欠点だらけの恋愛に攻略法はありますか?   作:もちもちスイカ

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第4話 現在に至るまで

魔王を素手で殴り殺すことに決めた俺は、その術を身に着けるために早速街へ出た。

 

この世界には魔王の手先として魔物がいる。そして、その魔物から人間を守る存在もいる。それが英雄と呼ばれる魔物退治のスペシャリストだ。

 

『只今より、第27期英雄候補生の入学式を執り行います_____』

 

英雄になるためには訓練学校に通い、英雄候補生として訓練を行わなければならない。剣技、体術、魔術。魔物を倒す技術を学ぶのだ。

 

そんな訳で、俺もこの国立第一訓練学校に入ることにした。

それが今から3か月前の事。入学資金やら生活費やらを工面していたら思っていたよりも時間がかかってしまった。

 

学校に入学してからは刺激的な毎日であった。

候補生になってからまだ少ししか経っていないのに、もう何年もここで過ごしたみたいだ。日常の密度が濃いんだよな。

 

「___おいコラ、黒坂。テメエ調子乗り過ぎなんだよ」

「...ん? 俺に何の用だよ黒崎くん」

「放課後体育館裏に来い。誰にも言うんじゃねえぞ?」

 

おっと、彼の紹介を忘れていた。彼の名前は黒崎誠人(くろさきまこと)、同じクラスだ。

 

一見、クラスをまとめるイケメン男子のようにも見える黒崎。が、その裏の顔は自分の気に入らない人間は誰であろうと排除する独裁主義の危険な男。俺もその餌食となった。似たような苗字だから、ライバル視でもしていたんだろう。

 

でも、黒崎は頭がそこまでよくない。

 

「おりゃぁああああ! 死ねや死ねやァ!!」

「俺のが体術の成績良いの分かってるだろ...?」

 

いざ喧嘩が始まると真正面から殴りかかってきた。実力差があることは日頃の授業の様子からも明らかなのに。たった一人で俺に挑んできたのだ。

 

そして、俺にボコボコにされた。

正直言って黒崎は勝負ごとに向いてない。思考が単純すぎる。

 

「ぐ、ぐがぁ....覚えてろ黒坂ァ.....てめえの日常ぶっ壊してやるからなァ.....!」

「....捨て台詞が悪役すぎる」

 

喧嘩は俺の圧勝だった。だが、黒崎の真価が発揮されたのは次の日からだった。

 

「.......」

 

俺は人付き合いを積極的にする方ではない。人間強度が何とかだから。

それでも何気ない挨拶や日常会話程度であればクラスメイト達と行っていた。授業には班行動も多い。そもそも学校は集団行動が基本であるのだし。

 

だが、黒崎をボコボコにした次の日から俺は誰にも口をきいてもらえなくなった。それどころか視線すら合わせようとしない。

 

こうなってしまったら俺も開き直る他になかった。孤独は苦痛じゃない。ただ不便なだけだ。

 

しかし、人生とは面白いもので。たった一人だけ俺に話しかけてくる奴がいた。

 

「な、なあ....よかったら今日の班は私と組まないか?」

「....物好きな奴だな。俺に関わると仲間外れにされるぞ??」

「仲間外れ上等だ! そういうのには慣れっこなんだ」

 

彼女の名前は東雲久遠(しののめくおん)。やけに長い髪をブラブラとぶら下げる元気な奴だ。

 

東雲はその日から積極的に俺にコンタクトを取るようになってきた。俺の武器について説明した際には自ら進んで協力してくれた。帰宅の際には勝手に付いてきたり、ゲームも何回か一緒にやった。アイツはシューティングが死ぬほど下手なんだ。

 

どんな魂胆で俺に近づいてきたかは今も分からない。知ろうとも思わない。多分、東雲は体術が苦手だったから俺に教えて欲しかったのだろう。

 

だが、結局そんな機会もなかった。ついさっき俺は彼女からビンタをくらった。

 

「分かんないな....」

 

彼女が怒る理由は分かる。そりゃあ散々俺に付き合わされているというのに、一向にリターンを得る様子が無いからだろう。利益も無しに協力関係が築けるほどに人間は優しくはない。

 

ただ、俺が分からないのは自分の事だ。誰かに喧嘩以外で殴られるのは初めてだ。

怒りの感情を向けられることは合っても。こうしてその思いをぶつけられるほどにコミュニケーションを重ねた人間などいなかったのだ。

 

「こんなんだったら、ギャルゲーもやっとけばよかったかな.....」

 

そんな事を呟きながら、俺は東雲の後を追うように帰路に就いた。

 

回想はここまで。ここから先は現在の話だ。

 




もう一話投稿します!

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