今回は三浦優美子が少し酷い扱いを受けます。
もうお分かりでしょうが、この主人公は何よりも自分が優先です。
ー昼休みー
昼休みーーそれは四限目の授業が終わり午後の授業に向けて生徒たちが昼食をとりながら共に英気を養う時間だ。
友人と机を囲って食べる者
購買に昼食を買いに行く者
はたまた教室から出て行って食べる者
生徒たちは昼休みを生徒たちは思い思いの過ごし方で英気を養う。
それは、私の所属する2年F組でも同じだ。
いつも通りの喧騒に包まれながら、それぞれの昼休みを過ごしている。
私?
私はいつもの通り自分で作った昼食を食べているよ。
それにしても昼食時となるとクラスのグループ関係がよく分かるようになる。
このクラスも様々なグループに別れるが、その中でも華やかな雰囲気を醸し出しているのがクラスの後ろにいるグループだ。
彼らは『トップカースト』と呼ばれている。
いわばクラス内で最上位の立場にいる者たちだ。
男子がサッカー部の2人と野球部に1人とラグビー部に1人、そして女子が3人の計7人。
ちなみに、由比ヶ浜さんもここに所属している。
「ねぇ〜、隼人ぉ〜。 今日は雨降ってるし、部活なしであーしらと遊びに行かない?」
「いやー、今日は無理そうだな。 部活があるし…」
「別に一日くらいはよくない? 今日ねサーティワンの割引キャンペーンでダブルが安いんだよ。 あーしショコラとチョコのダブルが食べたい」
「それって、どっちもチョコじゃん(笑)」
「えぇ〜全然違うし。ていうか、超お腹減ったし」
どうやら大声で何かを話し合っている。
どうやら、放課後にどこに遊びに行くかの話し合いのようだ。
大声で話しているので聞きたくなくても会話の内容は聞こえてくる。
そして、そのグループの中でも特にまばゆい輝きを放つ2人。
グループの中心にいるのは葉山隼人くんだ。
サッカー部のエースで次期部長候補。
さらに成績も良く雪ノ下さんと同じくらいの成績を取るほどらしい。
それに加えて、親は弁護士らしく、容姿も今風のイケメンのタレントのような容姿を持ち学校内でも有名人だ。
その隣にいて葉山くんと話しているのは三浦優美子さんだ。
金髪の縦ロールにこれでもかというくらいに着崩した制服。
街中にいそうなギャルを連想させる派手な格好と気の強い性格。
そしてトップカーストに属しているだけあってその顔立ちは綺麗で整っている。
その為、彼女はクラス内では女王のような扱いをされている。
そんな彼女と対等に話している葉山くんはさしずめクラスの王様というべきだろうか。
まあ、言ってみれば美男美女の王様と王女様というような組み合わせである。
「悪いけど、今日はパスするよ」
葉山くんが言うと三浦さんがキョトンとした表情になる。
「俺ら、今年はマジで国立狙ってるから」
葉山くんがイケメンによく似合う爽やかな笑顔で三浦さんに言う。
「それにさー、優美子。あんまり食べすぎると後悔するぞ」
「あーし、いくら食べても太んないし。 あー、やっぱり今日も食べまくるしかないかー、ねぇ、結衣」
「あ〜あるある。優美子スタイル良いよね〜。 でもさ、今日はあたしちょっと用事があるから…」
「だしょ? もう今日から食いまくるしかないでしょー」
「食べ過ぎて腹壊すなよ」
「だ〜か〜ら〜、いくら食べても平気なんだって。太んないし。ねぇ、結衣」
「や〜ほんと優美子マジでスタイル神ってるよね〜脚とか超キレイだし〜。でね、あたしちょっと…」
「え〜そうかな〜、雪ノ下さんとかいう子の方がヤバくない?」
「あ、確かにゆきのんやば…」
「…………」
「あ、や、でも優美子の方が華やかというかなんというか…」
……女王様のご機嫌をとるのも大変ですね…
今の一連の会話を聞いた私の感想はこうだ。
キョロ充、強者の中の格差、見ていてこれほど馬鹿らしいものはない。
私が義父母にしているのと同じように周りの人の雰囲気に合わせてるだけで何も自分の意見を言わない。
由比ヶ浜さん自身がどう思ってるのかは知らないけど、私が彼女と変わりたいかと問われれば答えはNOだ。
今でさえ周りに愛想振りまくの大変なのにこれ以上なんてまっぴらだ。
でも、由比ヶ浜さんは私と反対で強者に従うクセがついているようだ。
その証拠に、三浦さんが由比ヶ浜さんの発言に黙って眉根をピクリと動かすと由比ヶ浜さんが慌てたように三浦さんを煽てる。
まるで女王に仕える侍女のようだ。
「ま、いいんじゃない? 部活のあとでいいなら俺も付き合うよ」
張り詰めた空気を察したのか、葉山くんが軽いノリでそう言った。
すると、女王の機嫌も直ったらしく「オッケー、んじゃ、メールして?」なんて笑顔で会話が再開した。
それにホッとしたように由比ヶ浜さんが胸をなでおろした。
あなたもトップカーストに居続けるのに苦労してるんですね…
そう思いながら自分で作った弁当をパクリと食べる。
うん、我ながら美味しい。
葉山グループの会話を聞き流しながらそう思っていたら、今度はメンバー内では黒髪ロングに眼鏡をかけた地味な女子が由比ヶ浜さんに声をかけた。
「結衣? どうしたん? 具合悪そうだよ?」
三浦さんの機嫌をとるのに一生懸命である哀れな由比ヶ浜さんの様子を察したのか声をかける。
おお、彼女は割と周りをよく見てるらしい。
「う、ううん… 大丈夫だよ…」
由比ヶ浜さんは眼鏡をかけた女子の心配そうな顔を見て、遠目にもわかるような作り笑いで首を振って答える。
どうやら、彼女のオロオロした態度は三浦さんの機嫌取りだけではなかったらしい。
機嫌をよくした三浦さんにより再び会話が始まる。
そして、またしばらく経ったら由比ヶ浜さんがおずおずと声をあげた。
「あの、あたしお昼はちょっと行くところあるから…」
「あ、そーなん? じゃさ、帰りにアレ買ってきてよ、レモンティー。 あーし、今日飲み物持ってくるの忘れててさー。 パンだし、お茶ないとキツいじゃん?」
「え、え、けどあたし戻ってくるの五限になるっていうか、お昼まるまるいないからそれはちょっとどうだろーみたいな……」
「……はぁ?」
由比ヶ浜さんがそう言うと、三浦さんの顔が硬直した。
それと同時に教室内の空気が凍る。
「はあ………」
今の会話を聞いていて人事にもかかわらず思わずため息が出た。
やっぱり彼女は馬鹿だ。
そんな風に言っても三浦さんのようなタイプが納得するはずがない。
後で他のクラスの友達に捕まったとかと言って誤魔化せばいいのに、彼女ならそういう相手は大勢いるだろう。
折角のチャンスを無駄にして…
おまけに言い訳も最悪だ。
ほら、三浦さんの顔がさっきより怖くなってるよ。
「はぁ? え、ちょっと、なになに? なんかさー結衣こないだもそんなん言って放課後バックれなかった? ちょっと最近付き合い悪くない?」
「やー、それはなんて言うかやむにやまれぬというか、私事で恐縮ですというか…」
三浦さんの返答にしどろもどろで答える由比ヶ浜さん。
だが、その反応は三浦さんにとって腹立たしいものだったらしく、苛立たしげにカツカツと爪で机を叩く。
クラスの女王様の突然の機嫌の急降下にクラス中の空気が凍る。
それまでお喋りに興じていた人たちは押し黙り、すでに食事を終えた者は教室から逃げるように出て行く。
終いには、周りにいた葉山くんやその取り巻きたちも視線を床に落としている。
「それじゃあ分からないから。 言いたいことがあるならはっきりと言いなよ。 あーしらって友達じゃん、隠し事とかよくなくない?」
三浦さんの言っていることは字面では美しいものだが、それは仲間意識の強要でしかない。
友達だから、仲間だから何を言っても良い。
そんなことは微塵にも思ってないくせに、よく言うものだ。
そうでなければ、由比ヶ浜さんが雪ノ下さんのスタイルを称賛した時に不機嫌な態度をとるわけがない。
私が見たところ、三浦優美子という人間は自分が何よりも可愛い人間だ。
短絡的でわがままで自己中心、自分につき従わないものは嫌。
三浦さんの考えは少し雪ノ下さんと似ているかもしれない。
結局、三浦さんが不機嫌なのは由比ヶ浜さんが自分と異なる行動をとるのが不愉快なだけだ。
でも、三浦さんはそんなのを『友達』だと言っている。
はっきり言ってそんなのは『友達』ではなく『奴隷』と呼んだ方が良いだろう。
「ごめん……」
「だーかーらー、ごめんじゃなくて何か言いたいことがあるんでしょう? あーしのこと嫌いなん? そこんとこはっきり言って欲しいんだけど」
「えっと… その……」
そう言われて由比ヶ浜さんはさらに縮こまる、まるで蛇に睨まれた蛙だ。
クラス内での立ち位置からしても貴女にそう言われて言える人なんていない、こんなものは会話ではなく恐喝だ。
と言っても、私には由比ヶ浜さんを助ける事は出来ない。
というか、する気もない。
だって、所詮は別世界の話だ。
由比ヶ浜さんがどうなったところで私は痛くも痒くもないのだ。
むしろ、クラスの女王様に関わって目をつけられるなんて真っ平ごめんだ。
それに、助けに行ったとしても三浦さんに一蹴されるのがオチだ。
それに、今この教室にいる人たちみんなも私と同じ考えなのだろう。
クラスの中心人物である三浦さんを敵に回したくないから、クラスメイトの誰も由比ヶ浜さんを助けようとしない。
由比ヶ浜さんは未だに俯いたままだ。
三浦さんは何も言わない由比ヶ浜さんの心情を理解できずに『はっきり言えし!』と威圧的に詰め寄っている。
周りにいる葉山くんたちでさえも三浦さんを止めようとはしない。
由比ヶ浜さんはグループからも見捨てられてるのか?
ここまでくると哀れを通り越して呆れてくる。
さっきまでの騒がしく会話していたような賑やかなムードはなんだったのだろうか?
誰にも助けてもらえないなんて由比ヶ浜さんの周りの信頼関係は随分と薄いんですね。
でもまあ、この状況を見れば私の流儀は間違ってないことが自分でも分かる。
『友達という鎖は時には悪質な鎖にもなる。』
今の状況がまさにそうだ。
三浦さんは友達なら常に一緒に行動するべきと思ってる、相手のことも考えずにね。
由比ヶ浜さんは用事があると言っているのに理由を聞こうともせず、自分の一方的な要求ばかりだ。
それだけじゃない、由比ヶ浜さんに限ったことではないが、さっきの三浦さんを異常に褒めていたのもそれに当てはまる。
友達の中にも力関係はある。
三浦さんはそれの最上位に位置するのだ。
会社で例えるなら取締役くらいの立場。
だからこそ、下の役人たちが機嫌取りを行う。
上司の機嫌を損ねればクビになったり、白い目で見られるようになる。
これと同じように、立場が上の三浦さんに由比ヶ浜さんは機嫌取りを行わなければならない。
三浦さんの機嫌を損ねてしまえば、メンバー内からも嫌われるかもしれない。
下手をするとグループからも追い出される可能性もある。
由比ヶ浜さんは人間関係に重点を置いているようだから尚更だ。
だからこそ余計な気を使わなければならなくなる。
これらは『友達』という鎖があるからだ。
なんとまぁ、ご苦労なことだ。
私は家ではそうしているからその辛さはよく分かるけど、学校でもそれをするなんてまっぴらだ。
ならまだ一人でいた方がマシだ。
由比ヶ浜さんは上手い言い訳が思い浮かばずに、未だに三浦さんに詰め寄られてる。
なんとも哀れな姿だ。
といっても、人事だから由比ヶ浜さんのことなんてどうでもいいけど…
さてと、お弁当も食べ終わったことだし、教室内の修羅場な空気にこれ以上いる必要なんてないよね。
私は由比ヶ浜さんたちのいざこざには関係ないんだ、これ以上いる必要なんてないよね。
この様子だと昼休みの終わりまでこの殺伐とした空気は続きそうだ、なら、昼休みが終わるまで教室から避難するとしよう。
安物の弁当箱を片付けて様子を見計らいながら教室の扉へと移動していた時。
「!」
なんと、当の由比ヶ浜さんと、偶然にも目が合ってしまった。
しかも、その視線は助けを求める小動物のようだ。
ちょっとやめてよ、三浦さんの火の粉がこちらにも飛んできたらどうするの?
由比ヶ浜さんの視線を無視して教室から出ようとすると。
「……おい、富良野」
……遅かった。
はぁ、関わる気なんてないのに。
聞こえないフリして逃げようと思ったけど無理だ、いつのまにか近くまで来て腕を掴まれてるから。
「うん? 何かな、三浦さん」
しょうがない、ここは上手く合わせて切り抜けるか。
平塚先生らにした営業スマイルを顔に貼り付けながら、柔らかい口調で三浦さんに返答する。
こうすれば、大抵の人は好印象を持ってくれる。
しかし、三浦さんには効果はなかったらしく私を鋭い目で睨みつけた。
「…何か? じゃないし、あんたどうして結衣っつーかあーし達の方見てたし、何か用でもあんの?」
いや、あなたたちというか由比ヶ浜さんの方が見てきたんだけど…
とまあ言ったところで無駄なので営業スマイルを貼り付けて言い返す。
「いや、別に…」
「はぁ? だったらいちいち見てくんなし、マジ気持ち悪いから」
三浦さんは腕を掴んだまま、私を目を鋭くしてで睨みつけながらそう言った、気持ち悪い以外に罵倒語思いつかないのかな?
私の方が背が高いので三浦さんを見下ろした形になっている。
でも、どうやら彼女にはそれが気に入らなかったらしく私を掴んでいる腕に力が入った。
ちょっと、ゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁してよ…
さっきから三浦さんに掴まれてる腕も地味に痛いし、早く腕を離して…
「まあまあ、優美子もおちついて、富良野さんも困ってるし」
その時、クラス一のイケメンでみんなの王子様、葉山くんが仲裁に入った。
イケメンらしい人好きのする良い笑顔を浮かべて私の腕を掴んでいる三浦さんの腕を解いた。
うわっ、少し手形がついてるし…
三浦さん握る力強すぎでしょ…
「大丈夫かい? 富良野さん」
「あ、うん。 ありがとう、葉山くん」
優しい言葉と共に私に笑顔を向ける。
それと同時にクラス中の視線が私に向けられた。
中にはチラホラ嫉妬の視線もあった。
あ、葉山くんの後ろにいる三浦さんは私をさっきより鋭い目で睨みつけてる。
ピンチを助けてくれたイケメンに笑顔を向けられる。
普通の女子ならここで葉山くんに対して頰を赤らめるのだろうが、生憎と私は普通の女子ではないのでそんなことはしない。
でも、助けてくれたことは事実なので、営業スマイルを浮かべてのお礼は言う。
ていうか、私の時にそんなことできるんなら由比ヶ浜さんの時も助けてやりなよ…
それに、あなたが私を助けたせいで三浦さんがさらに不機嫌になってるよ。
さらに、あなたに好意を寄せているであろう、他の女子からの視線も痛いんだけど…
こんな事で中学の二の舞になるのは私ごめんだよ?
三浦さんのことを気遣ってあげなよ…
ともあれ、釈放された以上ここに長居は無用。
さっさと葉山くんたちの前から消えて、これ以上女子の顰蹙を買わないうちに退散するとしよう。
葉山くんに笑顔でお礼を言って、教室の扉を開けて退散しようとするとーー
「ーー何? 富良野さん、道を通して欲しいのだど…」
目の前に雪ノ下さんが立っていた。
なんだか不機嫌そうだったので「ごめんなさい」と軽く謝って脇によける。
にしても、J組の彼女がここに…?
そう私が思うや否や不機嫌そうな顔をしながら彼女はF組の教室に躊躇わずに入り由比ヶ浜さんの方に向かっていった。
何か嫌な予感がする…
これ以上の面倒事はごめんだ。
私は早歩きで周りの視線をものともせずにF組から逃げるように離れて行った。
……背中から聞こえる喧騒を感じつつ。
「あー……」
放課後、奉仕部での部活動もとい自習が終わり、帰り支度を終えて昇降口へと向かう。
思わずググっと伸びをすると、なんて今日という日が長かったのかと感じられる。
日頃の2倍疲れてしまった、何しろ昼休みの後の午後の授業ではクラスの雰囲気があまりにも重々しかったからね。
昼休み終了間際にF組の教室に戻ってくれば、私が出て行く前よりさらに機嫌の悪い三浦さんがいて、彼女を葉山くんとその取り巻きたちが宥めているところだった。
そして、昼休みが終わるとおどおどした様子の由比ヶ浜さんが戻ってきた。
彼女が居心地悪くしているせいで自然とクラスの雰囲気も悪くなってしまった。
これは、私の推測だけど由比ヶ浜さんは雪ノ下さんと何か約束をしていたのだろう。
でも、なかなか待ち合わせ場所に由比ヶ浜さんが来なかったから痺れを切らした雪ノ下さんが彼女を迎えに行った。
でも、当の由比ヶ浜さんは三浦さんとトラブルを起こしていた。
そこで雪ノ下さんが介入、もとい三浦さんに喧嘩を売って、三浦さんの怒りを増長させた、って大体こんなところだろう。
やはり修羅場になっていた、あの時逃げたのは正解だったな。
さて、由比ヶ浜さんの所属するグループは気まずい空気になっていたけど、これからとうなることやら。
三浦さんは由比ヶ浜さんが自分の思う通りに動かなかっただけでなく、意中の相手である葉山くんが私の方を庇った、それに加えて雪ノ下さんが自分に突っかかった。
今日の三浦さんはさぞご機嫌斜めだったことだろう。
グループの中心人物がご機嫌斜めになったことから自動的にグループの雰囲気も悪くなる。
それ自体はどうでも良いけど、周りに被害だけは撒き散らさないで欲しい。
ただ周りのことなどどうでもいい、自分たちだけがすべてだと考えるのが嫌なトップカーストの人たちだ、私の予想だけどあの人たちはこれからも迷惑をかけ続けると思う。
特に今日、私を助けてくれた葉山くんが…
って、こんな事を考えても仕方ないな。
早く帰らないと…
ご指摘、感想をもらえたら嬉しいです。