏、友人として相応しいか、良く知っておかないといけないのです」

 

 

雪ノ下さんの姉は、胸を張るような姿勢をとって私たちに軽くウインクしてきた。

 

お世辞にもスタイルが良いとは言えない、妹に比べて豊かな胸が強調される。

 

 

「…………しつこい。只の同級生だと言っているでしょう、彼氏でもないし、友人でもないわ…」

 

聞くだけで身震いするような苛烈で刺々しい声が雪ノ下さんから放たれる、そこに含まれている感情は、完全な自分の姉への拒絶のように感じられた。

 

しかし、雪ノ下さんの姉は妹の強い拒絶を物ともせずにニッコリ笑ってそれを跳ね除ける。

 

 

「だって、雪乃ちゃんが誰かとお出掛けするのなんて初めて見たんだもん。そしたら彼氏とか友人だって思うじゃない、それが嬉しくてさ〜」

 

 

くすくすと雪ノ下さんの姉は笑った。

 

 

 

………にしても、嬉しいねー……

 

 

 

 

「折角の青春、楽しまなきゃね!あ、でもハメ外しちゃ駄目だぞ?」

 

 

雪ノ下さんの姉は冗談めかすように、腰に左手を当てて前に屈むと、右手の人差し指を立てて注意した。そのまま雪ノ下さんの耳元に顔を近付けると、小さく囁く。

 

 

「………一人暮らしのことだって、お母さんまだ怒ってるんだから…」

 

 

その『お母さん』と言う単語が出た瞬間、雪ノ下さんの身体が僅かに強張った。

 

場を沈黙が支配する、騒がしかった周りの雑音も水を打ったように静まり返り聞こえなくなった。

 

一瞬の間を置いて、雪ノ下さんは絞り出すようなか細い声で言った。

 

 

「…………別に、姉さんには関係の無い事よ…」

 

 

 

それは正面を向かず、地面に向かいながら出た言葉、いつもの威厳は微塵も感じられない、弱々しい態度だった。

 

だが、それを見ても雪ノ下さんの姉は笑顔を崩さない。

 

 

「そうか、そうだね、お姉ちゃんには関係無いね、雪乃ちゃんが考えてるならそれで良いんだ、余計なお世話だったね、ごめんごめん」

 

 

そう言うと、雪ノ下さんの姉はその場から飛び退くようにして離れて、誤魔化すような笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「なら、良いや。 比企谷くん、雪乃ちゃんの彼氏になったら改めてお茶に行こうね! じゃ、またね!」

 

 

 

 

最後にパアッと華やぐような笑顔を浮かべて、雪ノ下さんの姉は比企谷君に別れの言葉を言いその場を離れようとするが『あ、そうだ』と何かを思い出したように足を止めてこちらに引き返してきた。

 

自分の妹の雪ノ下さんでも比企谷君でもなく、私の方に向かって彼女は歩いてきた。

 

思わず警戒して身を硬くすると、彼女は私の耳元に雪ノ下さんにしたように顔を近づけて囁いた。

 

 

「…君とは個人的にもっとお話ししたいな…でもね、雪乃ちゃんに何かしようとするならしたら容赦しないからね………」

 

「………っ⁉︎」

 

 

その言葉に私は肩をビクリと震わせた、最初の誘いと警告とも言える言葉に背中に気味の悪い汗が流れる。

 

雪ノ下さんの姉の顔は直視できなかった、何か得体の知れない恐怖がこの人からは感じたからだ。

 

雪ノ下さんの姉は私から顔を離すと、何事もないように『バイバイ』と胸の前で小さく手を振って去っていく。

 

 

「…………っはぁ…!」

 

 

 

彼女の姿が見えなくなると思わず息をついた、理由はよくわからないけど、彼女が去ってホッとした。

 

 

何故かあの人は恐ろしい人なのだと私の中の本能が察知しているのだろうか、比企谷君に感じた恐怖とは比べ物にならないほどの恐怖…

 

 

私はそのまま呆然と立ち尽くしていた、雪ノ下さんに声をかけられるまでずっと…

 

 

 

 

 

雪ノ下さんの姉が去った後、私たちも歩き始める。

 

しばらく沈黙が続いたが、雪ノ下さんが比企谷君に唐突に尋ねてきた。

 

 

「どうして分かったの?」

 

 

「何が?」

 

 

「さっき自分で言っていたじゃない」

 

 

「ああ、あの強化外骨格みたいな外面の事か」

 

 

「ええ、そうよ、あなたの言う通り、あれは姉の外面よ」

 

 

雪ノ下さんは一旦言葉を区切った。

 

 

「私の家の事は知ってるでしょ? 仕事柄で長女である姉は挨拶回りやパーティーに連れ回されていたのよ。その結果出来たのがあの仮面…………良く分かったわね…どうして?」

 

 

再度比企谷君に聞いてくる雪ノ下さん。

 

 

比企谷君は「どうしてと言われてもな…」と言って目を細める。

 

 

 

 

 

「まあ、強いて言えば、お前の姉は完璧過ぎるんだよ、でもな、この世に完全な人間なんて存在しない。だからこそ、あの人の笑顔や行動は嘘偽いつわりそのものだ」

 

 

雪ノ下さんは驚いたような顔をした後、真剣な眼差しになり比企谷君の目を見る。

 

「…………腐った目でも、いえ腐った目だから見抜ける事見抜ける事があるのね」

 

 

「褒めてねぇぞ、それ」

 

 

「褒めてるわよ、絶賛したわ」

 

 

「全くそうは感じなかったが」

 

 

「本当よ、私に褒められてるのだから光栄に思いなさい」

 

 

「でも何だかんだで姉妹だな。良く似てるぜ」

 

 

比企谷君がそう言った途端、雪ノ下さんの表情が曇った。

 

 

「…………似てないわよ」

 

 

「そうか?俺はそっくりに思えたんだが」

 

 

「それはあなたが姉さんの凄さを知らないからよ……」

 

 

そう言って雪ノ下さんは足を早めて、出口に向かい、比企谷君も頭を掻きながら雪ノ下さんの後を追う。

 

 

私といえば、2人の会話に加わらずに2人の会話と様子を見ているだけだった。

 

私はまだ雪ノ下さんの言われた言葉が頭から離れず、2人の会話に加わらずに黙ったまま雪ノ下さんたちの後についていき、デパートから出て2人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー富良野家ー

 

 

デパートから真っ直ぐに家に帰り、納戸で外出用の服から部屋着に着替えながら私は今日のことを思い返す。

 

 

 

 

プレゼントを買いに行ったことなんかより、記憶に強く残っているのは雪ノ下さんの姉の雪ノ下陽乃さんのことだ。

 

 

 

 

比企谷君は雪ノ下さんの事を『仮面を被っている』と言っていた

 

私にもそれは大体分かっていた、私と同じように仮面を人前で被っていたから、様子や態度を見れば分かる。

 

確かに人は時として苦手な相手でも無理矢理にでも笑顔で接しなければならない事をもある、人間関係を円滑にするために作り笑顔をしなければならない時はある。

 

 

でも、私が見たあの仮面はそんなレベルのものではない。

 

雪ノ下さんが言ったように挨拶回りやパーティーに出ていても、私たちとそんなに変わらない年であのような強固な仮面をつけられるのだろうか。

 

雪ノ下さんの姉は、私のように両親から虐待紛いの扱いは受けてなさそうだし、周囲の人間に近寄らないようにしている訳でもない。

 

ならば、どうしてあそこまで完璧な仮面を着ける必要があるのか。

 

 

 

私の推測だけど、雪ノ下さんの姉が私より強固な仮面を被っているという事は、彼女の内面が私以上に見せつけられない醜いものだからなのかもしれない。

 

人には見せられない醜悪な内面を覆い隠すために完璧な仮面をつけているのかもしれない。

 

そうだとすると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いや、やめておこう……

 

これ以上、あの女性の事を考えると今より気が滅入る。

 

奉仕部に入ってから人の性質を細かく見る癖がさらに細かくなってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

あの仮面をつけた女性がどう思ってようが、私に被害がこなければどうでも良いけど、あの女性は私に何故かわからないけど興味を持っていた。

 

私の耳元で囁いた彼女は獣の目をしていた、自分の暇つぶしに丁度いい面白い玩具を見つけたようなそんな感情を含んでいた。

 

正直に言ってあんな気持ち悪い人とは二度と関わりたくない。

 

何の根拠もないけれど、あの人と関わるとそれだけで平穏が脅かされそうな気がしてきてならないのだ。

 

 

 

 

 

 

側から見たら私は根拠もない憶測だけで人を判別する酷い人間だと思われるだろうね。

 

でも、それでも良い。私は周りに何と思われてもどうでも良い。

 

誰になんと思われても、何と言われても私は平穏に生きたい。

 

 

 

でも、私の周りにいる人たちがそれを阻む、奉仕部やその依頼人たち、さらにはその関係者までが私の平穏を脅かす。

 

そのせいで、私に平穏な日常は訪れず、私はその度に危険な思いをしなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

平穏が脅かされる恐怖と平穏を脅かされる憤りが入り混じった感情をぶつけるように私はドアを叩く。

 

力任せに叩いたが、非力な女子高生では大した音はせず、無駄に手が痛くなっただけだった。

 

 

一瞬の音が納戸と廊下に響き渡り、再び私の周りが静寂に包まれる。

 

 

私は誰もいない納戸で小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ…こんな事で平穏を脅かされたくない…』

 

 

 

 




今回はここまでです。


いつも以上にめちゃくちゃで申し訳ありません…



感想やメッセージまでいただきありがとうございます。


ご指摘、感想がモチベーションに繋がるのでコメントをいただけたら嬉しいです。





今回までがストックでしたので毎日投稿出来てましたが次回からは更新が通常に戻ります。
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