2020年
アメリカ合衆国
カリフォルニア州 サンフランシスコ
ガチャ
雀路羅原子力発電所の崩壊から21年後。
そして南太平洋でガメラと人類の遭遇から2年後。
元隊に戻ったニック・モートンは従軍を終え1週間の休暇を貰い、サンフランシスコにあるマンションに帰って来ていた。
「あ、お帰り」
「ただいま」
メグミは、ウチキド博士が国連直轄に移管したモナークにリクルートされた事によりハワイ大学の研究室が閉鎖され、ニックとルームシェアをしていた。
プルルルル プルルルル
二人は寛いでいると部屋の固定電話が鳴り、メグミは電話に出た。
「はい、もしもし………はい、そうですが…………え?………はい、今替わります。ニック、日本の領事館から電話よ」
「領事館から?」
ニックはメグミから受話器を受け取り、電話に出た。
「はい、お電話替わりました、ニック・モートンです…………はい…………えぇ、ジョー・モートンは確かに自分の叔父ですが………あの叔父が何か?……………逮捕された?」
「…………」
在日アメリカ総領事館から叔父のジョーが日本警察に逮捕されたと聞いたニックは、身元引き受け人になってほしいと頼まれ悩んでいた。
「………行かないの?」
「叔父さんとは疎遠になってたんだ」
「そうなの?」
「あぁ…………」
「………ニック、その叔父さんってあなたの唯一の肉親なんでしょ?」
「あぁ、親父が死んで俺の身元引き受け人になってくれたからな」
「…………行って来たら?私も行くから」
「……………」
日本
宮都県 宮都市
メグミに説得されたニックとメグミは日本に訪日し、宮都県の県庁所在地、宮都市の警察署でジョーが保釈されるのを待っていた。
「和宏!」
「このバカ息子が!」
「………」
警察署の待合室で待ってる間、ニックは警察から保釈される不良とその両親らしき人物達を見た。
子供の頃に両親を失ったニックには、あの様に叱ってくれる両親の存在を今でも羨ましく思っていた。
そんなニックに気付いたメグミはジョーについて今のうち聞いておこうと考えた。
「………ねぇ、あなたの叔父さんジョーさんって、あなたしか肉親が居ないの?例えば奥さんとかは?」
「20年前に雀路羅原子力発電所が崩壊した事故覚えてる?」
「えぇ、チェルノブイリ以来の原発事故で、今でも雀路羅市は放射能汚染で立ち入り禁止区域になってるって。確か原因は隕石の衝突だったかしら?」
「その時に原子炉の調査に向かった原発作業員数名が漏れ出した放射能を浴びて死亡した。その死んだ作業員の1人が、叔父さんの奥さん、サンドラさんだったんだ」
「………」
「叔父さんは再婚とかは一切考えなかった。今でも死んだサンドラさんを愛しているんだろうな………!」
「?」
ニックが何かに気付いたような顔をし、メグミも同じ方を見ると、警察署の奥からジョーが保釈の手続きをしていた。
「……!」
ジョーも、待合室に居るニックに気付いた。
ガチャ
「入ってくれ」
「お邪魔します」
ニックとメグミはジョーが住むマンションの部屋に案内された。
ジョーの部屋は大量の資料や計測機器、更には生物音響学の参考書等があった。
「済まない、最近掃除を疎かにしてしまってな」
「いえ」
「ニック、軍の仕事はどうだ?」
「それなりに順調だよ」
「そうか」
「あの、これって何の資料ですか?」
メグミが大量の資料の事でジョーに質問した。
「20年前原発事故の調査のだ」
「20年前って、雀路羅のですか?」
「あぁ、それで調査の為に立ち入り禁止区域に入ったらいきなり逮捕だ。やはりあの地区には政府が隠したい何かがある」
「隠したいって」
「叔父さん」
「あぁ、20年の事故はただの隕石衝突じゃ「叔父さんいい加減にしろよ!」」
「………ニック?」
ニックはジョーに対して言葉を荒げた。
ニックとジョーが疎遠になったと言っていたが、理由は20年前の原発事故に陰謀論を懐くジョーに対して愛想を尽かしてしまっていたからだった。
「サンドラさんが死んで20年だ。目の前でサンドラさんを失った叔父さんの気持ちは俺にはわからない程辛いとは思う。だけど20年も根拠のない陰謀論を追ってどうするんだ?」
「……………済まない、私の勝手行動にお前を巻き込んでしまって………」
「…………」
「…………」
ニックとジョーの関係に不穏な空気を残したまま、その日は終わりを迎えた。