全てを美少女にしちゃう女神の俺が失われたアレを取り戻すまで 作:一二三 四五八
お、おやぁ?
何が起こってやがるんだよ。
目の前で俺ら民草のなんかの為に、女神様が頭を深く下げて謝罪している。
それも地べたに直接座り込み、両手のひらを地面につけて。
俺らはみんなワケが分からなかった。
だってあの神々だ。気に入らなければ人の世など好き放題消し飛ばちまう。そんな存在が、本気で俺らに騒動を起こしちまった原因となった事を詫びてくれていた。その光景を前に一番最初に我慢が聞かなくなったのは2人の衛兵達だった。
「お、おやめ下さい女神様。貴方様の奇跡を見て我々が勝手に驚き騒ぎ立てただけの事です。貴方様のような方が我々如き民草に頭を下げるべきではありません。
どうかその頭をお上げ下さいっ!!」
「そうです女神様っ、早くお顔を上げてお立ちになられて下さいっ。皆が困惑していますっ!!」
それぞれに女神様に言葉を尽くして、謝罪をやめるように促していく。だが女神様はどうにも譲る気がねぇらしい。頑なに頭を上げようとしない。
「いいえ騒動の原因はワタシですもの。神であろうと人であろうと過ちに気づいたのならば誰であっても頭を下げてまず謝るべきなのです。それが世の理というモノでしょう。これを違える気は有りませんっ!」
女神様は頭を下げたまま、ものすごく筋の通った言い分を衛兵に投げ返した。でもそりゃあ理屈であって誰もが実践しちゃいねぇことだ。世の中偉いヤツは弱いヤツに頭下げたりしねぇのが常識で、当たり前だ。
その光景に耐えかねたのか、ついに業を煮やした衛兵達が並んで声を荒げた。
「お、お立場というモノがある。今スグ頭をお上げ下さいっ!!」
「ほら女神様、お立ち下さいってっ!!」
「いーやーでーすーっ、あーげーまーせーんーーーーーーっ!!」
「なんで意地張ってるんですか貴方はっっ!!」
くく、な、なんだこりゃ?
「ほら、主どの。衛兵どのもああいって下さっていることですし、ね?」
「貴方様ぁ、もうお顔をお上げになって下さいぃ。」
「やだっ!!」
これじゃあまるで。
「いやぁご主人さまってああなると頑固なんだよねぇ?」
「へぇ旦那はんそんなかわええトコあるんやねぇ。んふふ、ますますウチ旦那はんに惚れこんでしまうわぁ♪」
「あ、あんたそういうキャラなんだ。なんか意外。」
庶民向けに作られたわっかりやすいコミカルな演劇かなんかみてぇじゃねぇか。
「わ、ワシからもお願いしますっ。女神様を突き飛ばしちまったのはワシなんです。じゃから女神様はなんも悪くねぇんですっ。悪ぃのはワシなんですっっ!!」
「そんなのそれだけ貴方があの家の事を大事に思ってただけじゃないっ。別にそれで少しよろけてしまった位でワタシ怒ったりしないわよっ。しないものっ!!」
「じゃあなおさら頭上げてくださいって、ワシの立つ瀬がねぇじゃねぇですか!」
「やですっ!!」
「め、女神さまぁっ!!」
頑なに意地を通すその姿を見てたらよ。
「まだそこに立ってる人たちから許しを得てないんですもの、上げられるわけないじゃないのっ、だからいやです。それまで絶対ごめんなさいするんですっ!!」
もう、耐えられなっちまった。
「くっ、はぁっはっはっははははっ!!
そりゃあいいっ。間違ったら謝ってってそれがみんなできりゃあ世は平穏だ。なぁみんな、女神様はああ言ってるが誰か女神様に対してなんか不満を持ってるヤツがここにいるかい?
そこの泣いてたアンタ、どうだ?」
近くの男に聞いてやる。どうにもびっくりした顔で俺を見返しやがるが、それでも話にノッてくる。そうだ。それでいい。
「いや、俺なんか勝手に女神様のこと怖がってたっていうか、ああ女神様、ホントに貴方が頭下げることじゃねぇですよ。むしろ俺こそ申し訳ねぇっ。」
くく、良いね。流れにノッてきた。そりゃそうだ。神様が先に頭を下げちまったんだ。俺らが下げられねぇ通りはねぇ。
続いて隣の女にだ。この流れをとめちゃなんねぇ。なんかそういう気分なんだ。
「そこの震えてたアンタ、どうだ?」
「あの、ごめんなさい。私も勝手に怖がって……、す、すいません女神様ぁ、ほら立ち上がって。立ち上がって下さいってばっ!」
それみろ。今じゃなんであんなお人に怯えてたのか恥ずかしいって顔してやがる。ああそうさ、俺だって恥ずかしいぜ。あんなバカな神様見たことねぇって。怖がるこたぁハナからなかったんだ。
「そこのケンカしてたアンタは?」
「……この光浴びてたらよ、オレラも職人達も殴り合った傷が癒やされていくのよ。それってつまり最初っから女神様はアイツラに怒りなんざ持ってなかったってこったろ。すんません女神様っっ、俺ら勝手に突っ走っちまいましたっっ!!」
ああそうさ。誰もが勝手に怯えてついつい勝手やっちまっただけの話だ。最初から誰も悪くねぇし、恐れることなんざなぁんもなかった。
ああ、そうだとも女神さま、イヤさお嬢ちゃん。
「くく、嬢ちゃん。ご覧の通りさ。アンタぁなぁんも悪くねぇんだ。早く顔上げてくれよ。これ以上焼き串屋のおっさんを笑わすのは勘弁してくれやっ。」
「っ、屋台のオジサマっ!?」
唯の焼き串をあんなに嬉しそうに見てたこの嬢ちゃんが、こえぇワケなかったんだ。んなこと最初っから気づくべきだったじゃねぇか。
やっと顔上げてくれたなお嬢ちゃん。それみろ、みんなアンタに謝りてぇんだよ。
それからはなんてこたぁねぇ簡単な話だ。
そこにいるミンナで謝りあって肩を叩きながら笑いあった。おかしなもんでなぁ。怖ぇことなんてなんもなかったってわかった途端、無性に笑いが止まらんかった。こんな安っぽい展開よ、今どきどんな3流劇団だってやりゃしねぇ。でもよ。
でもそれが現実なら、意外とこれも悪くねぇんだ。
それによ。
「ありがとう、皆さんっ!!」
「……はは、は。やっぱあんた女神だわ。」
こんなひでぇ筋書きだって充分だ。なんたって
唯彼女が俺らに向かって力いっぱい笑い返しただけ。たったそれだけで。
そこにいたみんなが見惚れて息もできなくなっちまった。彼女の、女神様の心からの笑顔を見ちまったからだ。なんて優しい、嬉しそうな顔で笑いやがるんだ!
ああ。
俺は今まで神様なんでとんと信じてこなかったけどよ。この人なら信じてみてぇって今思っちっまった。だってよ。
俺ら民草のために本気で笑って、本気で謝って、本気で拗ねて本気で喜んでくれる女神様だ。嘘みてえにぺっぴんなのに気安くて、かと思えば次の瞬間誰より気高く輝く不思議なお人だ。俺らみてぇな民草が信じるんなら、断然こんな人がいい。
きっとよそん時。俺らは誰もがそんなことを考えていた。虹の光を讃えて笑う彼女の笑顔が、その在り方が綺麗すぎて、誰もがそんな事を思っちまった。
思えばこの時。
俺たちはもうこの人間くさい女神様の事を心の底から好きになっちまってたんだ。
閲覧ありがとうございます。
気安くて美人すぎる普段ちょっとポンコツな隣のおねぇさん系女神様な主人公。
長ぇなオイ。
カムィ君は筋モンさんとのあれこれで、通すべき筋にわりとうるさい人だったり。それはそれとしてがデキナイ残念な子なんです。