全てを美少女にしちゃう女神の俺が失われたアレを取り戻すまで 作:一二三 四五八
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「誰か助けてよっっ、ワッチも、幸せになりたかったんだっっ。なんでワッチばっかがっ、こんななんだよぉっっ!!」
ワッチが只々、叫び声をあげていた。
認めたくなかった。こんな事。ワッチは今自分から救いの道を投げ捨てた。こんな事ばっかりだ。なんもかんも気づいた時にはもう遅いんだ。
悪い方へ、当り前のように転げ落ちていっちまう。
もういい。それでもワッチは終わるんだ。だったらもうそれでいい。なんもかんも嫌になった。ただ終わりの時だけがワッチの救い。それでいい。
声が枯れ、涙が枯れ、感情が死に絶えた時。
ワッチはその光を見た。
……優しい光だった。綺麗で、全ての色を呑み込んでいるというのに、それでいてどれでもない。虹彩色のどこまでも神々しい、それなのにただ。全てを包み込んでしまうような、優しくて美しい光。
その中心に、女神様がおられた。
そうとしか言いようがなかった。虹彩を纏い静かに微笑みを讃えるそのお姿を見てその以外に、この方をどう呼べというんだろう。
自然とワッチは、崩れるようにその場に膝をつく。
知らない。ワッチはこんな。こんなにも神々しい神様を他に知らない。胸の奥から湧き上がるのは凄まじい後悔。ああ、なにもこんな。
こんな事おかしいじゃないか。
こんな方を侮辱してしまったのか、ワッチは?
三馬鹿の、支部長の言う通りじゃないか。ホントウの、……神様なんだ。そんな事がもう見ただけで理解できるなんて。なんて御人だろう。
気付けばそこにいる皆が、その光を前に地に伏せて只々祈りを捧げていた。それはワッチも変わらない。涙が止まらなかった。ああそうか、ワッチの最後はこんな、こんな後悔と一緒なのか。これがワッチへの罰だと思うと、もう只々涙が溢れた。
「……ああ、神よ。」
強く強く目を閉じて、静かにワッチがそう零した時だった。
沈み込むワッチの頭が、誰かに優しく抱きしめられた。なんで、そんな。
そこには両目から涙を流した、女神様がいらっしゃった。
「辛かったわね。悲しかったのでしょう。私に貴方の辛さの全てはわからないわ。それでも貴方が理不尽に苦しめられてきた事は、痛いほどわかる。でも大丈夫よ。」
「あ、ああ……。」
「私なら、貴方を変えられるから。戻りましょう、美しい貴方に。何1つ、悲しむ理由なんてない、貴方の全てを取り戻しましょう?」
「そんな、ワッチは女神様を……。」
「そんな事、もう忘れてしまったわ。服ならもう乾いてしまったし、別にワタシはなんともないもの。辛くて、あまりにも辛くて、少しだけ間違えてしまっただけ。そんな事は人間だもの。よくある事でしょう。気にしなくていいの。」
「ああ、あぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
「ワタシに貴方を救わせて?」
「ぅわぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
変化はまさに一瞬でありんした。
女神様から撫でられたワッチはもう失った小指を取り戻していて、ああっ、咄嗟にワッチが顔へと触れると、そこにはあの忌々しい引っかかりなんて1つもなくて、ああ、ワッチはもう全てを取り戻しちまってるじゃあありんせんか?
「ゼノヴィア。なんて、綺麗な……。」
「そら女神様に比べれば、劣っちまうけどよ」
「ヴィリス様とは違ういい女だ。震えちまう程に色っぽい……。」
こんなに容易く、あの地の獄から、嘘見てぇに救われちまったっ。ワッチをお救いになられた。戻ってきたモノが嬉しくて、与えられたモノがただ愛しくて。ワッチはもうその場で自分の躰を抱いて、只々目から温かいモンを零し続けるばかり。
「ぁああ、ありが、とう、ござい、ますっ。ありがとう、ございますぅ!!」
「ええ。」
御光様はそんなワッチの事を抱きしめて、優しく優しく撫でてくれます。そいつがたまらなく嬉しくて、心地よくて。ワッチはもうまいっちまうんだ。ああぁ、御光様。そんな。そんなに撫でられたら、もうっ。蕩けちまうっ。
遊郭にゃあ好き好んで女同士で愛し合う偏屈どもがいくらかいたが、今始めてその心持がわかりんした。だってワッチ女神様に優しく撫でられる度にもう。どうしても女の部分が疼いちまって。若い身空から褥を仕事にしてきたワッチが、ただただそれだけで睦事なんざ比べられない位に、艶を溢れさせられるじゃあありんせんか。
ああ、そっかぁ。ワッチイカれちまったんだ。御光様に、完全にイカれちまった。今までずっと恋だの愛だの、女郎にゃ縁遠いもんとおたかをくくってきたけれど、こんなモン識っちまったら、そりゃあ全部投げ出して命懸け。マブになって全てを尽くすのが当然じゃござりんせんか。
「よしよし。」
「……んぅ。」
もういりんせん。ワッチはお光様さえ居られたらなんもかんも、……いりんせん。ですから御光様ぁ。後生ですから今少し、お情けをわけておくんなまし……。
そんなワッチの物欲しそうな顔を見通して、御光様は少し強めにワッチをお抱きに。
御光様の御首様の根の元へとワッチの顔が埋められる。1つになったその距離と、御光様のお香を感じて、ワッチの唇が御光様の玉体へと触れちまう。堪らずワッチのいけねぇ口から舌がちろっと飛び出して、ちろりと神秘に触れた瞬間、ワッチの心は空模様。
御光様の躰の上でひゅくりと跳ねて、口から1つ艶風が漏れた。浅ましくもワッチは春の華となり、女の悦びを噛み締めながらお光様へと身を委ねたんでありんす。
朦朧とする意識の中で、ワッチはお光様にお願いしなんし。
「……女神様、……御光様。どうかどうか後生でありんす。ワッチを主様のお側へおいておくんなんし。ワッチは卑しい春売りなれど、主様に救われたこの身も、心もありったけでこれから主さまの為に使いとうござりんす。
それだけ、それだけ叶えばワッチはもうなんもいりんせん。どうかどうか。端女でもいい、汚れ仕事でもなんでもやりんす。どんな辛い事だって必ずやり遂げてみせなんす。どうかワッチの、この願いを聞き届けておくんなんしっ!」
本気だった。マブだった。
ワッチの仕事はどんなに言葉を飾ろうと、誇りを持とうと所詮は下賤、汚らわしい娼婦でありんす。高貴で神聖なお光様とは身分違いも甚だしい。それでもワッチは、それでもお側に居たい。お近くで主様をお慕うしとうござりんす。
仕事を変えろといわれちゃ未練は残るがそれまでで。春女のワッチとはそこら辺でおさらばえ。心より主様にイカれちまったワッチは、そのお言葉に従うまでにありんしょう。ですからどうか、どうか。ワッチの全部を受け取っておくんなんし。
そうワッチが潤んだ瞳で主様を見ていると、主様はワッチの頭を1つポンとおやりになって微笑みを浮かべてお云いになられた。
その美しさと感触に見惚れちまいながらも、ワッチは主様のお言葉を承る。
「貴方の仕事は多くのものに夢を魅せる事でしょう?
それで救われた者はきっとたくさん、たくさんいるはずなのよ。ならばその貴方が卑しい者であるはずがないわ。ありがとう。貴方は貴方のままで、できる事をしてくれればいいのよ。それがね、ワタシの一番望む事よ?」
「ワッチのまま、でいいんでありんすか?」
……ああ、夢みてぇだ。
ワッチは心からそう思いんした。
「ええ、ワタシはその為に貴方の姿を変えたのだから。」
ああ、とても叶わねえ。これまで女を誇ったワッチが主様の前じゃ、まるで子猫だ。こんな、こんな事云われちまって嬉しくならねぇ
変わらずに今のまんま、ワッチのまんまを認めてくださるんだ。粋ってのはそう、こういう御方にこそ使うもんなんだ。
全てを許す微笑みで、
ワッチは取り戻しただけじゃない。この御人は、主様はワッチのような女を包んでその心に、忘れ去ってた春風すらも吹かせちまったんだからさ。
「わかりんした。ワッチはワッチの出来る事でお光様にお仕えしんす。ワッチの心も躰も、全部、全部使っていつか必ず御恩に報います。」
「ええ。」
もう、もう。何が何でもこの主様の為に、ワッチは尽くしてみせましょう。ワッチみたいに知らなかった、わからんかったでこの御方が困るようなことは絶対ありんせん。ワッチが全部、女ぁ使って調べ上げる。そんな
見なんし、見なんしよ各方。
お光様に与えられ認められた女の力を。ワッチなんざぁ春を売り女の全ての力を。マブだ。マブなんだ。全部、全部使って主様に夜の小話を捧げてみせんしょう。
あ、でもぉ、でありんす……。
「あの、それで主様ぁ。
偶にで、いいんありんす。ワッチの仕事の合間に、ほんの少し、主様にお顔を拝みにいっても、いいでありんしょうか?」
「ええ、もちろんよ。いつでも歓迎するわ!」
上目遣いでおボコのような赤らめ顔して訪ねたワッチの言葉に、主様は快笑1つ。ワッチの頭を強く撫でながらそう仰られた主様のソレに、ワッチの真芯はどうにも熱く疼いちまってそのまま1つ。耳まで真っ赤になったワッチがもう一度女の華を咲かしちまったのは。
……ないしょの話でありんすよ?
・
神を恨み、己の受けた環境を恨んで女神に無礼を働いた1人の娼婦は、女神の無限の優しさの前に膝をつき、その御手に包まれながら全てを取り戻し誓いを立てた。言葉通り全てを使ってあらゆる筋から女神に危険を報せ続けた女は、その美しさとその気風からいつしか夜の世界で知らぬもの無き地位にまで上り詰める事になる。
しかしどんなに地位が高くなろうとも、本人は変わらず熱心な調和教徒としてその祈りを女神へと捧げ続けた。そのためか、いつまでも美しく若々しく咲き誇るこの夜の艷華の姿を見て、調和教への入信を決意した女性は数えしれない。
その身分を問わず多くの女性たちを調和へと導いた彼女は、まさに調和教の縁の下といった所であり、その在り方は彼女が死んだその後も、多くの夜の華花達に受け継がれていく事になる。
また彼女は常に女性達の事を考えて、当時はまだ形となっていなかった避妊魔術や受胎魔術の研究に対し巨額の富を投じた人物としても有名である。それらは今日に続く我々の生活に大きな恩恵を与え続けている。
しかしそんな彼女ではあるが、ことに女神の元へと赴くその時だけはどうやら様子が違ったらしい。
まるでこの世の春が舞い降りたような、未だ男を知らない穢れなき乙女達が魅せるような夜の華のその有り様は、世界中の多くの男達の心を虜にしたが、ついぞ最後の時に至るまでそれは女神に対してしか向けられる事がなかったという。
まったく春を売る夜闇の高嶺の艷華の心にさえ、春を咲かせてやまないだなんて。本当に罪造りな御人は一体どなたなのかねぇ?
などと。
当時の口さがない男達は皆口々に。
数少ない女神への不満を漏らして互いに笑いあったのだと言う。
女神が変えたこの世界に残る、断片の1つである。
・
かくして世界は変わり始めた。
無数の断片が繋がりて新たな世界は紡がれる。
それこそが世界紙片/詩篇。
女神が変えて、世界に託した。
虹へと続く数多の光の物語。
閲覧ありがとうござりんす。
あ、間違えた。
なんちゃって郭言葉なんで色々間違いもありましょう。しかし書かずには居られなかった。全ては賢狼とか月の導きによるものなのです。気風がいいのに可愛い女性っていいですよね? などと犯人は供述しております。
なお神威くんが珍しく頭をなでたり色々気遣ってたのはステラさんの言う事を真に受けたからだとか。お陰で強力なサポーターゲットです。
さすが相棒、半端ないね?
300pt感謝回ノーマル部門アンケート、次回の投稿までで締め切ります。
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黒のアリス様いつも誤字報告ありがとうございます。
再度の誤字報告、感謝です。
そして嘘吐天邪鬼も同じく誤字報告、感謝します。
ありがたや、ありがたや。
が、ガバガバじゃないか(白目)