刀使ゾンズ   作:イナバの書き置き

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熱意が覚めないので2話目投稿です。


Blind darkness

 千翼は夜の闇で先も見えない山中をひたすらに走っていた。

 人ではない、より強化された聴覚は剣撃とその周囲を取り巻く複数の羽音を正確に捉えていた。

 何か分からない、だが何か起こっている。

 きっと行ってみれば何か情報が得られるはず────その根拠のない確証が千翼を突き動かしている。

 

 やがて少し開けた空間に飛び出した千翼は、己の目を疑った。

 

「うわっ……なんだこれ、蝶……?」

 

 血の様な赤い色をした蝶が、まるで壁でも作るかの様に渦巻いている。

 先程から続いていな剣撃はこの中で行われていたらしい。

 

「兎に角、中に入ってみるしか──痛っ!?」

 

 いくら数がいるからと言って蝶で傷付く筈がない、と楽観的な予想をして手を伸ばした千翼は、うねる蝶の波に指を弾かれた事で認識を一変させた。

 明らかに普通ではないこの蝶の壁の存在そのもの、そして指で触れた一瞬に生まれた隙間から見えた一瞬の内情。

 満身創痍の獣を抱える少女が剣を持って接近する少女を睨み付ける、その絶体絶命な風景に千翼の思考は切り替わった。

 

「……助けなきゃ」

 

 千翼はポツリと呟いた。

 これまでの物言いから勘違いされがちだが、千翼は寡黙でも冷淡な人間でもない。どちらかと言えば感情的で、困っている人があれば何だかんだ言って助けてしまうお人好しである。

 故に、今回のケースでも助けに入らないと言う選択肢は無かった。

 身体の奥底より湧き上がる()()()()から目を背けたまま、千翼は鞄からベルトを取り出した。

 素早く腰に巻き、インジェクターをホルダーにセットし、跳ね上げる。

 千翼の感覚でほんの数時間前に2度とする事はないと思った動作だったが、再び『変身』する事に何の躊躇いもなかった。

 インジェクターを押し込み、ベルトを通じて体内に注入される薬液を感じながら、かつての様に千翼は叫んだ。

 

 

 

「────アマゾン!!」

 

『NE-O』

 

 千翼を中心として発生した爆風が蝶の壁を吹き飛ばし、焼き尽くす。

 その中で千翼は異形の戦士『仮面ライダーアマゾンネオ』へ変貌を遂げた。

 青い体色に走る赤のライン、そして各部を覆う銀色の装甲が燃える蝶の明かりを反射してギラリと輝く。

 

「な────!?」

 

「ウォォッ!」

 

 突然の乱入者に驚愕の表情を隠せない少女に、アマゾンネオは飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオッ!」

 

「──くっ、何者です?」

 

 

 ────何が、どうなってんだ

 

 突如割り込んできた異形と夜見がこちらを放って戦闘を始めるのを、薫は呆然と眺める事しか出来なかった。装甲を纏った人の様な異形としか表せないそれは、写シも迅移も使用する事なくその身一つで刀使と渡り合って──いや、夜見を圧倒してすらいる。

 しかし異形が出現した時に発せられた爆風で荒魂が軒並み蹴散らされたのは薫にとって幸運だった。

 即座に祢々切丸を担ぎ上げ、ねねを抱えてその場から逃げる準備を整えたが、異形への感心が薫の足を止めた。

 

 ──どうする? コイツも連れて逃げるか? 

 

 未だ正体も分からぬ上咆哮と共に夜見に襲い掛かるばかりで理性と呼べる物が存在するのかハッキリしない異形だが、此方には目もくれずに夜見を攻撃する辺り、少なくとも敵ではないのかもしれないと薫は思ったのである。

 本来人間の敵である荒魂を守護獣として共存する益子の家ならではの柔軟な考えから、一先ず声をかけてから逃げてもバチは当たらないだろうと、薫は声を張り上げた。

 

「おい、お前! 一緒に逃げるか!?」

 

「いや、先に逃げてくれ! ここは、俺が引き受ける!」

 

「──!? お前喋れたのか!?」

 

「うん、早く逃げて!」

 

 野獣の様な咆哮から一転、夜見の斬撃を腕の装甲で受け止めた異形が理性的な少年の声で返答する様子に拍子抜けした薫は、きっと自分は知らないが舞草の関係者なのだろうと考え、戦場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──もう充分時間は稼げたか? 

 

 目の前の少女とにらみ合いを続ける千翼は思考を巡らせた。どれ程攻撃を凌いだか覚えていないが、あの少女がこの場から離れる時間は稼げただろう。

 ならば自分も離脱するだけだ。あの蝶の様な化物や刀を用いて戦闘していた理由を問い質したかったが、こうも悪い形で接触してしまえばそれも叶わないだろう。

 ジリジリと後退し隙を伺う様子を見せる千翼に、少女も交戦中一度も変えなかった表情をやや焦ったものに変えた。

 

「……足りない……」

 

「? 何を──」

 

 懐から出した()()のアンプルを止める間もなく首筋に突き刺す少女に思わず駆け寄ろうとした千翼は、その右目辺りを突き破り角の様な突起が生え、そこに『目』が形成させるのを見て凍り付いた。

 

「何だよ……何なんだよそれ……!」

 

 ゆっくりと少女が立ち上がり、その『目』がこちらを捉えるのを認識して漸く千翼は距離を取ろうとしたが、行動に移すより一瞬早く動いた剣が、アマゾンネオの胸部装甲を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

「薫ちゃん、そんなに急ぐ必要あるの? 追っては振り切ったんでしょ?」

 

「振り切った、ああ振り切ったさ。でも、また追い付かれたら今度こそ終わりだ」

 

「薫にしては珍しくせっかちデスね。何かあったんデス?」

 

 逃亡するに当たって本来回収するべき目標『衛藤 可奈美』『十条 姫和』、そして仲間の『古波蔵 エレン』と合流した薫は、舞草の潜水艦が待機する石廊崎に向かって疾走していた。

()()()()から刀剣類管理局の局長でもある折神家当主暗殺と言う凶行に及んだ2人を保護する任務を受けた薫とエレンだったが、薫は先程の異形の乱入に動揺していた。

 

 

 ────よくよく考えて見ればあんなS装備が開発されたなんて聞いて無いぞ──あいつ一体何なんだ!? 

 

 最初は新規に開発されたS装備(刀使の能力を補助するアーマーの事)だと思っていたが、折神家も、ましてや自らが所属する舞草もあんな代物を作ったと言う話は聞いた事がない。

 その得体の知れなさに薫が選んだのはサッサと逃走してしまう事だった。

 元来サボる事に一生懸命な薫は、「関わらない」と言う選択肢を少しの後ろめたさと共に選択していた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……ここまで来れば大丈夫か……?」

 

「本当に変な薫デスね」

 

「後で説明するから、早く逃げるぞ」

 

「ハイハイ」

 

 目と鼻の先まで近づいた石廊崎にホッと一息ついた薫は速度を落とし、空を見上げた。

 慰めてくれるのはお前たちだけだぜ、と感傷に浸りながら眺める満天の星空に、少し心が癒され────

 

 

「ぅぅぅぅわあああああッ!!?」

 

「──────ハァァァァッッ!!?」

 

 その空から自分目掛けて吹っ飛んでくる青い異形に馬鹿みたいな奇声を上げた。

 

 

 

「うおおおおお危ねぇっ! おまっ……お前何すんだ!? こちとら怪我人なんだぞ!」

 

「ご、ごめん……」

 

「そ、空から……」

 

「青い人が……」

 

「降ってきたデス……」

 

 呆然とする可奈美、姫和、エレンを余所に、直前まで薫が立っていた位置に着弾した異形は立ち上がると同時に薫に向かって平謝りを始めた。

 何とも言えない穏やかな雰囲気に場が一瞬和むが、ハッと気を取り直した異形が慌てだした。

 

「そ、そうだ! 早くここから逃げて! 何かさっきの子がヤバい感じになってる!」

 

「────いや、もう遅いんじゃねえの?」

 

 チョイチョイと薫が指差す先、山の木々を御刀でバターの様に切り分けながら一直線にこちらを目指す夜見の姿が全員の視界にバッチリ映し出された。

 

「く……クソッ……やるしかないのか……?」

 

『BLADE LOADING』

 

「うわっ、剣が生えたよ姫和ちゃん! アニメみたい!」

 

「見れば分かるだろうそんなの! それより早くあいつをどうにかするぞ!」

 

 アマゾンネオがベルトのインジェクターを押し込み、右腕から形成されたブレードを見て声を上げる可奈美は、姫和の一喝に我を取り戻し、迅移で夜見目掛けて突撃した。

 薫はその様子をチラリと見ながら、異形に声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

「……あーさっきぶりで申し訳ないんだが、オレ達を手伝って貰える?」

 

「あ、うん……」




・千翼
命狙われてても咄嗟に助けちゃう位お人好しなので薫もうっかり助けに入ってしまった。

・益子薫
サボり魔(サボれるとは言っていない)だけどやる時はやる人。荒魂との融和と言う観点から刀使ノ巫女では凄い重要なキャラだと思う。

感想、評価お待ちしてます。次回も熱意が溜まり次第となります。

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