4人目の奉仕部員は平穏に過ごしたい…   作:レッドクロス

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リクエストにあった遊戯部編です。

今回は原作と結末が大きく異なります。


少し時間軸が変わっていますが、気にせずに読んでください。


リクエストにより急ピッチで書きあげたので原作と違う点が多く、至らぬ点も多いです。



いつものように閲覧は自己責任でお願いします。



遊戯部とのゲームに平穏を脅かされたくない。

職場見学、由比ヶ浜さんの誕生日などの面倒なイベントが終わり、私は奉仕部の部室でテキストとルーズリーフを机に広げていつも通り勉強に励んでいた。

 

奉仕部には先日の誕生会で和解したらしい奉仕部の3人がいつものような会話をしている。

 

雪ノ下さんが比企谷君をdisり、由比ヶ浜さんがそれに便乗、比企谷君が捻くれた言葉で返す。もはやワンパターンになりつつある言葉の応酬だ。

 

 

 

 

 

先日の誕生会には私も奉仕部の部員だから参加したけど、由比ヶ浜さんには誕生日プレゼントのマグカップを渡してからはほとんど会話に入らずに成り行きを傍観していた。

 

雪ノ下さんはエプロン、比企谷君は犬の首輪をプレゼントしていた。

 

比企谷君が犬の首輪をプレゼントしたことには、流石の私も少し引いたけど、それは彼女の飼っている犬用の首輪だったそうだ。

 

その時に由比ヶ浜さんが比企谷君に謝った。

 

職場見学の時に比企谷君に事故のことを言われてついカッとなって酷いことを言ってしまったこと、事故のことを1年間も黙っていたことなどを悲しげな表情を浮かべながら語って。

 

その時の由比ヶ浜さんは側から見れば自分の非を詫びている健気な女子に見えるだろう。

 

でも、私が由比ヶ浜さんの謝罪の言い分に抱いた感想はこうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何とまあ都合の良い言い訳』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきり言って、気分の良いものではない。

 

つらつらと健気に自分の非を詫びてるように形だけは整えているが、結局自分の事しか彼女は考えていなかったというわけだ。

 

 

由比ヶ浜さんは事故の事を黙ったまま、職場見学でこれまで接してきた事を比企谷君に指摘され、謝罪もなしにその場から逃げて、挙げ句の果てに会わせる顔がないからという理由で、今日まで部活を休んでいた。

 

 

それを今更言うなんて『恩知らずの卑怯者』にも程がある。

 

 

由比ヶ浜さんが飼い犬をを救ってもらったのは入学式の時らしいから、もう1年以上は経っている、これまでにない程の今更だ。

 

 

そもそも由比ヶ浜さんは奉仕部に私が入部させられるより前に奉仕部にいたのだから、比企谷君にお礼を言う時間は腐るほどあったはずだ。

 

それなのに、今の今まで何もせず、当人から言われてからやっと動くなんて、本当に彼女はどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

それに由比ヶ浜さんは日頃から雪ノ下さんと一緒に比企谷君と罵倒していた。その態度から考えても彼女が本心からお礼をしたいのかすらも私は怪しいと思う。

 

 

 

 

 

由比ヶ浜さんが比企谷君にお礼を言いたいのなら比企谷君が病院に入院している時、もしくは学校に来てすぐにお礼を言えば良かったはずだ。

 

しかし、彼女はそれをせずに1年以上も事件のことを隠してお礼も謝罪もせずにいたのだ。

 

比企谷君はこう言っていた。彼の妹は由比ヶ浜さんと事故の後に面識があり、事故の後にお礼と菓子折を由比ヶ浜さんは彼の妹さんに渡したそうなのだ。

 

でも、それなら比企谷君が1年もその事故の当事者のことを知らないのはおかしい、つまり彼女は事故の後は奉仕部に入部するまで肝心の比企谷君には会いにも行ってないということなのだ。

 

結局、お礼をされたのは比企谷君の妹だけで肝心の彼には何一つとしてお礼も謝罪の言葉すらも彼女は言ってなかったと言うわけだ。

 

まあ、クラスのトップカーストに属している由比ヶ浜さんからしてみれば、ぼっちでカーストの最下層に属している比企谷君と繋がりがあるというのは避けたいだろう。

 

 

 

でも、それならどうして由比ヶ浜さんは今になって1年も前の事故のことにお礼を言おうと思ったのだろうか。

 

 

比企谷君がぼっちだったから、クラスのトップカーストにいる彼女なら、飼い犬を助けてもらった恩人でも関わりたくないのは頷ける。

 

でも、そうだとしたらこのまま彼と不干渉でいれば良いだけの話だったはずだ。彼には友人と呼べる人なんてその時はいないだろうし、彼も自分の発言力がない事くらい理解しているだろう。

 

それなのに、何で今になって風見鶏の彼女が嫌うギクシャクした雰囲気を作り出してまでお礼を言おうと思ったのだろうか。

 

考えれば考えるほど由比ヶ浜さんの行動は謎だ。言ってることとやってることが矛盾しすぎている。

 

 

 

 

 

 

……でも、もっと驚いたのは比企谷君が由比ヶ浜さんの事の隠していた事故のことをを流した事だった。

 

由比ヶ浜さんの誕生会の時に比企谷君が由比ヶ浜さんの事を流す的な事を言ってる時は、思わず椅子からひっくり返りそうになった。

 

 

 

 

 

 

比企谷君は由比ヶ浜さんが自分なんかと仲良くしているのは事故の事が原因なんだと思っていた、だから職場見学の時に『同情で接するのはやめてくれ』と言ったそうだけど、由比ヶ浜さんの今更ながらの安い謝罪であんなにあっさり事故のことを流すだなんて思わなかった。

 

普通なら入学式の時に事故にあい、見舞いすらもろくに来ない、事故の加害者は自分であるのに対して1年以上もお礼を言わないのに日頃の彼に対してのあの態度。

 

どう見ても反省しているようには見えないし、彼女はただ事故の件がバレて空気が悪くなってるから謝ろうとしているだけだ。

 

 

そんな人を殆どとがめもせずに、水に流した比企谷君は優しいというより愚か者と言っても良いだろう。何かこんな人に怯えていた自分が馬鹿みたいだ…

 

 

 

 

それを腕を組みながら偉そうに見ていた雪ノ下さんも『筋の通った事しか認めないと』いうような理論を日頃から掲げている割には、その由比ヶ浜さんの少しも筋の通ってない行動に何も言わずに呑気に誕生日を祝っていたからね。

 

 

親しい人が周りにいない比企谷君と同レベルくらいのぼっちの雪ノ下さんはおそらく初めて出来た友人と呼べる相手、由比ヶ浜さんを失いたくないのか、それとも彼女自身がそれすらも考えられない人なのかは分からないけど、どっちにしても雪ノ下さんに人を見る目はないようだ。

 

 

 

 

 

私は奉仕部の人たちの都合の良さに呆れを通り越して笑えてくる。

 

この誕生会も明らかに互いの本心を曝け出さずに表面上で笑ってるだけの空虚なものと言わざるを得ない。

 

本来なら事件の加害者と被害者同士で加害者が1年以上も事故のことを隠していたのならこの後も仲良くだなんて普通はできない。でも、この人たちはこれからも今まで通り仲良くしようとしているのだ。

 

はっきり言って気持ち悪い。加害者の由比ヶ浜さんといい、被害者の比企谷君といい、それを見ても何も言わない雪ノ下さんといいよくそんな事が平然と出来るものだ。

 

奉仕部の3人は目の前のことが解決したのなら、もう細かいことはどうでも良いと思ってるようにしか見えない、でも、本当にそれで良いのかな…?

 

 

…まあ、あの人たちが納得しているならそれで良い。私に被害が来なければ知った事ではないしね。

 

 

 

 

……そんな事を考えていると、部室の扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼もう!」

 

 

その声に嫌な予感がしてドアの方を見ると、そこには小太りの体型に眼鏡をかけた男子が野太い大きな声をあげて立っていた。

 

……本当に嫌な予感ほどよく的中するものだ…

 

 

次の厄介事が派手な音と共に舞い込んできた時だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………というわけなのだ…」

 

 

「なるほど…」

 

 

 

依頼人は迷惑厨二男の材木座君、依頼は簡潔にまとめると、彼がよく行くゲームセンターで総武高校の男子に自分の夢のことを笑われてその事で揉めてしまい、勢いでその人と後日ゲームで勝負するという約束をしたのだ。

 

その男子は『遊戯部』と名乗る部活に所属しており部員は二人、でも材木座君はぼっちでこんな事を相談できるような友達が1人もいないため、団体競技が出来ないので奉仕部に相談しに来たという事らしい。

 

 

 

「だから、勝負そのものをなかったことにするか、我が確実に勝てるもので勝負したいんじゃよ。だからそういう秘密道具を出してよ、ハチえもん…」

 

 

依頼の説明を終えた材木座君は彼が唯一話せる相手の比企谷君に縋り付きながら訳の分からないことを言っている。

 

いや…彼の言ってる意味がぜんぜん分からないのはいつものことなのだけれどね。

 

 

 

 

 

 

「悪いが断る。今回の勝負は明らかにお前に原因があるだろ、刺される覚悟がないならそいつらを煽んな」

 

 

比企谷君が面倒臭そうに材木座君にそう言う。

 

 

これには私も全面的に賛成だ。ロクな勝算もなしに売り言葉に買い言葉でそんな約束をしてしまった材木座君が悪いのだから。

 

 

私が材木座君に密かに軽蔑の視線を送ると、材木座君は今度は立ち上がって私たちを見渡して挑発するかのように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はん、平社員の八幡に決定権などないことはすでに分かっておるわ!」

 

 

 

 

材木座君はそう言うと、雪ノ下さんを見て見下したように言った。

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下部長、奉仕部などと片腹痛いわ!目の前の人間一人救えずになにが奉仕か。本当は救うことなど出来ぬのだろう?綺麗ごとを並べ立てるだけでなく、行動で我に示してみろ!」

 

 

 

「……ちょっ……!」

 

 

「あ、材木座、バカ……」

 

 

 

材木座君のその言葉に比企谷君が慌てたように声を上げる。

 

私も無意識に口から声が出た。

 

 

 

この部長にそんな事を言ったら……!

 

 

 

 

「…………そう、では証明してあげましょう」

 

 

 

 

……ほら、やっぱりこうなった……。

 

 

 

 

 

その後は材木座君の挑発にマンマとのった雪ノ下さんの独壇場で自分がどれだけ優秀かのスピーチを冷たい雰囲気を醸し出しながら言い、結局、いつもの通り依頼を受けることが決まった。

 

 

比企谷君と材木座君は雪ノ下さんにガタガタ震えていた。

 

ていうか、比企谷君は断るって言ったのに、それを無視して依頼を受けるなんて本当にこの部長は自分が中心なんだな……

 

 

自己中な部長は部員たちの意見など御構い無しな材木座君に案内しなさいと言ってその遊戯部とやらに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

………やっぱり参加するのは確定事項なのか…

 

この部活のトップに立つ身勝手な独裁者は、依頼人の安い挑発に面白いくらいに引っかかって、平民の部員たちに確認も取らずに参加を取り決める。

 

相変わらずの横暴だけど、もうここまで来たら反論するだけ時間の無駄だ、適当に勝負をしてさっさと終わらそう…

 

私はため息をつきたいのを我慢して、テキストを鞄に片付け奉仕部と材木座君に連れられるままに部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯部の部室に行く途中、私は今回の依頼で向かう『遊戯部』のことに現実逃避も兼ねて思考を飛ばす。

 

 

『遊戯部』は字面から察してサッカーや野球などの外でやるスポーツなどではなく、室内でのゲームなどをする部活だと思うが、よくもまあこんなふざけたような部活を許しているね。

 

私の推測通りなら家でも出来ることをわざわざ学校の部活動にしてやる意味がわからない。

 

おまけに遊戯部との勝負事を受けたのは材木座君であって、私がこの依頼で彼を助ける義理も理由もない。

 

それにしても、稚拙な小説を持ってきた時もそうだったけど、彼は本当に甘ったれだ。

 

小説の時は批判されたくなかったから、奉仕部に持ってくることで自分のプライドを守ろうとした、今回は自分で受けた勝負に負けたくないから無関係な人を巻き込んでこれまた自分のプライドを守ろうとしている。

 

私から見た材木座君は自分で決めた物事を何一つ自分で出来ない無能、こんな人に情けをかける必要なんてあるのだろうか?

 

 

 

……まあ、人に頼ってまで勝ちたい勝負に価値なんかないと思うけどね。

 

 

私はそんな事を微塵も考えていないであろう材木座君に侮蔑の視線を送りながら、現実逃避のための自問自答を内心で繰り返して、彼らと共に遊戯部の部室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たのもーう!」

 

 

 

『遊戯部』というプレートが掲げられた教室の前に到着すると、材木座君が口火を切って勢いよく入っていく。

 

 

 

「あ…剣豪さんだ、本当に誰か連れてきたんですね…」

 

 

 

部室の中にいる遊戯部であろう男子たちに『剣豪さん』という渾名で呼ばれる材木座君、彼は私たちの前では自分を『剣豪将軍』とか訳わからないこと言っていたから、彼らの時もそう名乗ったのだろう。

 

……何か、材木座君が彼らに馬鹿にされた理由はゲームの事だけではなく、この彼の厨二臭い言い回しも原因がある気がする……

 

 

 

 

 

 

「我に力を貸してくれると誓った、臣下達であるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、材木座君は調子に乗ったのか腕を広げて後ろにいる私たちを自分の部下を意味する『臣下』と言った。

 

……私としてはいくら社会のカーストの最底辺にいると言っても材木座君の臣下になるのは御免だ。

 

それどころか材木座君を臣下にするのも嫌なぐらいだ。

 

まあ、調子に乗った材木座君のその言葉に自尊心の高い部長は機嫌を損ねてるみたいだしね……

 

 

 

 

 

 

 

「ああ…あの人だよ」

 

「そうか…あの世間知らずの」

 

 

 

 

 

 

材木座君が入ってきた時こそ彼らは驚いたような表情だったけど、すぐにニヤニヤとした明らかにこちらを見下したような気持ちの悪い笑みを向けて来た。

 

彼らはネクタイの色と上履きの色から見て1年生、仮にも先輩の私たちに敬意を払うつもりは全くないらしい。

 

潔癖な雪ノ下さんが気持ち悪さに震える。私は信頼からの下品な視線に慣れてるからそこまでじゃないけどね。

 

 

 

 

 

 

遊戯部の部室をざっと見渡すとたくさんの本やモニターゲーム機が沢山置かれていた。

 

こんなものを部費で落とせるわけがないからおそらく自前のものだろう、学校にこんなものを持ってきていることがバレたらどうするつもりなんだか……

 

 

 

 

 

私がそう思っていると、早速本題の話になり、雪ノ下さんを始めとして私たちも彼らに軽く自己紹介をする。

 

向こうも自己紹介を返した、彼らは相模と泰野と言うらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、二年の雪ノ下先輩じゃ……それに、もうひとりの人も……」

 

 

 

 

 

 

自己紹介が終わると、遊戯部の1人の相模は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんを品定めするかように見て薄ら笑いを浮かべた。

 

……何か信頼が時折私に向ける笑みに似ている。はっきり言って気味が悪い。

 

彼は一通り雪ノ下さんたちを見た後、今度は彼の気味の悪い視線から逃げるために材木座君を縦にして後ろに身を潜めていた私に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……この人もいいな……」

 

 

 

 

 

 

 

小声だったが、私にははっきり聞こえた。そのせいで余計に背筋が寒くなった…

 

 

 

 

 

そんな私の心情を御構い無しに雪ノ下さんたちは本題の話し合いを進めていく。

 

 

 

 

 

「ゲームで決着つけるって話だったけど…秦野君、ゲーム強いんだよね?何か他の勝負とかにできないかな…?」

 

 

 

「…まあ、いいですけど…何か見返りとかはないと…」

 

 

 

由比ヶ浜さんがおずおずと泰野にゲームではなく他の勝負に出来ないかと頼んでいる。

 

 

まあ、如何にもこんなゲームオタクのような人たち相手にゲームで勝負するのは流石に分が悪いからね。

 

でも、泰野も簡単には引かずに代わりの見返りを求めてきた。自分たちに無利益でそんな条件は呑みたくないらしい。

 

 

 

「…材木座からの謝罪でいいんじゃないか?揉めたことに変わりは無いんだし」

 

 

 

 

「…え?我?」

 

 

そんな中、比企谷君が口を開いた。

 

 

見返りは材木座君からの謝罪で良いのではないかという。

 

 

至極真っ当な意見だ。私たちは材木座君に巻き込まれただけだし、材木座君自身も彼らと揉めたのは事実なんだから。

 

 

 

「そりゃそうだろ。こっちは付き合ってやってるだけなんだし」

 

 

 

「そうね、それで良いでしょう。やるゲームは貴方達に任せるわ」

 

 

 

雪ノ下さんの言葉で見返りは材木座君からの謝罪に決まったらしい。

 

材木座君はアタフタしているけど、人に迷惑かけてんだからそれくらいの責任は取りなよ。

 

 

 

 

 

 

そうして、話が纏まり本題の勝負のゲーム決めになった。その時、遊戯部の1人でさっき嫌な視線を向けてきた男子である相模が何やら考えて口を開いた。

 

 

「あ、よかったら、雪ノ下先輩たちも参加されませんか?簡単なトランプゲームなんで。お二人が勝っても、そこの剣豪さんたちの勝ちってことにしてもいいですし」

 

 

 

「お、おい……」

 

 

 

 

それは雪ノ下さんたちもゲームに参加しろという誘いだった。何をやらせるつもりなのだろうか。

 

 

 

 

 

「…そうですね…それじゃあ…ダブル大富豪でどうですか?」

 

 

 

「「「……ダブル大富豪?」」」

 

 

 

 

相模はダブル大富豪というゲームを提案してきた。

 

大富豪なら私も知ってはいるが、ダブル大富豪なんて聞いたこともないゲームだ。

 

 

 

 

「……ルールは?」

 

 

 

「普通の大富豪と同じです。ただし、ペアを作って頂き、チームで交互にカードを出していき、カードがなくなったペアから勝ち抜け…って所ですね。ただしチーム内での相談は禁止させていただきますね」

 

 

 

 

「ローカルルールはあるのか?」

 

 

「そうですね…8ぎり、階段、革命、スペ3位でいいんじゃないでしょうか?とりあえず、5本勝負でどうですか?」

 

 

「……わかったわ」

 

 

「ペアの組み合わせはそちらで決めて下さい」

 

 

 

 

 

 

話を進めた結果、この遊戯部2人と『ダブル大富豪』なるゲームをすることになった。二人ペアで大富豪をするみたい。となると、この5人でペアを2つ作るには、誰か1人が抜けなくてはならない。

 

そうなると……

 

 

 

「私が抜けるよ、大富豪とか弱いしさ」

 

 

 

 

真っ先に私が手を上げて参加辞退を表明する。

 

 

 

 

ぶっちゃけトランプとか殆どやったことない私は大富豪のルールは知ってるけど、勝算なんて知らないし、殆どやったこともない。

 

それに、この遊戯部の男子からのさっきの気持ち悪い視線は生理的に耐えがたいものだった。それならさっさと辞退して安全圏にいた方が賢明だ。

 

 

雪ノ下さんたちも納得をしてくれた、今回は私は見学で済みそうだ。

 

雪ノ下さんも大富豪をやったことがなかったらしいけど、あそこまで小馬鹿にされて黙って引き下がるほど彼女の気位は低くなく、今回が初めてだとしてもやるようだ。

 

 

 

私が抜かされてペア分けが行われ、比企谷君と材木座君ペア。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんペアという男女が分かれたペアになった。

 

 

 

 

 

 

このゲームは最終的には2チームのどちらかが遊戯部のチームに勝てばいいので奉仕部に圧倒的に有利だ。

 

 

でも、このゲームを提案したのは相手からだ…わざわざ相手に不利になるようなゲームを提案するかな…

 

 

 

まあ、私は見学するわけだからどうでも良いか…

 

 

私は勝負内容に少し引っかかりを感じたが、参加しないのだから関係ないと考えないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脇の椅子に座りながら私は勝負の成り行きを黙って見守る。

 

初戦は比企谷君ペアが一抜け、雪ノ下さんたちが二抜けとなった。

 

 

 

「いやー秦野くん、負けちゃったねー。しまったな…」

 

 

「そうだな。相模くん。油断してしまった」

 

 

 

一回戦目は遊戯部の2人の負け、でも、遊戯部の2人は嬉しそうだ。

 

まだ一回戦目だから何かしらの勝算があるのか、それとも別の理由があるのか分からないが彼らはニヤニヤと笑っている。

 

 

 

「困ったね」

 

「困ったな」

 

 

 

「「だって、負けたら服を脱がなきゃいけないんだから」」

 

 

そう言って遊戯部の二人は着ていたベストをしゅっと脱いでしまった。

 

……え?そんなのありなの?

 

 

 

「なっ!?何よそのルールっ!」

 

 

 

 

由比ヶ浜さんが目を見張って声を上げる。

 

 

私も思わず目を見開いた。

 

 

負けたら服を脱ぐルールなんて聞いていないのにいきなりそんな事を言われても困惑する。

 

でも、遊戯部の2人は取り合う様子はない。あくまでもこのルールを押し通すつもりのようだ。

 

女子としての最低限の嗜みは由比ヶ浜さんはあるのか帰りたがっている。普通の人なら当然の行為だ。

 

負けたら服を脱ぐなんてバラエティ番組の野球拳じゃあるまいし、そんな事を常識的に考えて女子高生が好き好んでやるわけが…

 

 

 

 

 

「ゆきのん、もう帰ろうよ、付き合うのアホらしいし……」

 

 

取り合わない遊戯部の2人の説得を諦めたのか、由比ヶ浜さんが雪ノ下さんに助けを求める。

 

私も彼女に視線を向ける。いくら愚直で独善的な部長でもこのルールを黙認するわけが…

 

 

 

 

「そう?私は構わないけれど。勝てばいいのだしね。それに勝負する以上はリスクは当然だわ」

 

 

雪ノ下さんは何の問題もないと言いたげに承諾の意を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

「……はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下さんの『勝負を続行する』というカミングアウトに思わず声が出てしまった。

 

でも、そんな声が出るほどのことだった。

 

 

 

この人何を言ってるの?

 

 

 

 

私は呆然とした。普段から潔癖そうに振る舞っている雪ノ下さんがこういう脱衣ゲームという下衆なゲームに付き合うことが。

 

 

由比ヶ浜さんの誕生日プレゼント選びの時には『私は男子からの贈り物は気持ち悪い』とまで言っていたのに、今この場で異性に裸を見られるかもしれないというリスクがあるのを理解しているの?

 

 

勝つのが確定みたいに言っているけど、根本的に「服を脱がされるのが怖くないの?」

 

女子が男子に肌を見せるようなそういうことするべきじゃないと言うのは世間一般の最低限の常識なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「問題ないわ。このゲーム、ローカルルールの多さ――…」

 

 

雪ノ下さんはこの光景を見ても引く気はないらしく『大富豪の必勝法を自分は知ってます』的な頭良いキャラを押し出して勝負を挑もうとしている。

 

比企谷君に視線を送るも、お手上げみたいな顔されて何も言わない。ちょっと苦々しい表情をしてるけど、どうしようもないみたい。

 

この状況が異常なのに気付いてるのにも関わらず何も行動を起こさない。本当に頼りにならない。

 

 

 

「さあ!はよう!はよう始めようではないか!」

 

 

材木座君が早く試合を始めるようにせかしている。どうやらこの部室内の空気はもうすでに脱衣ルールを認める空気になっていた。

 

 

藁にもすがるつもりで由比ヶ浜さんにも視線を向けるが、空気を読んで合わせることしかできない風見鳥は何も言わずに席に座ってオロオロしているだけ。

 

 

私がそう内心で思っている間に二戦目が始まった。

 

 

 

 

………何事も起こらなかったら良いのだけれど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二戦目が始まり、私は最初は傍観していたが、ふと材木座君の動きが何かおかしいということに気づいた。

 

こっそり遊戯部の人たちのカードを自分の長身を活かして覗き込むと、奉仕部の人たちの持っているカードより強いカードが多くあったのだ。

 

単なる偶然かと思ったが、その後のゲームでそれは違うと気づいた。

 

おそらく材木座君は女子の下着姿が見たいために奉仕部の人たちを裏切り、遊戯部の方についたのだ。

 

恐らく、遊戯部の人たちの奉仕部の人たちが男女のペアに別れたため脱衣ルールで不和を招こうという心理作戦なのだろう。

 

そして、恐らく彼らは結託して雪ノ下さんと由比ヶ浜さんの女子ペアを負かせるように動くだろう。

 

材木座君は女子の下着姿が見られるし、遊戯部の人たちもそれは同じ。利害関係が一致しているからね。

 

何とまあ汚い作戦だ、見ているだけで吐き気がする。

 

 

 

 

 

私の予想通りに相模君と泰野君、そして材木座君は雪ノ下さんたちを負かすように動き始めた。

 

 

だが、比企谷君がそれに待ったをかけて『2人の分の負けまで自分が背負う』と言い出したのだ。

 

 

 

それでも、雪ノ下さんたちの負けまで背負ったのと、材木座君の裏切りにより回数を重ねるうちに比企谷君はどんどん服を脱いでいき、5戦目にはとうとう下着一枚に、材木座君は普段から着膨れていたためか、まだ、ズボンもワイシャツも無事という何とも不公平な現状になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし……。絶対に、勝つ……」

 

 

ズボンを脱いだ比企谷君がそう言う。

 

 

この状況でまだそう言えるのは良いけど、もうほとんど勝つ可能性はない。

 

 

 

「ぶっふー!もうパンツ一丁の人がなんかかっこつけてゆー!みっともなーい!」

 

 

 

 

比企谷君の発言に材木座君が爆笑する。見渡すと、遊戯部の二人も遠慮なしに笑って比企谷君を貶しているし、雪ノ下さんも肩をぷるぷる震わしている。

 

 

 

 

流石にそれには比企谷君も反抗したけど、それすらも遊戯部の相模君たちと材木座君は笑いの肴にしている。

 

 

 

「……くくっ…落ち着け八幡。ゲームとは楽しんでするものだもっと余裕を持て」

 

 

材木座君が比企谷君を宥めるためか毒にも薬にもならない話をする。

 

 

 

 

だが、遊戯部の相模君たちにはそのスタンスが気に入らなかったのか、それを今度は馬鹿にし始める。

 

そして、『アンタは夢を言い訳にして現実逃避しているだけだ。アンタは偽物だ!』と畳み掛けるように言った。

 

そして、ここで何を考えたのか雪ノ下さんが『材木座君の将来を考えるなら遊戯部の彼らの意見を聞くべきね』となぜか遊戯部の人たちの方が正論と決め打ちして彼らの方に味方をし始めたのだ。

 

雪ノ下さんが味方になって調子に乗った遊戯部の2人はさらに言葉を荒げる。

 

 

 

しばらくその応酬は続いていたが、やがて何を思ったのか相模君が言い争いをやめて私の方に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、そこの先輩の方が強そうですね。比企谷さんのかわりに貴女が大富豪をしませんか?」

 

 

私を見て笑顔でそう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………はぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相模君のそれを聞いて遊戯部の2人と材木座君の期待したような視線に私は思わず目が点になる。

 

……いやいや、目の前で男子が1人下着一枚になってるのを見て参加しろと?

 

そんなこと言って参加する人がいると思うの?

 

私も女だ。こんな人たちに自分の裸を見られるなんて冗談じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯部の空気は最悪だった。

 

 

 

材木座君の裏切りにより下着一枚に比企谷君がなってるのにも関わらず、材木座君は女子の下着が見たいという醜い欲望のために彼を遊戯部と一緒に嘲笑っている。

 

雪ノ下さんたちもゲームの勝敗のことで頭が一杯なのかこの異常さに気付く様子はない。

 

 

 

………それなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、私は少しお手洗いに行ってくるよ」

 

 

わたしはそう言うと席を立った。

 

 

 

 

 

「なんですか?逃げるんですか?」

 

 

 

「いえ、すぐに戻ってくるから。それまで休憩してて」

 

 

 

 

ニヤニヤと嘲笑う遊戯部の相模君の視線を受けながら、私は頭の中で密かに考えていた打開策を実行に移すことを決める。

 

 

後ろから聞こえてくる声を無視して私は立ち上がり遊戯部の部室を見渡して、彼らへの思い思いの評価を心の中で小さく呟く。

 

 

 

私は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんにも冷め切った視線を向ける。

 

この人たちはやはり私の思った通り、目の前のことをやり過ごしたら後のことなんて少しも考えてない。

 

1年前の事故のことを許したのなら、これから新しく3人で信頼関係を築こうとしているなら、本来なら目の前で嘲笑わられている彼をあなた達が助けるべきなんじゃないのか…?

 

それにも関わらず、雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも比企谷君を助けるどころか遊戯部の人たちに抗議もせずにただ黙っているだけ、このゲームが脱衣ゲームだって知った時は猛抗議していたのに。

 

『自分が被害を被ってないんだから良い』、『被害に遭ってるのは自分たちが常日頃から見下している比企谷君だから良い』とか思ってるんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

私はこの遊戯部の人たちとのゲームの勝敗なんてどうでも良いし、材木座君の夢のことなんてもっとどうでも良いんだけど、ここまでになったらそんな事を言ってられなくなった。

 

 

校内で脱衣ゲームをしていたと言う事が知られたら私まで遊戯部と材木座君の性への欲望に塗れた罪に巻き込まれてしまうかもしれない。

 

 

 

 

本来なら脱衣ゲームだと知った時に奉仕部の人たちにはこのゲームを降りて欲しかったんだけど、奉仕部の3人はこのリスクに少しも気付いてないのかゲームを続行しているのだから頼れない。

 

本当に後先考えない人たちだ、奉仕部やその依頼に関わる人に常識のある人はいないのだろうか?

 

 

でも、私の身を守るためにはこの脱衣ゲームが露見するのを止めなくてはならない。

 

 

……こうなったら仕方ない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

……私が彼らに引導を渡すしかないか…

 

 

私はパンツ一丁になったまま顔を俯かせている比企谷君をニヤニヤ笑っている遊戯部の2人を軽く睨む。

 

そして、私たちを裏切り比企谷君を嘲笑う材木座君にも密かに同じような視線を向ける。

 

さらに、それを見て何も言わずに勝負に勝つためにカードを凝視している雪ノ下さんと、オロオロしているだけの由比ヶ浜さんにも同じような視線を向ける。

 

 

……私は人を見る目がないとは思ってたけど、そうでもなかったみたい。

 

 

……雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、比企谷君、やっぱり私にはあなた達の中に信頼関係があるとは思えない。

 

 

……材木座君、貴方は比企谷君のことを『相棒』とか言って友人らしく接していたけど、貴方は自分より立場が低い人をそう呼んでいただけにしか見えない…

 

 

 

 

 

そもそもこの依頼を持ってきたのは材木座君なのに急に遊戯部の味方をしたということは材木座君も遊戯部の2人と同じく雪ノ下さん達の裸を見たいからと言うことしか考えられない。

 

貴方に友達ができないのにも納得した。こんな人をそばに置いておきたくないし、お粗末な妄想小説にお世辞を言うのなんて真っ平だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……『因果応報』という言葉を知ってる?

 

 

 

自分のした事は自分に返ってくると言う意味だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し危険な打開策だから使いたくなかったけど、ここまできたら仕方がない。

 

 

 

 

 

 

私はそう内心で呟くと遊戯部の部室のドアを開けた。

 

 

 

彼らに引導を渡すために…!

 




今回はここまでです。


いつも以上にめちゃくちゃで申し訳ありません…



次回はメッセージにあった女主人公の狡猾さが前面に出ている予定です。



少し時間軸が変わっていますが、この後の展開には影響しません。





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