刀使ゾンズ   作:イナバの書き置き

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今回から書き方が少し変わりました。


Fight against darkness

 結芽のニッカリ青江が閃き、アマゾンネオのブレードが鋭い音と共に空を裂く。しかしアマゾンネオの装甲を穿つ事が無ければ、結芽の写シにブレードが掠める事もない。

 両者は拮抗していた。どちらの攻撃も苛烈だが、同時に致命傷にはなり得ない。

 

 

 

 

 

 

 

(なんだこの子……! こっちの攻撃が掠りもしない)

 

 千翼は眼前の幼い少女に翻弄されていた。少なくとも本人はそう思っている。

 実際、千翼ががむしゃらに振るうブレードは結芽を捉える事なく空を切り、彼女の斬撃は確実にアマゾンネオを削っていた。

 彼女は剣術に措いてこれまで目にしてきた中では一番強い、と千翼は感じていた。

 岩肌や空中を使った三次元的な戦法、御刀に込める気迫と肉を抉る鋭い剣術、その何れもが今までとは段違いと言える。

 たが千翼にとって「勝ち」とは結芽を打ち倒す事ではない。

 

「──ッ! ぐぅっ……」

 

(もう少し……もう少し耐えろ……!)

 

 千翼の目的は時間稼ぎだ。

 今後ろでまさに潜航準備を行っている潜水艦を守り抜く事が千翼の使命である。

 故に防御に徹すれば負ける事はない、そう信じて千翼はまた襲い来る斬撃をその身で受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

(何? コイツ……全然倒れない)

 

 一方燕 結芽も眼前のアマゾンネオに気圧されていた。

 ネオはまるで剣術に対する心得がない、と言う感覚を結芽は戦闘の中で感じ取った。まるで野生の獣同然である。

 故に苦もなく御刀を打ち込めるのだが、どれ程斬っても倒す所か膝を突かせる事すら出来ずにいるのだ。

 

「このッ……おねーさん達とも戦いたいのに!」

 

「そんな事知るか!」

 

 上段からの袈裟斬り、防御をすり抜け肩の装甲に火花を散らす。

 中段の刺突、これも胸部装甲に命中しアマゾンネオは大きくよろめく。

 反撃を弾き下段から足斬りの構えを見せる。

 決まれば足を絶たれた千翼に反撃の余地はない。

 

「おおおッ!」

 

「────チッ」

 

 倒れ込みながらの裏拳が御刀を弾く。──()()()()

 どうしても決定的な一撃が決まらない。

 

 それもそのはず、アマゾンネオは結芽の攻撃に反応出来ず一方的になぶられている様に見えるが、戦闘継続に支障が出る部位への攻撃に関しては異様なまでの正確さを以て迎撃していた。

 野生と理性の融合、それこそが結芽の剣術が決定打にならない理由であり、千翼の徹底的な時間稼ぎとなって表れる。

 

(──やっぱり、防がれる。ただの雑魚じゃない)

 

 首筋を狙った三段突きすら見事に弾かれる。

 薄々止めが刺せない理由に気付きつつも、自らが鍛え上げた技が通用しない事に結芽は苛立ちを隠せない。

 

「いい加減にぃ……しろぉっ!」

 

「があッ……!」

 

 冷静さを欠いた大振りの一撃が、受け止めたブレードごとアマゾンネオを弾き飛ばす。

 技術も何も無い、力任せに振り抜いただけだが、それが両者の均衡を崩した。

 それに少し気分を良くした結芽は、体勢を崩したアマゾンネオに飛びかかる。

 

(──もらい♪)

 

「────!」

 

 尻餅をついたアマゾンネオに二の太刀を浴びせる。御刀が切り裂いたネオの腹部から噴水の様に血が溢れ、親衛隊の制服を汚し、顔にも血飛沫が飛び散る。

 いよいよ声も出なくなったアマゾンネオに止めの一撃を振り下ろそうとして────ベルトを弾き飛ばした。

 

「……?」

 

 瞬く間にアマゾンネオから人の姿に戻った千翼の視線は、呆然とした表情で結芽とベルトを往復した。

 

「あーあ、おねーさん達は行っちゃったかー。でもまあいっか! 紫様からの命令は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だし」

 

「俺が、狙いだった──!?」

 

「そうだよ、何でおねーさん達を真っ先に狙わないのかは私もしらないけど。……服も汚れちゃったし、早く帰りたいなぁ」

 

 つまらなそうに本来の目的を語る結芽は、満身創痍の千翼の側でぼやきだす。

 信じがたい事だが折神紫の狙いは姫和や可奈美ではなく、千翼であったらしい。

 自分の意思が裏目に出たのだ。潜水艦が動くまでの時間を稼いでもそれが無意味だったとすれば、最早何をすれば良いのか千翼には分からない。

 

(俺は……どうすれば……)

 

 やるせない思いを抱えたまま、千翼は自身から溢れたどす黒い血だまりの中で目を閉じた。

 

 

 

 

 

「うーん、暇だなぁ」

 

 気絶した千翼の周囲をうろつきながら結芽は呟いた。一応こうして捕縛対象の周囲を警戒している訳なのだが、当人からすれば暇で仕方がない。

 

「それにしてもホントに汚しちゃったなぁ……帰ったら真希おねーさんに何て言われるか……顔にも付いてるよねぇ……」

 

 徐々に固まりつつある血がべっとりと付いた制服を見下ろして1人ぼやく。

 ふと口元に飛んだ血飛沫を鬱陶しく結芽は、それを()()()()()()()

 

「……不味い」

 

 特に深く考えて行った訳でもない、拭う事に億劫になっただけの少女らしい幼さを見せた一瞬だった。

 

 

 

 それが彼女自身を地獄の底へ突き落とす行為だと、まだ誰も認識していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「~♪」

 

 舞草壊滅の翌日、千翼は鎌倉、鎌府女学園に隣接する折神家の施設内を連行されていた。ベルトは持ち去られ、手錠もかけられているとなると脱走は難しい。

 更に千翼を結果的に無傷で倒した結芽が監視しているので、逃走の隙など欠片も存在しない。

 

「……何で、折神紫は俺に会いたいんだ……君は何か知らないのか?」

 

「さあ? 私は生かして連れて来いとしか言われてないし」

 

 千翼は抵抗を諦めされるがまま拘束されていたが、よくよく考えれば様々な点がおかしい。

 

 何故今まで秘匿されていた舞草の拠点を発見出来たのか。

 何故暗殺の主犯である姫和達を見逃したのか。

 何故千翼を《捕縛する事》を厳命しているのか。

 何故その理由を誰も知らないのか。

 

 千翼が思い付くだけでもこれだけ不可思議な点があると言うのに鎌府へ輸送されるまで唯一会話出来る相手であった結芽は何も知らないと言う。

 そしてその折神紫が自分に会おうとしている状況が一層千翼を混乱させた。

 

(何も分からない。分からないけど……会えば、何か分かるのか?)

 

 折神紫は何故だか分からないが自分の名前やベルトを用いて変身する事を知っていた。

 なら、彼女に直接聞いて見れば何か分かるかもしれない。

 そう思い直した千翼の前に、見覚えのある人影が横合いから現れた。

 

「……あなたは──」

 

「君、怪我はもう大丈夫なの?」

 

「ええ。特に問題はありません」

 

 薫から聞いた所によれば、確か親衛隊第三席 皐月夜見だった──と千翼思い返す。

 千翼に声をかけられた夜見は眼帯を右目に付け、左腕を吊った姿を正面に向け無表情で返答した。

 

「それで、何か御用ですか」

 

「いや、そう言う訳じゃないんですけど……」

 

「そうですか、では失礼します」

 

 素っ気ない態度で返され何とも言えない表情になった千翼を、結芽がニヤニヤした表情で小突く。

 

「あ~あ、おにーさんフラれちゃった。まあ夜見おねーさんも難しい人だからね、フラれちゃったけど。色々あったんでしょ?」

 

「いや、まああったけど……」

 

 妙な勘違いでもしたのか、やたら「フラれた」と言う言葉を強調しながら脇腹を小突く結芽に、千翼はタジタジになりながら返す。

 何かあったと言っても伊豆山中で一戦交えた位で、断じて結芽が想像している様な事があった訳ではない。

 いよいよ溜め息を吐きそうになった所で、結芽が足を止めた。

 

「はいとうちゃーく。ここから先はおにーさん1人で行けってさ」

 

「分かった。……ありがとうな」

 

「べっつにー、お仕事だし。

 じゃあ私行くから、バイバーイ!」

 

(──結構、フレンドリーな子だったな)

 

 ヒラヒラと手を振って走っていく結芽を見送った千翼は、眼前の扉に向き直る。

 一組織の長が職務を行う部屋だけあって、それなりの装飾はあるが言ってしまえばそれだけである。

 

 ──だが、この扉の向こうの人間は肉体を荒魂に乗っ取られていて、そして自分に関する重要な「何か」を知っている。

 1度入ってしまえばもう取り返しがつかなくなるかもしれない。

 

 

 それでも、千翼は逃げ出すと言う選択肢を選ばなかった。自分が何で、何をすべきか知りたかったのだ。

 手錠が嵌められた両手で扉を叩く。

 

 

 

 

「──────入れ」

 

 

 

 

 

 

 地獄の扉が、開かれる。




・千翼
やること成すこと裏目に出てしまう生きる罪。何をすれば良いかも分からないから大荒魂に聞いてみよう!

・燕 結芽
あっ…(察し)
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