鬼殺の海柱   作:ちまきまき

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会話文 【母さんにご報告】

雪「あー、暇だ。とてつもなく暇だ。よし、鬼を捕まえて油鍋にぶち込んで揚げよう!」
鎹「カー!手紙!手紙ダ、カー!」
雪「あ、お帰りぼんじり(鎹烏の名前)。誰からー?」
ぼ「カー!紫陽花ー!鳴滝紫陽花ー!」
雪「えっ、マジ?紫陽花ってあの紫陽花?あたしの息子の紫陽花?」
ぼ「他ニ誰ガイルンダ!ホラヨ!」
雪「あ、わー、ありがとう。何だろうか、そわそわするぞ。えっと何々~?」

【拝啓母さんへ。突然ですが、恋人が出来ました。あと中々帰れなくごめん。以上紫陽花より】

雪「……………………………………………恋人が出来た?」
ぼ「オメデトー!オメデトー!」
雪「……………………………………………あなやぁあああああああああああああああああ!?」

四年後、結婚報告を受けて同じリアクションをする事となる雪音さんでした。
 


第七話 紫陽花瑠璃、叶え偲ぶ ー永愛ー

 

「鬼殺隊と縁のある医者や薬師(くすし)にも手を尽くしてもらいました。診断結果は『右手首の骨折』、『全身裂傷』、『両手首の凍傷』、『出血多量』…そして、『意識不明』。背中には大きな傷が出来てしまって…治療をすれば傷は薄くなりますが、一生傷跡が残ると思われます…。……本当にごめんなさい、鳴滝さん。私がもっと薬学に精通していれば、彼女の体に傷を残す事なんてなかったのに……」

 

しのぶの言葉に紫陽花は首を横に振った。

覇気のない其の背中に、しのぶは思わず目を逸らし、静かに特部屋から出て行った。

部屋には冷たく、重い空気が流れる。音は、瑠璃子がする呼吸だけ。

 

――― 瑠璃子が眠り続けてから、一ヵ月。紫陽花は片時も傍を離れる事はしなかった。

 

全身に薬を塗った包帯を顔まで巻かれていたが、つい先日やっと顔の包帯が取れた妹の寝顔は苦しそうだった。

傷が熱を帯び、瑠璃子を蝕んでいる。汗を拭くと、ほんの少しだけ苦痛の表情が和らいだ気がした。

 

 

俺は馬鹿だった。鬼を狩り続けて、強くなった気になって、家族を放った罰がこれだ。

 

何で俺じゃない。何で俺じゃなくて、瑠璃子なんだよ…。此奴は俺と胡蝶を守ろうとしてくれただけなのに。

 

俺は――――呼吸と刀が使えなくなっただけなのに。

 

 

あの後、詳しい治療結果が紫陽花に伝えられた。

 

 

『貴方はもう二度と、全集中の呼吸は使えません。利き手の左手も、其れによる後遺症で麻痺が一生残ります。鬼殺隊である貴方に言うのは悩みますが……普通の生活ならば問題は無いでしょう。左腕の麻痺も、訓練をすれば多少は良くなります。…ただ、妹さんの場合、何時目を覚ますかは医者の私でも判りません。……覚悟だけは、しておいてください』

 

左腕は兎も角、全集中の呼吸が二度と使えないと言うのは、実質上、鬼殺隊の引退を表している。カナエも左腕の診断を除けば、同様の結果だった。正直、命あるだけ有り難い診断結果だった。

だが、瑠璃子は違う。生命線がぎりぎりの状態で、今は辛うじて生きている。だが、何時、容体が急変するか判らない。≪覚悟≫だけはしておいてくれ、と警告された。

 

 

可笑しいだろう。だって瑠璃子は何もしていないんだ。守ろうとしただけだ。そうだろう?

 

罰を受けるべきは俺だ。俺が本来、家族に費やすべき時間を、私怨で鬼殺に費やしたから、家族を無視したから。

 

頼むよ、連れて行かないで。妹は約束してるんだ。大事な人に生きるって約束をしてるんだよ。だから。

 

 

其の日からずっと、紫陽花は瑠璃子の傍を離れない。離れられなかった。

 

 

「瑠璃子…ごめん…本当にごめん…」

 

項垂れて、何度も謝罪を繰り返す。

まだ、瑠璃子の呼吸は不安定だが、気紛れで教えていた『全集中・常中』が僅かながらも出来ている事から、幸い傷の治りは常人より多少は早いだろう。其れでも油断が出来ない。

 

紫陽花は、眠れぬ日々を茫然と過ごしていた。

 

「なぁ、瑠璃子。さっき、鱗滝さんの所にいたって言う二人組が来たよ。お前、水柱候補といたんだな…」

 

この特部屋に入れるのは、紫陽花やしのぶ等、極一部の人間だけで、お見舞いは出来ない。

だからさっき見舞いにきた二人は紫陽花と別室で話していた。水柱候補として名前の上がっている二人組だった。

 

 

まさか、瑠璃子と暮らしていたとは思わなかったけど。

 

 

『あの、誰かいますか?鳴滝瑠璃子の容態を聞きに来たんですけど…!』

 

その声に、紫陽花は重くなった体を動かして、出入り口の障子を開けた。

其処に立っていたのは紫陽花よりも年下の少年二人。穴色の髪の子と、黒髪の子。錆兎と義勇だった。

 

『お前達は…柱候補か。瑠璃子に何の用だ』

 

何日も寝ていない所為で、濃い隈が浮かんだ生気のない目に見下された二人は、びくっと若干怯えたが、彼の背後で寝る瑠璃子の姿を見て、目を見開いた。

 

『っ瑠璃子さん!』

 

中に入ろうとした錆兎を手で制し、紫陽花は後ろ手で障子を閉める。

 

『中には入れない。入れるのは俺か胡蝶の妹か医者くらいだ』

『あ、す、すみません。気が動転して』

『…瑠璃子さん』

 

しゅんと落ち込む義勇の手には花束。其れを見た紫陽花は暫く黙って、はぁ…とため息をついた。

 

『隠はいるか?』

『此処に』

 

しゅっと現れた隠に紫陽花が言う。

 

『少し部屋を開ける。瑠璃子の事を見てやっててくれないか?容体が急変したら俺と胡蝶しのぶに伝えてくれ』

『畏まりました』

 

隠は一礼すると、障子を開けて特部屋の中に入っていった。

 

『……話をしよう。俺は鳴滝紫陽花。瑠璃子の兄だ』

『貴方が…』

 

そうして、紫陽花は二人を連れて、一旦別部屋に移動した。途中遭遇したしのぶに義勇の花束を渡し、花瓶に入れてくれと頼んでおいた。

 

 

其処で聞いたのは、錆兎と義勇が瑠璃子と鱗滝の元で暮らしていた事。

 

瑠璃子が両親を惨殺されて、鱗滝の元へ命からがら逃げてきた事。

 

自分達の面倒を見て、励ましてくれた事。

 

自分達の最終選別試験の後、雪音がやってきて、海の呼吸と両親について聞かせてくれた事。

 

雪音と養子縁組をして、鳴滝家に行った事。

 

鬼殺隊に入るまでは手紙のやり取りをしていた事。

 

 

…紫陽花の事が、ちょっと怖いけど、嫌いじゃないと言っていた事。

 

 

話を聞き終わると、紫陽花は片手で目を覆った。指の隙間から涙が零れる。

 

そうか、瑠璃子はそんな経験があったのか。

全然、全く知らなかった。義理とはいえ、兄と呼んでくれたあの子が…。

 

紫陽花は涙を少し乱暴に拭くと、二人に対して謝罪した。

 

『本当に…申し訳無い。瑠璃子をあんな状態にした原因は俺にもある…。医者から油断するな、覚悟だけはしておけと言われた』

 

告げられた言葉に、錆兎と義勇の顔が蒼褪める。義勇の口から『嘘だ…』と零れた。

 

『相手は上弦だった。瑠璃子は俺と花柱を逃がす為に、一人で残った。朝日が昇るまで耐えきったんだ…。だが、傷が酷くて…血を出し過ぎて…背中の傷は一生残る、と…』

『そんな…』

『すまない…本当にすまない…。俺がちゃんとしていれば…!』

『瑠璃子さんは死なない』

 

唐突に、義勇が言った。錆兎と紫陽花の視線が其方に向く。

 

『瑠璃子さんは絶対に死なない。先生と約束した。生きて帰ると約束した。瑠璃子さんは俺達との約束を破った事は一度も無い。無い。……ぜったいに、おれたちや、せんせいをおぃて、いかない…』

 

太腿の上に乗せた拳をぎゅっと握って、目尻に涙を浮かべた義勇が言う。其れはまるで自分に言い聞かせている様だった。

錆兎が義勇の背中を擦る。紫陽花は再び溢れる涙を拭かず、何度も頷いた。

 

 

「目が覚めたら教えてくれだってさ…。仲が良いんだな。俺は友達もいなかったから、ちょっとだけ羨ましいよ」

 

困った様に笑う紫陽花。瑠璃子はまだ、答えない。

 

「…なぁ、瑠璃子。俺さ、胡蝶とちゃんと話すよ」

 

そっと包帯を巻いた手を優しく握る。

 

「俺、胡蝶と話すの、凄く怖いんだ。だって、いつも俺の口からは悪い言葉しか出てこないし…正直今でも胡蝶の考えは判んない。でもさ、話しかけてくれるのは嬉しいんだ。あんな美人に話しかけられるなんて男冥利に尽きるだろ?胡蝶は凄いんだぞ。女の子なのに、頑張って柱にまで登り詰めたんだ。瑠璃子も女の子だから、胡蝶はきっと良い先輩になるよ。妹の方とも仲良くなれるさ。胡蝶の花の呼吸は綺麗なんだ。綺麗な彼奴にぴったりだ。水の呼吸派生だから、話が進むよ。俺も彼奴も隊士は引退するけど、話し相手くらいにはなるさ。

あ、あと俺な、彼奴の笑った顔がすごく好きなん」

 

ガシャーンッ!!!

 

「だ…………ん?」

 

何がが落ちる音がして、紫陽花は振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

――――其処には、お茶が入っていたであろう二つの湯呑を落とした、顔を真っ赤にしたカナエが立っていて、

 

 

 

 

 

 

 

 

紫陽花も、真っ赤になって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「何でいるんだよぉおおおおおおおお!?えっ!?いつ!?いつ入ってきた!?あれ俺感覚鈍ったかなぁ!?最近訓練してない所為!?ごめんなさいねええええええ!!!鳴滝家の恥だわ俺ええええええ!!!」

「ち、違うのよ!?鳴滝君は悪くないの!!わ、私が勝手に入ってきちゃっただけなの!!瑠璃子ちゃんに話しかけてるから邪魔しちゃ駄目かなって思って黙っていただけなの!!!ご、ごめんなさい!!」

「いやいやいや違うから!!!俺が眠ってる瑠璃子に一人寂しく話しかけただけだから!!!胡蝶は悪くないから!え、あ、いや、待て待て、も、もしかして今の全部聞いてた……?」

 

ぷるぷる震えてながら言った紫陽花の質問に、カナエもぷるぷる震えて――――小さく頷いた。紫陽花は床に四つん這いになった。

 

「いいいいいいいいやあああああああああ!!!恥ずっ!!!すんごく恥ずかしい!!!穴があったら入りたい!!」

「本当にごめんなさああああい!!!」

「胡蝶が誤る必要ない!!悪いのは俺だし!!ひうっ!恥ずかしい!呼吸も左腕も使えなくなった俺が悪い!!!ふえええええええっ!!!」

 

 

 

「わ、私が鳴滝君の左腕になるわ!」

 

 

 

「ふええええええええええぇええ………え?」

 

 

カナエはずんずんと紫陽花に近づくと、抱き付いた。紫陽花の顔が更に赤くなる。

 

 

「こ、胡蝶!?」

「カナエ!」

「えっ!?」

「カナエって呼んでくれないと離さないから!」

「ふぇええええ!?」

 

あわあわと狼狽える紫陽花。カナエは更にぎゅっと力を込めて抱きしめる。

 

「鳴滝君だって凄いわ!努力を欠かさないで、ずっとずっと何年も続けていたの、私は知ってる!でも、でもっ、鳴滝君が一人で戦っているのが私、怖かったの!何時か死んじゃうんじゃないかって!私を置いて一人で死んでしまうんじゃないかって!」

 

紫陽花がぴたりと止まった。

 

「皆もしのぶも貴方が怖い人だって思ってるけど、私は違うわ!貴方が鬼を斬るのは、過去の自分を否定したいからでしょう?見てて判ったわ、あんな、自分を傷つける様な戦い方してるから…。あの日、助けられた後から貴方の戦い方を知ってるの。何であんなに自分を痛めつける様な戦い方をするんだろうって、ずっと疑問に思っていたわ。でも、見ていくうちに、もしかして殺したいのは鬼じゃ無くて、『自分』なんじゃないかって」

 

―――カナエの言う通りだった。

 

紫陽花が此の世で最も憎んでいたのは鬼では無い――――――父親を守れなかった、弱い自分だった。

だって弱かったから、父親は死んでしまった。あの時、襲ってきた恐怖で足が動けなくなって、其れで鬼の格好の餌食となってしまい、自分を庇って父が死んだ。

 

此の世で最も嫌いなのは鬼じゃない。弱い弱い、何時までも弱さに嘆き、叫ぶ小さな自分だった。

 

「何があったかは聞かない。でも、覚えていて。此処に、貴方を心配している女がいるって事を」

「……カナエ……」

 

 

 

名前を呼んだ紫陽花を、カナエはそっと離す代わりに、頬に触れた。涙が伝う、其の頬を。

 

 

 

「 好きよ、紫陽花さん。貴方の事が好きです。助けられたあの日から、ずっと貴方に恋していました 」

 

 

 

カナエが笑う。

 

まるで暖かな春の陽射しの様な、其の柔らかな微笑みは、愛した父と何処か似ていて。

 

でも、此の胸を締め付けてやまない、感じた事のない感情は紛れなく、父に対する物とは違っていて。

 

 

 

 

紫陽花は、震える其の手で、努力してきた傷だらけの手で、カナエの手に触れた。

 

 

 

 

「カナエ」

「はい」

「今までごめん」

「はい」

 

 

 

「 好きだ 」

 

 

 

「 っはい 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………あ゛のぉ…………良い所ずみばぜん……病人の部屋で…………恋愛…じないで……ぐれ、まぜんが……………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其の日、特部屋で男女の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

「瑠璃子、何処か痛い所は無いか?痒い所は無いか?痛かったら直ぐに言えよ。あ、そうだ林檎が見舞い品で来たぞ。食うか?」

「……エエ、食ベル」

 

何故、こうなったのかしら?

 

「そうか。兄ちゃんが剥いてやるから待ってろ」

「あら、駄目よ、紫陽花さん。左手の麻痺がまだ強いでしょう?私が剥くから貸して」

「あ、ごめんなカナエ。つい…」

「良いのよ、気にしないで」

 

紫陽花様…ううん、紫陽花兄様がそっとカナエさんに林檎と刃物を渡す。『手、切るなよ』『大丈夫よ』と微笑んで会話する二人を、ベットに寝ている私と隣にいるしのぶちゃんは厳しい目で見ていた。しのぶちゃんと目が合う。頷き合う。

 

((病室でイチャイチャするんじゃない!))

 

目が覚めると、何故か兄様とカナエさんの甘酸っぱいラブシーン、然も、告白と言うとっても熱い場面に、ついつい口を出してしまい、二人を驚かせてしまった私。此れは本当に悪いと思っているのよ?でも、病人がいる病室で告白をしないでほしいわ。もっとこうね、ロマンチックでムードがある場所でやった方が素敵だと思うの。

 

さて、如何やらあの上弦との我慢比べの後、私は一ヵ月間眠り続けていたそう。

 

んもう!本当に痛かったのよ!お姉さんは痛みの耐性がまだあまり無いの!

私の体ザクザク斬っちゃって…あの上弦、絶対許さないんだから!今度会ったらポコポコにしちゃうわよ!でも降参しなかった私、えらいと思うわ。スーパーえらいわ、瑠璃子!

 

あの我慢比べもそうだけど、私が起きた後も大変だったの。

 

私が起きた事に泣く兄様、慌ててしのぶちゃんに報告しに行ったカナエさん。

三分もしない内にやってきたしのぶちゃんと鬼殺隊お抱えのお医者様。後なんでかカステラを持った隠の人も来た。

 

兎に角、病室は大パニックに陥ってしまったが、私が水分を求めた事で取り敢えず落ち着いた。

 

流石に一ヵ月も寝たきりだったので、筋力がかなり落ちていたけど、機能回復訓練…所謂リハビリをすれば元に戻る、としのぶちゃんとお医者様は言っていた。

今は食事をきちんと食べて栄養取って、体の傷を癒す事が先決だとも言われた。やっと重湯からお粥になりました。お粥美味しいわぁ。

骨が折れた手首は現在、何とか骨がくっつきかけているので、今は動かしちゃ駄目だって。……やっぱり、あの上弦許さない。

 

 

後、全治三ヵ月半と言われた。本当は三ヵ月だったが、半月伸びた。なんでって?

 

 

――――― 義勇が力いっぱい抱き付いてきて、お腹の傷が開いちゃったのよねぇ!

 

 

其の時の会話が此方。

 

『瑠璃子さん』(ぎゅー!)

『ちょ、義勇!傷が!傷が開いちゃうわ!うぷっ』

『やめろ義勇!離れろ!瑠璃子さんしっかり!意識を保って!』

『ちょっと!病室で何騒いでいるんですか!?』

『瑠璃子さん』(ぎゅぎゅぎゅー!)

 

ぶしゅっ!

 

『『『あ』』』

『あらま―――――――――っ!?』

『瑠璃子さぁあああああん!!』

 

 

…あの時は凄かった。痛みで意識が飛びかけたわ。

 

義勇がおろおろして、錆兎が一生懸命私の名前を呼んで、しのぶが義勇を蹴り飛ばして私の治癒をしてくれた。

 

此れが原因で義勇は私への完治するまでの間、『抱き付き禁止令』が出てしまった。これは自業自得ってやつなのよね。

 

命令を受けた本人はいやいやしていたけど、私がいっぱい抱きしめて、つるつるおでこにちゅーしたら、渋々下がった。

よしよし、義勇は良い子さんね。ごめんなさいが言えてえらいねー。

あら?錆兎どうしたの?貴方もぎゅーする?しない?そう、判ったわ。……何で落ち込んでいるの?

 

こほんっ!其れはさておき、嬉しいニュースです。―――紫陽花兄様とカナエさんがお付き合いを始めました!

 

まぁ、直ぐ近くであんな熱烈な告白してたから、判ってはいたけど…やっぱり嬉しい物は嬉しい。

あ、あと呼び方も『紫陽花兄様』で良いと許可してもらいました。『今まで冷たくしてごめん』と謝られました。私は其の様子に、『やっと、兄妹になれましたね』、と言ったら、紫陽花兄様は微笑んで頷いてくれた。

 

 

初めて、他人としてでは無く、家族として紫陽花兄様を見れた。

 

 

……でもね、妹の前でイチャイチャするのはちょっとやめてほしいなぁーって。見てるとなんかムズムズしちゃうの。ムズムズで死んでしまいそう!

 

とっても素敵よ?美男美女カップルだもの。目の保養には良いの。

……でもね?義理とはいえ、兄の恋愛場面を目の前で見たい?貴方は見たいか?私はちょっと嫌かも。恥ずかしいんだもの!

 

カナエさんが「はい、どうぞ」と足の上に、綺麗に切られた林檎が乗ったお皿を乗せてくれた。

比較的無事な左手で林檎を掴んで口に運んで、むっしゃむっしゃ。あらー、甘くて美味しい。

 

「あんまり多く食べちゃ駄目ですよ?まだ完全に胃の状態が前みたいに戻っていないんですから」

「ふぁーい」

「食べながら返事しない!右手動かしちゃ駄目ですからね!何かあったら直ぐ鎹烏使って呼んでくださいね?」

「ふぉーい」

「もうっ!」

 

カナエさんが笑う、紫陽花兄様が笑う。

 

怒っていたしのぶちゃんも次第に笑い始めて、私も笑った。

 

 

 

 *

 

 

そして、時は流れて現在。

 

私は紫陽花兄様に用があって、蝶屋敷を訪れていた。今日も今日とて蝶が舞う。

 

紫陽花兄様は前線から退く代わりに、蝶屋敷専用の医療隊士となった。所謂後方支援の人ね。

元々この蝶屋敷はカナエさんが柱になった時に建てられたもので、其の時から医療施設として機能しているのだが、いかんせん常に人手が足りない。なので、カナエさんも同じく医療隊士になった。何時の時代も人手不足は深刻ねー。

 

あと、此の屋敷はしのぶちゃんが蟲柱になった時に、特に工事とかもせずに其の形の儘、譲り受けた物なので、建物内の構造もきちんと頭に入っているの。

 

兄様がいるのは、医療室。何で其処に居るのかって?簡単よ。だって―――

 

「紫陽花兄様、いる?」

「ん?おぉ、瑠璃子。いらっしゃい。怪我でもしたか?」

 

白衣を着た紫陽花兄様が此方を向く。―――そう、紫陽花兄様は蝶屋敷でしのぶちゃんに次いで、二人目の医者になった。

と、言っても医者の卵の様な物だけど。しのぶちゃんも完全な医者じゃないけど、此の鬼殺隊において二人以上に医学に詳しい人はいないから、医者で良いと思うわ。カナエさんは看護師さんなの。

医者と看護師の夫婦、私、人生で初めて見たわぁ。白衣の兄様素敵!カナエさんの看護師姿も素敵で可愛い。うふふ、お似合いよ!

 

因みに兄様は蝶屋敷の医療隊士になる際に、しのぶちゃんに媚を売った。

 

―――鳴滝の図書館にある医療系の本を全部写本した!そう全部!!

 

無論、家長である母さんからの許可を貰った上で書いた。流石に許可を貰わないと殺されちゃうわね。

鳴滝の図書館にある本は図書館と呼ばれるだけあって、『海の呼吸の書』以外にも大量にあり、勿論医療系の本もある。しかも、中々手の出せないお宝まであるから、しのぶちゃんはそれはそれは大変喜んだわ。鳴滝家の権力は偉大なのね。

曰く将来への投資だとかで、現に其れ等はしのぶちゃんの知識となっている。故にしのぶちゃんは紫陽花兄様に前みたいにちくちく言えなくなってしまった。実に遺憾だ、とこの前愚痴られちゃった。

 

「ううん、違うの。母さんからお土産が来て、届けに来たの」

「またか?最近多いなぁ…」

「御煎餅ですって。机の上に置いておくわね」

「おうよ」

 

御煎餅を机の上に置く。味はお醤油ですって。

 

「そう言えば聞いたぞ、吹雪が今年の新人だってな」

「ええ、また姿は見て無いのだけど。新人名簿見て驚いたわ。そろそろだとは思っていたけど、連絡もしないで入隊するんだから」

 

鳴滝(なるたき)吹雪(ふぶき)。私と紫陽花兄様の弟で、鳴滝家の末っ子。一番母さんに似ている、可愛い弟の名前だ。

でも吹雪はかなりの問題児で、正直私も兄様も手を焼いているのも実情だった。

 

「大丈夫なのか?彼奴、絶対問題起こすだろ?」

「起こすわねー。いざとなれば、身内責任で柱の称号取られるかも…」

「はぁ…ありえそうだから止めとけ。何かあったら俺も力貸すからさ」

 

ぽんと頭に兄様の左手が乗る。

兄様の左手の麻痺はかなり和らいだ。とは言っても、日常生活に支障があまり無いだけで、肺の事もあり剣は握れないけど。

 

「そうだ、此の前、煉獄君が来たぞ。『妹さんを俺に下さい!』って」

「あらまぁ」

「ムカついたから、匕首(あいくち)で目ん玉狙ったんだけど避けられた。チッ」

「物騒よ~」

 

あらあらまぁまぁ、嘗ての『鬼殺しの紫陽花』の顔が出ちゃってますよー。

 

「いいか、瑠璃子。近づく男がいたらこれで刺せ。武器はいっぱいある方が良いだろう?」

 

そっと私に匕首…所謂ドスを渡してくる兄様。其の目に生気は無かった。あらら、怖い兄様になっちゃったわ。

 

「兄様、落ち着いてちょうだいな?」

「お前に近づく男は全員刺せ。いいか?錆兎君だろうが冨岡君だろうが刺せ」

「柱が柱を刺したら問題あるでしょう?」

「良いか?遠慮は要らないぞ?こうな、シュッと、バレない様に刺せ」

「使い方を教え込まなくて良いから。私帰るわねー」

「あ、待て瑠璃子!こっちの藤の毒塗りのやつも持ってけ!コラッ!瑠璃子ー!」

「あ、そうだわ兄様」

「なんだ!」

 

 

 

 

 

「 結婚おめでとう!カナエさんとお幸せに! 」

 

 

 

 

 

―――― 紫陽花兄様は、春の木漏れ日の様な柔らかい笑顔で「おうよ!」と言った。

 

 

 

 

 

 




・鳴滝紫陽花
やっと復讐の沼から上がってきた、元剣士。この度、『瑠璃子シスコン(瑠璃コン)』へランクあっぷっぷ!妹を狙う奴は許さねぇ。
前線は退いたけど、元々頭が良いので軽い治療とか出来るから蝶屋敷の主治医的ポジションに収まった。なお、蝶屋敷でカナエと夫婦生活真っ最中。
因みに呼吸を使わない剣術はある程度出来るので、いざと言う時の為にドスだけは複数持ってる。
最近の敵は炎柱と水柱二人組。きっちり目を狙って、一生妹の可愛い顔を見せないと言うえげつないスタイル。

・胡蝶カナエ 改め 鳴滝カナエ
勢いそのままに告白しちゃった大胆な胡蝶姉妹の長姉。すごく恥ずかしかったけど、念願の恋が叶って良かった。あのまま、瑠璃子が起きなかったらちゅーしてたかもしれない。
現在、蝶屋敷の看護長をしてる。紫陽花兄様と新婚生活中。一年後くらいに瑠璃子に甥か姪が生まれるかもしれない。

・鳴滝瑠璃子
この度、無事生還。取り敢えずあの上弦許さない。背中の傷は現在でもある。
兄様とカナエさんが付き合って結婚してホッとしている。でも付き合い始めの頃に砂糖過多摂取(視覚的)で、マジで吐きかけた。
兎に角、義勇は『幼女確定』なので、ちゅっちゅもぎゅっぎゅも恥ずかしくない。
兄様、結婚おめでとう!強いて言えば姪っ子が良いです!(キリッ)

・胡蝶しのぶ
瑠璃子の背中の傷が綺麗に治せなかった事を悔やんでいるけど、今では遠慮無く背中の傷に触れる唯一の人。塗り薬を塗っている時が、なんやかんやで一番独り占め出来るから、好き。
取り敢えず富岡さんは離れてくださいこの野郎。鱗滝さんは近づかないでください。
姉さん、結婚おめでとう。世界で一番綺麗な花嫁になってね。

・錆兎&義勇
瑠璃子が死にかけてるって聞いて肝が冷えた。でも生きててくれて良かった。
義勇が原因で瑠璃子の全治期間が伸びたので、しのぶに恨まれている。
因みに義勇は瑠璃子のぎゅっぎゅもちゅっちゅも好き。一番好きなのは胸に顔を埋めてのぎゅっぎゅ。『親愛』がカンストしてる。
錆兎はどうて…ごほん、一途なので無暗に触ったりしない。でもちょっとしてほしかった。


『コメント』
皆さん、感想や評価、お気に入り等有難う御座います!少しずつ数字が増えている事実に、ゴマぷりんは「ぐへへぇ」と笑って喜んでいます。

さて、今回は紫陽花兄様とカナエさんの馴れ初め、童磨襲撃事件の過去話を書きました。

童磨がナチュラル鬼畜として書けて満足。瑠璃子は本当にごめん。

此の後の展開としましては、炭治郎と出会う前の鬼殺隊での出来事、所謂瑠璃子の鬼殺隊過去話をもう少しだけ書いてから、原作に進むと言う形になります。
さねみんとか、蜜璃ちゃんとのデートとか、過去話とか書きたいですね。

其れでは皆さん、またお会いしましょーう!
 

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