全てを美少女にしちゃう女神の俺が失われたアレを取り戻すまで   作:一二三 四五八

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15話大進行3話目。


37) 第15話裏 あまねく全てを束ねる光(3)

【親方視点。】

 

ああ、なんてこったっ。ワシは夢を見てるのか?

 

 

これがこの家を救える最後のチャンスだと信じて、お綺麗な貴族のお嬢さんに詰め寄ったこのワシは、勢い余ってお嬢さんを転がしちまった。

 

家の壁へと転がるように身を崩したお嬢さんを見て、一気に血の気が引いちまう。

 

ああ、やっちまったっ!!

どんなに善良な貴族様でも職人如きに突き飛ばされたとありゃあもう頼み事どころじゃねぇ。よくて投獄、場合によっちゃあ打首だ。

 

結局。ワシは自分の手で最後のチャンスを棒に降っちまったってわけだ。

 

は、笑えるぜ。

しかし全てを悟り、その場で崩れおちるように膝立ちとなったワシが見たモノは、このワシの想像など遥かに超えたシロモンだった。

 

なんとワシの目の前であの家が消えて、1人の若い娘へと姿を変えちまったんだ。

 

ああ、確かにあの娘はあの家だ。そう言える。

なぜならその姿の所々があのジジイが無茶言った、ワシらをさんざん泣かせたバカ見てぇに高度な建築技工と特級建材を再現しとったからだ。

 

色合い再現すんのだけで三月もかかった鳶色の艶身を帯びた壁塗りと同じ色の髪。編み込んだ髪の意匠は釘1つ使わずに、別々の木材を編み込んで仕上げた装飾柱を思わせやがる。

 

着てる服だってそうだ。

大正ロマンだかなんだかわけわからん、東国の技でもって西の建築を無理やり再現したようなその在り方が形に現れたような、東の着物みてぇな女中服。

 

短ぇ丈の袴見てぇなスカートの上には、フリフリの聞いた女中らしい白いエプロン1つ身につけてるが、その着物の意匠が女中に見えやしねぇ。

 

黒地に艶やかすぎる翅桜が舞い散る様は、そりゃあの家に使われた桜杉の咲かせるもんだろ。その木目の美しさと、消えない甘い春の香りが人気で取りつくされて、今じゃもう手に入らん特級建材様よ。宵闇に舞う花の儚さを感じさせる、派手すぎねぇ優美な気品を感じさせるその柄は、女中の着るようなもんじゃねぇ。

 

そんで裏地にゃ豪奢な緋牡丹がチラリを見える。ありゃあどうせ見えんような所にさんざん仕込まされた飾り細工のそれだぁな。履いとるブーツも、付けとる組木の耳飾りも、なんもかんもオレらを泣かせた大仕事の面影があらぁ。

 

ああ、ほんと。ろくでもねぇジジィだったよ。

 

そしてなによりよ。その顔立ちだ。それがどことなくあのジジイを思わせる小利口そうな面してやがるんだ。偏屈そうな猫目で、人を小馬鹿にしたような我の強そうな面構えよ。喋りゃきっと独特のヤマト訛りだ。まちげぇねぇ。

 

はは、なんだそりゃ。どうしてそんなことになる。

 

何がおこりゃあ、家が娘っ子になるんだい。

そん時ワシが押し倒しちまったお嬢さんはその娘と、もう一人。空から降ってきた盗賊風の、男だった娘に挟まれるように倒れとった。同時にお嬢さんのお付きの方が彼女をお守りしようと足早に駆け寄っていく。それを見ながら不意にわかった。

 

ああそうか。……この御方は貴族なんかじゃねぇんだ。

 

出会った頃からあの人はずっと自分を貴族じゃねぇって言ってくれてたじゃねぇか。神々しい程に美しいその身の振る舞いで、ずっと説明してくれとったんだ。

ああそうだとも。貴族なんかじゃありえねぇ。

 

この御方は、神様なんだ。

 

そう思った時、膝ついたままだったワシの身体は自然と神様に向けて倒れ込んだ。

ああ、ワシはなんてことをしちまったんだろう。

ワシが突き飛ばしたその御方は貴族なんてもんじゃなく、本当のお力を持った女神様だったんだ。

 

ただただワシは頭を垂れて、己の不敬の許しを請うた。

 

近くから神の身を害したワシに制裁を望む者の怒鳴り声が聞こえてくる。

その通りだ女神様。ワシのような不敬者の願いを、貴方は叶えて下さった。だからワシは喜んでこの身を貴方に捧げます。

 

ですからどうか、怒りの鉾先はワシにのみにして下され。そう願って、ワシは許しを請い続ける。そうすることしかできなんだ。

それがよ。

 

今、この場にいるモンは女神様に女に変えられて未だに泣いとる盗賊風の男以外、みぃんな肩叩きあって笑い合っとる。見たこともねぇお綺麗なお顔に、見ただけでご利益がありそうな笑顔を讃えて、女神様も笑って下さっとる。

 

ワシが犯した罪なんざ、鼻にもかけねぇ。

 

「そんなのそれだけ貴方があの家の事を大事に思ってただけじゃないっ。別にそれで少しよろけてしまった位でワタシ怒ったりしないわよっ。しないものっ!!」

 

と来やがった。ああなんて、なんて器の大きい御方なんだろう。

職人として神を祀ることはあったが信じたことなんざ一度もなかったこのワシは、この時本気で己の愚かさを呪った。知らなかったなんざ理由にならねぇ。

 

何よりも奉ずべき御方がそこにいたんだ。

 

ワシが心よりそう思い、内心で女神様に祈りを捧げとった。そん時だ。

未だ興奮を隠せぬ民草の中、女神様がワシの方へと近づいてきてくだすった。

 

「色々と騒がしくしてしまったけれど、改めて貴方に謝らないといけないわ。」

「え?」

 

言われてワシにはなんのことか分からねぇ。女神に謝られることなんか何1つねぇんだ。当然だろう。だからそいつを女神様に言われた時、ワシャもう悔しくてよ。

 

「結局、貴方が大切に思っていたお家の在り方を私は変えてしまった。それは貴方の望む家の救い方とは違った筈よ。だから、ごめんなさいっ!!」

「よ、よして下せぇっ。そんなことねぇっ。そんな事ねぇんですっ。ワシらの仕事はちゃぁんと形ぃ変えて、娘さんの姿になってそこにあるじゃねぇですかっ?

貴方様は、目の前の親父の手前ぇ勝手な願いを、これ以上ねぇくれぇ見事に叶えてくだすったっ。だから、おねげぇしますっ。頭ぁなんざ下げねぇでくだせぇっ!!

 

そうじゃねぇ。頭下げる必要なんてなんもねぇんだ。ワシゃこんなに満足しとる。あんな立派な家がまるごと、家以外なんも残さんかった糞ジジイごとよ。救われたんだ。ジジイの孫娘みてぇな姿になってよ。コレほど嬉しいこっちゃねぇっ。

 

それを女神様に伝えきれねぇ、ワシ自身の不甲斐なさが悔しくて泣けてくる。言葉にしちまった途端、想いごと安くなっちまいそうでよ、どうしてもそいつを口から吐き出せねぇ、不甲斐ねぇ自分に泣けてきちまうっ!!

 

職人のワシゃ、テメェの手仕事以外で語る口なんざ持ってねぇんだっ。

 

この想いを口先だけで、とても伝えきれねぇんだよっっ!!

 

けどよ。そん時だった。

 

「そうやえ旦那さん、なぁんも心配いらんよぉ? だぁって旦那さんに変えられてもうたウチがぁ、一番お礼言いたいんですもんねぇ?」

 

あの娘が、ワシの言いたい事を全部、言うてくれたんだ。

 

「だぁって旦那はんウチを変えても、なぁんも変えてへんもんねぇ?

ウチのカラダの所どころにちゃぁんと職人さんの心意気は残っとぉしぃ? ウチに全てをぶっこんで昔に縋る他なかった偏屈じじぃの底意地までもがウチにちゃぁんと息づいとるんよぉ。それになぁ?」

 

そうさ。全部、全部ワシらの仕事はそこにある。ちゃんと全部この娘さんを造るのに使われとるんだぜ。ホレ見ろ。やっぱ独特のヤマト訛りだ。

聞いとったらどうしてもあの厭味ったらしいクソジジィを思いだすぜ。

 

ネチッこく小言のうるせぇ、なんとも言えねぇヤな野郎だった。

それでも家を訪ねたときゃ絶対茶菓子を用意してくれるようなヤツだった。

 

「ウチは家人。人であり、家なんよ。その根源は住まわせる者。やからぁ……。」

 

どっかネコみてぇに自分の感情全部隠していっつも澄ました顔でいるヤツだった。それでも家が出来上がったときゃ、小さく涙ぐんで礼言ってきた、あのクソジジィに似てやがるんだ。

 

いつのまにかおっ死んで、家の事だけ頼むって残して逝っとった。

 

あのイヤなジジィによっ。

 

《ウチの根源よ、在るべき(アイディアル・)姿で家人を(ロマネスク)迎えぇっ!》

「んふ。これからいつでもどこでも、旦那さんを出迎えられるんよぁウチは?」

 

なぁ見てるか、クソジジィ。オメェの家、救われたぜ。

女神様はオメェの家を娘さんにしちまったが、ちゃんと家の方も出せるみてぇだ。これでオメェがここじゃねぇどっかの。昔を懐かしんで作り上げたモンは大丈夫だ。

 

どっかから現れて少しでも世界をよくしようと躍起になって、挙げ句の果てに悪徳どもに捕まって、色々ヤラされたオメェのよ。

 

命からがら逃げ延びてきて名を捨てて。自分のやった事全部何食わん顔で腹ん中で飲み込んで、堪えとったアンタが。

 

それでもこの家が出来た時に、たった一言。

《ああ、これでようやっと。アタシもマシなモン1つ残せた。》

って静かに泣いたクソジジィが残したモンはよ。

 

「そんなん嬉しないってモンはおらへんの。ぜぇんぶ解決。旦那さんの1人勝ち。せやから頭上げてな旦那さん。せやないと。」

 

ワシじゃねぇ、きっと世界で一番すげぇ御方に救われたんだ。

 

「救われたモンが落ち着かんのんよ?

んふ。ウチとそこの不器用な親父の為ぇおもぉて、胸張って下さいな?

それが一番、今の旦那さんにお似合いなんですからぁ。」

 

ああそうだとも。それ以外にゃありえねぇんだっ!!

 

「そうですっ女神様、胸ぇ張って誇って下さいっ。貴方様ぁこの親父の、駆け出しん頃の夢をまるっごとサイッコーの形にお救いになられたんだっっっ。

こんな、こんな夢みてぇなすげぇ事。他の誰にできるってんでぇっ!!」

 

俺が娘っ子の言葉に乗っかってそう言うと、周りの職人全部が口早に囃し立てる。戸惑ってる女神様の前で、全員でもって言い切ってやるっ!

 

「「「「「「そうだぜっ女神様っ!!」」」」」」

「俺らのおったてたモンが、直接ありがてぇって言ってんだっ!

そんなモンが聞けたんだ。俺らがみんな夢みてるみてぇんな気持ちなんだぜっ。」

「「「「「「そうだともっ女神様っ!!」」」」」」

 

「ワシらぁこの御恩、生涯忘れませんっ。死んでも、忘れませんっ!!

だから、だからよっっ。女神様、アンタはココでやるこたぁ謝るこっちゃねぇんだ。ニッカリ笑って、自分のやったこと、仕事を誇るべきなんだっ!!」

 

だってよ。

そいつがイイ仕事をしたヤツの、在り方ってもんだろう?

 




閲覧ありがとうございます。

次の話はここまで沈黙の義賊ちゃん。
第2章前半の山場です。ここは1つ盛大に盛り上げていきましょう!!

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