全てを美少女にしちゃう女神の俺が失われたアレを取り戻すまで 作:一二三 四五八
【これより義賊視点】
…………。
ああ、なんて美しい人なのだろうか。
俺は死んで、天にでも召されたとでもいうのか。
身体が軽い。胸が苦しくない。静かにやせ細った身体の隅々に力を感じる。こんな事。まるでこの俺があの忌まわしき死病から開放された見たいじゃあないか。
ああ、そうか。ならばあの時俺は死んで神か天使の元へと召されたのだろう。
そう思わざるを得ない女に俺は今抱きとめられていた。
……いやそれはないな。俺が死ぬなら間違いなく地獄行きだ。こんな女に抱かれることを許されるわけがない。ならばここは現し世という事だ。
それなら男がいつまでも女に被さっているべきじゃあない。
「これは失礼、レディ。」
そういうと俺は素早く立ち上がり、女とその後ろで女を気遣うように抱きかかえている高級女郎の様な見事な華柄の女中服を着た少女に手差し伸べようと動き出す。
しかしその時。
妙な違和感を胸から感じた。病気のソレでないおかしな重みが自分の胸から感じとれる。不思議に思った俺が視線を1つ投げつけると、そこには夜伽でさんざん世話になった女のソレが、俺の胸へとひっついていた。
「なっ!!」
二度目に声を出して改めて気づく。それは俺の声とは思えない少し低めの女の声で。即座に俺は身につけていた探索用の手鏡に手をのばし、自分の顔へと向けた。
そこにはなんと死病によって窪み始めた顔色の悪い男のソレではなく、死病に侵される前の俺の容姿に近しい女の顔が映っていた。
肺も身体にも少しの不自由も感じない。女のそれだが死病を癒やされた俺がいた。
「ああ……。」
自然と、涙が溢れた。
祈るように、その場にしゃがみこみ、唯自身に起きた奇跡を噛みしめる。
俺が求め、その手から溢れ落ちたと思ったものは、アレだけ俺が無力を謳った神の手によってあっさりと、あまりにもあっさりと与えられてしまった。
泣きながら、周囲の音を探る。
ああ、民人達が神の偉業に対し恐れ、怯えて騒いでいるのだな。
当然だとも。その為の多機能方陣。その為の都市結界だ。未だにこの大陸の多くの都市に施されている大規模魔法陣。市民達に清掃魔法陣などと説明されているアレは、そんな優しいだけのモノじゃない。
神や貴族に叛意を抱かぬようある種の感情を抑制し、ある種の感情を増大させる。サトゥ・タナカの残した原罪の中で、最も大きな代物だ。それだけじゃない。支配者が街を捨てる際に、民の命を使って都市ごと吹き飛ばす大爆呪。同じく民人の命を使い都市の護りを固める大防壁。有事の際に民草の命を完全に消耗品としてしか考えない、この世でもっともおぞましい代物だ。
一部の支配者層しか知らされていないこの真実を識るものは俺のように必ず防御式を身につける。貴族にしか許されない獣の紋章印。自分たちが鷹と共に在ることを示す、ソレを必ず。
今民草達は神への恐れと、神へ働かれた不敬に対する怒りを増幅されているのだ。
こうして小規模の、目に見える神々の怒りの矛先をきちんと用意してやることで、神に生贄と捧げることで、自身の領地を護ろうとする貴族達の思惑に乗って。
俺の涙の意味が代わり始める。これは俺の罪でもある。
あの男を殺した後に自分と母のことだけを考えて、逃げることしか考えなかった。あの日から目を反らし続けた俺の、罪だ。
今もこうして目をつむり、自身の為に神の怒りが収まる事を待っている。民人たちを見捨ててでも、俺は母を救いたいのだ。本当にどうしようもない、小狡い男だ。
こんな時、無性にあの男との血の繋がりを感じてイヤになる。
いくら天秤を掲げていようと、秤自体が歪んでいては用をなさない。
ああ、快賊義侠なんてこんなモンだ。
星の数ほどいる悪徳貴族の一部を殺して、民人に偽りの希望を与える。そういう男が俺なのだ。故に。奴らを殺した数だけ俺の罪は増えていく。
畜生を殺すことが罪なのではない。知りながら、変えようとせぬ事が罪なのだ。
一度流れた涙を、なかなか止められないでいる。
どうやら俺に新たに与えられたこの肉体は、元のモノよりずいぶんとお優しくあるらしい。涙を流す資格など、俺にはとうに無いというのに。
しかし俺の想像は覆された。
神が彼らを許し、あまつさえ彼らに許しを請うて頭を下げる光景によって。
宵闇に包まれ始めた街の中で、心を乱された民人達がその神が放つ美しい虹の光を見て正気へと戻り、今は唯神と笑い合っていた。
世界のすべてを見てきたつもりだった。
快賊として、貴族として。
神々と出会ったことも、数え切れぬ程に経験がある。彼らは皆一様に、人々の事など目にもくれず、この世を自分の遊び場か何かだと、思っている筈なのだ。
まただ。今、また俺の涙の意味が変わってしまった。
唯の民人に頭を下げ、職人達にすら許しを請うて。この女神は皆と笑い合っているではないか。まるで人と自らとの垣根を持たずに、これほどの権能を持ちながらも一切誇らず。過ちがあれば頭を下げろと、その姿勢でもって人に教える。
世界のすべてを見てきたつもりだった。
だが俺は、あまりにも愚かだった。只々涙が両の目から溢れる。
あれこそが、神だ。
数多の欲深き偽物達など比べるべくもない。自分の理になるモノにしか権能を与えようとしない、弱者の事など見向きもしない愚物どもとは異なるモノだ。
職人達との話を終えた女神が、俺の元へと近づいてくる。
このみすぼらしい格好のまま、この女神の前に立つことは許されない。
纏っていた外套を脱ぎ捨て、ボロ布のような上着を腰に巻きつけて、
「っ、その肩の鷹とドクロの紋章印っ。」
「こ、皇族のみに許された、獣を抱かぬ、鷹しか描かぬ不敬の証っ!!」
「治世の証たる天秤を背中に掲げる、白い仮面の大悪党っっ。」
「……貴族達の悪夢、俺達庶民の希望の星!」
「「「「「「か、快賊義侠っっ!!」」」」」」
「「「「「「っマスカ、レイドっ!」」」」」」
静かに俺は膝をつき、深く拝礼にて女神の到来に備える。
敬うべき女神には相応の礼が必要だ。至極当然の話だろう。
「貴方にも本当に申し訳ないことをしてしまいました。心からお詫びいたします。どうかお顔を上げて下さい。」
何よりも美しい声が俺に向けて放たれた。しかし俺はその言葉にすぐに応じずに。女神にまず聞きたかったことを問いかえす。
「女神よ、まずはお聞きしたい。何故私などをお助けに?」
「理由なんてないわ。
眼の前で困っていた貴方を救うのに、理由なんて必要ないもの。」
ああ、そうか。この女神にとって死病とは。
俺が長年抱えた苦痛とはその程度なのだ。目に映ったからついでに救ったのだと。女神は当然の如く言ってのけた。
なんという権能、なんという偉大な力か。
あまねく神々の中でもおよそ並ぶモノのないであろう強力な奇跡の力を、この女神は一切惜しまず、眼の前で嘆くモノを救う為、惜しむことなく使って下さるというのか。誰かを救うことに理由など必要ないと。ソレこそが自然な行いであると。
その身で示し続けるというのか。
その在り方に只々深い感銘を受ける。この御方はずっと俺が目を逸し続けた事から逃げることなく向かいあって生きている。その美しい在り方に只々圧倒されて我が身が震えた。
この方に嘘など言えない。言うべきではない。俺の全てを知って頂いた上で、その上で母の事を願うべきだ。汚らわしいこの身の上を隠すことなく伝え、女神の審判を仰ぐべきだ。
それだけが、穢れた俺に許された唯一の選択だと思えた。この優しく気高い女神の前で己を偽ることが、この世のあらゆる罪科にまさる大罪であるように、思えた。
俺は畏み、膝をついたまま女神に告白を始める。
「女神よ、恐れながら申し上げる。
私は、俺はどうしようもない大悪党です。死病に侵された母を捨てようとした父をこの手で殺めて以来、世界中で多くの悪事を働く貴族を、私と母の命を永らえる為だけに殺しまわった男です。
逃走の際、邪魔になる宝物を投げ捨て、民人を盾に己の身を護り続けた。義賊などと周りから囃し立てられる事を利用し、多くを見殺しにしてきた、貴方に救われる価値など無き者だっ!!」
血が凍るように冷たかった。生きた心地など等にない。この世に悪党を救いたいと思うモノなどどこにもいないのだ。そんなことはわかっていた。それでもこの御方を騙すような真似をするよりはマシだった。
絞りだすように罪を述べた。己の抱えてきた罪の重さが実感できた。仮面を被っていて正解だ。今の俺はきっとひどい顔をしている。
それでも俺はこれから厚かましくもこの気高き女神に縋ろうというのだ。
縋る他ないのだ。
「だが女神よ、それでも伏してお頼み申し上げるっ!
どうか母を、我が母を貴方のお力でお救い頂きたいっ。実母に捨てられたこの俺をここまで育ててくれた方なのです。父から疎まれ、辛く当たられてもなおこの俺を愛して下さった。私の命よりも大切な、大切な方なのです。
あのような優しい人が、美しい母が、死する病で醜く散っていいわけがないっ!!
どうか、どうかお頼みしたいっ。
叶えて頂けるというのなら、この身、この魂のすべてを貴方にっ!
貴方の望む全てのものを、貴方に捧げてみせましょうっ。
だからどうか。母を、お救い下さいっっ!!」
子どものような我儘を女神にぶつけた。嘘偽りなくこの身の全てを捧げる覚悟で。只々祈るように、その場に強くひざまずく。
俺の罪が女神によって裁かれようとしていた。
永遠にも似た沈黙が訪れる。
そして不意に。俺の肩へと女神の掌が置かれ、そして告げられたのだ。
「必要ないわ。」
それは否定の言葉だった。
閲覧ありがとうございます。
4話でまとめきれませんでした。
後1話、義賊さんのターンが続きます。
くっつく飴玉様の感想にかいた文章コピペではっときますね?
次回予告
女神に否定され絶望の淵に立たされてしまった義賊さん。
しかし彼がその時見たものはチキった作者の用意したありきたりなシナリオだった。
なんの捻りもないチープな展開が今読者へと襲いかかる。果たして彼は救われる事が出来るのか?
次回サブタイトル、どう足掻いても救済
にご期待下さい(白目)