炭「瑠璃子さんのお屋敷はとっても良い匂いですよね!金木犀の香りがぶわーってして」
瑠「褒めてくれてありがとう~。あの金木犀はね、私も大好きなのよ。木も良い匂いだけど、お花が咲くとね、もっと良い匂いになるの」
炭「へ~!咲いたら、禰豆子と一緒に見に行っても良いですか?」
瑠「勿論よ、好きな時に来てね。金木犀と言えば、此処で大正コソコソ噂話!『金木犀の花が咲くと、柱の皆やお館様御一行が、私のお屋敷にお花見に来るの。密かに其れが私の楽しみの一つなのよ』」
炭「其れにしても本当にいい香りですね」
瑠「もし良かったら、今度、金木犀の香り袋作ってあげましょうか?禰豆子ちゃん喜ぶかな?」
炭「嬉しいです!きっと禰豆子も喜びます!」
瑠「今度持ってくるわねー」
俺には、とても素敵な姉弟子がいる。更に兄弟子が二人と姉弟子がもう一人いる。
禰豆子が鬼になって、最初に出会ったのが一人目の兄弟子・冨岡義勇さん。
其の冨岡さんの紹介の元、訪れた鱗滝さんの所で俺に修行をつけてくれた兄姉弟子・錆兎と真菰。
そして二人と出会った後に会ったのが、瑠璃子さんだった。
今日は瑠璃子さんのお誘いを受けて、彼女の屋敷へと向かっている。
禰豆子は何時もと同じ様に背負い箱の中にいるけど、大好きな瑠璃子さんの所に行くからか、さっきから箱をカリカリ引っかいている。嬉しい気持ちの匂いがする。早く会いたくてしょうがないんだな。俺も早く会いたいよ。
鬼殺隊最高峰剣士の称号・柱。其の一人である海柱の
四人の兄姉弟子の中で、一番最後に出会った人。錆兎と真菰と出会った後に、ふらりと現れた瑠璃色の髪がとても綺麗な人。其れが瑠璃子さんだった。
岩が斬れなくて、錆兎にも勝てない日々を過ごしていた時にやってきたその人を見た時、なんて穏やかな人なんだろうと思った。
柔らかな金木犀の香りに混じって、縋りたくなる様な、甘えたくなる様な、優しくて懐かしい匂いが瑠璃子さんからした。
瑠璃子さんは、其の匂いと同じで本当に優しい人だった。
稽古の後に何時もおにぎりを作ってくれて、頭を優しく撫でて、優しい笑顔で『頑張ったね』って褒めてくれて。
俺は、瑠璃子さんの優しさが無かったら、折れていたかもしれない。いや、確実に折れていた。
―――八つ年上の女性に失礼かもしれないが、母親の様だった。
だから、俺は縋ってしまったのかもしれない。死んでしまった母さんと重ねてしまったのかもしれない。
俺は鱗滝さんの所に来るまでの話を口にしてしまった。瑠璃子さんは嫌な顔一つせず、話終わるまで、ずっと隣で聞いていてくれた。
そして俺は彼女に抱きしめられた。―――『頑張ったね』の一言を言われて、俺は泣いた。
本当に辛かった。苦しかった。寂しかった。泣き叫ぶ俺を、瑠璃子さんは決して離さなかった。
其れから、俺は瑠璃子さんの事がもっと大好きになって、いつか瑠璃子さんを守れる様な剣士になりたいと誓った。
……それでも、俺は何時も自分の未熟さを、嫌でも思い知らされる。俺が未熟だから、瑠璃子さんは怪我をしてしまう。この前の無限列車の時だってそうだった。
……ああ駄目だ駄目だ!
今日は折角、忙しい瑠璃子さんが招待してくれたんだ!こんな暗い気持ちで会うなんて失礼だぞ、炭治郎!
両頬をぺしぺし叩いて、気持ちを切り替える。うん、大丈夫!
気持ちを切り替えて、瑠璃子さんのお屋敷へと向かう。
屋敷に近づく度に金木犀の香りが強くなっていって、一番強くなったのはお屋敷の玄関前まで来た時。
瑠璃子さんのお屋敷には幾つかの金木犀の木が植えられている。今は咲く時期じゃないけれど、其れでも香りが漂っているから、隠の人には「金木犀屋敷」と呼ばれているそうだ。
すると、俺の気配に気づいたのか、『彼』がやってきた。
「あっ!
「わん」
すたすたと軽い足取りでやってきたのは、お屋敷の番犬である大きな犬・正宗だった。
正宗は俺の足元まで来ると、挨拶をしてくれた。相変わらずとっても賢いなぁ。
正宗は瑠璃子さんが拾ってきた、元野良犬らしい。
なんでも元々大きな山で一匹で暮らしていたが、鬼に襲われてしまい、其処を瑠璃子さんに助けられたそうだ。其れに恩義を感じて付いてきたって瑠璃子さんの鎹烏が言っていた。
襲われた際に右目をやられてしまい、今は見えないそうだが、其の隻眼が戦国時代の将軍・伊達正宗に似ているそうだから、正宗と名付けられたそう。
其れにしても、やっぱり大きいなあ、正宗。俺が知っている犬よりも大きいぞ?
瑠璃子さんは雑種の子だと言っていたが、絶対にそうじゃないと思う。だって匂いが狼そのものだ。善逸も伊之助も狼だと言っていたが、瑠璃子さんが良いなら良いかって事で黙ってる。だって瑠璃子さんが困る所、俺も禰豆子も善逸も伊之助も見たくないし。
正宗も瑠璃子さんが大好きだから、狼でもきちんと良い子にしているし。番犬だってきちんとしている。この前、町で泥棒をやっつけたそうだ。えらいぞ、正宗!
そんなとってもえらい正宗の案内で、俺は瑠璃子さんの元へと向かった。
屋敷の中に入り、正宗についていくと、とある部屋の前で彼は止まった。くいっと口で開けろと言う仕草をする。俺は正宗に従って、戸を開けた。
中には瑠璃子さんが座っていた。今日は非番だそうで、服も隊服ではなく、着物だった。
既に俺以外の客人も来ていた。見知った顔だった。
「瑠璃子すわぁ~ん!今日もとても綺麗ですぅ~!」
「あらあら、善逸ちゃん。今日も元気ね」
「瑠璃子さんを見たら誰でも元気でますよぉー!うへへへ」
善逸だった。ちょっと遠くでも判るくらい、顔がちょっと気持ち悪い善逸だった。
ぐねぐね動いて、瑠璃子さんに話しかけてる。話しかけられてる瑠璃子さんはにこにこ笑っていた。楽しい気持ちの匂いがした。
善逸には年上の瑠璃子さんがとても眩しく見えるらしい。瑠璃子さんは善逸の事を可愛いと言う。
其れはきっと年下で、俺と同じ様に弟の様で可愛いと言っているのだと思う。
でも、其れに気づいていないであろう(或いは分かった上で)善逸の顔はもうどっろどろのデレデレで、変な笑い声が出てる。
こらっ、恥を晒すんじゃない!ほら見てみろ!正宗でさえ呆れているぞ!
でも、瑠璃子さんに善逸が近づく時には大体この人が邪魔をする。
「おいカスてめぇ、なに姉御前に近づいてんだ!?」
「んげぇ!?獪岳!!!」
善逸の首根っこを掴み上げたのは、善逸の兄弟子で瑠璃子さんの継子の獪岳だった。何故呼び捨てかと言うと、彼が其れで良いと言ってくれたからだ。
獪岳は何かと善逸の事を「カス」だとか言うけど、確かに苛立っている匂いはしているけど、心の底から嫌いでは無いみたいだ。でもやっぱりイライラしてる。獪岳はとっても怒りんぼなんだ。
「幾ら、姉御前が強く美しく優しいからと言って易々と近づくんじゃねぇよ!近づいて良いのは俺か正宗か女性陣だけだ!!」
「女の子は判るけど、何でお前は良くて俺は悪い訳ぇ!?ずるいじゃん!継子ずるくない!?俺も瑠璃子さんの継子になりたい!!代われ!!」
「断る!!!!」
傍でぎゃーぎゃー騒いで喧嘩する二人に、瑠璃子さんは怒る事は無い。
むしろにこにこ笑って「仲良しねえ。男の子は元気が一番ねえ」とのんびり言うだけだった。とってものんびりしている瑠璃子さんはとっても素敵だと思う。
すると、瑠璃子さんは俺に気づいて手招きをする。
「いらっしゃい炭治郎ちゃん、禰豆子ちゃん。そんな所にいないでこっちにおいで。一緒にお話しましょう」
「はい!」
其のお誘いに俺は乗って、近づいて、瑠璃子さんの隣に座る。正宗は瑠璃子さんの近くで寝始めた。
部屋は全ての襖が閉められていて、ぼんやりとした柔らかな灯りが灯っている。陽を嫌う禰豆子の事を考慮した部屋だと判って、俺は嬉しくなった。
置いた箱の中から禰豆子が出てくると、瑠璃子さんは両手を広げた。
「禰豆子ちゃん、こんにちは。おいでおいで」
「むー!」
瑠璃子さんに呼ばれた禰豆子は嬉しそうに駆け寄り、抱き付く。
優しく抱きとめた瑠璃子さんは其の状態のまま、禰豆子の頭を撫でた。
「この前の列車の時、禰豆子ちゃん頑張ったね。えらいえらい」
「うー!」
「炭治郎ちゃんもえらかったね。鬼の頸を取ったもんね」
「えっ、いや、そんな…!其れを言うなら煉獄さんや瑠璃子さんの方が凄かったです!上弦の参相手にあそこまで戦えるなんて…!」
あの時に遭遇した上弦の参・猗窩座との戦闘で煉獄さんも瑠璃子さんも重傷を負っている。俺は見ているしかなかった。
「んー、柱でも上弦相手は辛いのよ?私は上弦相手は二度目だけど、運良く生き長らえたみたいなものだし。何より上弦相手に命あるだけ凄いのよ?」
「確かに命あるだけ有難いですけど…」
「うふふ、あの時のお話は此処まで。そうだわ、美味しいお茶が手に入ったから飲みましょうか。獪岳」
「はい!何でしょうか姉御前!」
呼ばれた獪岳は笑顔で返事する。如何やら善逸は喧嘩に負けたらしく、ボロボロの状態で獪岳に胸倉を掴まれていた。
「あのお茶はまだあるかしら?あったら持って来て貰えるかしら?」
「はい勿論!用意してきます!」
そう言って、獪岳は善逸をポイッと捨てるとチュインッ!と音を立てて消えた。は、早い!流石雷の呼吸!流石は瑠璃子さんの継子!
因みに捨てられた善逸は「兄貴の馬鹿野郎…」と呟いていた。頑張れ善逸!努力をすれば、何時か勝てるかもしれないぞ!
「炭治郎ちゃん、機能回復訓練を頑張ってるって聞いてるわ。よしよし、お姉さんが褒めてあげる」
瑠璃子さんの手が俺の頭に乗って、其の儘撫でてくれる。
俺はちょっと恥ずかしく思いながらも、嬉しくもあった。彼女の撫で方はとても気持ちいいのだ。
「よしよーし、えらいえらい。何時も頑張ってるわね。稽古も欠かさずしてる、とってもえらーい炭治郎ちゃんには飴ちゃんあげようねえ。御煎餅もあるから後で持って来てあげるわね」
と、瑠璃子さんが傍に置いてあった飴の瓶の蓋を開けると一つ取って、俺の方に差し出す。
「炭治郎ちゃん、はい、あーん」
「え、えっ、瑠璃子さん流石に其れは…!」
「あーん」
「だ、だからですね!」
「あーん」
「………あ、あー」
ころりと口の中に飴が入ってくる。つい根負けしてしまった…くっ、情けないぞ長男!
でも飴はすごく美味しい。瑠璃子さんはいざと言う時の非常食としてよく飴を持っているらしい。糖分は大事だと教えてくれた。
「ずるい!炭治郎だけずるい!!!瑠璃子さん俺も俺も!!」
あ、善逸が復活した。然も瑠璃子さんの腰にしがみ付いた。
『あらあらまぁまぁ』と笑って嫌がらない瑠璃子さんに甘えて、其の腰に頬擦りする善逸ははっきり言おう。
ちょっと気持ち悪いぞ!抱っこされてる禰豆子だってちょっと不機嫌になったぞ!
「こら善逸!女性の腰にしがみ付くんじゃない!失礼だろう!」
「うるせぇデコっぱち炭治郎が!弟弟子だからって瑠璃子さんとイチャイチャイチャイチャ!俺だって瑠璃子さんみたいな姉弟子欲しかったわ!!!獪岳と交換してくれよぉ!!!」
「其れは断る!!むんっ!」
「むんっ!じゃねぇよ!」
「はい、善逸ちゃん。あーん」
「あーん♡」
善逸も飴を食べる。とろんと顔が蕩けた。
「美味しいです~♡」
「良かったわぁ」
「おい!!見つけたぞ地理子!!」
すぱんっ!
襖を開ける大きな音がして、来たのは伊之助だった。
バタバタと走ってやってきた伊之助は瑠璃子さんの前で止まる。あと瑠璃子さんは、ちりこじゃないからな!
「俺と勝負しろ!今日は負けねぇぞ!!」
「伊之助ちゃん、人に会ったら?」
「コンニチハ!!」
「はい、良い子良い子。飴ちゃんをあげるわ」
飴の瓶を手に持ち、振ると伊之助は一気に素直になった。
瑠璃子さんが飴を一つ差し出すと、伊之助は猪の被り物を取って、口を開けた。ぽいっと飴が口に入って、バリバリ噛み砕く伊之助は満足そうだった。
流石は瑠璃子さん!鬼殺隊で「猛獣使い」と言われるだけはある!俺の姉弟子はとってもすごい!
「伊之助ちゃん、お饅頭食べる?」
「食う!」
「食べる時は?」
「イタダキマス!」
さっと出されたお饅頭に食らい付く伊之助。因みに瑠璃子さんは俺や伊之助や善逸をちゃん付けで呼ぶ。何故だか判らないけど。
むしゃむしゃ食べる伊之助。瑠璃子さんは禰豆子の頬を突いて遊んでくれた。頬を突かれてむーむー楽しそうだ。良かったな、禰豆子。
すると、正宗の耳がぴんと立って、入口の方を見た。釣られて俺も見る。
入口の向こうで誰かの気配がした。そして知っている匂いもした。この匂いは…!
「瑠璃子さん、いますか?」
「いるわよー。入っておいでー」
「失礼します」
「お邪魔しまーす」
やっぱりそうだ!
しゅっと開けられた入口の向こうには、思った通り、錆兎と真菰がいた。
「いらっしゃーい、錆兎、真菰ちゃん」
「こんにちは。ん?炭治郎か。何をしてるんだ?」
「炭治郎だ~」
「錆兎!真菰!こんにちは!」
中に入ってきた二人の挨拶をする。二人は俺の右隣に座った。
正座で座った錆兎の手に何かを持っていた。なんだろう?
「何を持っているんだ?」
「あぁ、これか。真菰が団子を買ってきてな。瑠璃子さんと食べると言って聞かなくて」
「だって食べたかったんだもん。義勇は任務でいないから、私が瑠璃子さんを独り占めしたかったのに、錆兎が勝手に付いてきたんだよ?」
拗ねる真菰に錆兎が真っ赤になった。
「なっ!お、俺は瑠璃子さんに用があっただけだ!」
「本当にぃ~?」
「無論だ!と言うか、何故炭治郎は此処に?」
「俺は瑠璃子さんにお呼ばれされて」
「成程な。あっ、瑠璃子さん。此方団子です」
「ありがとうね~」
錆兎がお団子の入った風呂敷を瑠璃子さんに渡す。
受け取った瑠璃子さんは、後ろに向かって声をかけた。
「先生~来てくださいな~」
と、呼べばばさりと何かが大きな物を広げる音が聞こえた。
瑠璃子さんの後ろから音も立てずにやってきたのは―――大きな茶色の梟。
キリッとした目がカッコイイ、この梟は瑠璃子さんの鎹烏もとい鎹梟・『先生』だ。
何でも貫禄があって、る自分より年上な気がするらしく、瑠璃子さんに先生と呼ばれている。俺の鎹烏も先生の事を敬っていた。
「ホー、何カ用カー?」
「先生、この風呂敷を台所にいる獪岳に持って行ってもらえます?後、お茶の追加の伝言もお願い出来ます?」
「任セロ!ホー!」
先生は鋭い足で風呂敷を持つと、大きな羽を広げて飛んで行き、部屋から出て行った。因みに襖は正宗が器用に前足で開けていた。
「相変わらず、先生は頭が良いですね。正宗もそうですけど」
「自慢の子よ~。正宗も先生も」
瑠璃子さんにそう言われて、ふんっと鼻を鳴らす正宗。当然だと言わんばかりの顔だ。
「むむむー!」
「あらあら、禰豆子ちゃん遊びたいの?」
「むー!」
「違うの?じゃあ頭撫でて欲しいの?」
「む!」
「そうなのね、うふふ、甘えん坊さんね~」
「うむ!!俺も撫でてはもらえないか瑠璃子さん!!!」
「ひゃっ!」
「うぉっ!?」
突然の大声に瑠璃子さんと伊之助が驚く。俺も驚いた。耳が良い善逸と正宗は耳を押さえた。
大声の主は先日の任務で左目を負傷し、柱を降りた煉獄さんだった。左目には瑠璃子さんが作った黒い布製の眼帯がつけられていた。と言うか、何時の間に入ってきたんだろう?
煉獄さんの登場にあんなに笑顔だった瑠璃子さんが、なんというか困った表情になった。
「もう、びっくりしたじゃない。大きな声出すと、お体に響いちゃうわよ?」
「申し訳ない!ですが、ご安心を!胡蝶の薬の効果もあり、体の調子が頗る良いのです!」
「そうなの?無理はしないでね?煉獄君に何かあったら、私、千寿郎ちゃんや愼寿郎おじさまに会わせる顔が無いわあ」
「ははは!心配しなくとも大丈夫です!父上も千寿郎も何時になったら、瑠璃子さんが俺に嫁いでくれるのかそわそわしてます!」
「あらぁ、私が柱になったから其の婚約話は飛んでる筈なんだけどねー?」
ほわほわ笑う瑠璃子さんに活発に笑う煉獄さん。
二人の様子に錆兎から怒った匂いがした。あと、真菰は怖くなった。なんだろう、考えてる事は判らないけど、怖い事を考えている気がする…。
でも瑠璃子さんの言う通り、二人は親同士が決めた結婚相手
煉獄さんの生家『煉獄家』と瑠璃子さんの生家『鳴滝家』は互いに歴史ある鬼狩りの一家で、それぞれ「炎の呼吸」と「水の呼吸」の名門。
煉獄家に至っては長年『炎柱』を輩出している凄いお家で、鳴滝家は煉獄家みたいに、長い間『水柱』を輩出している訳では無いけど、長年鬼殺隊に『剣士』として貢献している。歴代水柱の中には何人か鳴滝家の人がいるそうだ。
其れ故に、両家には長年縁があり、瑠璃子さんと煉獄さんも其の縁で出会ったそうだ。
初めて出会った其の日に、結婚を申し込んだのは煉獄さんで、当時の瑠璃子さんは其れを拒否。互いに鬼殺隊に入る前だったそうだ。
然し、何を言っても一向に引かない彼に、困り果てた煉獄さんのお父さん、愼寿郎さんと瑠璃子さんのお母さんはこう決めた。
『もし瑠璃子が二十五歳になるまでに柱になったら、其の約束は無かった事に。其れを過ぎたら結婚』
と言う決まり事を作り、結果は約束の二十五歳になる前に瑠璃子さんが柱となった事で破棄となった。二十一歳だった。
柱になった時「あと数年遅かったら、私は煉獄家の人間になってたわねぇ」と語ったと錆兎が(何故か凄く嬉しそうに)教えてくれた。
でも見るからに煉獄さんは諦めていない。微笑む瑠璃子さんを見て、熱くて、蕩けてしまいそうな程、甘い匂いが彼からしている。
……何だか、胸が苦しくなったのは気のせいだろうか。
「待て待て待て、煉獄ちょっと待て」
すると、錆兎が笑顔で煉獄さんを瑠璃子さんから離す。其の仕草がとっても男らしくて俺はかっこいいと思った。
あと、伊之助はこっちに来た。お饅頭食べ終わったんだな、伊之助。
「む!邪魔をしないでもらえるか鱗滝!」
「邪魔した覚えはないぞ?瑠璃子さんが嫌がっているから、其れを遮っただけだ」
「其れを邪魔をしていていると言うのだぞ!」
「其れよりも、瑠璃子さんとお前の結婚話は、瑠璃子さんの言う通り無かった事になった筈だ。無くなった約束を何時までもずるずる引き摺るのは男らしくないぞ?」
にっこり。錆兎は笑っているけど、其の匂いは焦げ臭い。
何時の間にか隣に座っていた善逸は「ちりちり何か焼ける音がする!」と騒いでいた。確かに焼けているな。
瑠璃子さんは話に入る気は無いのか、禰豆子と手遊びをしていた。相変わらずゆったりとした人だなぁ。
「ああ、勿論父上と瑠璃子さんの御母上が交わした約束は無くなった!」
「だろう?なら」
「しかし!俺の瑠璃子さんへの想いは消えていない!」
ドドンッ!正にこの音が合う程、堂々と告白した煉獄さん。す、凄いかっこいい!!
「きゃー!あの人大声で告白したよ!?しちゃったよ!?きゃーっ!」善逸ちょっと静かにしてくれ!
錆兎は笑顔が崩れて真っ青。真菰?なんで鯉口を切っているんだ?怖いぞ?
「故に邪魔をしないでもらいたい!」
「でもねぇ、煉獄君には、もっと良い女性がいると思うのでごめんなさい」
「よもや!」
あ、錆兎が凄く笑顔になった。
「然し!俺は其の断りを断ろう!俺と同じ名字になってください!」
あ、また真っ青になった。
「あらあらまぁまぁ、煉獄君ったらお話聞いてくれないわぁ」
「ふ、」
「錆兎?」
「ふざけるな!お前に瑠璃子さんは渡さない!」
「錆兎―――――!?」
つ、遂に錆兎が日輪刀を抜いた!抜いてしまった!ど、如何しよう!
「俺が!俺が何年!何年間!瑠璃子さんを!どれだけ男として見てもらえないのか知ってるのか!?十年だぞ!十年近く!!お前より想った期間が長いんだこっちはっ!ただ親同士の口約束で!瑠璃子さんを嫁に貰う等と!ふざけた事を!!お前も俺と同じ苦労と苦みを味わえっ!」
「ハハハハ!其れは嫌だな!だが然しっ!」
あぁっ!煉獄さんまで日輪刀を抜いてしまった!この前、打ち直してもらったやつですよね、それ!?
「俺の炎の如きこの熱い想いは、鱗滝の水の呼吸等では消えん!先程も言った様に、父上も千寿郎も何時、瑠璃子さんが俺に嫁いでくれるのかそわそわしているからな!父上に至っては早く孫を見せろと急かしてくる!千寿郎は瑠璃子さん専用の部屋すら作った!其の期待を俺は裏切る訳にはいかん!」
「知るか!其の期待を抱いて散れ!」
錆兎が襲い掛かる!煉獄さんも襲い掛かる!水が舞う炎が燃え上がる!これは流石に御法度に当たる!
あわわわっ、此処は瑠璃子さんのお屋敷なのに!当の本人は「あらまぁ、元気ねえ」とのんびりしている!瑠璃子さんしっかりしてください!貴女のお部屋が大変な事になってます!
だ、誰か!誰か!この戦いを止めてくれ―――――!!
この後、瑠璃子さんを訪ねてきたしのぶさんが止めてくれた。
「あらあらまぁまぁ、困ったちゃんねぇ」と言う瑠璃子さんを抱きしめたしのぶさんは、笑顔なのにとっても怖かった。錆兎も煉獄さんも反省していた。
其のしのぶさんの様子を見ていた伊之助も善逸も俺も、しのぶさんには逆らわない様にと心に強く誓った。
あ、あとお茶とっても美味しかったです!御煎餅も美味しかったです!御馳走様でした!
・かまぼこ炭治郎
瑠璃子の弟弟子。フラグが微かに立っているが、何方かと言えばまだ家族愛や親愛が物凄く高い状態。でも、いつそれが恋愛に変わるかは判らない。兎に角、瑠璃子お姉さんが大好きな、鱗滝一門の天使その1。
・むーむー禰豆子
瑠璃子が大好き。抱っこも好きだけど、なでなでが一番好き。瑠璃子と遊んでいるうちに、最近折り紙が得意になってきた。めっちゃ綺麗な鶴が折れる鱗滝一門の天使その2。むー!(えっへん)
・汚い高音善逸
甘やかしてくれて、良い匂いがして、おっぱい大きい瑠璃子にメロメロ。でも兄貴が怖い。でも諦めない。死に急ぎ野郎とは彼の事。
瑠璃子が飴をあげる時に、実は指先を舌先で舐めていた。とんでもねぇ善逸だ!
・ほわほわ伊之助
何度も瑠璃子に挑んでいるけど、勝てない、でも諦めない。猪突猛進!猪突猛進!
おやつもご飯もくれる瑠璃子に一番懐いている。なでなでされるとほわほわしちゃう。
最近、イタダキマスとゴチソウサマがきちんと言える様になった。これも瑠璃子お姉さんの教育のおかげ。
・にこにこスマイル瑠璃子
ある意味、最強のメンタルを持つ海柱。最近、かまぼこ隊が来る回数が多くなったので、お屋敷には常にお菓子を常備している。因みに義勇用に大根も常備している。
煉獄さんとは仲良いけど、年下なので、やっぱり弟感覚で見ちゃう。でも大声で叫ばれるとびっくりしちゃう。そんな瑠璃子だった。
・姉御前第一な獪岳
瑠璃子しか見えない。兎に角瑠璃子第一。雑用だって瑠璃子の為なら何でもこなす桃投げボーイ。取り敢えず善逸がうるさいので、最近プロレス技を覚え始めた。
お茶とお団子と先生を連れて、部屋に戻ったら炎柱と水柱が戦っててびっくりした。
・片思い歴十年以上の恋愛童貞錆兎
片思い歴が長すぎて、恋愛的にポンコツな水柱。普通にしていればカッコイイのに、恋愛となるとポンコツになる。声も荒げちゃう。普通にモテるのにね。
最近の敵は炎柱と風柱。特に炎柱は許さない。技を磨く。
・鱗滝一門のアサシン真菰
瑠璃子大好き。同性だからぎゅっぎゅっも普通に出来る。正直錆兎よりリードしている。満月の夜に背中を狙いに行くスタイル。
・嫁包囲網を展開している煉獄さん家
瑠璃子を煉獄家の嫁にしようと、包囲網を敷いている恐ろしい一家。三人で迫ってくるから、ジュラシックガードが展開される。落ち着いてください、マジで。
愼寿郎さんは杏寿郎が駄目なら千寿郎で攻めに行くか、と考えている。ダークホース千寿郎君である。
・番犬正宗&とっても賢い先生
瑠璃子の家のペット。正宗は本当は狼だけど、きちんと番犬している。最近獪岳と気が合う様になってきた。好きなものは獪岳のごはん。嫌いなものは不埒な奴。
先生は鎹烏達の大先輩であり大先生。なので、めっちゃ敬われている。ホホーッ!