コソコソ会話文 【今日の正宗ごはん】
正「(今日の朝食は獪岳が用意してくれる。主(瑠璃子)が用意してくれる飯も美味いが、最近獪岳の料理の実力が上がってきた為、旨味が増している。非常に楽しみだ)」
獪「正宗。飯だぞ」
正「わんっ」
獪「今日は味を薄めにしてみた。でも鶏肉を使ってみたから、味は其処まで薄くない筈だ」
正「(なんと!貴重な鶏肉を!獪岳め、やるおる)くんくん(ふーむ、確かに全体的に匂いは薄いが、鶏肉のさっぱりとした匂いが良いな。どれどれ)ばくばく」
獪「どうだ?」
正「!わおんっ!(う、美味い!美味いぞ!山では味わえなかったこの優しい味!あぁ~胃に染みる!最近隙あらば主に手を出そうとするあのレンゴクとやらを追い出す為に疲れていたが…これは美味い!この味は疲れた時に良いな!)」尻尾ぶんぶん
獪「そうか。美味いか。なら姉御前に出す時はもう少し味濃い目…いや、いっその事醤油味にしてみるか。正宗、其れ全部食べて良いぞ」
正「くぁんっ!(無論だ!)」
将来、アニマル系の仕事に就けるね、獪岳!
―――しぱんっ!
瑠璃子の得物が鬼の頸を跳ねる。頭部と離れた胴体を足場にして半回転。体勢を整えると、蹴って、背後にいた鬼の頸を薙ぎ払う。これで五体目。
神経を研ぎ澄ませて、周囲の気配を探る。
鬼の気配が無い事を察知した瑠璃子はふぅと一息吐いた。彼女の周りには頸を落とされた鬼が五体。全て、瑠璃子単身による討伐だった。
ブンと得物―――髪と同じ、瑠璃色の刀身を持つ大太刀に付いた血を振り落とす。
頸を落とされ、さらさらと塵になって行く鬼達に向かって、瑠璃子は言った。
「さよなら、来世では良い人生を」
其の言葉に辛うじて生きていた一体の鬼の指がぴくりと動いた後、残った力で「…ありがとぅ」と呟いて塵となり、消えた。
消えていった鬼達を、瑠璃子は痛ましい物を見た様な表情で、憐みの目で風に流されていく塵を見届けた。
「殺した私が言うのは変かもしれないけど、良き旅路を、名も知らぬ方。……こんなんだから実弥ちゃんや小芭内ちゃんに怒られるのだけど」
困った様に笑う瑠璃子は踵を返す。
―――鳴滝瑠璃子は、一部の鬼以外に対して其処までの復讐心も嫌悪感も無い。
無論、悪鬼滅殺を掲げる以上、人に危害を加える悪鬼は滅ぼすべきだと言う事は判っているのだが、如何しても憐れでしょうがなく思えてしまうのだ。
これは元は戦とは縁のない、平和な世で生きていた弊害だろうか、と彼女は考えていた。
きっと鬼殺隊の柱としては異常だ。同じ柱の数名にも「憐れんでもしょうがないだろう」と言われて、時折怒られる事はある。其れでも瑠璃子は心の何処かで願う。
――― 何時か、幸せな人生を送れますように、と。
「
そう聞こえて、瑠璃子は我に返る。
後ろを振り向くと、一人の隊士が此方へと向かってくる。見知った其の姿に瑠璃子は微笑んだ。
「
獪岳と呼ばれた青年は彼女の元まで来ると、刀を鞘に納めて、その場で片膝をついた。
「報告します。隠の確認で、此処一帯の鬼の姿が見えなくなりました。殲滅したと思われます。鎹烏の伝言により本日の任務は終了、報告も済んでおります」
「有難う獪岳。仕事が速くて助かるわ」
「はっ、有難き御言葉」
畏まる獪岳に瑠璃子は「もう」と拗ねた。
「任務終わったんだから畏まらなくて良いのよぉ。さぁ、帰りましょう」
「はいっ、姉御前」
立ち上がった獪岳を瑠璃子は「あ、ちょっと待って」と引き留める。懐から手拭を取りだすと、彼の顔に其れを当てた。
「ほぉら、汚れているじゃない。折角の男前が台無しよ?私の継子なんだからちゃんとしないとねぇ」
「あ、姉御前!」
赤面する獪岳に瑠璃子は「ほらほら動かなーい」と手の焼ける弟を世話する姉の様だ。失礼、元保育士でした。
彼、
因みに、此の時期の雪音は、義娘となった瑠璃子に自分の知り合いと会わせる事が多かった。理由としては『うちの娘、強くて可愛いから見ろや』が大半、別の理由もあったが、其処は割愛。
さて、此処で獪岳について説明しよう。彼はぶっちゃけ性格が歪んでいた。と言うか滅茶苦茶、承認欲求が強かった。
孤児で、桑島に弟子入りする前はとある寺に自分と同じ様な境遇の子供と住んでいたが、訳あって追い出されてしまった。泥水を啜りながら生き、死に掛けていた所、桑島に拾われ弟子入りと言う経緯である。
無論、親からきちんとした愛情を貰えず、人間の汚い所ばかり見ていた為か、性格は捻くれに捻くれ、歪みに歪んだ。
ただ、芸術の域に達している雷の呼吸を使う桑島の事は尊敬しており、いずれは彼の様な柱になるのだと思っていたが、獪岳には出来ない事があった。
―――雷の呼吸を使う上で、技の全ての基本である『壱の型』が出来ないのだ。
理由は不明。『他の型は出来る』のに、雷の呼吸の適性があるのに、何故か『壱の型だけ出来ない』。
其れは獪岳の心に影を落とした。
更に、後に入ってきた汚い高音で泣き叫ぶ弟弟子は『他の型は出来ない』のに『獪岳が出来ない壱の型』が使えた。
何て事だ、と獪岳は茫然としたが、桑島は其のデコボコ兄弟弟子を見て、互いを支え合う様にと言った。
もちろん桑島は弟子二人を思って言った言葉であったが、其れを素直に受け取れないのが捻くれボーイ・獪岳である。子供の癖に非常に性格が悪いのが彼である。面倒な性格をしているのが獪岳と言う少年であった。
結果、弟弟子とは仲が悪くなり、桑島とも仲が気まずくなってしまった。
其処に現れたのが鳴滝親子であった。
此の時、瑠璃子は鬼殺隊への試験を控えていたが、義母に無理矢理連れて来られた。『あ、数日泊まるからね』と荷物まで持たされた。
個人的にはもっと鍛錬を積んでおきたかった瑠璃子だが、お泊りと聞いて内心『お泊りなんて何時ぶりかしらー?お泊り保育以来?』とワクワクしていた。
そして、義母の案内で桑島の元にやってきた瑠璃子は獪岳と出会うなり、言った。
『貴方、姿勢が良いのねぇ。背筋がピンとしていて、とても男前に見えるわぁ』
ひゅん、とすっ。
何かが獪岳の胸を撃ち抜いた。其の正体は恋柱風に言えば『キュン』である。
途端に獪岳の目には彼女が美しく、綺羅綺羅と輝いて見えた。気のせいか後光も見え始めた。
『あっ、手も凄い
とすっ。
『え?壱の型が使えない?でも他の型は出来るの?なら十分じゃない。壱の型が全てでは無いと思うわよ、私』
とすとすっ。
『弟弟子に先生が掛かり切りでいやだ?きっと貴方は直ぐに技を覚えてしまったのね。其れで桑島さんも教える事が無くなっちゃったんだと思うわぁ。桑島さんも戸惑っているんじゃないかしら?一度面と向かって話し合ってみない?私も付き添ってあげる。大丈夫、何かあったら私も言ってあげるから。ね?』
とすとすとすっ。
『ほら、顔に土がついてる。拭いてあげるから動かないの。はい、良い子良い子』
ばきゅんっ!!!
以来、獪岳の胸はときめきっぱなしだった。
優しい言葉。慈愛に満ちた目。穏やかな微笑み。全て獪岳にとって新鮮で、嬉しかった。
元保育士であった瑠璃子の性格が、複数の子供を預かる仕事だった為に細かい事に気づける特技を身に着けていた事が幸いしたのか、人に優しくしてもらった経験が少ない獪岳には効果抜群であった。
助言通り、桑島と話してみると大体瑠璃子の言う通りだった。
獪岳が技を早々に取得してしまい、桑島は教える事が無くなってしまった。
其の後に入ってきたのが手の掛かる弟弟子で、桑島の目は其方に行ってしまった。
ただ、獪岳の事を決して見ていなかった訳では無く、彼が努力している事、夜中でも素振りを何度もしている事も知っていた。だから邪魔しない様に黙って見ていた、と。
師匠の言葉に獪岳は静かに涙を流し、己を恥じた。ごめんなさいごめんなさいと蹲って謝る彼を師は優しく抱きしめて、すまなかったと彼も謝罪した。
こうして師弟のわかだまりは解けたのだった。
なお、大変耳が良い弟弟子は数日間、女の子と触れ合っていた兄弟子に対し『何で獪岳!?あの獪岳だよ!?捻くれた音出して人に桃ぶつけてくるし!顔か!?やっぱり顔!?きぃいいいいいいっ!!!俺もお世話されたい!!瑠璃子さん俺もべぶらっ!?』と汚い高音を出してぐーで殴られた。自業自得。
滞在中、獪岳は瑠璃子の話を少し聞いた。
『私、柱にならないといけないの。鳴滝家の為にも。如何しても』
鳴滝家の為。実家の為と言う割には妙に鬼気迫る表情の瑠璃子に、事情を詳しく知らない獪岳は、追及しなかった。ただ、『此の人は一人で背負うのか』と考えたら、彼女の将来に少しだけ不安を感じた。
其の小さな不安を抱えたまま、鳴滝親子が帰る日になった。
『それじゃ桑島さん。お元気で』
『お主もな。瑠璃子ちゃんも元気でのう』
『大変お世話になりました。うちの母がご迷惑をお掛けして申し訳ありません』
『いや、慣れてるからもう良い』
『ひどーい』
からから笑う雪音を後目に、瑠璃子は獪岳にも話しかける。
『それじゃあ獪岳君。元気でね』
『貴女も鬼殺隊の試験の合格頑張ってください』
『もちろん。お姉さん頑張っちゃう』
ほわほわとした笑顔を見せる瑠璃子に、獪岳は緊張した面持ちで言った。
『もし、貴女が柱になったら俺を継子にしてください』
『良いよぉ』
あっさり。実にあっさりと瑠璃子は返事を返した。此れには先に言った獪岳が虚を突かれてしまった。
『い、良いんですか?』
『継子は同じ呼吸の子じゃないとダメって言うのは無いわよね?母さん』
『ないね』
『じゃあ良いよぉ。私の継子になっても。私が選ぶより自分から積極的な継子の方が嬉しいから』
瑠璃子は手を伸ばし、幾分か背の高い獪岳の頭をぽんぽんと撫で、人差し指でちょんっと鼻先を突いた。
そして、悪戯っぽく微笑んで、一言。
『―――――先に待ってるわね』
こうして、鳴滝親子は帰って行った。
『…ねぇ、じいちゃん』
『なんじゃ』
『獪岳から凄く柔らかい音がする…』
『じゃろうな。儂でも判る』
『ちょっと気持ち悪いかも…』
『こらっ、何て事言うんじゃ!むっ…獪岳?なんじゃどうした?先程から動かんが?』
『……あっ!じいちゃん!獪岳気絶してる!!!息してない!!!』
『な、なんじゃと!?まさか先程のでやられたか!?ええい奴の娘とは思えん程優しい娘っ子じゃったが、やっぱり雪音の娘じゃわい!!とんでもない問題持ちじゃった!獪岳、呼吸じゃ!呼吸をするのじゃ!!』
『イヤアアアアアアアアア!!兄貴しっかりしてぇえええええええ!!!』
――― 時は経ち、現在。
鬼殺隊へと無事入隊し、継子となった獪岳は今日も瑠璃子の屋敷『海屋敷』の台所に立っていた。瑠璃子から貰った割烹着を身に着けて、真剣な眼差しで鍋の様子を見ている。
ぐつぐつと音を立てて、温めている味噌汁の具はカブだ。今日の朝食として出されるもので、其れが瑠璃子の口に入る為、めちゃくちゃ真剣に味噌汁を作っていた。鬼を斬る時よりも真剣だった。
お玉で少し掬って、持っていた小皿に入れると口にした。こくりと飲みこんで、頷く。
「ん、これなら良い。悲鳴嶼さんから貰ったカブ、美味いな。味噌汁にして良かった」
幼少の頃に世話になった人から貰ったカブは中々甘味があり、味噌汁の具としては最適だった。
今度は漬けてみるかと思いつつ、朝食の準備をする。
継子になってから、獪岳は進んで瑠璃子の身の周りの世話を始めた。
柱は多忙だ。時間が無い。其れは瑠璃子も同じで、彼女は多忙故に自ら食事を取る機会が少なくなっていた。彼女は自分より他人を優先してしまう癖がある。
其れを危惧した獪岳がせめてもと思い、料理から始め、次第に家事全般を任される事になった。
因みにいらないスキルも色々ゲットした。例えば暗殺術とか相手の縛り方とか。
なにより、自分の作ったものを『美味しい』と言ってくれる瑠璃子の笑った顔が見たくて、獪岳は今日も作る。
「よし」
朝ご飯の準備が出来て、其れを持って部屋へと向かう。其処には獪岳の大好きな人が笑顔で待っていて、おはようと挨拶してくれる。
――― 兄貴は幸せを入れる箱の底に穴が空いている。
嘗て、弟弟子はそんな事をぽつりと口にした。あの時は意味が判らなかったが、今なら判る。
だって――――
「おはようございます!姉御前!今日はカブの味噌汁をご用意しました!」
今、其の箱は幸せでいっぱいなのだから。
・瑠璃子
継子げっちゅ!な元保育士、現海柱。褒める事が出来る瑠璃子先生なのです。日輪刀の色は髪の毛と同じ瑠璃色。形状は大太刀(90cm)。
因みに雪音マンマの事は本当のお母さんと呼び方が違って「母さん」だよ。だって私の「お母さん」はあの人だけだからね。
・桑島獪岳
この度瑠璃子に射抜かれた雷の呼吸一門の兄弟子。実は彼の過去はちょっと違う。
姉御前は強い!姉御前は美しい!きっと!明日も明後日も!ずっと美しいぞ!!姉御前は永久に美しい!愈史郎君ときっと仲良くなれるよユー。
壱の型?知るか、姉御前の美しさの方が大事だ。
・桑島おじいちゃん
いい人。兎に角弟子が好き。でも最近の子は成長が早くて儂、困っちゃう。あと弟弟子は逃げるではないぞ!
最近、獪岳から手紙が来る様になったので、るんるんなおじいちゃんなのであった。
・弟弟子
敢えて名前は出さないスタイルだが、汚い高音は健在。この時はまだ黒髪だったけど、親子が帰った次の日に雷に打たれた。なんでや。
兄弟子が可愛い世話焼き女の子に構われていて、めっちゃ嫉妬した。キィイイッ!アタイだって!可愛がられたい!!
・鳴滝雪音
瑠璃子の義理マンマ。元柱で、子供がそのまま大人になった様な女性。無礼講が生きてる状態。義娘にもじいちゃんにも言葉は容赦しないよ。あと、娘と比べるとやっぱりつるぺった……おっと、誰か来たようだ。
・カブの味噌汁
獪岳お手製の味噌汁。とっても美味しい。カブは悲鳴嶼さんがくれた。とっても甘くて食べやすい。葉っぱごと入れてるので、食感もある。健康的。