いろいろ酷いですが楽しんで頂けたら嬉しいです。
視点がコロコロ変わります。
主人公の名前は富良野英理華(ふらのえりか)です。
強いヘイト要素も含んでいますので、閲覧は自己責任でお願いします。
ー平塚 静 sideー
私は生徒指導室に着くと椅子に座り対面に富良野を立たせた。
「なあ、富良野英理華(ふらのえりか)、君はどうしてここに呼ばれたんだと思う?」
私がそう問いかけると富良野は疑問に満ちた顔で私の問いに返答した。
「心当たりがありません、私、何か問題起こしましたっけ?」
本当に心当たりがなさそうに答える。
はあ… 呆れる… これじゃあダメだ。
「自覚なしか…」
私はそう呟くとポケットから煙草を取り出して火をつけて吸う。
富良野が一瞬嫌そうな顔をしたが君のためにこうやって時間を割いているんだ、1本くらい吸わせろ。
私は煙草を吸いながら口を開いた。
「富良野、君に友達がいるか?」
私の問いかけに富良野は予想外の質問をされたのか面食らった顔をしたが、私の『友達はいるのか?』の問いかけにすぐに返答した。
「いえ、とくに友達と呼べるような親しい人はいませんけど… それが何か?」
富良野は返答とともに『友達がいないことの何が悪い?』と言いたげな視線を私に向けてきた。
私が富良野を呼んだ理由は彼女の孤独体質にある。
私は国語の教師であると共に生活指導を担当しており生徒たちには楽しい学校生活を送ってほしいと思っている。
その楽しみの1つが友達と過ごすことなのだ。
友達がいるからこそ学校生活は楽しくなる。
なのにこいつは私が見てきたところ友達を作ろうとしていないどころか、クラスメイトとともほとんど関わろうとしない。
教師の噂では、学校行事などにもほとんど参加しておらず、授業の時しか真面目に取り組まない。
彼女は『学校』に通っているのではなく通っているのは『予備校』だというような態度をとっており、まるで学校には授業を受けにきているだけのような態度だ。
よって、私は友達がいない、または欲しがっていない富良野の孤独体質をなんとかしたいと思い、同時に学校行事などに参加しない事を罰するために呼んだのだ。
「いや… 別に友達がいなくても何も困ることはないと思いますよ、現に私自身が友達がいなくても困ったことはほとんどありませんし」
だが、富良野はこの調子である。
別段捻くれている性格でもないだろうに他の生徒たちと群れることができない。
私は富良野の瞳に視線を移す。
「君の目はなんだか吸い込まれそうな目をしてるな」
そんな富良野に私は富良野の目を見て言う。
富良野の顔はかなり整っている。
抜けるような白い肌にすんなりとした鼻筋、切れ長の目が少しキツそうな印象を与えるがそれでも美人の部類に入るだろう。
身長も170センチはあるだろうと女子にしては高く細くて長い手足も高めの身長にマッチしておりスタイルもそれなりに良い。
何度か男子から告白されていてもおかしくはないルックスをしている。
それに加えて成績も優秀であり、定期テストでは入学以来トップクラスの10位以内から落ちたことはないし、中でも数学に関してはほぼ毎回満点で学年トップを譲ったことはない。
成績や授業態度だけを見れば何も問題のない優秀な生徒として見られてもおかしくない生徒だろう。
だが、それは瞳が普通であればの話だ。
私から見た富良野の目はとても普通ではなかった。
彼女の目は、先日私が捻くれた性格と孤独体質を叩きなおすために入れたどこかの誰かとは違い、腐った目とかそういうレベルじゃない。
彼女の目を一言で言うなら『闇のような真っ暗な目』だ。
目に輝きは一切なく、周囲を何も写しておらず写しているのは自分だけだというような、何事にも興味のない無関心の塊のような真っ暗な瞳だ。
だからこそ私は吸い込まれそうだという表現をしたのだろう。
「そうですか? まあ、褒め言葉として受け取ります…」
私の『吸い込まれそうな目だな』という発言にも特に怒る様子も傷ついている様子もなく富良野はそう返答した。
私はそれを聞いて頭を抱えたくなった。
「その様子だと社会出てから苦労するぞ、君が優秀な生徒だということは知ってるが、もう少し人と接することを学ぶべきだな 」
「まあ、そう言われても困ってるわけじゃないですよ」
「屁理屈を言うな、小娘」
私がそう言って睨むと富良野は肩をすくめた。
「すいません、でもまあ先生からしてみれば私はガキですからね」
ヒュオッ!
「次はあてるぞ…!」
私は富良野と顔のすぐ横に拳を叩き込んだ。
富良野の顔を私の拳がかする。
こいつ、女性に対して年齢の話はご法度だって事を知らんのか、まあ、だから友達もいないし友達がいないせいで学校行事も休んでるのだろうな。
まさか、あの腐り目の男と同じような奴がまだいるとは…
そんな奴は私が矯正してやらなければならない。
「ともかく君の発言で私は傷ついた、それに加えて君の不真面目な学校生活への態度に罰を与える。」
私がそう言って椅子から立ち上がると富良野は一瞬眉をひそめて嫌そうな顔で私を見つめ返した。
「なんだ、その顔は? 異論反論口答えは認めないぞ、口答えするなら3年で卒業できると思うなよ」
「いえ、何でもありません。私のことを思ってのことなんですよね? それなら平塚先生のその好意をありがたく受けとらせてもらいますよ」
私が嫌そうな顔をした富良野を睨み付けると富良野は途端に笑顔になって私の好意を受け取ると言いだしたのだ。
なんだ、あの腐り目のバカとは違って思ったより素直で聞き分けがいいじゃないか。
「案内する、ついてこい」
「はい」
私はあの腐り目の奴とは違って私の指導を好意的なものだと言うことに気づいてくれた。
あいつと違って何も不満そうについてくるわけでもなさそうだし、根は素直な奴ならあいつらともすぐに打ち解けて仲良くなれるだろう。
私はそう期待を膨らませながら良い気分で富良野を連れて生徒指導室を出た。
だが、私は気づかなかった。
後ろについてくる富良野が私のことを冷めた目で見ながらついてきていることに…
ー平塚静side endー
ー富良野英理華sideー
「ここだ」
平塚先生に同行し、着いたのは特別棟3階の教室だった。
私の記憶が正しければこの特別棟はクラスルームとしては使われておらず主に部活棟として使われている筈だ。
ということは、教育的指導、もしくは罰だと称して私をどこぞの部活に強制的に入れるつもりなのだろう。
本来なら平塚先生に連れられる意義は私にはないけれど、あの場で断ってもこの教師は私にしつこくつきまとって強引にでも自分の罰を受けさせていたはずだ。
ならば、あの場は平塚先生の機嫌をとってその教育的指導とやらを受けた方がまだ合理的だ。
たとえ、それが平塚先生の身勝手であってもね。
まあ、平塚先生に言ったとしてもどうせ信じてくれないだろうしどっちみち部活にいれられるだろう。
そう考えている間に平塚先生が無遠慮に扉に手をかけてその教室の中に入っていく。
「邪魔するぞ、雪ノ下」
「先生、入るときはノックを…」
「いやーすまんすまん。」
部屋の中のからの会話だとおそらく平塚先生の行動はいつもみたいだ。
さっきの声は雪ノ下という生徒の声だろう、冷たい声から察するにスポーツをするような人ではないみたいだ。
ということは、文化系の部活だ。
運動が苦手な私は少しだけ安心する。
「それで今日はどのような用事で来たのですか? 平塚先生」
しばらく雑談をした後、部員であろう男子の声が聞こえた。
「ああ、そうだ、入ってきたまえ」
平塚先生に言われて私は部室に入った。
そこには3人の生徒がいた。
ネクタイの色が同じ色なため3人とも私と同学年だろう。
1人は長い黒髪の女子生徒、こちらを睨み付けるようにして見ている、おそらく彼女が平塚先生と話していた雪ノ下という生徒なのだろう。
1人は茶髪でお団子ヘアーの女子生徒、見た目だけだとあまり賢そうじゃない。
最後の1人は黒髪でアホ毛の生えた男子生徒、見るからにやる気がなさそうで目が腐っている。
幸い3人とも交友関係の狭い私でも一応名前くらいは知っていた。
長髪の黒髪ロングの女子生徒は雪ノ下雪乃さんだ
入学当初から学年トップの成績を維持し続けている総武高校でもトップクラスの秀才だ。
茶髪の女子生徒は由比ヶ浜結衣さん、私の所属している2年F組の中でもトップカーストのグループに所属しているリア充の一員だ。
最後の黒髪のアホ毛が生えた男子生徒は確か比企谷八幡君だ、クラスで誰とも交わらずに常に一人でいる。
私と同じように見えるけどこの人と私は違う気がする。
それぞれに対して私が認識を持っていると平塚先生が私の肩を抱いて3人の方へと向けた。
「彼女は新入部員だ。 比企谷と同じ、いやそれよりも酷い孤独体質を持っているんだ。だから、その性格を改善したいんだ。」
平塚先生はそう言うと私に視線を向けた。
自己紹介しろという事だろう。
「2年F組の富良野英理華です。 よろしくお願いします」
「あ! ふらのんじゃん! にしても、なんかヒッキーみたいだね…!」
私が自己紹介した瞬間、茶髪の髪を揺らしながら由比ヶ浜が私の事を『ふらのん』と呼んだ。
おそらく渾名だろうが、あなたとは渾名で呼び合う仲ではない。
大して親しくもないのに…
失礼だけど、彼女は頭が良さそうに見えなかった。
というか、ヒッキーって誰のこと指しているんだろう…?
「おい。 本人の前で悪口みたいに言うなよ、泣いちゃうだろう?」
そんな事を思ってると、やる気のなさそうな雰囲気を放つ比企谷君が由比ヶ浜さんに突っ込んだ。
ああ、あなたがヒッキーなんですね、確かにそんな渾名が似合いそうだ。
そもそもヒッキーという言葉は『引きこもり』の蔑称だ。
だから、見るからに引きこもっていそうなイメージを持っていそうな彼の見た目からそんな渾名をつけたのだろう。
なんとも皮肉な渾名だな。
「まあ、あとは3人でいろいろ説明してやってくれ、私は仕事があるので失礼するぞ」
ヒッキーの渾名のことを考えていると平塚先生は部室から出て行った。
ちょっとここに連れてきたのはあなたでしょう?と思うが平塚先生に何を言っても聞いてくれないだろうし無駄だろう。
彼女は本当に放任主義なんだなと思いつつもこれから一緒に活動する3人に向き直った。
「とりあえず座ったらどうかしら?」
「あ… ええ、どうも…」
雪ノ下さんに言われて私はすぐ近くにあった由比ヶ浜さんの椅子に座る。
「まずは自己紹介ね、私は雪ノ下雪乃よ、この部活の部長を務めているわ」
「やっはろー! あたしは由比ヶ浜結衣だよ! よろしくね! ふらのん!」
雪ノ下さんに続いて由比ヶ浜さんが私に挨拶をする。
しかし、どこかぎこちない様子だ。
私の目や態度に若干引いているのだろうか?
「比企谷八幡だ」
最後に少し離れた席に座っている男子生徒、比企谷君が挨拶をする。
自己紹介が終わると少し沈黙が続いた。
この部活の趣旨は平塚先生から聞かされていないが何もしないところを見ると帰らなければ好きにして良さそうだ。
現に雪ノ下さんと比企谷君は本を読んでるし、由比ヶ浜さんは携帯をいじってる。
ならば、私も時間を有効活用するために鞄から教科書とルーズリーフを取り出して今日の復習をする。
それを見て由比ヶ浜さんが声をあげた。
「へぇ〜… ふらのんって部活中でも勉強するなんて真面目だね!」
「そう…? 私は授業についていけないから復習するだけだよ」
「へえ… この間は学年1位を取ったのに随分と余裕がないのね、あれはまぐれだったのかしら?」
私が由比ヶ浜さんに適当に返事をすると今度は雪ノ下さんが話に割り込んだ。
しかし、その視線は気のせいかもしれないが見下しているように見える。
雪ノ下さんが私を見下した態度を取ったのは、私が彼女に近い成績を取っているからだろう。
自慢じゃないが私は成績が良い、1年生の学年末考査では『惜しかったな、あと1点でお前が学年トップに勝てたのに』と考査結果を返すときに担当の教師は私に言った。
張り出された成績表を観ると確かに私の成績は学年トップと同点だった。
それで一時期、教師から目をかけられたこともある。
雪ノ下さんもそれを知っているだろう、だからこそ彼女は私にそんな態度をとったのだ。
学年トップの成績、つまり雪ノ下さんに並ぶ成績だということを意味する。
雪ノ下さんは凡人とは少し離れた程度の人間だ。
彼女の雪ノ下という名前はそれなりに有名である。
千葉県の県会議員の名前が雪ノ下なのだから、恐らく彼女はその議員の娘なのだろう。
故に彼女は優秀な人間の元で生まれて育てられた。
そんな優秀な雪ノ下さんは幼い頃から優秀だったのだろう。
だからこそ、一度でも優秀な自分の地位を脅かした私が地道に勉強を重ねている姿を見て嘲笑っているのだ。
まあ、私にどんな態度をとろうが勝手だけど。
雪ノ下さんの視線をスルーし、由比ヶ浜さんが周りで喧しくキャンキャン言うのを適当に流しながら私は勉強に集中する。
勉強は自分のためにやることだ、周りがどう思っていようが関係ない。
そうやってしばらく勉強しているとまた彼女が突っかかってきた。
「そういえばあなたは、ここがどういう部活なのか平塚先生から聞かされたのかしら?」
「いえ、ただ罰を与えるとしか聞かされていないよ」
あの教師は碌に説明もせずに私をここにつれてきたからね。
「どこかの誰かさんと同じようなシチュエーションなのね」
雪ノ下さんはクスりと笑って私を見たあと比企谷君へと視線を移す。
ということは、私は最初の強制入部じゃなかったのか。
そんな私の視線に気づいたのか比企谷君は私に哀れみと同情が混じった視線を向けてくる。
おおかた、『あの人に目をつけられたか、ドンマイだな』的な事を思っているのだろう。
「あの、比企谷君は何で罰を与えられたの?」
興味本位で聞いてみる、すると比企谷君の代わりに雪ノ下さんが答えてくれた。
「その男はね、1ヶ月前にふざけた作文を平塚先生に提出したのよ、『高校生活を振り返って』っていう題目のね、それでその罰を受けているのよ」
雪ノ下さんは楽しそうに笑いながらそう言った。
でも、それだけで強制入部だなんてどんな作文を書いたんだろう?
「その作文がこれよ」
「おい、何でそれをお前が持ってやがるんだ」
合点が合わず私が首を傾げていると雪ノ下さんから作文用紙を渡された。
比企谷くんのツッコミからするにこれがその問題の作文なのだろう。
雪ノ下さんに渡された作文用紙を受け取ると、読み始める。
そこにはこう書かれていた。
高校生活を振り返って
2年F組 比企谷八幡
青春とは嘘であり、悪である。
青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺いて、自らを取り巻く観念を肯定的に捉える。
彼らは青春というの二文字の前にはどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げてみせる。
彼らにかかれば、嘘や秘密も、罪咎や失敗も、青春におけるスパイスでしかないのだ。
仮に失敗することが青春の証であるならば、友達作りに失敗した人間もまた、青春のど真ん中でなければ、おかしいではないか。
全ては彼らのご都合主義でしかない。
結論を言おう。
青春を謳歌せし者たちよ。
砕け散れ
私はこれを読み終えると比企谷くんに視線を移したが、彼は気まずそうに目を逸らした。
「どうかしら? かなり頭のおかしい事を書いた作文でしょう?」
比企谷君が書いた作文を指差して嘲笑しながら雪ノ下さんは私に話しかける。
なるほどね。納得がいった、確かにこんな作文なら教師に目を付けられるのもおかしくない。
私も1ヶ月くらい前にこんな題目の作文を書いた記憶が蘇ってきたが、私は至って普通の作文を書いた。
ていうか、普通ならみんなそうする。
こんなものを書くなんて自分を危険視して欲しい、嘲笑の対象にして欲しいと言ってるようなものだ。
私は雪ノ下さんの方を見て口を開く。
「確かに嫌な事を書いている作文だよね。 平塚先生から問題視されるのも納得したよ」
「そうでしょう?」
「ヒッキーはこんなふざけた作文を書いた上に平塚先生に年齢の事を言ったから、平塚先生から殴られて部活に入れられたんだもんね!」
私がそう返答すると雪ノ下さんはさっきと打って変わって上機嫌で比企谷君に嘲るような視線を向けた。
由比ヶ浜さんもそれに加えて比企谷君に笑顔で見下した視線を送る。
年齢の事を言ったのは私もだけどね、てか、平塚先生は比企谷君のことを殴って連れてきたの…
私がそう思っていると、比企谷君は「当たり前の事を書いただけなのに…」と呟いていたが聞かないことにした。
「それで、この部活がどういうものなのかという話だけれど」
自分の発言に私が賛同したからか機嫌を良くした雪ノ下さんは本題に戻した。
「ゲームをしましょうか、ここがどんな部活なのか当ててみなさい」
雪ノ下さんがそう言うと、比企谷君が嫌そうな顔を雪ノ下さんに向けた。
なるほど、恐らく比企谷君も入部した時に同じようなゲームを行ったんだろう。
そして、その態度からすると外したんだろうな。
にしても、この部活を当てろって言われても情報が少なすぎるし、これで当てられる人はいるの?
まあ、ダメ元で考えてみよう。
私は孤独体質の改善が目的でここに連れてこられた。
ということは、それを改善できる部活だということだけど、それは限られてくる。
この部活棟や部室の雰囲気から察するに運動部とは考えにくいからやっぱり文化系の部活だ。
となると、文芸部とかかな?
いや、由比ヶ浜さんは携帯をいじってたし、私の勉強についても特に咎められなかった。
それに文芸部の活動である読書などをすることは孤独体質の改善とはほぼ因果関係はない。
従って文芸部は違う。
なら活動内容から考えてみよう。
といっても今日の部活ではほぼ部員たちは活動らしいことは何もしていなかった。
従ってこれで答えを出すのは無理だ。
やっぱり、孤独体質の改善という目的から考えるべきだ。
文化系の部活で孤独体質の改善というと、[部員同士で親睦を深める]、もしくは[何かしらの共同作業をして協調性を学ぶ]の2つに縛られる。
でも、前者は今日の部員たちの様子を見る限り親睦を深めているとは思えなかった。
ならば後者の共同作業で協調性を学ぶためだ。
となると、ボランティア部か奉仕部だろうか?
まあ、どうせダメ元だし言うだけ言ってみよう。
「ボランティア部とか、奉仕部かな?」
そう言うと雪ノ下さんと比企谷君は私に驚きの視線を向けてくる。
「ど、どうして分かったの?」
雪ノ下さんの態度からすると正解だったらしい。
問題を出した時とは違い意表を突かれた顔をしている。
比企谷君も同じような顔だ。
私は頭の中で考えた推測を話すと由比ヶ浜さんはクエスチョンマークを浮かべていたが、雪ノ下さんと比企谷君は驚きの視線を私に向けた。
「驚いたわ… 正解よ。どこかの誰かさんと違って頭のつくりが少しは良いようね、まあ私には及ばないけど」
「ほっとけ、なんでもかんでよ比較対象を俺にするな」
やっぱり雪ノ下さんは比企谷君にも問題を出していたようだ。
でも、比企谷君は何と答えたのだろう。
表面だけで見たとおりの文芸部とかかな?
まあ、そんなことはどうでも良いや。
そう思っていると雪ノ下さんが急に立ち上がって口を開いた。
「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。 人はそれをボランティアと呼ぶわ。 途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男には女性との会話を、コミュ症の女子にはその改善の練習を、このような困った人に救いの手を差し伸べる、それがこの部活の活動よ」
途中から声を高めながらのご高説が終わり、雪ノ下さんは私を見下ろしながら言う。
「ようこそ奉仕部へ、歓迎するわ」
「はあ…」
はっきり言って雪ノ下さんの急なご高説についていけなかったが、なんとか話を合わせるためにも相槌をうつ。
私の反応に御構い無しに雪ノ下さんは続ける。
「平塚先生曰く、『優れた人間は哀れな人間を救う義務がある』のだそうよ。 頼まれた以上は責任を持ってあなたの問題を改善してあげる。 感謝しなさい」
笑顔で雪ノ下さんは私に言った。
それを聞いて比企谷君はため息を吐いて雪ノ下さんから読んでいた文庫本に視線を移し、由比ヶ浜さんは「ほえ〜…」と間の抜けた声を出して雪ノ下さんを見ていた。
いや、由比ヶ浜さんのあれは理解していないだけだね。
雪ノ下さんの言いたいことは大体分かった。
要はこの奉仕部という部活は強者が弱者を救う義務がある、だからこそ強者は弱者を強者にするために導かなければならない。
でも、100%干渉するのではなく弱者の自立を促すような行動をとる必要がある。
ということだろう。
まあ立派な理念だと思う。
でも、私はそれには大きな問題があると思う。
それは彼女自身がその強者として弱者を導くような器があるかどうかだ。
こう言ったら悪いけど、私にはとても雪ノ下さんにその器があるようには見えない。
私が見るに雪ノ下さんは『私が正しいと思うことは全て正しいのだ』、『私の意見は正しいのだから受け入れなさい』とこんな風に自分の意見を他人に押し付ける独裁者ような考えを持つ人だと思う。
さすが県会議員の娘であるだけあってプライドご高くて、実際に周りから見て優秀であることもそれに拍車をかけている。
つまり雪ノ下さんは違う意味で周囲に溶け込めない面倒な性格だろう。
文庫本を読みながらため息を吐いている比企谷君を見るとあまり彼は雪ノ下さんのことを好意的に思っていないようだね。
私も含めてこの部活の人たちはみんな何かしらの問題を抱えているのだと思う。
「まあ、雪ノ下さんのような優秀で頼れる人に私の事を解決してもらうのなら間違いはないでしょう、よろしくお願いします」
納得できないことは多々あるが、ここで反論したら雪ノ下さんのせいで平穏に過ごすことができなくなるかもしれない。
そんな非合理的なことは私はしたくない。
ならば、この部活で1番の権力を持つ雪ノ下さんにゴマすりをして従っていた方が良い。
部活に入れられても大人しくしていれば良いだけのことなのだから。
私が平塚先生にしたような笑顔で雪ノ下さんに言ったら比企谷君が驚いた表情で私を見てきた。
多分、反論すると思ったのだろうけど、残念だったね。
私は平穏に過ごすことが目的なんだ、荒波を自ら立てることはしないよ。
雪ノ下さんは私のゴマすりに気を良くしたのかさっきより上機嫌で口を開く。
「あら? そこの屑谷くんとは違って素直な性格なのね。 分かっているじゃない」
「だから俺を比較対象に引き出すな、富良野が可哀想だろうが」
さっきから思ってたんだけど、何で雪ノ下さんは比企谷君をここまで罵倒するのだろう?
見た感じ悪意があるようには見えないし、むしろ平然と日常会話のように言っているように見える。
それを平然と受けている比企谷君もすごいけど…
「他人を平然と罵倒するような人に他人を救うことはできないと思うけど」と思ったのは心の中だけに閉まっておこう。
そう思いながら、私は再び教科書を開いて勉強を始めた。
下校時刻のチャイムが鳴り、ちょうど部活の時間が終わった。
部活が終わりいつもの帰り道を歩いていると私は今日の事を思い返していた。
それは言うまでもなく奉仕部のことだ。
その中でも未だに気になることがある。
納得できないことはたくさんあるがその中でも特に気になることがある。
それは比企谷君の作文だ。
確かに、あの作文は彼の性格を表していた。
彼はぼっちで友人がいなくて周りを常に捻くれた視線で見ているのだろう。
それなら、教師から目をつけられてもおかしくはない。
平塚先生も彼を無理矢理部活に入れたのもそれが原因だろう。
でも、あの作文を見た後に私にはもう一つ疑問が浮かびあがった。
それは…
何で比企谷君はあんな当たり前の事を書いたのだろうか?
ということだ。
雪ノ下さんや平塚先生はこの作文を低評価した。
それは大体の人なら当然のことだろう。
でも、私から見ればこの作文は当たり前の事を書いているにすぎない。
でも、それならば何で比企谷君はわざわざそんな当たり前の事を作文にまでして提出したのだろう。
比企谷君の書いた通り、『人間という物は自己と周囲を欺く』『自らを取り巻く環境を肯定的に捉える』。そんなの当たり前のことだ。 人間というものはどれだけ綺麗事を言っても最後は自分さえ幸せならそれで良い、私が平穏を守るみたいに自分が大切で他人なんてどうでも良い。
最後はみんなそうだ。
そんな事を何で『高校生活を振り返って』という題目なのに書いたのだろうか?
こんな事を書いたところで目をつけられるのは目に見えている。
今日、見たところでは比企谷君はそれほど雪ノ下さんや由比ヶ浜さんと仲が良いようには見えないし、口を開けば罵倒されるような空間に入っていて喜んでいるようにも見えない。
それならば、私のように普通に適当に当たり障りのないことを書けば目をつけられずにすんだはずなのに…
それなのに何故…?
いや、考えてもキリがないから辞めておこう。
私は私の心配だけしてれば良い。
比企谷君とは何の関係もないんだ。
彼の心理なんかどうでも良い。
ああ、もうこんな時間だ。
早く帰らないと…
そう思いながら私は帰る足を早めた。
平穏を愛する少女は油断していた。
私の平穏は脅かされる心配はないと。
部活に入部させられても大人しくしていれば良いと、そうすれば平穏は守られると…
でも、それは違う。
彼女はこれからたくさんの厄介事に巻き込まれていく。
そこで彼女は思い知る。
平穏を守るには大人しくしているだけでは守らないと、自分から動かないと守れないということを…
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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