普通ならアンチ対象にならないキャラが、この作品ではアンチになることがあります。
強いヘイト要素を含んでいるので、閲覧は自己責任でお願いします。
話の構成上で少しだけ展開が原作とは変わっています。
ー翌朝ー
「ふぁぁ………」
「ふらのん…どうしたの?顔色悪いしすごい眠そうだよ?」
次の日の朝、眠い目を擦りながら私は朝食の席に着く。その隣で由比ヶ浜さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
『寝る前に貴女たちが騒がしかったから眠れなかったんだよ』と眠気のせいで悪態を吐きそうになるがグッと堪えた。
しかし、眠気のせいでぼんやりする頭ではいつもの営業スマイルも気の利いた言葉も出てこない。
昨日の夜の散歩を終えてバンガローに戻って布団に入ったが、結局その後も眠れることはなかった。
私は普段は眠りがとても深く、いつもなら布団に入った途端に意識がないのだけれど、昨日はやけに目が覚めておりなかなか寝付けなかった。
仕方ないので、眠れる古典的な方法である羊を数えたりなどをして眠気を誘ったがそれでも眠れずに、布団の中で何度も寝返りをうった。横でグースカ気持ち良さそうに寝ている由比ヶ浜さんを見て叩き起こしてやろうかと思ったほどだ。
それもあって最終的に眠れたのは午前2時過ぎだっただろう。
そのせいで寝不足だ。頭はフラフラするしイマイチ身体に力も入らない、寝不足のせいでいつも通り振る舞うことが出来ない。
全く散々だ。本当にこの合宿に来てからロクな目に合わない。
由比ヶ浜さんは返事を返さない私に見切りをつけたのか今度は雪ノ下さんの元に向かう。
「ゆきのん、具合でも悪いの?」
「問題ないわ…………どうかしたの?」
雪ノ下さんの隣に座り、私にしたように彼女の顔を覗きこむ。雪ノ下さんが質問の意図を尋ねる。
「いやぁ…何か気になることがあるみたいだから…昨日の話し合いのこともあるし…」
「別に問題ないわ」
雪ノ下さんは淡々と由比ヶ浜さんに返す。
他人に自分の弱さを見せたがらない彼女らしく、自分の落ち度は隠したいようだ。
「そう…?そうだったら良いんだけど…でも、ゆきのん…顔が引きつってるっていうか…余裕が無いっていうか……」
「……まあ、そうね。私たちが鶴見さんのために何かできるのは今日が最後だもの。余裕はないわね」
鶴見さんからの助けは求められてないのに助けるのは変わらないのね…
雪ノ下さん、昨日の話し合いの前に『彼女が助けを求めてきたら助ける』と言っていたのに、自分のエゴで助けようとしているのだから。
一晩寝たら自分の矛盾くらいには気づくと思ったけど、少しも気づく様子はない。
まあ、雪ノ下さんが焦るのも分かる。
私たちが鶴見さんを含む小学生と一緒に過ごすことができるのは実質的には今日が最後だ。
明日はすぐに車に乗って千葉に帰らなければいけない。つまり、彼女の問題を解決するのは今日がラストチャンスだからだ。
彼女の性格上、鶴見さんのイジメ問題を解決させないと自分自身が納得できないだろうからね。
「そう…なにかあったらいつでも言ってね!あたし、ゆきのんのためなら何でもするからさ!」
「ありがとう由比ヶ浜さん」
でも、雪ノ下さんは由比ヶ浜さんの力強い協力宣言に少し勇気づけられたのか笑顔で返事を返す。
それでも、自分自身の矛盾には何一つ気付いてないようだけどね。
やがて朝食を全員が食べ終え、葉山君が平塚先生に『今日は何をするんですか?』と指示を求める。
「うむ。今日はまず、今日の夜の最後に行われるキャンプファイヤーの準備をしてもらう」
キャンプファイヤーの準備か。これはどうやら昨日と違って力仕事をさせられそうな気がする…
「木材運びとフォークダンス用のライン引きを手分けして行いたまえ。分担は各自に任せる。それが終わり次第、昼まで自由時間とする。午後からは肝試しの準備だ。君たちにはお化け役及びコースの巡回をしてもらう。何か質問のある者は?」
先生に質問する者はいなかった。
まあ、今の説明は分かりやすかったし作業も単純だったから質問する必要ないと思うけどね。
「よし…それでは全員で朝食の後片付けをした後でキャンプファイヤーの準備をするぞ」
平塚先生の号令に全員が席から立ち上がり動き出した。
『働くときや作業をするときは、静かに黙々と取り組む方が効率が良い』。
故人の言葉であるこの格言を私は正しいと信じている。
無駄な話や不必要な助言をもらってもそれは仕事や作業の妨げになるだけ、本来仕事や作業というものは1人で黙々と行う個人競技のようなものだ。
それを履き違えて『作業も遊びと同様に明るく楽しくした方が良い』だなんていう人もいるけど、それは『怠けたい』という心情の裏返した。
別にブラック企業のような働き方が良いとは言わないけど、騒がしくされて働くのを邪魔する権利はその人たちにもないはずだからね。
「マジ重いわー!キツすぎっしょ!」
そう思っていると、私の耳にやたらと大きな声の男子生徒の声が入ってきた。
声のした方をみると、それは私と同じくジャンケンで負けて薪を運ぶ仕事になった葉山グループの一人である戸部君だった。
にしても、相変わらず彼の知能の低そうなチャラい声は不快を募らせるな…薪運びで疲労が溜まっている今なら余計にそう感じられる。
現在、私たちがやっているのは夕方のキャンプファイヤーで使う薪運びだ。
今夜はここでキャンプファイヤーをしながら小学生たちがフォークダンスをするらしく、今はそのための準備に追われている。
作業の組み分けは葉山君が中心となって行ったが、どの作業を誰がするかで揉め事が起き、最終的にジャンケンで作業の分担が決まった。
だが、私には運さえもないらしく、ジャンケンで負けてしまい、力仕事の薪運びになってしまったのだ。
「はぁ…はぁ…重い……」
キャンプファイヤーで使う薪はかなり多い、おまけに運ぶ薪は女の私には凄く重く感じられた。
174cmと身長が高いことから、私はスポーツが得意と勘違いされる事が多いのだが、スポーツ経験なんて体育の授業以外にはないため別に力があるわけではない。
そのため、昨日の夕食の時に平塚先生から炭を運ぶように言われた時と同じくよろよろと不器用に薪を運ぶ。
……少しだけでも気を紛らわせるために思考の海に沈んで軽く現実逃避していたのだが、さっきの戸部君の大声のせいで現実に引き戻されてしまったのだ。
「あぁぁ!もう、この薪マジで重すぎなんですけど!やってられない!」
その時、私の近くに突然持っていた薪束を放り出して喚きだす者がいた。
『煩いなぁ…』と見れば、その人物は三浦さんの後釜に触ったクラスの新しい女王の相模さんだった。
時折軽く後ろを振り向いては『可愛そうな自分を助けて』的なアピールを離れた所にいる王様にしているけどね。
実は相模さんもジャンケンで負けて薪運びになっていた。だが、力仕事の薪運びなんて女王様はお気に召さなかったらしく、すごい嫌そうな顔をしたいけどね…
したくない薪運びの仕事をさせられて、相模さんは薪を放り出して『嫌々〜』と小学生のような駄々をこねている。まるで誰かが助けてくれるのを待っているようだ、葉山君をさっきからチラチラ見ているのは彼に手伝って欲しいからだろうけど。
自分の力で成し遂げない、人に助けてもらうなんて考えが甘すぎる。そんな貴女を気にかけるほど、みんなは貴女に優しくないと思うし。
まあ、相模さんに構っている暇はない。
さっさと薪運びを終えて自由時間にしよう…
「……あ!ちょっとデカ女、こっちに来てよ!」
私が相模さんを無視して彼女の前を薪を運んで通ると、相模さんが私に声をかけてきた。
名前を覚えてもらえてないのか、蔑称なのか分からないけど『デカ女』とは私の事を指すのだろう。
ため息をつきたいのを堪えて、相模さんに営業スマイルを張り付けて振り返ると、笑顔を浮かべた相模さんが私を手招きしている。
相模さんを見て私の気はさらに重くなる。あの笑顔は中学時代に私を虐めていた人たちがしていた笑みだ。
もう嫌な予感しかしないけど、クラスの中心人物に逆らうとろくな目に合わないのは経験済みなので、私は彼女の元に何も言わずに向かう。
「……どうしたの?」
「アンタさ、ウチのこの薪を変わりに運んどいてよ。ウチ、足痛くて運べないんだわ」
「………え」
「良いじゃん、ウチら友達でしょう?やってよ〜」
相模さんの要求に思わず私は営業スマイルを崩しかける。今運んでいる薪だけでも精一杯なのに彼女の分まで運ぶと正直かなりキツイ。
難色を示す私に気づかないのか、相模さんが私にあの悪意のある笑顔を向けて私の恐れる鎖である『友達』という言葉を使う。
権力者が平民を使うための魔法の言葉が『友達』だ。
スクールカーストの権力者にその魔法の鎖を使われたら、私のような平民がそれを断るのは虐めや無視という悪意の地獄に落とされる片道キップを渡されるようなもの。
実際、私と相模さんは友達ではないし、仲良くもない。それならもう間違いなく私を自分の奴隷にするための魔法の言葉を使っているのだろう。
現に相模さんは私に『断らないよね?』的な感情を含んだ笑顔を向けているからね。
「……分かった。良いよ」
「ありがとう!助かるわ〜」
権力者に逆らうのは、いつだって強い意志を持つ反逆の意思を持つ反逆者だ。
でも、平穏を失いたくない臆病な私はそんな強い意志を持つ反逆者にはなれない。
そのため、私は権力者から握られている鎖をを断ち切ろうとせず、彼女に要求に素直に従う。
相模さんは私が承諾すると、『もうアンタに用はない』と言いたげに私に自分の運んでいた薪をドサっと押し付け、葉山君の元に走って行った。
てか、足痛いって私に言ったんだからせめてその演技くらいはしなよ…走って行ってるし。
私は相模さんの後ろ姿を見ながら、彼女にそう毒づくと相模さんの薪をその場に置いて自分の薪を先にキャンプファイヤーファイヤーをするグラウンドの中心に運ぶ。
運ぶ薪は後10束くらいかな。みんなで運んているから後2往復くらいすれば休めそうだ…
私はそう思い直すと息を一つ吐いてまた薪束を運びに行った。
ふと、私の脳裏に今回の厄介事の中心にいる少女の顔が浮かび上がった気がしたが、頭を振ってその考えを打ち消した。
「はぁ…疲れた……」
キャンプファイヤーの準備が終わり、昼までは自由時間という事で私は近くの木の木陰で一休みしていた。
その近くでは由比ヶ浜さんたちが川の中ではしゃぎ回っている。彼女たちの楽しそうな声を聞きながら私は木陰の涼しさを堪能した。
本当は由比ヶ浜さんに『川で遊ぼう』と誘われたのだが、水着なんて持ってきてないし、さっきの薪運びでヘトヘトの私はそんな気になれずに断ったのだ。
てか、そもそも海に行くわけでもないのに、水着なんて何でみんな持ってるんだ?あの、雪ノ下さんまでも持っていたのには流石に驚いたよ……
「きゃははは!気持ちいいよ!ゆきのんもほら〜」
「…………」
由比ヶ浜さんが雪ノ下さんにパシャっと水をかける。雪ノ下さんは黙ったまま彼女の胸を凝視している。
おおかた、由比ヶ浜さんのグラマーなスタイルを羨ましがっているのだろうけど、スレンダー体型も需要あると思うし気にしなくて良いんじゃないの?
そもそも由比ヶ浜さんの場合は頭の栄養分が全部胸に入ってると思うから気にしなくても良いと思うし。
そうこうしているうちに男子もやってきた。葉山君と戸部君も水着に着替えており、相模さんたちと一緒に川遊びに興じている。
「あれ?ねぇさいちゃん…ヒッキーは?いないけど…」
由比ヶ浜さんが水着にパーカーを羽織った格好の戸塚君に尋ねる。私もつられて辺りを見渡すが比企谷君の姿が見えなかった。
「あ、うん。どこか適当な場所でぶらぶらしてくるって言ってたよ」
「そうなんだ…なんか残念」
「なんだ?由比ヶ浜はそんなに比企谷と遊びたかったのか?」
平塚先生がからかい気味に由比ヶ浜さんに尋ねる。
「…ち…違います!あたしはそんな、ヒッキーがいないから残念とかじゃなくて、せっかくみんなで遊びに来たんだからみんなで遊べればよかったなぁって思っただけで……!」
由比ヶ浜さんが顔をタコのように赤くして手を顔の前でブンブン振って分かりやすく否定するが、途中から何を思ったのか無表情に戻っていく。
「……あれ?あたしなに言ってんだろ」
無表情から今度は『たはは』と笑う由比ヶ浜さん。にしても慌てたり笑ったり彼女の表情筋は忙しなく動くものだな。
「まったく…あいつは環境が変わってもあいつ自身は変わらないのか……」
今度は平塚先生がそう呟いた。まあ、比企谷君を『矯正』という名目の元に奉仕部に入れたんだから何かと思うことがあるのかもね。
でもまあ、虐め問題を生徒に解決させるような貴女に矯正させられるものなんて何もないだろうけど…
「仕方が無いと言えば仕方が無いが、あいつはもう少し協調性を身に付けてもいいように思うのだがね…………まあ、自由時間なのだし、そこまできつくは言わないが。そこで座っている奴にも同じことが言えるがね」
平塚先生は比企谷君に対してそう言うと、今度は分かりやすく私の方を見てそう言った。
まあ、私がこの奉仕部に強制入部させられたきっかけも『協調性が〜』とか言いがかりのような理由だったからね。比企谷君と同じようなものだったのだろう。
それにしても、平塚先生。私は『薪運び』で疲れてるからこうして木陰で休んでるんですよ。由比ヶ浜さんたちと遊んでないからって協調性がないと判断するのはやめてもらえませんか?
「平塚先生、あんな男の事なんて気にしてもしょうがありません」
私がそう内心で平塚先生に抗議していると、今度は雪ノ下さんがキッパリと言う。
相変わらずの冷たい物言いに平塚先生は苦笑を浮かべて『何かあったのか?』と問いかけ、由比ヶ浜さんと戸塚君が昨日の事を説明する。
戸塚君の説明を聞くと、平塚先生は急に真面目な顔になって『そのままだと君はいつか追い詰められてしまうぞ』と雪ノ下さんに忠告するように言った。
雪ノ下さんは平塚先生の言葉の意味が分かってないみたいだけど、おそらく平塚先生は雪ノ下さんに『自分だけで気負わずにもっと周囲を見ろ』的な事を言ってるのだろう。
確かに雪ノ下さんは『自分が優秀だ』と常日頃から思っている自意識過剰かつ独りよがりな性格だ。
だからこそ、平塚先生の言ってる通り周りを見ずに自分だけでやり遂げようとする。
今回の鶴見さんのイジメ問題に関してもそうだ。おおかた、チェーンメールの時ように『私が虐めっ子たちに話をつけて力づくでやめさせる』的なつもりだったのだろう。
まあ、昨日の話し合いの時点では反対意見しか言ってないから、彼女はただ単に自分と因縁がある葉山君に対抗しているだけなのかもしれないけどね。
ていうか、そもそも平塚先生の雪ノ下さんへの助言もそんなに的を得てないように見える。
平塚先生は雪ノ下さんの事を思って言ってるみたいだけど、平塚先生も雪ノ下さんの表面しか見ていない。
私は雪ノ下さんとの付き合いは平塚先生よりも短いけど、彼女に本当に必要なのは『周りを見て助けてもらうこと』ではなく、『自分の力量を把握すること』だと思う。
私が奉仕部として今まで関わってきた依頼の大半は高校生の部活動が解決できる依頼ではなかった。
チェーンメール、深夜のバイト、遊戯部、そして小学生のイジメ問題など、どうみても高校生が解決できる依頼ではないにも関わらず、雪ノ下さんは『自分は優秀だから解決できる』という根拠のない自信からこの依頼を奉仕部として受けてきた。
別に貴女1人で受けるなら私は何も文句はないけど、その貴女の『奉仕部として』という鎖に私を勝手に組み込むのはやめて欲しい。
貴女には常に成功というビジョンしか見えてないみたいだけど、失敗したときの事を何も考えてない。
もし失敗したら奉仕部として受けた貴女のせいで巻き込まれたも同然の私や比企谷君たちまで被害を被らなければならないのだ。
貴女にその覚悟はあるの?失敗した時の責任が取ることが出来るの?
どんなに成績が優秀でも、どんなに自分が優れていても貴女はただの高校生だ。貴女が出来ることは限られている。
全てに手を伸ばせるほどの力量は貴女にない。責任も取れずに依頼を安請け合いする貴女は貴女自身が嫌う無責任というものだ。
ていうか、チェーンメール、遊戯部、深夜のバイトは私が行動しなければ大変なことになっていたかもしれないのだ。自分で言うのもなんだけど今までの依頼を解決したのはほとんど私で、貴女は依頼を受けただけで何も解決には携わっていないよね?
もうこれだけのことがあれば、比企谷君たちも平塚先生も雪ノ下さん自身も『雪ノ下雪乃は自分が思っているほど優秀ではない、ただの高校生だ』という事が理解できるはずだ。
そんな『ただの』高校生に小学生のイジメ問題を解決させるなんてできるわけがない。それなのに平塚先生は私たちに問題を丸投げをする。この人は一体私たちに何をさせたいんだ?
そもそも私としてはこの生徒だけでは解決できそうにもない虐め問題を私たちに解決させようとする平塚先生にそんな事言われても綺麗事にしか聞こえないんだけどね。
私がそう思っているなかで平塚先生は雪ノ下さんに『後は君自身で答えを見つけなさい』とどこぞのドラマの教師が言っていたようなセリフを吐いて満足したようにどこかに行ってしまった。
平塚先生の自己満足のような綺麗事の演説が終わると、私はため息を一つ吐いた。
……結局、何も解決していない。
それどころか、この場にいる人は誰も理解していない。自分たちのやろうとしている事がどれだけ愚かな事なのかすらもだ。
貴方たちが行動するだけで虐められっこの留美さんも貴方たちも不幸になる結末に近づいているのにそれに誰も気づかない。
貴方たちは本当に進学校の生徒なのだろうか、勉強できるだけの能無しに思えてならないんだけど…
まあ、私の求めている答えはここにはない。こんな人たちに少しでも期待していた私が愚かだった。
でもまあ、私も知らぬ存ぜぬでいくわけにはいかない。
無視しようにも、この虐め問題には既に平塚先生の『奉仕部として解決しなさい』という鎖によって避けられないものになっている。それに『鶴見さんを助けなければ』とかいう偽善者によって傍観者でいることもできない。
……ていうか、昨晩の話し合いから察する限りこの人たちに任せて傍観者だと私の想像する最悪の結末を迎えそうだ。
そのため、この人たちが少しでもまともな行動をしてくれる事を期待したのだが、この体たらくだ…
……はぁ…こうなったら…仕方ない……
この人たちから得られるものは何もない。ここにいるだけ無駄だ。
私は涼んでいた木陰からため息と共に立ち上がりその場を離れた。
ー富良野英理華 side endー
ー比企谷八幡 sideー
「あ、え~と…」
「……八幡だよ、比企谷八幡。自己紹介したばかりなのにもう忘れんじゃねえよ、ルミルミ」
「ルミルミじゃないよ、『留美』だよ。……八幡こそルミルミ言わないで」
戸惑った様子の留美は俺を『ルミルミ』呼びに顔を顰めながら言い返す。結構いいあだ名だと思ったんだがな…
「…そんで?こんなところで何してんだ?」
「散歩してるの……他のみんなとは一緒に居られないから…」
俺の問いかけに留美は顔を俯かせてそう答えた。
留美の手元にはカメラが握られている。なんでも親が友達と居る証拠に写真を撮ってこいとか言われたらしい。
……にしても虐められている娘に対して随分と残酷なことを言う親もいるもんなんだな。
昨日の話し合いでも結局結論は出なかったし、留美の状況は少しも好転していない。こんな状況にも関わらず葉山たちは留美を無理やりみんなの輪に入れようとするんだからな。
まあ、所詮ぼっちの心は同じぼっちにしかわからんのだろうな…
あいつらに理解できるとは思えないしな。
まあこんなことを言ったところで、あいつらは聞く耳持っちゃくれないだろうが……
「……まあそんなところだ。恐らくお前と同じ悩みことだ」
「……同じって?」
「葉山って奴いただろ?そのリア充の奴らがお前を救いたいんだとさ、全く笑える話だろう?」
「……救うってどうやって?」
俺の『救う』という言葉に少しは希望を見出したのか、留美は何かを期待するような眼差しで俺を見返す。
だが、生憎と留美の期待するような解決策を取ろうとはあいつらはしていない。
あいつらのやり方では留美の状況は何も好転しないし、むしろ現状を悪化させる事だってある。
それは留美自身が1番わかっている事なのだろう。
だからこそ、俺がさっきのやり取りをありのまま伝えたら留美は青ざめた顔になり嫌悪感を顕にしたからな。
「みんなと話し合うだなんて無理だよ……そんなことで解決したらこんなことにはなってないんだ……!」
「…だろうな……だが、あいつらにはそれがわからないんだろうがな……」
「もう嫌だよ……どうにもならないよ…」
まさに皮肉だな。
これはありがた迷惑どころか、単なる迷惑でしかない。
葉山グループの連中が留美のために起こす行動がまさか留美自身を苦しめているんだからな。
それは留美も分かっているんだろう。
あの集団の前では自分の意見を貫き通せるはずがない。ぼっちはどこにいても除け者にされるのだと…
絶望したような留美の目から涙がこぼれ落ちた。
もう自分はどうにもならない、もう諦めるしかないとそんな感情を含んだような顔をして…
「……なあ、本当に嫌なんだな?」
「嫌だよ……みんなと仲良くなるなんて無理に決まってる…絶対に無理だよ……!」
「……なら…俺に依頼をしないか?」
「……え?…依頼ってどういうこと?」
俺の言葉に留美が驚いたような声を上げる。
「……そういえば言ってなかったな。俺は学校では『奉仕部』っていう変な部活をやっている。そこではお前のような困っているヤツを手伝うことをしているんだ…」
それから俺は入部当初に雪ノ下が俺に説明していたことをまんま伝えた。奉仕部の活動理念は『飢えた人間に魚を与えるのではなく魚の取り方を教える』ものだと。
留美は直接助けるのと『手伝うのと何がちがうのか』と疑問に思ったらしいが、まあそれは置いておこう。
実際、俺自身もその違いがなんなのかはわからんしな。
「とにかくお前が助けを求めるのなら俺は全力で応える…どうだ…?」
「………八幡はあの人たちとはちがう。信じられる気がする」
「そうか…ならこの依頼は引き受けた。よろしくなルミルミ」
「だから…『あれ?鶴見さん?』…ルミルミじゃなくて留美だって……えっ⁉︎」
その時、俺たちの背後から女性の声がかかった。
声の主が誰なのかはすぐに分かった。だが、この声は俺が最も聞きたくない声だ。舌打ちをするのを堪えて後ろを振り返るとそこには…
「比企谷君も一緒だったんだね、良かったよ」
そこには不気味な仮面の笑顔を貼り付けた『あいつ』。富良野が立っていた。
「比企谷君、鶴見さんと一緒にいたんだね、いなくなったから心配してたんだよ?」
「……心配?」
『あいつ』が俺を心配?そんな事なんてあり得ない筈だが…
疑問に思う俺をよそに富良野は今度は留美の方に視線を移し、人好きのする笑みを浮かべて親しげに話しかける。
「鶴見さんも比企谷君と一緒で良かったよ。実は私ね。君のことを探していたんだよ、私と一緒に来てくれないかな?」
そう言い富良野は留美に自分の手を差し出し『一緒に行こう』と言った。もちろん顔には笑顔の仮面を貼り付けているが。
「…あ…うん」
留美が俺の後ろから出てきて富良野の前に出てきた。さっきまで緊張で顔が強張っていた留美だっだが、俺に悩みを打ち明けたことと富良野の纏う優しい雰囲気に気を許しているのだろう。
確かに富良野は人に気に入られやすい。雪ノ下も由比ヶ浜も平塚先生までもが富良野には俺と違って良い感情を抱いているからな。
でも、あいつには…
ーーすっ…
「……え?」
俺は富良野の元に行こうとしている留美の前に手をいれた。
「……どうしたの八幡?」
「……………」
俺は留美の前に手を出して『あいつ』の元に行くのを止める。
留美が疑問の声を上げて俺を見上げるが、富良野は留美を止めた俺を一瞬だけ睨むように見つめたが、すぐにいつもの胡散臭い笑みを顔に貼り付ける。
「……何?どうかしたの?比企谷君」
裏のある優しい笑顔に気圧されるが、俺は富良野から視線を外さずにこう言う。
「……お前、なんのつもりだ?」
「何が?」
「……今度はお前…何をするつもりだ?」
俺は富良野に問いかけた。そしてストレートに自分の抱く疑問をぶつける。
もちろん、これはただの推測にすぎないし今回の富良野への問いかけはほぼ俺の勘のようなものだ。
「………何の事かな?言っている意味が分からないんだけど…」
だが、富良野は俺の疑問に対して意に介したような素振りは全く見せず、いつもの優しい笑顔で言葉を返す。
「……そう思うならさっさと帰れ。俺が今は留美と話しているんだ」
「…お話中だったならごめんね…でも、小学生の引率の先生が鶴見さんを呼んでるんだ、だから、鶴見さんとの話は後にして欲しいんだけど…」
「……え?そうなの?」
「うん、そうなんだ。引率の先生が鶴見さんに話があるって言ってて私が鶴見さんを呼びにいくつもりだったんだけど……」
『あいつ』の言葉に留美は目を丸くする。笑顔を崩さずに『あいつ』は続けた。
「引率の先生も鶴見さんの様子が変だったということに気づいていたみたいだよ。鶴見さんのメンタルケアでもするんじゃないかな?詳しい事は分からないけどね」
「……なら、何でその引率の先生とやらが直接呼びにこないんだ?小学生の様子が変だったと言うのならその先生自ら来るべきだろう?」
俺が反論すると富良野は『それはそうなんだけどね』と困ったような笑みを浮かべた。
「私もそう思ったんだけど、先生に直接呼ばれるのは流石に鶴見さんにも抵抗があるでしょう?だから、第三者である私が呼びに言ったほうが鶴見さんの緊張も少しは逸れるかなと思ったんだよ」
「……なら、お前である必要はないだろ。こういうのは由比ヶ浜辺りが行くのが適切じゃないのか?」
「まあね。私もそう思ったんだけど、由比ヶ浜さんたち川で遊んでいて頼みづらくてさ。私は水着持ってきてないから川で遊べなくて暇してたから私が行くことにしたんだよ。何かおかしいの?」
『おかしいの?』と少し力の込めた言い方で富良野は俺に言った。まるでこれ以上は聞くなと言いたげに…
「……嫌…別に……」
「まあ、私の事なんか今はどうでも良いじゃん。先生待たすのも悪いしさ。鶴見さん、そろそろ行こうよ」
「……う、うん…」
留美も俺と言い争いのようなものをした富良野に少し戸惑った様子だったが、富良野の留美に向ける視線や雰囲気は最初に会った時と変わらない優しいまま、留美も戸惑った様子だが、大した警戒はしていなさそうだ。
留美は差し伸べられた富良野の手を取る。
「それじゃあね、比企谷君」
「……また後でね…」
富良野は終始不気味な笑顔を浮かべながら。留美の手を優しく握り林立する木々の中に消えていった。
残された俺は自分の手を無意識に握りしめる。
「………っち」
富良野の去り際に思わず舌打ちをする。だが、留美のためにもここでと争うのは悪手だ。
無理やり止めても事態をややこしくするだけ、歯痒さを覚えながら去る留美と富良野の後ろ姿を見つめた。
……本当に富良野は何を考えているか分からない。
富良野と留美が向かった木々の間を見ながら俺は柄にもなく内心で呟く。
富良野は一体何が狙いなんだ?何が目的でこんな事を繰り返す? まあ、いずれにせよ胸がムカつく気持ち悪い奴だということには変わりないがな。
さっきの富良野は笑顔を浮かべてはいたが、その笑みを浮かべる仮面の下では不機嫌そうに顔を歪ませていた事だろう…
原因はもちろん俺だ。
さっきの林で留美と話していた時に富良野は留美にこれまでと同じように『何か』、この依頼を終わらせる解決策という名の『何か』を吹き込むつもりだったのだと思う。
何のためにそんな事をするのかは分からないが、その時に俺が邪魔に入った。
富良野を留美に触れさせないようにするために真っ向から俺は『あいつ』に歯向かった。
富良野はその時に一瞬だけ顔を歪ませた。留美からは見えなかっただろうが、俺からははっきりとあいつの顔が歪んだのが見えた。
その時に目を引いたのは富良野の目だった。
俺が反論した時の富良野の目はまともではなく、まるでビクビク怯えている標的を殺すのを邪魔された暗殺者のような狂気を帯びた目をしていた。
奉仕部の入部時には富良野は、仮面は被っているが、どこにでもいる女子高生だった。だが、テニスコート、チェーンメール、川崎のバイト、遊戯部と奉仕部での依頼に関わっていくうちにあいつは変わっていった。
ーーもし、富良野がまた干渉するつもりだったとしたら……
富良野は留美にどんな解決策を持ちかけるつもりなのだろうか?
まさか、葉山たちと同じように留美といじめっ子たちを話し合わせて和解を望ませる策を実行するのを手伝うとは思えないし、傍観するつもりならばさっきのような事をやる必要はないからな。
だったら富良野は今度はどんな手を打ってくるんだ…?
留美に『強くなれ』と独身のように熱血指導を行うのか?
それともいじめっ子を告発するかフルボッコにするかして強引な解決をさせるのか?
それとも留美の存在を消すーーー……
……いや、そこまではしないだろう…流石の富良野もそこまでは…
……ダメだ、考えれば考えるほど富良野がとんでもないことをやらかしそうで寒気がする。
……流石に最後のは俺の被害妄想だと思いたいが、きっとそうであって欲しいと願わずにはいられない。
だが、もし富良野がやる気だというなら阻止しなければならない。
ただ相手の思考が読めなくてはこちらもどうやって動くか見当もつかないと、中々厳しい状況にある。
富良野の思考は俺にも読めない。日頃から何を考えているのかわからない。常にニコニコと笑顔を浮かべて誰にでも良い顔をしているが、その笑顔には裏があるような気がしてならない。
日頃のあいつはパッと見は『他者を思いやる善良な奴』のようにしか見えない。だが、俺には優しさの裏に悪意を忍ばせ、人の心の隙間につけ込み相手を操り破滅させる邪悪な『傀儡子』のようにしか思えなかった。
その証拠に遊戯部の時に絶望している材木座や遊戯部の2人を見て楽しそうに笑っていた。
富良野に自覚があったのかは分からないが、あの時の『あいつ』は、人の不幸を、破滅を、絶望を心から喜んで楽しんでいるような邪悪さを感じさせる純粋な笑顔を浮かべていた。
……今でもあの時の富良野を思い出すたびに背筋が寒くなる。そう思うといつもの富良野の笑顔までもが冷たい笑いを浮かべた呪いの仮面のように見えてしまう。
どうにか富良野がボロを出してくれればいいんだがな…俺の経験から相手を倒すのに1番良い方法は弱いところを叩くことだからな。
今のあいつは弱いところを全て覆い隠している、でも、完璧な人間なんてこの世にはいない。お前のその嘘で塗り固められた仮面が剥がれるのも時間の問題だ。
……だから早く本性を現せよ、大嘘つき。お前が俺や留美をマリオネットとして操り踏みつけようとするなら、こっちはお前の操る糸を引きちぎってやる。
いつまでも傀儡子でいられると思うな。お前の操るモノは人形じゃない、意思と感情を持つ人間なんだからな。
……だが、この時の俺はまだ気付いていなかった。富良野の本当の狙いを…
この時点で俺は富良野の引く糸に絡まった、マリオネットになっているということを…
俺は留美を富良野の元に行かせた事を後悔する事になる。
あの時に強引にでも留美を引きとめるべきだったのだと、気付いた時にはもう何もかもが手遅れなんだという事を…
さっき、留美を強引にでも引き止めておいたら今夜の肝試しで起こるあの悲劇を食い止められたかもしれないのに…
後書き
今回はここまでです。
いつも以上にめちゃくちゃで申し訳ありません…
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