夕暮れの空は周囲を朱く照らしている。いつ見ても、とっても綺麗だ。
私はとある街角の一角……。私はとある男の子に呼び出され、今こうして向き合っている。
しかも野次馬が集まっていて、見えないように隠れているつもりなのだろうけれど私には丸わかりだよ……。恥ずかしいからやめてほしいなぁ。
そんなとりとめもないことを考えていると、目の前の男の子がグッと自分の拳を握りしめて私の目をまっすぐに見つめてきた。
「あっ、あの!」
夕日のせいとは思えないくらい顔を真っ赤にして、男の子は声を振り絞る。ああ、心臓がヤバイ。何を言われるのか分かっていてもドキドキしてる。
「は、はっ、初めて見た時から好きでしたっ!一目惚れです!ぼ、僕と付き合ってくださいっ!」
男の子は精一杯の声で私に告白してきた。周りからキャーキャーと黄色い声が聞こえてくる。隠れてるんじゃなかったんですかねぇ……?
と、まあ、現実逃避してばかりもいられない。
顔も悪くはないし、なんか性格も誠実そうな人で、私も悪い気はしないけど、私は相手のことを全然知らない。だから今すぐには答えられない。逃げだとかそんなことを言われるかもしれないけど、私はちゃんとしたお付き合いがしたいのだ。
だから「ごめんなさい、まずはお友達から始めましょう。」そう伝えるために口を開く。
「そのような瑣末事の為にこんな場所へ呼びたしたのか?私を娶るだと?冗談も休み休み言うがいい。どうしてもというのなら、最低限美丈夫になって出直してこい。」
空気が、死んだ。
……話をしよう。
あれは今から約15年前……。
そう、私が生まれる前の話を。
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「目覚めよ、選ばれし者。」
そんなテンプレともいえるセリフと共に私の意識は浮上する。死んでしまった勇者が王様の前で「おお勇者よ、しんでしまうとはなさけない!」ってなってるのってこんな感じなのだろうか。
というか、視線が固定されている上に体の感覚が無い……というか空間に溶け込んでます、ハイ。周囲に意識もダダ漏れしてるっぽいし。な、何を言っているのか分からないがとかいうテンプレは割愛させてもらうよ。というか誰だろ。視界(?)には白しか映って無いんだけど。某洗剤も驚きの白さだよ。
「此度、貴様は生前の善行により、現状の意識と記憶のまま第二の生を送ることを決定された。フハハハハ、神の俺が助けてやったのだ。泣いて喜ぶといい。」
なんか妙に偉そうだなぁと思ったけど、この人神様なのか。あれ?私死んだんだっけ?というかすごく記憶が曖昧なんだけど。もしかしてよくあるテンプレで、子供を庇って車に引かれたのかな。
「死因?お主は無差別殺人事件の第一被害者だ。」
Oh……。予想以上にヘヴィだった。
てか善行っていっても、ボランティアとかゴミの分別してるくらいだよ?そんなんでいいのか。緩いね。
「最近の塵芥共はどうもいかん。感謝の念というものを失っておる。その点、貴様は優秀だったのだよ。」
そんなものなのか。いや、私としては有難いからいいんだけどさ。
「死んだ事について何も思わんのか?」
あー、いや、確かに死んじゃったのかと思いますけど、もう過ぎたことですし騒いでもどうしようもないかと。
「ふん、つまらぬ。我輩は慌てふためく雑種を楽しみにしていたというのに……。」
おい、神様悪趣味過ぎでしょ。
というか早く本題に入ってください。私に言うことってこれだけじゃないんでしょ?
「ほう?分かっておったか。中々どうして面白い。」
まあ、この状況がどう考えても2次小説の転生物だしね。機嫌がいいのか、私の声を聞かずに神様は話し出す。
「ククク、地を這う者よ。貴様がこれから行く世界は魔法の力が主軸となる世界だ。詳しいことは規約により制限されている。
だが詫びとしては破格だが、貴様に三つの特典をつけてやろう。身体的特徴、能力、全て叶えてやろう。」
そんなシェンロンもビックリな上目線で私にどんどん言ってくる。……要するにさっさと決めろというわけか。……そうだなぁ……。
じゃあ、カッコイイ女性にしてください。
「ほう?白鳥のように美麗な女性や、蝶の様に可憐で可愛らしげのある女性なら望む者は沢山いたが、珍しいな。」
なんじゃその表現。ナルシストか貴方は。まあ、多分多くの女性は一度は仕事バリバリの女性に憧れるでしょ?私もその口で、そういう人になりたかったなぁと思うわけで。細かいことはお任せします。
「ふむ、よかろう。一つ目の願いを受諾した。」
ありがとうございます。
じゃあ次は……これから行く世界で確実に身を守れる力をください。
「ふむ……。して、残り一つはどうする。」
その力を余すことなく使える身体能力と知識、必要ならば使うための資格をください。
「……なんとも雑な願いだな。仕方があるまい、私の方で細かい点は決定しておいてやろう。」
有難いです。
いやぁ、こうやって送る人に決めてもらえば間違いはない。下手に自分で決めると、弱すぎてピンチになったりするかもしれないしね。
「ではさらばだ少女よ。
その行く末に華の祝福があらんことを。」
嫁セイバーじゃないですか。そんなどうでもいいツッコミと共に私の意識は掻き消えていった。
…この事を私は後になって後悔した。
この神様のある点を重要視していなかったのだ。
「ふむ、容姿はこれでいいだろう。しかし、カッコよさが足りん……。
む?ほう、黒い姿があるではないか。ククク、世界を染めるのはやはり漆黒よな。能力もカッコイイではないか!奴はカッコイイ女性を望んでいた筈…ならばボロが出ないように人と対話する時に発動する翻訳機能もつけておくとしよう。ハーッハッハッハ!この我の寛大さにあの小娘も涙を流して喜ぶだろう!」
そう、神様は中二病だったのです!
******
「ハァ……。」
私は額に手を当てて小さな溜息をついた。うん、確かにカッコイイよ。
絹のような繊細さを持った色素の薄い金髪
黄金比とも言えるバランスのとれた顔と体
透き通るような美しい肌
私の容姿はノベルゲーム、Fate/stay nightに登場するメインヒロインの一人にしてサーヴァントのセイバー……その名をアルトリア・ペンドラゴン。かの有名なアーサー王となっている。あ、髪はめんどくさいので後ろで纏めてます。セイバー・リリィって言ったら分かるかな?要するにポニテです。
動画サイトとか2ちゃんとかで腹ペコ王、ニート王とか散々に言われていたけど、原作の彼女はまさにカッコイイ女性だった。神様の翻訳機能も上手く機能してくれていただろう。
だけど、セイバーはセイバーでも、セイバーオルタなんだよね、私。
嫌だよ!どう考えても悪役じゃん!
というかセイバーオルタで翻訳されるから優しく言おうとしても大体が相手を見下すような発言になっちゃうんだよ!友達?いるわけないじゃないか!
ちなみにさっきの男の子は泣きながら走り去ってしまった。本当にごめんなさい……。
能力…というか武装は案の定真っ黒な鎧と、風王結界[インビジブル・エア](黒)と、約束された勝利の剣[エクスカリバー](黒)でした。ちゃんと全て遠き理想郷[アヴァロン]は無いんだね。ちくせう。出てこい~って思うと出てきます。凄いね。
あ、自己紹介が遅れました。
私はアルトリア・A・ペンドラゴンといいます。あ、Aはオルタナティブって読むよ。神様の神託的なアレでつけられました。神様、安直過ぎませんかね?
元貴族で、現在フリーランスの傭兵をしております。どういうことだよと言われてることかと思います。ええ、単純な話で、捨てられたんです。
私はとある片田舎の小さな領主の次女としてこの世界での生を受けました。まあ、大体予測は出来ると思うんですけど、私、魔法使えないんです。今ならインビジブルエアでそれっぽく出来ますけど、あの頃はそこまで頭が回りませんでした。とある森にシュゥウウウゥゥーッ!されて超ッ!エキサイティンッ!でした。古い?知らないです。
まあ、貴族のしがらみとかそういうのめんどくさかったので此方としては万々歳なんですけどね。ここまで子供を見てないとなると、逆に清々しさすら感じましたよ、ええ。とりあえずムカッ腹は立ったので、宝物庫に聖剣ぶっぱしました。ざまぁ味噌漬け。だけどお腹が空いて、さらに破壊力ヤバかったので、滅多なこと以外は使わないようにしてます。
まあ、そんなこんなで日銭を稼ぐ為になにしようかとなった結果、この身体能力使えばいいんじゃね?ってことになり、こうして割のいい傭兵やってます。女の子らしい仕事しろよとか無茶言わんといてください。そんな簡単になれたら苦労しません。
傭兵をしていて気付いたのですが、私はセイバーオルタのスキルまで保持しているようです。前に反逆した貴族の捕縛の仕事で、魔法に当たったと思ったら掻き消えました。あ、そこ。世界観が違うから対魔力とか無意味とかそういう細かいことは無しです。そんなものは神様クオリティでなんとかなるもんなのです。メイジ相手の仕事ってお金がガッポリもらえるんですよ。メイジって魔法を抜いたら大抵が貧弱な一般人程度なので、楽して稼げるから有難いです。
あ、仕事ではエクスカリバー使いませんよ?あんなの使ってたら相手が消し飛んじゃいます。
代わりといってはなんですけど、武器屋で買える一番安い剣を使ってます。案外長持ちしてるんですよねぇ。なんか聖剣よりこっちを握り慣れてる気すらしています。
さて、そんな生活を続けていた私ですが、この度長期任務に入ることになりました!いぇーい!どんどんぱふぱふ!
詳細はわからないんですけど、ここ、トリステインの名門貴族だったっけ?忘れちゃいました。まあ、そこの三女の護衛兼身の回りの世話です。期間は有名な魔法学校を卒業するまでだそうです。なんで貴族に護衛なんてとか思ってたら、なんかワケありで魔法が使えないんだそうです。私も使えなかったから親近感湧くなぁ。三年間くらいは一緒なわけだし、仲良くなりたいや。……まあ、相手は貴族だし、それに私の口調では仲良くなんてなれませんよねぇ……。
さて、お手製のハンバーガーを食べて寝よう。
ケチャップは作れたけど、マスタードとBBQソースは作れなかったよ……ちくせう。
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この世界に住む人なら誰もが一度は耳にする。よくあるような噂話。
ここ数年で現れるようになった「メイジ殺し」の頂点
黒き女騎士に魔は触れることさえ叶わぬ
黒き剣を振るいしその姿、その威厳
まさしく王であると。
お知らせがあります
ちょっと色々とコメントをいただいたのですが、色々と修正…というよりは再構築をさせていただきたいと思います。すみません。
遠くない日に上げようとは思います。申し訳ありません。