全てを美少女にしちゃう女神の俺が失われたアレを取り戻すまで   作:一二三 四五八

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今回は神威くんのターン


48) 第17話 オレ、冒険者になります(4)

【ギルドの支部長視点】

 

ああ、クソっ。

なんて事してくれたんだっ!!

 

冒険者ギルドを収める支部長の立場にある俺は、いや俺たちギルドの管理者一同はアニエスより女神の来訪を告げられて今、慌ててギルドの1階に降りて来ていた。

辺りを見回せば、誰が女神であるかなど、すぐにわかった。酒場のつまみ売り場の前に綺麗な女達3人と、とびきりのクズども3人に囲まれて。

 

……人ならざる美を持った存在がそこにいた。

 

ああ、あんなモノが人である筈がないだろう。その後ろ姿を見ただけで魂を抜かれちまうかもって思える位に、美しい人間なんている筈がない。およそ人が着こなす事なんざ無理だろうって、万色を揃えたような服装が似合う女なんて。

 

その身にこなしも一欠片の無駄もない。ただ佇むだけで一時も隙を見せない完璧な淑女なぞ。人間であってたまるものか。その所作が、全身から溢れる神々しさ全てが。彼女が女神で在ることを説明している。

 

こ、これほどかっ。

 

別に神に合う事は初めてでは、ない。

だがこれほどの神々しさを纏った神に合うのは初めてだった。水鏡の宝珠に写ったステータスは精々上級のなりたてといった値を示していたが、そんなものが当てになる筈がない。アイツラは気分で化身っていう名の、偽りの姿を作って被ることができるんだからな。

 

少なくとも俺は。元斥候として多くの優れた人物と宝の真贋に触れてきたレイル・メロウは。そんなもの絶対に信じない。それに関しちゃ他のヤツに引けをとらないこの俺の眼が、全力でそれを否定している。

 

上級神。

 

主となる属性以外に属性を抱えた、少なくとも何らかの属性の支配権を得ている、本当に優れた力を持った神。対応を誤れば確実に人の営みなど消し飛ばしてしまう

危険で傲慢な存在。俺にはそうとしか見えなかった。

 

神々の気まぐれの前で人はいつも無力だ。

戯れに人の街へと現れて”己の神殿を建てろ”等と命じ街の人々を酷使した挙げ句、その生活全てをボロボロにしてしまった神の話など腐る程知っている。

 

まして上級神ともなれば格が違う。彼らは気分1つで、自分の統べる属性の在り方すら変えられる。属性が水であるならば水害や渇水といった自然の摂理を、好きなように操れてしまうのだ。まさしくそれは。神の御業というわけだ。

だから我々は決して神への対応を間違えてはならない。

 

彼らの気分1つで我々はいつでもその営みを、無へと返してしまうのだから。

 

背筋から冷たい汗が1つ流れる。気付けば全身からびっしりとじっとりとした脂汗が浮かんでいた。俺だけじゃない。少しでもモノの価値の分かる職員達は全員だ。同時に吐き気にも似た恐怖と激しい怒りが湧いてくる。俺たち全員がそうだった。みれば冒険者の中でも特に敏い連中は同じように湧き上がる感情を押さえていた。

 

当然だ。

 

誰かが1つ対応を謝れば、街ごとたやすく滅ぼしかねない危険な存在を相手どり。あんなわかりやすく人を小馬鹿にした顔を浮かべて騙そうとしているクズが目の前にいるというのだから。それを見て女神のお付きの方々が怒りを必死に堪えた顔で、女神の側へと控えているのだ。

ああ、なんてこった。

 

なんて事をしてくれたんだっ!!

 

「あ、ありがとうございますぅっ。信じて頂けてぇ。あっしらっ、そ、それを伝えたっかった、だ、っだけですからっ、コレでっ!!」

「ええ、分かっております。」

「く、くうっ、ふ。な、なんてお優しいっ、お嬢さん、だぁっ。」

「ふ、くっ、くくっ。」

 

只でさえ最近色々と物騒だったアデルの森の、その異変を知らせる報告が昨日からわんさか入って来てる時だっていうのにっ。

 

ああ、やりやがったなっっ。

 

「しかしヴィリス様、其奴らは。」

「いいのです。ワタシは全部理解(・・・・)していますから。」

「……承知。」

「ええ、わかりました。」

 

いい年したロートルの癖に、上を目指すこともせず新人いびりなんかやってるクズが。あのガリの斥候とでぶの重戦士。そしてそいつらを染め上げた一番のドクズのクソ野郎、槍使いの、あのルスト・ルーラーの小悪党三人組が。

 

今まさに、女神を侮辱していた。

 

溢れる嗤いを押さえきれずに零しつつ、その場から足早に立ち去ろうとしていた。ふざけるな。ふざけるなよお前達っ。

 

「(小声で)

…あっぶねぇっっ、やっぱそりゃお付きの方にゃあバレるわなぁっ!?

でもへへっ、あのお嬢ちゃんホント笑っちまう位アメぇや。今のうち今のうち。」

 

「と、逃げられるとでも思ったか、クズどもがぁぁぁっっ!!」

「あ、ギルド長の旦那ぁ。な、何すんですかぁっっっ!!」

 

その場でギルドの者達と、一部の冒険者達が率先して奴らを押さえつけた。全てが、全てがもう遅すぎた。女神は侮辱を認識している(・・・・・・)

全てを包み込む慈愛の眼差しのその奥に、静かな決意を浮かべていたのだ。

ああ、どちくしょう。

 

どうやら俺たちの街は今、このクズ達のせいで存亡の危機にあるらしい。

 

 

(お、おう。あっという間におっちゃん達がギルドの人らに捕まっちまったぜ。え、何。どういう事なのコレ?)

《とりあえず少し様子を見てみては?》

 

「ちょっ聞いて下さいよっ旦那ぁっ。俺らは別に旦那達に押さえこまれるような事なんざコレッポチもしてませんぜっ!?」

「そうそう。むしろ、へへ。イイことした後なんですぜ?」

「そうですよぉっ、そこのお貴族様がお認めになられたんだっ。俺らは無敵の無実ですぜっ!!」

 

(あれ、オレ関係なのコレ?)

《……そのようですね。》

 

職員総出でクズどもを組み伏せその場で拘束する。……奴らはどうやら自分が何を仕出かしたのかすら分かっていないらしい。

何もかも度し難い。クズどもをすみやかに確保できた事だけが唯一、不幸中の幸いだった。俺はクズどもに殺気を飛ばしながら言い放つ。

 

「……貴様らの最後の言葉はそれでいいんだな?」

 

「ひっっ!?」

「いやちょっ、冗談でしょおっ!!」

「あ、がぁっ。」

 

俺の殺気を少し浴びただけで動けなくなってしまうクズども。まったく。こんな者の尻拭いの為に俺自身が命を賭して、神への侮辱を注ぐべく許しを請わねばならぬのだから泣けてくる。どうにも責任者とは辛いものだ。

俺は更に言葉に力を込めて言い放つ。

 

「貴様らは勘違いしている。こちらにおわす御方は貴族なぞではないっ!!」

「へ?」

 

(いやいやちょっとまってくれよ。その人たちゃ俺らに忠告してくれただけなんだから。いきなり現れて一方的に捕まえちまうなんて、そんなん認めれるかよ。)

 

「お待ち下さい。」

 

女神から俺へと静止の言葉が向けられる。しかしここで女神に会話を主導権を渡すわけにはいかない。続けて俺は、俺たちは女神に対して深く頭を下げて言い放つ。

 

「大変申し訳ございませんでしたっ、女神様っ。」

「は、え、め、女神?」

 

(あれぇ。なんでオレ女神ってばれとんだコレ?)

《回答、先程の水晶による識別の結果です。》

(ああ、そういやそうだわ。なんかオオゴトになってるような……。)

《貴方が女神であることは事実ですからある程度はしょうがないのでは?》

 

「我々ギルドの者がよもや貴方様を侮辱するような真似を許してしまうとは。この件は全てこのギルドの支部長である私の不徳の致す所。どうかこの者達と私の首に免じ、お気持ちをお鎮め願いますようお願い申し上げるっ!!」

 

ああ、いやだいやだ。死にたくはないがしょうがない。俺とクズの首でどうにか街の明日が買えるなら安いものだ。……納得できることではないが。

 

(えっ、いやちょっいらんからっ。そんなん貰いたくねぇからっ。とりあえずスグにでもこの勘違いを解かないと。冤罪は辛ぇんだっ (実感あり))

《(小声で)どちらが勘違いか、という話ですがね。》

 

「そのような必要はありません。」

「っ、しかしっ!!」

 

バカなっ、確かにこの女神はバカどもの侮辱の意味を認識していた。目の奥に潜むなんらかの決意が見えたのだ。それなのにこちらの謝罪を跳ね除けるとは。まさか女神は既に我等全てを見限っているというのかっ?

 

ならばこの街に、我等に明日などないという事ではないかっ。

 

叫びだしそうになる悲鳴を。

必死に唇を噛み締めてこらえる。

しかし女神が我等に続けた言葉はとても意外なモノだった。

 

「どうか彼らを解放して上げて下さい。言葉の通り、彼らはワタシ達を助けようとしてくれていたのです。このように捉えられる謂れなど何もありません。

彼ら自身もそう言っているでしょう?」

 

「っ!? しかし貴方様はっ。」

 

言葉通り、女神は彼らを許すと言う。しかしそれでは俺があの時感じた女神の瞳の奥に見た決意は何だ。納得ができない。

そしてなにより。

 

「へへっ、女神様もそう言ってるんだ。ほら旦那。早く離してくださいよ?」

「そぉっすよ。俺ら、へへっ。イイことしたんですぜ?」

「無実、圧倒的無実なんですってぇ!」

 

このしたり顔で騒ぐクズどもが、なんの沙汰もなしに許されるという事が。何より納得できなかった。だから、つい云わずともよい言葉が口から溢れた。

 

「女神様、恐れながら言わせて頂く。

彼らは貴方様を騙そうとしているだけだ。貴方様を害そうとした事を誤魔化して、のうのうとそれを助ける為だなどと口にする。彼らは普段より人を騙し続ける悪党どもだ。お付きの皆様とてそれに気づいておられる。貴方様とて(・・・・・)そうでしょう(・・・・・・)

そのようなモノを貴方様はなぜ助けたいなどとおっしゃられるのか?」

 

(……。)

《言葉もありませんか。神威、貴方は驚くかも知れませんが……》

 

【以下神威の言葉。翻訳は同意味。】

 

「んな事ハナっから分かってる。それでもオレは、ソイツらを信じたい。そんでよ。いつかそれが嘘にならんように、オレがせっかいかけてやる。

それでも、離しちゃもらえねぇか?」

 

《っ!?》

 

「女神様、貴方は、貴方様は……。」

「あ、え?」

 

この御方は、……気づいていながら?

 

(そりゃよ。流石に。オレは今まで悪ガキどもの相手や、あんまいい環境とは言えねぇ職場を転々としてきたんだぜ。まぁ気づくだろ。腹ん中で相手が笑ってるってことくらいよ。それでもな。)

 

「そんなヤツをオレはいままで何人も見てきた。どっかで自分に嘘ついちまって、もうそれしか言えないようになっちまったヤツら。周りから認められなくて、それに毒突くしか出来なくなっちまった、そんな奴らをよ。」

 

実際にそうなのだろう。我々にはとても想像できない神としてのその長い時間の中で。そんなモノを腐るほど、見てきたのだろう。

 

「でもよ。なら逆もあったっていいんだわ。

 

どっかで嘘でも信じられて、受け入れられて。それが始まりなんだ。誰かが最初に、ソイツを信じて認めてやってよ。そっからがスタートだ。

そっから手を焼いてって、歩き出せるかどうかはソイツラ次第。」

 

それでも貴方は、貴方様はそのような者達に見捨てる事なく手を差し伸べるというのか。ずっとソレをやって来たと?

 

「オレをバカだって笑うヤツもいるだろそりゃ。実際何度も騙されたしな。でもな。それでもオレは。人間の根っこに在るものを信じたいんだ。認められて、褒められて、やる気だして、……また頑張れる。そう言うモンを信じてぇんだ。」

 

まるで女神としてのその在り方全てを込めきった様な、そんな表情で。決して諦めを許さない決意の瞳で、想いが伝えられる。それに呼応するかの如く、女神が神威(シンイ)が増していく。

 

「実際よ。そうやって手を焼いて歩き出したヤツを、オレは何人も知ってるんだ。だからよ。オレは今回も、信じてみるんだ。悪い可能性なんざ放り捨ててよ。

 

だからオレらは、助けられた(・・・・・)それで(・・・)いいんだよ(・・・・・)。」

 

それはまさしく女神の微笑みと呼ぶほかない。まさに慈愛に満ちた微笑みだった。

 

《……神威、貴方は一体どこまで?》

(さぁ。どこまでだろうな?)

 

 

こっ恥ずかしくて言えるかよ。

 

昔な。オレもそうやって助けられた口なんだ。全部世の中のせいにしてグレようとしてたオレを信じてくれた、オレの恩人ってヤツがいるんだ。その人が言ってたんだよ。誰かを疑う人間より、誰かを信じられる人間の方が何倍もすげぇんだって。

 

だからよ。オレはそれ以来。

 

悪い可能性なんざとりあえず全部放り捨ててよ、バカになって全力で人間のいい方だけ信じる事にしてるんだ。

ま、そんな事続けてたら実際。色々人より鈍くなっちまったのも事実だがな。

 

そんな事はよ。オレが唯かっこつけてるだけだなんて、サイッコーにかっこ悪い事なんてよ。

 

オレだけわかってりゃ、充分だろ?

 

 

気付けば。その場にいた者たちが皆、女神様に対し膝をつき、祈りを捧げていた。ある者はこの慈悲深い女神様を讃える言葉を口にしながら、ある者は唯滂沱の涙を流しながら。女神様に会えた奇跡を噛み締めていた。

 

女神様が神威(シンイ)と共に発っせられたそのお言葉には、どこまでも熱意が、想いが、魂が込められていた。それはこの女神様が、今までずっとそのように有り続けてきたという事を、何よりも証明するモノだった。

 

こんな神が存在している。我々のようなモノをどこまでも信じ救ってくださろうとする。そのような神が。その事実が、まさに奇跡であったから。

祈らずには居られなかった。

 

それはどうやら、あの男達もそうであるらしい。

 

 

【これより神威視点。2重音声なし。】

 

うぉう。なんかおっちゃん達ガン泣きしてるんだけども。あれぇ、こういうのって普通本人に言っちまったらめっちゃ反感持たれてこじれるモンなんだけどなぁ。

実際それで割と痛い目見てきたし。

《貴方の言葉が彼らに届いた。それだけです。それで良いではありませんか?》

 

ああ。そうだな。

じゃあ、コレ。どうにかしねぇとな。

 

「め、女神様っ。俺、俺らっ。アンタを、貴方を騙してっ。それなのに信じるって、救いてぇって。俺ら、俺ぁ、貴方からっ、貴方様からっ、そんな事、言われるような、言われていいようねヤツじゃねぇんだっっ!!」

 

やっぱ色々背負ってたんだなぁ。

曲がる奴は曲がるなりの、いろんな苦労をしょいこんでるモンだもんな。受け入れられねぇ気持ちは分かる。

だけどよ。

 

「そんな事言われてもよぉもう手遅れなんだよっ!!

もう、なんもかんも遅すぎだっ。今更こんなキタねぇおっさんなんか変わりたくても、変われるもんじゃねぇんだよっっ。信じられても困っちまうだけだっっ!!」

「そうだっ、俺らもう人生終わってんだぜっ?」

「なんでもっと早く、うぅっっ。」

 

アンタらは1つ間違ってる。

 

「変わろうとする奴に遅いも早いもねぇって。

それによ。

もう変われたんだアンタら。だってよ今。

色々思って泣いてんだろ。変わりたいって。それってもう、変われてるんだ。

 

なぜかって?

 

なんも思わねぇ奴はそんな風に悔やんだり、泣いたりなんかしねぇからだ。だから大丈夫さ。オレが保証する。生まれ変わった気持ちでやってみりゃいいんだ。」

 

「ああ、あああああぁぁぁっっっっ!!」

「う、ぐううぅぅぅぅっっっ!!」

「うおぉぉぉっっっっ!!」

 

オレなんかの言葉を聞いてそんな風に、崩れるように泣き出す奴らが、変われない筈ないもんな?

だからもう、背中を押してやるだけでいんだオレは。

 

「それでも上手くいかねぇ時は、オレでよければ助けになんぜ?」

《あ。》

 

軽く。一番前で泣き崩れるおっちゃんの肩に手を乗せて、その身を引き起こそうとした時の事だ。

その時、例の奴が発動した。

 

ポンっ!!

 

あ、アレぇ? なんで手袋してんのに変化が起こるんだよぉっ?

《指摘。貴方は手袋をしていません。》

 

(え? いやこういう時の為にウチノに貰ったんだろ手袋。それがなんで……》

《ギルドでステータス検査を受けた時、外したままである事をお忘れですか?》

(あっっ、やっべぇっっ。)

《なるほど。ふふ。

その最後までキメきらない所は、どうやら貴方の素のようですね?》

 

や、やっちまったぁぁぁぁぁっっっっ!!

 




閲覧ありがとうございます。

昨日は更新なくて申し訳ない。ちょっとまとめるのに時間かかりました。
なお反感を持たれた不良程、全てが終わった後に神威に懐く模様。彼は道を誤った少年少女の中で、自分が一種のカリスマ的存在である事をまるで知らない。

鈍感には変わりないんですよこの子。人の好意にすごく鈍いんです(白目)

あ、200ptノーマルアンケート次回までです。
まだ投票してない方はお早めにどうぞ♪

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