4人目の奉仕部員は平穏に過ごしたい…   作:レッドクロス

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続きです。

今回は材木座義輝に厳しい表現を含みます。

原作に独自解釈も加えています。

この主人公はあくまで自分が優先です。

閲覧は自己責任でお願いします。


厨二病のラノベ作家に平穏を脅かされたくない。

「……がいるの!」

 

「……から見たらお前らがも……だがな」

 

「いいから。 そういうのはいいから、中に入って………くれるかしら」

 

 

ある日のこと。 いつものように私が奉仕部の部室へ行くと雪ノ下さんと由比ヶ浜さん、そして比企谷君が部室前で何やら言い争っていた。

 

「どうしたの?」

 

「あっ! ふらのん! 実は部室の中に変な人がいるんだよ!」

 

状況が飲み込めず、何が起きているのか聞くと由比ヶ浜さんが私に部室のドアを指差しながら声を上げる。

 

変な人、由比ヶ浜さんの言葉を疑問に思ってドアの隙間から室内を見ると初夏だというのに暑そうなコートを着た太った男が部室にいた。

 

なるほど、確かにあの格好では不審者と思われてもおかしくないな。

はっきり言って気味が悪い。

 

「誰? あの人…」

 

私が雪ノ下さんに聞くと彼女は『さあ? 知らないわ』と返答した。

 

「どうするの? このままだと部室に入れないよ?」

 

「大丈夫よ、そのためにこの男がいるのだから」

 

由比ヶ浜さんが心配そうにみんなを見渡して言うと雪ノ下さんが比企谷君を指差して言った。

 

「中に入って様子を見てきなさい、どうせ貴方ならどうなっても誰も悲しまないでしょうから」

 

「ほっとけ」

 

雪ノ下さんが命令するように比企谷君に言った。

それにしても相変わらず酷い言い草だ、平塚先生って本当にこの人の元で更生させる気なの?

 

言われ慣れているのか平然と返している比企谷君も比企谷君だけど…

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていると、比企谷君が扉を開けて中に入る。

 

扉を開いた瞬間、潮風が吹き抜けて教室内にプリントがばら撒かれる。

 

そして、中心には1人の男子生徒がいた。

 

「クククッ、まさかこんな所で出会うとは驚いたな。 ーー待ちわびたぞ。 比企谷八幡」

 

「…驚いたのと待っていたのとどっちだ。 それで何の用だ、材木座」

 

「むっ、我が魂に刻まれし名を口にしたか。 いかにも我が剣豪将軍・材木座義輝だ」

 

長ったらしいアニメのようなセリフを言い終わると材木座義輝と言った男子はばさっと着ているコートを力強く靡かせて、ぽっちゃりしたオタクっぽい顔に似つかわしくないキリリっとやたら男前な表情を浮かべてこちらを振り返った。

 

驚いたのに待ちわびたと見事に矛盾した事を言っている材木座君は初夏が近いのにもかかわらず、汗をかいてまでコートを羽織り、指ぬきグローブをはめていた。

 

「ねぇ… それ何なの?」

 

不機嫌、というより不快感を露わにして由比ヶ浜さんが呟く。

まあ、私も同じような事を思ったけどさ…

 

「比企谷君、あちらはあなたの事を知っているようだけど…」

 

「まさか、この相棒の顔を忘れたとはな…… 見下げ果てたぞ、八幡」

 

「あの人、相棒って言ってるけど…」

 

材木座君の発言に雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが比企谷君を冷たい目で見る。

 

まるでクズはクズかごに、みたいな事を訴えるような目だ。

 

でも、その視線に動じないところを見ると彼はそんな目で見慣れ慣れているのかな?

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、材木座君は比企谷君に指を突きつけて言葉を続ける。

 

 

 

 

「そうだ、相棒。 貴様も覚えているだろう、あの地獄のような時間を共に駆け抜けた日々を……」

 

「只体育でペアだっただけだろ」

 

そう言うと、材木座君は『愛などいらぬ!』等と苦悶の表情で窓の外を見た。

 

「類は友を呼ぶというやつね」

 

雪ノ下さんが納得したように頷いた。

 

「別に友達じゃないが」

 

それをあっさり否定した比企谷君。

 

「何でもいいのだけれど、その相棒? お友達? あなたに用があるんじゃないの?」

 

「雪ノ下、間違ってもこいつと俺が相棒だとか友達だとか言うな。 俺にはそんな人間は1人としていない」

 

「ムハハハ!、さすがは我が相棒。 良く分かっているではないか。 我らに相棒も友もない」

 

「だから相棒なのか相棒じゃないのかどっちなんだ」

 

 

さっきから思ってたけど、この人ブレブレすぎるでしょ…

芯の通っていそうな雪ノ下さんとは真逆の人間だ。

それにしても、いつまでこんなくだらない茶番を続けるのかな? 冷やかしに来ただけなら帰って欲しい…

 

「あの、材木座君だっけ? 奉仕部に何の用かな? 何か依頼があるんでしょう?」

 

このままでは埒があかないので、材木座君にどうして奉仕部にきたのか理由を聞く。

 

 

「む、むぅ… は、八幡よ、奉仕部とはここで良いのか?」

 

「ええ、ここが奉仕部よ」

 

私が話しかけると、材木座くんはさっきまでの威勢はどこにやら、数日前の由比ヶ浜さんを連想させるキョロ充のように返答した。

 

さらに、比企谷君の後ろに引っ込んでいた雪ノ下さんが前に出て答える。 すると、材木座君は私と雪ノ下さんを交互に見た後にすぐさま比企谷君の方に視線を向ける。

 

どうやら、女子に免疫がないみたい。

 

「…そ、そうであったか。 平塚教論に助言いただいた通りならば八幡、お主は我の願いを叶える義務があるわけだな? 幾百の時空を超えてなお主従の関係にあるとは………これも八幡大菩薩の導きか」

 

「別に奉仕部はあなたのお願いを叶えるわけではないわ。 ただそのお手伝いをするだけよ」

 

「……ふ、ふむ! で、では八幡よ、我に手を貸したまえ! ふふふ、思えば我とお前は対等な関係、かつてのように天下を再び握らんとしようではないか!」

 

「だから、主従なのか対等なのかどっちなんだよお前」

 

比企谷君が呆れたように言う。

まあ、材木座君のブレブレを見ていればそれも分かるけど….

 

「うわぁ……」

 

それまで黙って成り行きを見ていた由比ヶ浜さんはドン引きしていた。 気持ちはわかる。 初対面で材木座君を好印象に捉える人なんていないだろうから。

 

「比企谷君、ちょっと…」

 

雪ノ下さんが比企谷君の服の裾を引っ張って何やら耳打ちしている。

さらに、途中から聞き耳を立てていたのか由比ヶ浜さんも2人の話に加わっていた。

 

私?

 

材木座君の暑苦しく長ったらしい言い回しを黙って聞いていたよ、彼が何を言っていたのか殆ど覚えてないけどね。

 

 

 

 

しばらくして話し合いが終わったのか比企谷君たち3人が材木座君へと向き直る。

 

「とりあえず、あなたの依頼はその心の病気を治すってことで良いのかしら?」

 

「……。 八幡よ。 余と汝は契約の下、朕の願いを叶えんがためにこの場に馳せ参じた。 それは実に崇高なる気高き欲望にしてただ一つの希望だ」

 

雪ノ下さん言い方悪いよ…

材木座君も雪ノ下さんの質問に答えずに比企谷君の方に視線を向けてるし。

 

「話しているのは私なのだけれど。 人が話しているときはその人の方を向きなさい」

 

 

材木座君の態度が気に食わなかったのか、冷たい声色で雪ノ下さんは彼に言うと、材木座君の襟首をつかんで無理矢理正面に向かせた。

 

「もは、もはは、もはははは…… これはしたり」

 

 

雪ノ下さんが襟首を離すと、材木座君は奇妙な笑い声あげる。

 

雪ノ下さん、材木座君の性格を考えなよ、目が泳いでて汗もさっきより多く出ているし言動も挙動不審になっているよ。

 

「その喋り方もやめて」

 

「……」

 

そのけんもほろろの言い方にとうとう材木座君は下を向いて黙り込んでしまった。

 

まあ、こうなるのは当然だろう。

 

先ほども思ったけど、雪ノ下さんは真っ直ぐな性格で曲がったことが大嫌いな人間だ、対して材木座君はブレブレな人間だ、どっちが優位に立てるかなんて一目瞭然だ。

 

「まあまあ、本題に戻ろうよ、材木座君はどうして奉仕部に来たのかな?」

 

私は営業スマイルを浮かべて材木座君に優しく問いかける。

 

まあ、放っておいても埒があかないし、これ以上材木座君の相手をするのもごめんだ。

 

それに、彼をこのまま放っておいたら雪ノ下さんらますます彼を追い詰めるだろう、見た感じ材木座君は三浦さんのように気の強い性格ではなさそうだから反論はできないだろう。

 

私の営業スマイルに材木座君は幾分か緊張がほぐれたのか口を開く。

 

「う、うむ… 以来というのはそれのことなのだ」

 

材木座君は教室に散らばったプリントを指差す。

 

「何これ?」

 

由比ヶ浜さんがそれを1枚取りそれを覗き込んだ。

 

見るとそれは原稿用紙だった。

 

「これは、小説なのかな?」

 

「ご賢察痛み入る。 如何にもそれはラノベの原稿だ、とある新人賞に応募しようと思っているのだが、友達がいないので感想が聞けぬ。 読んでくれ」

 

やはりそうだったようだ。

 

なるほど、材木座君は新人賞に自分で書いた小説を投稿しようと思っている、でも、自分の書いた小説が面白いかどうか分からない、誰かに読んでもらいたいが友達がいないためそれができない。

そこで平塚先生からの紹介でこの奉仕部に来たというわけか…

 

「それならネットに投稿して評価してもらえばいいだろう」

 

「それは無理だ。 彼奴らは容赦がないからな、酷評されたら多分死ぬぞ、我」

 

「ふーん…」

 

そう言いながらたまたま拾った私は小説の一部を流し読みする。

なるほど、ラノベは図書館で借りたものしか読んだことないけれど、ありがちなラノベのキャラクターやストーリーだね。

 

「なあ、材木座、本当に俺たちが感想を言っていいのか?」

 

「もちろんだ、我の自信作に感動し、むせび泣いても一向に構わんぞ」

 

比企谷君の言葉に材木座君は自信ありげに頷いた。

どうやら自分の書いた小説によほどの自信があるらしい。

 

でも、由比ヶ浜さんはまだしも、雪ノ下さんと比企谷君は容赦しないと思うけど…

 

そう言っていると下校時刻になり、ラノベの感想は明日ということで話はまとまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私が部室に向かうとそこにはすでに雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、比企谷君の3人が座っていた。

由比ヶ浜さん以外の2人は材木座君の小説を徹夜で読んだのかフラフラと眠そうにしていた。

由比ヶ浜さんはいつも通り元気だからあのラノベは読まなかったみたいだね。

 

由比ヶ浜さんがフラフラしている雪ノ下さんを「ゆっきのーん、おきてー。 あさだよ」と揺すって起こす。

 

がたりと音がして雪ノ下さんが目覚めた。

 

その後、比企谷君も私が起こしたが2人は未だに眠そうだった。

 

「その様子だとみんな苦労したみたいだね」

 

「ええ… 徹夜なんて久しぶりにしたわ。 私この手のもの全然読んだことがないのよ、……あまり好きになれそうにないわ」

 

私が言うと雪ノ下さんが頭を抑えながら呟いた。

 

だろうね、あなたのイメージに合わないし。

 

 

「あー、あたしも絶対無理」

 

「お前は読んでから感想を言えよ」

 

由比ヶ浜さんに同じく眠そうな比企谷君が口を挟む。

由比ヶ浜さんはそれにムッとしたのか鞄から材木座君の原稿を取り出す、よりにもよって折り目の一つもついてない、綺麗な保存状態の原稿だ。

 

あれじゃあ私は1枚も読んでいません、みんなの前で宣言しているようなものだ。

 

 

「頼もう!」

 

その時、荒々しいノックと共に古風な呼ばわりで材木座君が入ってきた。

 

材木座君は部室に入ってくるなり椅子に座り、腕を組んで偉そうにしていた。 やっぱり自信作というだけあり自分の作品に相当な自信があるらしい。

まあ、もっとも自信作=名作という方程式などないのだけれど。

 

「ごめんなさい、わたしにはこういうのはよく分からないのだけれど……」

 

そう前置きをして雪ノ下さんが切り出す。

 

「つまらなかった、読むのが苦痛ですらあったわ、想像を絶するつまらなさ」

 

「げぶぅ!」

 

「まず文法がめちゃくちゃね、なぜいつも倒置法なの? 『てにをは』の使い方知ってる? 学校で習わなかった?」

 

「そもそも人に読ませる気があるのかしら。 そうそう、読ませると言えば話の先が読めすぎて、一向に面白くなる気配がないわね」

 

「そして、地の分が長いしつこい字が多くて読みづらい。 というか、完結していない物語を人に読ませないでくれるかしら? 文才の前に常識を身につけた方が良いわね」

 

うわぁ… 雪ノ下さん容赦ないね。

 

雪ノ下さんの容赦ない酷評を前に材木座君は撃沈。

身体をピクピクさせながら床に倒れていた。

 

はっきり言って気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

「とりあえずこんな所かしら? 次は由比ヶ浜さんね」

 

雪ノ下さんは倒れている材木座君を冷たい目で見た後由比ヶ浜さんに話を振った。

まあ、そもそも彼女は材木座君の小説すら読んでないだろうけど…

 

「え? あたし? え、えーっとね、難しい言葉をたくさん知ってるね!」

 

「ひでぶっ!」

 

由比ヶ浜さんの追い討ちをかけられた材木座君。

さっきまでの自信満々な姿は微塵もない。

 

由比ヶ浜さんは首を傾げているけど、材木座君がああなってもしょうがないよ。

だって、その言葉の意味を言い換えれば『小説自体には何もない』と言われているに等しいからだ。

 

 

 

 

 

「ぐぬぅ… は、八幡。 お前ならば理解できるであろう! 我の書いた世界、ライトノベルの地平がお前にならば分かるな? 愚物どもには理解する事が出来ぬ深遠なる物語が…」

 

 

 

 

 

 

材木座君は最後の希望とばかりに比企谷君の方に這い寄ってくる。 もはや、気持ち悪いを通り越して哀れな姿だ。

 

でも、比企谷君はそんな材木座君の希望を粉々に打ち砕いた。

 

 

 

「お前の小説は理解できない、そもそもアレのどこがライトノベルなんだ? もはや小説ですらない。 選考に送ったら1行目を見ただけでゴミ箱行きのレベルだったぞ」

 

 

「ぶぎゃらっ!!」

 

 

希望を打ち砕かれた材木座君はカエルのようにひっくり返った。

 

「それにお前…」

 

比企谷君はそこで言葉を区切って最後の言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、どこの小説のパクリだ?」

 

 

 

 

 

「ぶぎゃらってぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷君の感想と言う名の批評を聞かされ、さらに追い討ちをかけられた材木座君は奇声をあげて床にひっくり返った。

 

 

 

それからしばらく経ってムクリと起き上がると私の方に顔を向けた。

 

 

「ふ、富良野さん… お主ならどうだったのですか…?」

 

瀕死、まさにこの表現が当てはまるような有様だ。

さっきのショックに合わさって、女子に慣れていないからかさっきよりも言動も変だ。

自信作の小説を3人からあれほど酷評された時点で限界だったのだろう。

 

これ以上、酷評されたら彼は倒れてしまいそうだ。

 

なら、私は…

 

 

 

 

 

 

 

「私は材木座君の小説の世界観は面白かったと思うよ、登場人物の個性の強さもユーモアがあって良かったからね」

 

 

 

「……え?」

 

 

「設定は面白いから雪ノ下さんたちの言った通り、文章の書き方を勉強したら言い文章が書けると思うよ」

 

 

私がいつもの笑顔で説明すると周りは口をあんぐり開けていた。

雪ノ下さんたちだけでなく床に這いつくばっていた材木座君もだ。

 

 

「そ、それは本当か⁉︎ 我の小説は本当に面白かったのか⁉︎」

 

 

床に這いつくばっていた材木座君はさっきの様子とは打って変わって私に詰め寄った。

 

 

「う、うん。 まあ、設定は面白かったからね…君には独特の感性があると思うよ…」

 

 

詰め寄ってきた材木座君に若干引き気味になりながら返答する。

私の発言に瀕死状態だった材木座君は水を得た魚のように生き生きとしだした。

 

 

「誠か⁉︎ 例えば、どのあたりが面白かったのだ⁉︎」

 

 

「えーっと… それはねー…」

 

ー富良野英理華 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー比企谷八幡 sideー

 

目の前で起きていることが信じられない、そういうのは今の状況のことを言うのだろう。

その信じられないこととは、材木座の小説が褒められていると言うことだ。

 

自慢じゃないが、俺は今まで幾多のラノベや小説を読んできた。

国語の成績も学年トップクラスだ、だから文章を書くときの文法の使い方や話の構成も雪ノ下ほどではないにせよ分かる。

 

そんな俺が昨日、徹夜してまで読んだ材木座の小説の出来栄えははっきり言って酷いものだった。

 

雪ノ下が言ったように文法は使いこなせていないし、話の構成も滅茶苦茶、はっきり言って材木座には文才がないと言えるだろう。

さらに、どこぞの小説かラノベの文章をそのまんま引用したような箇所も多々あった。

 

こんな舐めたようなラノベが新人賞に応募したところで結果は見えている、落選しか考えられない。

 

なのに、こんな小説を目の前の人物は褒めている。

 

いや、全面的に褒めているわけではない、直した方が良い箇所はちゃんと指摘している。

 

俺たちの時とは違い、材木座はショックを受けた様子もなく熱心に富良野の言葉を聞いている。

 

ただアイツの小説を否定するだけだった俺たち、ある程度アイツの小説を肯定している富良野、どっちの言葉を聞くかなんて考えるまでもない。

 

 

 

彼女は『助言を与えるもの』としては満点が与えられるだろう。

それは俺も素直に彼女はすごいと思う。

 

 

でも……

 

 

 

同時に俺はこう感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー何かコイツからは危険な匂いがするーー…

 

コイツ、つまり富良野からはそんな危険な匂いがするのだ。

 

幼少期からずっと人から嘲笑の対象にされ、いじめの標的にもなり、人間の醜い部分だけを見せつけられてきた俺は人の内面や心の動きに敏感だ。

 

そんな洞察力の高さには自信のある俺から見た富良野はそう見える。

 

側から見れば富良野は顔に優しい笑顔を浮かばせながら材木座の小説の良い点と悪い点をバランス良く指摘していて、理想の形と言えるだろう。

 

だが、俺からしてみれば富良野がそんな事を本心で言っているのかと思えてくる。

 

俺から見た富良野は顔に本物のような笑顔を貼り付けて、口からオートで出てくるお世辞を言い、俺たちの批評を美化して伝えているだけのように見える。

 

材木座のことなんて考えてはおらず、ただ材木座に合わせているだけのような…

 

まるで機械のように…。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう考えている間に2人の話は終わったのか材木座が立ち上がり。

 

 

「富良野さん、ありがとう! また、新作が書けたら持ってくる」

 

富良野にそう言い残して材木座は満面の笑みで部室を出て行った。

 

ー比企谷八幡 side endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー富良野英理華 sideー

 

 

 

 

 

 

「いろんな意味ですごかったね〜」

 

ご機嫌で材木座君が去っていった後、部室で由比ヶ浜さんが呑気な声をもらす。

 

「お前な、こんな徹夜明けで眠いんだ。 あんまりにもお気楽発言を傍でされると怒りが湧いてくる」

 

「ご、ごめん…。 ……って、それはなんか酷くない⁉︎」

 

「ごめんなさい由比ヶ浜さん。 私も比企谷君と同意見だわ」

 

「ゆきのんまで⁉︎」

 

雪ノ下さんの意見にショックを受けている由比ヶ浜さん、まあ確かに自分たちが睡眠時間を削って苦労したのに、彼女だけ寝不足でないのを見れば怒りも湧くだろう。

 

そんな中、比企谷君がポツリと呟く。

 

「そういえば意外だったな… 富良野が材木座のあんな小説を褒めるだなんて…」

 

「そうね、比企谷君と同じ意見なのは誠に遺憾だけど、正直あんな駄作の何が良かったのかしら?」

 

比企谷君の疑問に雪ノ下さんも便乗する。

由比ヶ浜さんはもともと材木座君の小説を読んでないためポカンとしていた。

 

2人の疑問は最もだ。

 

おそらく自分たちがあれだけ酷評した材木座君の小説を私が賞賛したように見えたのだろう。

 

 

「確かに文章はちょっとおかしかったかもしれないけど、個人的には設定はユニークで面白かったからね、だから、雪ノ下さんの言った通り文章を勉強すれば良い小説が書けるんじゃないかな? それに奉仕部は『解決のためのお手伝い』がモットーの部活でしょ? だから、良かったところと改善すべきところの2つを提案した方が良いんじゃないかと思ったんだよ」

 

 

営業スマイル浮かべて私がそう言うと雪ノ下さんと比企谷君は驚いた顔をした、最初に私がこの部活の名前を『奉仕部』だと当てた時のように。

 

「た、確かにそうね… 驚いたわ… 少しは賢いみたいね。 でも、私ならもっと良い解決策を考えついたでしょうけど」

 

平静を装いながら雪ノ下さんが私に言う。

その視線と声色には些か嫉妬の感情が入り混じっているように聞こえる。

 

なるほど、雪ノ下さんの性格から考えて今回のことは納得できないだろう。

 

彼女は優秀だ、それは彼女自身がよく分かっているだろう、彼女の周りでは常に自分が中心だったに違いない。

 

この奉仕部では尚更そうだ、部長である自分が中心でないと彼女は気がすまなかったのだろう。

本来ならば自分が依頼を解決するはずなのにそれを私が成し遂げた。

 

ましてや、その解決を成し遂げた相手が自分に並ぶ成績を取り、一方的に見下してる相手だったならば、プライドが高い彼女がそれを納得するはずがない。

 

現に今も不機嫌な顔が隠せてない。

 

私は雪ノ下さんたちに見えなように小さくため息を吐いて雪ノ下さんに営業スマイルを浮かべて話しかける。

 

 

「そうだね、雪ノ下さんだともっと良い解決策を思いついたかもしれないね、でもね、私にはあれしか解決策が思いつかなかったんだよ」

 

 

私は入部の時と同じようにそう言って雪ノ下さんにゴマをする。

なんだかんだ言ってもこの奉仕部のトップは彼女だ、下手に楯突いて不仲になるよりもトップにゴマをすれば平穏に過ごせる。

 

 

自分に対してプラスな意見を言われて機嫌をよくしたのか雪ノ下さんの頰が緩む。

由比ヶ浜さんもそれに便乗して『ゆきのんってすごいよね〜』と言いだした。

 

どうやら、ゴマすりは上手くいったみたいだ。

 

でも、その中で比企谷君だけは私のことを怪訝そうな顔で見ていた。

 

 

 

 

「うん? 何かな? 比企谷君」

 

 

目つきの悪い腐った目で私を見る比企谷君に私はそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、お前……」

 

「あら、ゴミ谷君、富良野さんのことを何いやらしい目で見ているのかしら? 貴方のような腐った目で見られるなんて彼女に迷惑だからやめなさい」

 

「ふらのんのことそんな目で見てたの⁉︎ ヒッキーキモい!」

 

何かを比企谷君が言おうとした時に横から言葉が飛んだ。

雪ノ下さんと由比ヶ浜さんだ、比企谷君が私を見ていたことに対して不平を言っている。

 

 

比企谷君は冷静に2人に言葉を返しながらも私の事をチラリと見ている。

 

その時にふと彼と目があった。

 

彼が私を見る腐った目の奥、そこには私に対してであろう様々な感情を含んでいた。

 

雪ノ下さんたちのような比企谷君に対する見下したような感情でも、私に対してプラスの感情でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー彼が私に向けている感情はーー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疑い、不信感、これらマイナスの感情が当てはまるような感情だ。

 

 

私には彼の目がこう言っているように見える…

 

『お前、本当にそう思っているのか?』と…

 

 

わたしは突然冷や水を背中に浴びせられたような気になった、家族からの虐待、学校でのいじめ、これらの時とは全く違った感情だ。

 

でも、私はこの感情が何なのか知っている。

 

この感情は…

 

 

 

『恐怖』

 

 

 

家族や周りから受けた恐怖とは全く違う『恐怖』

 

私が最も味わいたくない感情だ。

 

でも、それを彼は自分に向けてくる。

 

そう思った瞬間、さらに背筋が寒くなり、彼が自分に向ける視線が怖くなった。

 

そうなると、彼はさっき何と言おうとしたのだろう。

 

 

 

いや、考えるだけでも怖い…

 

 

私の思い込みかもしれないし、これ以上考えるのはやめよう…

 

 

 

でもーー…

 

 

 

 

 

ーー彼には気をつけた方が良いみたい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は比企谷君の疑いの視線から逃げるように提案する。

 

「ねぇ、今日はもう終わりにした方が良いんじゃないかな? 雪ノ下さんも比企谷君も疲れてるようだし、その状態では依頼が来てもまともに対応出来ないと思うよ」

 

「そうね、富良野さんの言う通りこのまま続けていても効率が悪いわね、今日はもう終わりにしましょう、由比ヶ浜さんもそれでいいわね?」

 

「おい、俺の意見は無視か?」

 

私の提案に雪ノ下さんが賛同したので部活は解散ということになった、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは比企谷君を無視して後片付けを始める。

でも、比企谷君も片付けをしているので帰ることに依存はなさそうだ。

比企谷君の注意がそらせた、無意識にホッとする。

 

それにならって私も後片付けをする。

 

 

「それじゃ、私は先に帰るね、じゃあね〜3人とも」

 

「ええ、さようなら由比ヶ浜さん」

 

挨拶とともに由比ヶ浜さんが一足先に教室から出て行く。

 

「それじゃ、私は鍵を返しに行くから」

 

 

「ああ、じゃあな」

 

「さようなら、雪ノ下さん」

 

そう挨拶を交わすと今日は解散になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、私は今日のことを思い出す。

 

小説のことで材木座君にはああ言ったけど、実は私は材木座君の小説は雪ノ下さんたちと違ってほとんど読んでいない。

 

何故って?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんなのに割く時間がもったいないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が材木座君の小説を読んだのは、最初の十数枚だけで残りは読んでない。

 

はっきり言って材木座君の小説は雪ノ下さんたちの言った通り酷いものだった。

文章は稚拙だし、初っ端からろくな説明もなしに必殺技らしき名前を主人公が叫んでいて、話のとっかかりが理解できない。

比企谷君の言った通り1行読んだだけでゴミ箱に行きも納得できる作品だった。

 

おまけに材木座君個人に対しても少しも好感が持てなかった

 

依頼の時に材木座君は言っていた、『ラノベの新人賞に応募しようと思っている』と。

普通ならば本当に新人賞に応募しようと考えているのならば、自分の作品をもっと多くの読者に読んでもらうためにネット上の小説投稿サイトに投稿するはずだ。

 

それならば、こんな小さな部活の人たちに読んでもらうより多くの人たちに読んでもらえるだろうから、彼の欲しい様々な感想か寄せられる。

 

そこから修正して文章や話の構成を学ぶ事だってできないことはないだろう、私たちに読ませるより、この方法の方が良い作品を作れるために最も身近で効率的な方法だ。

 

なのに彼は『ネット上の読者は手加減を知らないからな、批判でもされたら死ぬ』と言っていたくらいだ。

 

従って、彼は感想が欲しかったのではなく、自分の小説を褒めて欲しかったから奉仕部に来たということだ。

それならば顔が見えずに、ズケズケと批判や批評を言うネット上の読者の方々より同じ高校の人たちの方が褒めてくれるだろうと思ったのだ。

おそらく、材木座君があんなに自信満々な態度だったのは自身の書いた小説が自信作ということだけではなく、本人が目の前にいるのだし批判はしないだろうと思っていたのだろうが、まあ、雪ノ下さんたちにはそれが裏目に出たみたいだったけどね。

 

つまり、材木座君は自分の作品を肯定して欲しかっただけ、新人賞に応募するために書いたあの小説も所詮は自己満足のものだ。

 

それに新人賞に応募するのならば私たちに見せるという事自体がおかしいということにも彼は気づいてない。

 

あんな小説しか書けない文章力で批判が怖いまま、新人賞に応募しても落選してそれに対していろいろ言われて挫折するのがオチだ。

批判が全くない万人に受け入れられる小説なんて私は聞いたこともない。

 

彼の依頼の本当の解決方法は、誰かが小説投稿サイトに彼の小説を代わりに投稿することだったのだろう。

彼が遊びではなく本気でラノベ作家を目指していたのなら、少なくとも甘ったれた考えから目覚める必要があった。

 

キャラもブレブレだったが、やってることも彼はブレブレだ。

 

何もかもが中途半端、所詮は彼の自己満足に付き合わされただけ。

 

比企谷君や雪ノ下さんはご苦労様なことだ、『骨折り損のくたびれもうけ』だったってのに…

 

 

 

 

 

 

私が材木座君の小説を賞賛したのは、雪ノ下さんたちのように酷評して角が立つのを避けたかったからだ。

 

材木座君が自信作の小説を酷評されてもめげずに小説を持ってくるというタフな性格ならばそんな心配はないけど、あいにく材木座君と私は昨日会ったばかりだ。

 

彼がどんな人間なのか分からないし、自信作の小説をボロクソに酷評されたことで平塚先生やらに泣きつくかもしれない。

そうなると、あの時に一緒に彼を非難していたら私の方にも平塚先生から余計な火の粉が飛んでくるかもしれない。

 

だったら彼の小説をとりあえず褒めて解決策を提示すれば良い。

つまり『設定が面白い』だの『独特の感性を持っているね』ということはどんな小説にも当てはまる、当たり障りのない褒め言葉を言ったに過ぎないのだ。

後は、小説を最後まで読んだ雪ノ下さんや比企谷君の意見から解決策に使えそうな部分を引用して自分の意見とすれば良い。

 

とどのつまり、私は材木座君の小説なんて興味もない、傑作だなんて思いもしない。

いわば、彼は私の当たり障りのない建て前の感想を貰って、それが自分の実力だと思い込んで舞い上がってるだけなのだ。

 

その前の雪ノ下さんたちの酷評などなかったかのように1人で盛り上がっていたからね。

 

でもまあ、彼の依頼である『小説の感想を聞かせて欲しい』という依頼は達成したし、小説を書くモチベーションも上がったみたいだから依頼達成なんじゃないのかな?

 

まあ、彼はまた新作が書けたら持ってくると言っていたし、またその時は同じようにすれば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それよりも問題はあの人だ…

 

 

私に対して疑い、不信感を含む視線を向けたあの人……

 

 

 

彼はあの時、私に何を言おうとしたのか分からない。

 

 

 

考えても、考えても、考えても分からない…

 

 

 

『分からない』。 だからだろうか……

 

心の奥底から気持ちの悪い何かが上がってくる。

 

自分を奈落の底に引きずり込もうとするような感情だ。

 

人通りの少ない住宅街の帰り道で私は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼が………『怖い』……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女のそのか細く小さな声は誰かに聞かれることもなく夕闇の中に溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の帰り道はいつにも増して足取りが重かった…

 




今回はここまでです。

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