4人目の奉仕部員は平穏に過ごしたい…   作:レッドクロス

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続きです。


今回は賛否分かれる結末になっています。


キャプションにもありましたが、普通ならアンチ対象にならないキャラが、この作品ではアンチになることがあります。

視点も変わることが多いですが、視点が変わった時のキャラクターの心境は自己解釈です。

強いヘイト要素を含んでいるので閲覧は自己責任でお願いします。


理解できなくても平穏を脅かされたくない。

ー比企谷八幡 sideー

 

 

富良野が部屋を出て行き、部屋には俺と雪ノ下、由比ヶ浜、材木座、遊戯部の奴らだけになった。

 

 

遊戯部の2人は未だに材木座の夢とそのスタンスを馬鹿にしている。

途中から雪ノ下が同調したこともあり、さらに調子に乗って材木座や俺たちに非難の言葉を投げる。

 

 

気の小さい材木座は何も反論できずに黙りこくっていた。

 

だが、その時に由比ヶ浜がポツリと絞り出すように呟いた。

 

 

 

 

「始め方が正しくなくても、中途半端でも、でも嘘でも偽物でもなくて………好きって気持ちに間違いなんてない……と…思う…けど」

 

 

 

 

…と遊戯部の2人を真っ直ぐに見て反論した。

 

 

 

遊戯部の2人と雪ノ下はいきなり声を上げる由比ヶ浜に驚く。俺も少しだけ驚いた。

 

 

 

由比ヶ浜の発言に勇気づけられたのか、奴らに言われっぱなしだった材木座も言い放つ。

 

 

「我は作家やライターになれなくても書き続ける!好きだからなるのだ!」

 

……と自分の感情をぶつけるように泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

そのタイミングで、俺はとっておきの6の札を4枚出す。

 

 

 

同じ数字のカードが4枚の役柄は『革命』だ。

 

これなら奴らに勝てるかもしれないとカードを集めてこっそり作っておいたのだ。

 

 

 

 

 

ところが、材木座が11の札を出し、『イレブンバック』を起こしてしまったため、この場に限っては革命が意味をなさなくなってしまった。

 

そして、場に出ているカードを全て暗記していたという驚異の必勝法を実践していた雪ノ下は、

自身の負けを悟り、サマーベストを脱ごうとした。

 

 

 

その時、雪ノ下に見惚れていたらしい遊戯部の1人、秦野がジョーカーの札を落としてしまう。

 

それを見た由比ヶ浜がすかさず自分のスペードの3を出し、次に雪ノ下が最後の札を出し、遊戯部との大富豪に勝利した。

 

俺の起こした革命が報われた瞬間だった。

 

 

 

 

こうして、勝利した俺たちに約束通り秦野と相模は軽く謝罪し、丸く納まった…

 

 

 

 

 

 

……と思われたその時、勢いよくドアが開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!君たち!何をしてるんだ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に野太い大人の男の声が響き渡った。

 

いきなり部屋に響き渡った野太い大声に少しだけ感動的なムードだった雰囲気がガラりと変わる。

 

ドアの方を見ると、それは教頭先生だった。

 

確かこの教頭は馬鹿が着くほど真面目で規則や生活指導にものすごく厳しい事で有名だ。

 

……何でそんな教頭がここに…?

 

 

そんな俺の疑問を他所に教頭は俺をみると目を見開いて大声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

「だ、男子生徒がパンツ一枚に……!こ、これは一体どういうことだね⁉︎」

 

 

 

 

 

 

教頭はパンツ一丁の俺を見て顔を真っ青にしながら俺たちに問いかけた。

 

その声でいきなりの教頭の登場に頭がフリーズしていた俺も自分の状態とこの状況に気づく。

 

不味いな…これは非常に不味い……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、違うんです!これは……!」

 

 

 

 

 

 

慌てて遊戯部の1人の相模が弁明を始める。だが、この状況でそれはかえって逆効果だ。

 

自分で言うのも何だが、中学の頃に虐められていた俺は濡れ衣を何度も着せられたことがある。

 

そんな経験をしている俺からしてみると、あいつのあの弁明は悪手だ。

 

ただでさえ疑われている状況であんな弁明をしても相手は言い訳にとしか受け取らない。

 

現に教頭は相模の言い分を信じているようには見えないからな。まあ、この状況なら仕方ないのかもしれないが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教頭先生、そこの人たちです。その1年生の2人と材木座君が脱衣ゲームを私たちに強要したんです」

 

 

 

 

 

 

その時、教頭の後ろから聞き覚えのある女子生徒の声が飛んだ。

 

聞き覚えのある声の女子生徒、それはさっき遊戯部の相模にゲームに誘われた時に部室から出て行った富良野だった。

 

彼女は教頭の後ろから出てくると無表情で遊戯部の2人と材木座を指差す。

 

遊戯部の2人は顔が真っ青になり、材木座は自分までもが指をさされたことに頭の理解が追いついていないらしく口を金魚のようにパクパクさせている。

 

そんな材木座たちを気にせずに富良野は教頭に『比企谷君はそこにいる遊戯部の2人に服を脱がされた』と説明する。

 

 

 

 

 

 

 

「な…何ですってぇ……?」

 

 

 

 

無表情で淡々と教頭に説明する富良野は材木座と遊戯部奴らを的確に追い詰めていく。

 

富良野の説明を聞いているうちに教頭の顔色はだんだん険しくなり、富良野の説明が終わると材木座たちを険しい顔で睨みつけた。

 

 

 

そして、俺たちみんなを見渡してこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「き、君たち!とにかく職員室に来なさい!詳しい話はそこで聞きましょう!」

 

 

 

 

 

教頭は下着一枚の俺に自分の上着をかけて『服を来たら君も来なさい』と言い残し、材木座と遊戯部と雪ノ下たちを連れて部室を出た。

 

さっきとは打って変わって青い顔の遊戯部の2人と現状についていけず混乱している材木座と雪ノ下たち、そんな彼らをお構いなしに教頭は職員室にみんなを連れて行き、部室には俺と富良野のみとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

唖然呆然とは今の俺のことを言うのだろう。俺はあまりの急展開に頭が働かなかった。

 

教頭に上着をかけられたままぼんやりと雪ノ下たちの連れて行かれた遊戯部の部室のドアを眺める。

 

 

 

「早く行こうよ、比企谷君。みんな待ってるよ」

 

 

 

急展開すぎて頭が働かない俺だったが、声をかけられたことによりハッと我にかえる。

 

声をかけられた方に視線を向けるとそこにはこの状況に似つかわしくない笑顔を向けた富良野がいた。

 

俺自身も女子に声をかけられる時は、こんな綺麗な笑顔を向けられたことはないが、こいつの笑顔には俺は見入ってしまった。

 

別に見惚れていたとかではない。いつも俺たちの前でしているような取ってつけたような仮面の笑顔ではなく、テニスコートやチェーンメールの時のような悪魔のような笑顔でもなく、本当に心の底から笑ったような笑顔を今の富良野はしていた。

 

いつもの仮面をつけておらず、目の前にいる富良野は本当の笑顔を俺に向けているように感じた。

 

 

 

「………っ!」

 

 

 

 

 

 

……気持ち悪い……!

 

 

 

 

 

 

俺は富良野のそんな笑顔を見ていると背中に気持ちの悪い悪寒が走った。

 

 

こいつはこんな状況なのに、心の底から『嬉しい』『楽しんでいる』というような感情を含む笑顔だ。

 

 

こいつの笑顔には材木座や遊戯部に対して怒りの感情は含んでいない。雪ノ下たちを心配している感情も含んでない。

 

ーー何故、こいつは笑っていられる…?何故、こいつはこんな状況でそんな笑顔ができる…?

 

 

 

 

 

「どうしたの?早く行こうよ」

 

 

 

 

 

 

 

俺が富良野に疑問の念を浮かべていると、富良野が俺の手を掴んで『早く行こうと』と急かした。

 

俺は制服を着直して手を掴まれたまま、富良野の後を追いかけた。

 

 

 

ー比企谷八幡 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー材木座義輝 sideー

 

 

「ねぇ…見てよ…!あのデブまた来てるよ!」

 

 

「あのクソデブ変態野郎、さっさと死ねば良いのに…!」

 

 

「本当に邪魔だわ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はぁ…またか……

 

クラスメイトからの心ない蔑みの視線と発言を背中に受けながら我、材木座義輝は顔を俯かせたまま自分の席に座った。

 

 

 

『変態野郎!材木座義輝!』

 

 

 

『女子を襲おうとした強姦魔!』

 

 

 

『重罪人!死刑!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、我の席にはいつもこんなものが書かれた紙がおいてある。

 

きっと、それはさっきからヒソヒソと敢えて我に聞こえるような声で話しているクラスメイトの仕業だろう。

 

前からクラスでハブられていた我だが、ここまであからさまなイジメは受けたことがなかった。

 

周囲の人間は誰もが我と距離を置き、誰一人として我に救いの手を差し伸べるようなことはしない。

 

本当にどうしてこうなってしまったのだ…。我は机の上の手紙を片付けて周りの嘲笑や陰口を背中に受けながら全てを失ったあの日に意識を飛ばす…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教頭先生に職員室に連れられ、そこで教頭先生がことのあらましを校長と生徒指導の平塚先生に説明した。

 

 

そこからは平塚先生に生徒指導室に連れて来られた。我らは今『座って待っていろ』と言われて椅子に座っている。

 

チラっと横を見ると遊戯部の2人は顔を真っ青にしガタガタ震えている、おそらく我も同じような顔をしているだろう。

 

奉仕部の4人は教頭を呼んだ富良野さんを除いて状況についていけないのか視線を彷徨わせていた。八幡だけは富良野さんに視線を向けていたが…

 

 

 

 

 

その時、ガラッと音を立てて生徒指導室の扉が開いた。

 

音に対して心がビクリと跳ねる。喉が渇き、背中に冷や汗が滲む。

 

扉を閉め向かい側に腰を下ろした教師、平塚静先生は我らを見渡して真剣な表情で口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、君たちをここに呼び出した理由は君たちのにもわかっているだろう?」

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

全員が無言。口は動かさず、より一層暗い顔をしてただ俯くだけだ。

 

我は何も答えられなかった。遊戯部の2人も青い顔のまま答えようとしない。

 

 

 

 

「沈黙は了承とみなすぞ、我が総武高校の生徒ならリスクリターンの計算はできると思っていたのだがな……」

 

 

 

 

その言葉に無意識に我は顔の筋肉が動いたのを感じた。どう見てもただではすみそうにもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も話し合いは続き、最後に疲れ切った顔の校長から我々への処分が言い渡された。

 

 

「……君たちを庇ってやりたいのはやまやまだが、部室で脱衣ゲームなどをする事など断じて許されるものではない。君たちの処分は未だ決議中でその間は無期限の謹慎処分となっている。少なくとも停学は免れないな…後ほど連絡がいくだろう」

 

 

 

そう言ってその日は解散となった。

 

 

 

 

家に帰るとすでに学校から連絡が入っていたのか、父親からは殴られ、母親からは泣かれ、その日は両親の怒声が我の家には響き渡っていた。

 

  

そして、次の日に学校から『処分が決まった』と報告が届き、我と遊戯部の2人には2週間の停学という処分がくだされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

2週間の停学があけて、我が学校に戻ってきたらそこにはもう我の居場所はなかった。

 

元からクラスで孤立していたからというのもあったが、クラスメイトは我を見るなり露骨に我を避けたり、我を遠ざけるようになった。

 

我の隣の席にはほとんど会話したことない女子生徒が座っていたが、その女子は我が教室に入るとあからさまに我と距離を置き、同時に『ごめん…席変わって欲しいんだけど…』と前の席の男子生徒に席をかわるように申し出ていた。

 

席を代わった男子生徒も『脱衣ゲーム』をして停学をくらった生徒とは進学にも影響するからか今後の学校生活に影響するからか分からないが、我の近くには近づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

女子生徒に至っては我をゴミのように扱う。プリントを回される時は投げて渡されるし、我が通路を塞いでいる時は『死ねやゴミ…』と言われることもある。

 

担任も我がこうなったのは自業自得と思っているのか手を差し伸べずに見て見ぬ振りを決め込んでいる。

 

 

両親にも助けを求めたが、あの遊戯部との勝負が発覚したときに学校側から連絡が入っているため『自業自得』や『本来なら退学になるのを免れたんだからそれだけでもマシと思え』など言われ突き放されるのみだった。

 

 

学校としては部室で女子に脱衣ゲームを強要していたという事は、進学校としての名誉にも関わってくるので、あまり大ごとにしたくないらしく、外部にこのことが漏れるのを何とか避けるため、我らを退学にしなかったのだろう。

 

だが、やはり後々今の我のような問題がどうしても生じてくるため停学の処分が下された時は担任の教師からは『転校』を勧められた。

 

だが、我の親は経済的に余裕があるとは言えず、引っ越しも転校も今は出来ないらしい…

 

 

 

つまり、我は逃げることも出来ないという事だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奉仕部の面々は富良野さんの証言と平塚先生の判断により『被害者』と見做されて注意だけで処罰は下されなかった。我に挑発されたとはいえ、勝負事には乗り気であった雪ノ下嬢も被害者とされることになった。

 

何故なら、あの後の話し合いで富良野さんから状況と話を聞いた平塚教論が『雪ノ下は遊戯部と材木座に脱衣ゲームを強要されたのだ』と判断したからだ。

 

それに便乗するように由比ヶ浜嬢も『もともと依頼を持ってきたのは厨二でゆきのんは悪くない』などと言い始め、我がもともと奉仕部に依頼を持ってきたと言うこともそこで露見した。

 

最後のとどめは教師を呼びに行った富良野さんのこの証言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『奉仕部の人たちは脱衣ゲームに巻き込まれただけです。材木座君が依頼という名目で来たので、遊戯部という部室に向かい、そこで大富豪の勝負をしたのですが、負けたら服を脱ぐという行為を勝負が終わってから急に遊戯部の2人が話したのです。それまでは私たちは遊戯部の脱衣ゲームのことなんて知りませんでした』

 

『その後、遊戯部の人たちに強要されてゲームを再開しましたが、材木座君は脱衣ゲームに便乗して雪ノ下さんたちの裸を見たかったらしく、私たちを裏切って脱衣ゲームを強要した遊戯部の味方をしていました。その後も比企谷君が下着一枚になっても彼は率先して比企谷君を遊戯部と共に侮辱していました』

 

 

 

 

 

 

教師を呼びにいった富良野さんの発言力は強く、今のこの場で最も信用ある証言だった。

 

彼女の話に嘘はないし、我自身も雪ノ下嬢たちの裸が見たくてつい出来心で遊戯部の方に加担したのにも嘘はない。

 

話を聞いた教師陣も富良野さんの証言の方に信頼を置いた。

 

こうなればもはや我らの話など言い訳にしか聞こえないだろう。

 

我らが『奉仕部の面々もその勝負に同意していた』といくら言っても言い訳にしか聞こえないし、そもそもあの時に同意していたのは雪ノ下嬢だけで由比ヶ浜嬢と八幡と富良野さんは反対していた。

 

それに、どんな理由があったにせよこの場で重要なのは『脱衣ゲームを強要した』という事実だけ。誰がどう見ても我らに非があるとしか思われないのだから…

 

結局、我が思った通り今回の脱衣ゲームの件は我らに非があるとみなされ、我らは停学処分を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、停学が開けて戻ってきてみればこの有様だ。

 

 

 

 

遊戯部の2人も我と同様に悲惨な運命が待っていたようだ。相模という奴は転校し、もう1人の泰野という奴は不登校になり引きこもりになったらしい。

 

まあ、殆どがクラスメイトらが昼食の話の肴にしているのを盗み聞きした話だからどこまで真なのかは分からないが似たようなものだろう…

 

 

奉仕部の面々とはあれ以来は疎遠になっている。

 

 

雪ノ下嬢とはそもそも学科が違うため会うことはないし、由比ヶ浜嬢とはたまにすれ違うが、我の姿を見るだけで嫌悪感を剥き出しにした視線を向けてくる。

 

 

八幡とも疎遠になっている。というか怖くて会いにいけなかった。

 

八幡は我のたった1人の友達だ。我と対等に付き合ってくれて、批評が多いが我の夢であるラノベの原稿もなんだかんだで読んでくれていた。

 

そんな八幡からも拒絶の言葉をクラスの人たちのように投げられたらおそらくもう我は立ち直れない…

 

あれからラノベの原稿を書くのはやめた。もう読んでくれる人はいないのだろうから…

 

たった一回の出来心で信用もやっと出来た友達も失ってしまった…

 

 

 

本当にどうしてこうなってしまったのだ……

 

 

 

 

我は後悔の言葉を心の中で呟きながらクラスメイトの軽蔑と嘲りの視線を背に受けて毎日を送っている……

 

 

 

 

 

 

ー材木座義輝 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー富良野英理華 sideー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……上手くいって良かった…」

 

 

 

生徒指導室の話し合いから解放され、教師から『君たちは帰って良い』という帰省の許可を得て、未だに周りについていけてないのか呆然としている雪ノ下さんたちを放って私は帰路に着く。

 

その道中で解決策が上手く行ったことにホッと胸を撫で下ろす。

 

今回はヒヤヒヤした。危険な打開策だったから使うのは躊躇ったけど上手くいったのなら何もいうことはない。

 

 

 

 

 

材木座君たちが停学の処分を下された時は胸がスッとした。

 

この解決策を使ったのは自分の平穏のためだったけど、材木座君と遊戯部の2人にも痛い目にあって欲しかったという感情もあったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室の話し合いの時に、遊戯部の2人はともかく材木座君は最初は自分も咎められる意味が分かってなかったみたいだけど、私からしてみれば今回の元凶は貴方だ。

 

奉仕部に自分の夢を馬鹿にされたという依頼を持ってきておきながら、『土壇場で女子の下着が見たい』という下卑な目的で遊戯部に寝返り、その後も脱衣ゲームを止めることも比企谷君を擁護する事もせずにヘラヘラしていただけ。

 

あの時の材木座君は見ているだけで気分が悪かった。

 

普段は自分が被害を被らなければどうでも良い私だけど、あの時は材木座君にいつも以上の嫌悪感を抱いた。

 

 

 

脱衣ゲームを強要したと見做された遊戯部の2人も、『あれは一種の作戦だった』とか『相手の心理を揺さぶるためで本当にするとは思わなかった』と言っていたけど、第三者からしてみればそんな事はどうでも良い。大事なのは脱衣ゲームを強要したという部分だけなのだ。

 

自分たちの方から大富豪に負けたら服を脱ぐというルールにしたのは私たち奉仕部みんなが証人だし、現に比企谷君は下着一枚という現状だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、この解決策を私が脱衣ゲームの時にすぐに使わなかったのはこの策には大きな危険が含まれていたからだ。

 

私が教師を遊戯部の部室に連れてきたときに、比企谷君がその下着一枚の姿でなかったら、『遊戯部に脱衣ゲームを強要されたという』私の発言にあそこまでの説得力はなかったし、遊戯部や材木座君に惚けられたら彼らに引導を渡すには不十分だからだ。

 

それに、私が呼びに行っている間に比企谷君を助けなかったとして由比ヶ浜さんと雪ノ下さんにも目が向く可能性もあった。

 

あの2人がどうなろうと私には関係ないけど、生憎あの2人と私は奉仕部というバカな鎖で繋がれている。

 

依頼を受けたのは雪ノ下さんでも脱衣ゲームが行われた時にすぐさまそれを辞めなかったとして私たち奉仕部全体に非難がいく可能性もある。

 

そもそも悪いのは遊戯部と材木座君の挑発にのって馬鹿げた勝負に乗った雪ノ下さんなのだけれど、彼女の性格上『奉仕部として依頼を受けていました』とでも言うだろうから、そうなると私の思い描いていた、『奉仕部は完全なる被害者』という計算が崩れてしまうからだ。

 

私たちがノーダメージになるには私たちは完全なる被害者と認識させなければならない、だからこそ私は遊戯部だけではなく、奉仕部に依頼を持ってきた張本人であの場では何もいえないであろう材木座君を引き合いに出して彼の方に教師たちの非難を向けたのだ。

 

材木座君が悪者になれば私たちは『彼の依頼に巻き込まれた被害者』という私の狙い通りの結末になるからね。

 

私たちにも責任があるとみなされたら、たとえ教師を呼びに行ったとはいえ、私まで処分を受ける可能性も少しはある、そのため材木座君には私たちを守る壁役になってもらったのだ。

 

いつも以上にヒヤヒヤしたけど上手くいって良かった。学校側は私たちを完全なる被害者と認識してくれたようだしこれで私は安全だろう。

 

流石にまるっきりの無罪放免というわけには行かずに平塚先生からの軽い説教と注意はされたけどね。

 

でもまあ、材木座君たちの事を考えるとはるかにマシだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奉仕部というある意味の元凶といえる存在も同時に助かるのは少し癪だけど、私の狙い通りの結末になるには下着一枚の比企谷君が属している奉仕部が悪者になるわけにはいかなかったのだ。

 

比企谷君は私たちが『被害者』で『加害者』は材木座君と遊戯部だという主張を証明するための証拠だし、その彼が属している奉仕部が悪者になってしまえば、奉仕部も責任があるという事になってしまい私にまで被害がきてしまうかもしれない。

 

それに、最悪の場合は今までのことを全部調べられてしまうかもしれないのだ。

 

チェーンメール、川崎さんの深夜のバイト、他にも後ろ暗いところが奉仕部にはたくさんある。

 

もちろんただの可能性の話だが、可能性がゼロでないのならその可能性を回避したい。

 

 

 

 

でも、成り行きとはいえ今回のことを引き起こした原因でもある奉仕部まで助かったのはやっぱり気がかりだ。

 

でも、私の平穏をためにも奉仕部にはどうしても『被害者』として助かってもらわなくてはならないから仕方ないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……にしても、生徒指導室で『被害者』である私たちの証言を材木座君が青白い顔で巨漢を震わせながら聞いているのは見ていて滑稽だったな。

 

『我は剣豪将軍』とかいつも偉そうに言ってる面影はどこにもない。あれはまるで謀反がバレて処刑されるのを待つ罪人だったしね。

 

遊戯部の2人も、脱衣ゲームの時の余裕振りはどこにもなく、ただ処分されるのを待つか弱いウサギのようだった。

 

故人の言葉にこんな言葉がある。『人を撃って良いのは撃たれる覚悟のある人だけ』という言葉だ。

 

今回のはまさにそれだった。遊戯部の2人はリスクを何も考えずに『脱衣ゲーム』なんてルールを提案したし、材木座君も遊戯部と同じくリスクを何も考えずに女子の下着が見たいという自身の下劣な欲望を叶えるために奉仕部を裏切ったしね。

 

 

つまりこれは彼らの軽はずみな行動による完全なる自業自得。どう考えても同情の余地はない。

 

これから彼らがどうなるかは知らないけど、少なくともこれまでと同じような生活は送れないだろう。

 

学校側としては進学校の名誉に傷をつけたくないだろうから自主退学とか転校を進めるかもね、でもそうなったとしても彼らが自分で撒いた種だ。

 

私はただ彼らが遊戯部で脱衣ゲームをしていたということを教師に報告しただけ、私には何の非もないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも、今回のことで私には1つだけ分からないことがある。

 

それは、遊戯部の2人が脱衣ゲームだとカミングアウトした時に、比企谷君が『俺が2人の分まで負けを背負う』と言ったことだ。

 

こう言ったら悪いけど、比企谷君が雪ノ下さんと由比ヶ浜さんを助ける理由はどこにあるのだろう。

 

雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも常日頃から彼を罵倒しているし、私的にはあの2人が比企谷君に友愛を持っているとは思えない。

 

そもそも比企谷君自身もあの2人とは「友達ではない』と言っている。つまりあの2人と比企谷君はただの部活メイトというだけで他人であり、あんな目にあってまで助けるようなメリットがあるとは私には思えない。

 

そんな人たちのために何でわざわざ下着一枚になるリスクを承知で脱衣ゲームを受けたのだろう。

 

 

 

比企谷君がどうして自己犠牲とも取れる行動をしたのかは分からないけど、私からしてみれば彼は本当に愚か者だ。

 

脱衣ルールを聞かされてもリスクを承知の上で勝負を受けると自分で言った自己中な部長と、その部長を止めもせずに自分が下着一枚になってもオロオロするばかりでフォローもしない部員のわざわざ恥をかいてまで盾になったのだから。

 

はっきり言って、私にはあの時の比企谷君は『漢らしい』というより『走狗』と言った方がいいだろう。

 

彼の奉仕部の入部の経緯を聞いた時も思ったけど、本当に彼の行動は由比ヶ浜さんより矛盾している。

 

日頃から『無駄なことには面倒くさいから関わりたくない』という捻くれぶり見せているのに、遊戯部の脱衣ゲームに対して異常だと気付いていただろうに何も言わなかったし、『友達ではない』と自ら言った雪ノ下さんたちの負け振りを自分を犠牲にしてまで背負うなんて…

 

本当に彼は何がしたいのか分からない。

 

無駄なことが嫌いなのなら、脱衣ゲームの時に理由を説明して自分だけ降りるか、雪ノ下さんたちを見限るとかすれば良かったのに。

 

私からしてみれば彼の行動こそが、彼自身が嫌う『無駄なこと』のように思えてならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも、遊戯部の部室から職員室に向かう時に彼が引きつった顔をしていたのは何故だったんだろう…

 

あの時の彼はいつもの気怠げな表情ではなく、何か怖いものを見た様な恐怖の感情を含んでいる表情だった。

 

しかも、その視線は私に向けられていた。

 

あの時は私に落ち度はなかったはずだし、比企谷君に声をかけた時もいつもの営業スマイルをしたつもりだったんだけど…

 

理由は全く思いつかない。私の作り笑いを見破ったとしても彼ならば川崎さんの依頼の時のような不信感を含んだ視線を向けてくるはずだ。

 

それなのに彼はどうしてあの時に恐怖の感情を含んだ視線を私に向けたのだろう…

 

……あの視線はどういう意味があったんだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は比企谷君が私に向ける感情が分からず、頭の中に浮かび上がった疑念を誰かに問いかけるように口に出す。

 

 

 

 

「……どうして……?」

 

 

 

 




後書き


今回はここまでです。


いつも以上にめちゃくちゃで申し訳ありません…








たくさんのフォローやマイピク申請ありがとうございます。


たくさんの感想やメッセージまでいただきありがとうございます。


ご指摘、感想がモチベーションに繋がるのでコメントをいただけたら嬉しいです。











すいません、今回はかなり遅くなりました。

今回は作者の妹が執筆しましたので、少し作風が変わっていると思います。

実は私が交通事故に遭って両足を骨折してしまい、執筆が出来ずにいたのですが、私の妹が『代わりに書く』と言ってくれたので妹に書いてもらいました。

次回はまた私が書きます。

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