目覚めると、そこは見知らぬ世界でした。
...なんて事もなく意識を取り戻した俺を待っていたのは、非常に馴染み深いコンクリートジャングルだった。どうやら問題なくゲームは始まったらしい。
レジェンド・ラヴァーズの舞台は現代をベースにして作られている。だから、林立する高層ビルや辺りを行き交うサラリーマンたちの存在はおかしくない。
HP、MPバーの表示が突然なくなり、メニューが開けなくなったとしても。俺はきっと無事にゲームをプレイできているに違いないのだ。
「____んな事を思っていた頃もあったな」
フン。部屋で一人、俺は乾いた笑みを浮かべた。
あの女神様に訳も分からないままに異世界転生させられてから、はや1年。既にこれがゲームではなく紛れもない現実である事は嫌でも理解していた。
俺の生きていた世界と実によく似ているが、根本的な部分が異なる世界。
人類の明確な敵として魔王が存在する。魔物たちによる殺人事件がニュースで放送され、異能力者どもの輝かしい戦いっぷりに人々は熱狂する。そんな世界であった。
「世界の支配を企む魔王と、それに抗う
こんな世界にただの人間である俺がやってきて大丈夫なのか。俺も最初はそんな不安に駆られたが、俺にも特異な変化が起きていた。
それは、あの女神から与えられたもの。愛を司る聖剣『ラヴァーズブレイド』の存在だ。...ああ、分かってるよ。たまらなくダサいよな。俺もそう思う。
この武器は元々俺がプレイするはずだったレジェラヴァに存在していたものだ。
本来のゲーム同様の能力を秘めたこの剣は、プレイヤーの専用武器。バディ(恋人?)との親密度に応じて強さが変化していくというもの。
ここがレジェラヴァの世界であれば、魔王討伐のRPGパート。仲間との恋愛を行うギャルゲパート。この二つが上手い具合に重なって剣を強化しつつ、魔物を倒していくという流れでストーリは進んでいくはずであった。
が、しかし、現実の世界にRPGパートも恋愛パートもない。
俺が動かなければ魔王退治のRPGも恋愛だって始まらない。
そんなわけで、俺の持つラヴァーズブレイドはレベル0。
この剣は俺の体の中に取り込まれていて、必要に応じて具現化する事ができる。
だが、刃の部分がふにゃふにゃで豆腐だって切ることができない。ゴミ同然の状態であった。
「はぁ...どうしたもんかねぇ......」
あの女神は本物だ。という事は、俺が魔王を倒せば元の世界に戻る事は可能だろう。
しかし、俺には魔王を倒す武器がない。恋愛なんてする気もないからこの先も期待はできない。
よって、俺に残された道は、たった一つ。
「_____この拳で魔王を殺す。それしか無い」
今日中に何話か更新します!