バンカーに戻った10Dは司令官から色々聞かれ、全てを正直に話した。
一通り報告を終えると司令官は「この問題は別の者に片付けさせるから廃墟都市の東側には一時立ち入るな」と10Dに告げた。
注意されたことと云えば、戦闘不能の仲間をわざわざ地上で修理しようと試みた判断力の低さについてだけだった。よく無事に帰って来たと労われ事情聴取は終わった。
意外な程あっさりとした対応を受け、10Dは少し腑に落ちないなと首を傾げながらその場を後にする。
そのままリフトを上ってオペレーターのブースへ入った。
「10D」
接近に気付いた14Oが席を離れて10Dに駆け寄った。
『やぁ、14O。さっきぶり。』
「10D、27Sにメンテナンスを頼んでおきました。軽度とはいえ油断はいけません。後でちゃんと部屋に行ってください」
『うん、わかった。心配してくれてありがとう。』
少し話をした後、司令室を出た。
14Oは以前より私に気に掛けていることを言葉にして伝えようとしてくれている気がする。
『最近の14Oは少し優しくて、なんだか人が変わっちゃったみたいで変な感じ。』
親密度が上がったようで嬉しい、というのに近い感情はあるけれど、印象の変化に対する多少の戸惑いがあった。
昔から素っ気ない言動が多かったことで、自分は14Oに大事に想われていないものだと10Dは決めつけていたからだ。
「報告:他者の内面が計り知れないというのは今更な疑問である。本心を隠したり、考え方が変化したりするのは不思議なことではない」
『まぁね、今地上で生きてる12Sもすっかり変わっちゃったみたいだし。』
「規則に反する程の変化は推奨されない」
雑談を交わしながら廊下を歩いていく。
自室に着くと、既に部屋の前で27Sが待機していた。
『お待たせ。メンテナンスお願いね。』
「ええ。任せてください」
3機が部屋に入ると、10Dはベッドに寝そべり27Sに体を委ねた。
「噂で聞きましたよ、なんだかイレギュラーな事があったんですってね」
『噂が早い。』
「情報収集はS型の十八番ですから。……それにしても、ブラックボックスの信号が無いにも関わらず活動が止まらないなんて、僕は初めて聞きましたよ」
メンテナンスを進めながら27Sが興味深げに言う。
「まぁ、実際はブラックボックスは停止しておらず信号を送る機能のみが壊れていた、ということでしょう。ピンポイントでそんな事が出来るかどうかは知りませんけど、他にあるとしたら……」
脱走兵を増やさない為にもこの事例は表沙汰にしない方が良い、と途中で呟きながらも27Sは現実味のある可能性を次々と思い付く限り挙げていく。
さすがはメンテナンス担当なだけあって、機体の仕組みについて詳しい。
一方10Dは己の構造を全く理解しておらず、27Sの考察をぼんやりと聞き流していた。
ブラックボックスが破壊されたり、義体の中心部が大破したら死ぬ。戦う上で知っておけばいいのはこの程度だ。義体をどう弄くればどうなる、なんて話は他人事と同じように思えていた。
「……よし、完了です。僕はサーバー室に戻るので、何か不具合があったら言いに来て下さい」
『ありがとう、今のところ良さげだよ。』
手をグーパーしながら10Dが答える。
部屋を出ていく27Sをベッドに座ったまま見送ると、入れ替わりで14Oが入ってきた。
自然な動きで10Dの横に腰掛ける。
「10D、次の任務について司令官から通達がありました。暫くの間はまた物資の収集をメインに活動を続けてほしいとの事です」
『わかった。もう地上降りた方がいい?。』
降格されたような気分になって、14Oに対して少し申し訳無く思った。
与えられた任務は殆ど達成させてきたが、最近は立て続けに余計なことをしていたから「大人しくしろ」ということなのかもしれない。
『やっぱり資源回収とかが分相応なのかなぁ……。』
「気を落とさないでください。収集活動だって重要な仕事ですよ。それに比較的危険の少ない任務ですから、私は安心してあなたをサポート出来ます」
慰める14Oの肩に項垂れた様子の10Dが凭れかかる。
『そりゃあ、なるべく危ない目には遭いたくないよ。でも頼りにされなくなるのも、ちょっとね。』
「頼られなくなった訳ではありませんよ。緊急時は討伐の要請を出す可能性もあるそうですし」
『本当かなぁ……。』
凭れ掛かった体勢から更に傾き、肩から滑り落ちるように10Dは横たわった。
「ほら、起きてください。仕事が待ってますよ」
10Dの頭を撫でて宥める14Oが地上に降りるよう促す。
『まぁ、頑張るよ。少し前に戻るだけだし……。』
ベッドから這い出るように起き上がり、10Dはポッド107と共に部屋を出る。
「格納庫まで送りましょうか?」
『うーん……大丈夫。14Oも忙しいでしょ。』
部屋の前で14Oと別れ、10Dは地上へ向かった。
任務内容が物資の収集に戻ってから1週間が経った。
あれ以来10Dはバンカーに戻っていない。
元に戻った日々をそれなりに過ごしながら任務をこなしていた。
その日も滞りなく仕事が済み、リーダーの部屋に物資を預けて14Oに任務達成の報告をメールで送る。
メールボックスから離れてヨルハ部屋に入ろうとしたとき、落ち込んだ様子で戻ってきたレジスタンスを見かけた。
ピジュンだ、と10Dが一瞥しながら部屋のドアを開ける。
確か月1程の頻度でピジュンはデボルとポポルに会いに行っていたはず。日頃の機械生命体の動きや周辺環境の変化などの情報交換を主な目的として交流しているのを知っている。
司令官からの命令で10Dはデボルとポポルの住み処のある東側に入れないため、双子のその後の様子をピジュンから聞き出そうと考えた。
『ピジュン、やけに元気がないね。何かあった?。』
近付いて話し掛ける。声に反応し力無く振り返ったピジュンは、10Dを見て少し驚いたように後退りをした。
「あ……あぁ、あんたか。すまない、少し気分が悪くて」
無意識に厭がってしまった態度を言い訳するようにピジュンが眉間の辺りを押さえる。
『ねぇ、私デボルとポポルのこと聞きたくて……今日会ってきたの?。』
10Dが聞くと、ピジュンは目を伏せて首を振った。
「……死んでた」
『え……。』
「デボルとポポルと、あとヨルハっぽい背の低い男のアンドロイドが家のすぐ傍で倒れてた。男の方はバラバラに壊されてて、デボルとポポルは……首と腹部に深い傷を負わされてて………機械生命体とは明らかに違う襲われ方だった」
ピジュンの話を聞いて犯人に心当たりのある10Dは、旧12Sのついでに双子も殺されてしまったかと小さく唇を噛んだ。全く懸念していなかった訳ではないが、実際に起こった今、少し後悔が滲む。
「なぁ……やったのはヨルハだろ? デボルとポポルはそっちの問題に巻き込まれただけなのに、何で殺されなきゃいけなかったんだ?」
『それは………。』
いきなり両肩を掴まれて詰問を受ける。咎めるような眼には余裕が無く、悲しみと怒りの混ざり合う相手の形相に10Dは言葉を詰まらせた。
「推測:デボルとポポルは指名手配対象の隊員を匿っており、2機は執行役が隊員を処罰する際に激しく抵抗した可能性がある。その場合であればやむを得ず加害に及んだと考えるのが自然」
ポッド107が理由を淡々と告げる。
それを聞いたピジュンは力が抜けたように10Dの肩から手を下ろした。
「…………そうか」
『えっと………。』
虚ろな目になったピジュンを心配し、10Dは言葉を掛けようとする。が、どう慰めていいのか分からずまた中途半端な沈黙が生まれる。
「……結局あんたらヨルハってのは規則だけで動いてる、血も涙もない連中なんだな」
失望した、とでも言いたげな眼で10Dを睨むとピジュンは足早にその場を去っていった。向かったのはリーダーのアイビスの部屋がある方向だ。
おそらくデボルとポポルの死を報告しに行くのだろう。
「……否定:血も涙もないのは全てのアンドロイドに共通することであるから、機械同士で使うべきではない。推奨:別の表現を用いる」
『涙なら辛うじて出るよ……何故かは知らないけど。』
いつもなら間髪入れずに訂正をするポッド107が珍しく本人が居なくなってから発言した。
空気を読んだのかは定かではないが、10Dはそっとポッド107を撫でておいた。
理不尽に憤りをぶつけられたような気もするが、ピジュンも多分どこに感情をぶつければいいのか分からないだけだ。10Dと処刑役のヨルハは全く別の個体だけれど、同じヨルハを名乗るなら責めてよしとなってしまうのだろう。
『…………。』
どことなくデボルとポポルの立場に似ているな、と10Dは小さく溜め息を吐いた。
一部の地域を管轄していた双子のアンドロイドの暴走により、全世界のデボルとポポルが災禍のような扱いを受けているらしい。
直接的な関係はないもののリスクと責任を負わされ冷遇される状況が、いずれヨルハにも起こるのかもしれない。
そう思うと、やるせない気持ちになった。
少女の姿形をしたアンドロイドと、その随行支援ユニットが廃墟都市の大通りを歩いている。
依頼された収集物を預けるため、レジスタンスキャンプに向かっている最中だった。
〈オペレーター14Oより10Dへ。新たな任務が追加されました〉
14Oから通信が入る。
『はーい。あ、頼まれてた資材集まったよ。今から預けに行くところ。』
〈では預けてからでも結構です。完了したら折り返してください〉
一旦通信を切り、またレジスタンスキャンプに向かう。
『新しい任務だってさ、ポッド。』
「推奨:走る」
『そうだね。たぶん次の任務は収集じゃないよ。』
意気揚々と駆け、あっという間に収集の任務を終わらせた。
〈こちら14O〉
『14O、任務終わったよ。』
〈早くて助かります。次の任務は多少緊急性のあるもののようなので、すぐにでも現場に向かってください。目的地に印を入れておきます〉
直後、10Dのマップにマークが付いた。
目的地は廃墟都市の北側の方だ。近くに崖がある。
矢印を出してもらい、道を走っていく。
〈………10D、すぐに向かえと言いましたが、考え直したので撤回させてください。この任務は少し危険です。他の隊員が来るまで待った方がいいと思います〉
『えっ、でも緊急なんでしょ?。私だって戦えるんだからすぐにでも行かないと。』
足を止めずに目的地へ進む。あと500メートル程で着くという表示がゴーグルに映された。
〈任務の内容は、大量発生した怪獣型機械生命体を殲滅することです。現在目的地の近くには10Dしか居ません。あなただけでは心許ないので至急、周囲の隊員に応援要請をします。ですからもう少し待機していてください〉
『怪獣型なら毎日倒してるよ。心配なのは分かるけど、私は自分の出来ることで少しでも部隊に貢献したい。大丈夫だから、私に任せて。』
〈待ってください、10D。お願いです、待ちなさい……!〉
『ごめんね。14O。』
勝手に通信を切った10Dはそのまま走って目的地に向かう。
久し振りの資材収集以外の任務に舞い上がっている様子の10Dをポッド107も止めようとしたが、結局10Dは聞かずじまいだった。
目的地周辺まで来ると、武器を手に取り様子を窺う。
『……確かにいっぱい居るね。』
「推奨:応援部隊の到着まで隠れて待機」
『却下。少しずつ倒せばいける。』
怪獣型は1区間に1体見るくらい普通に出てくる機械生命体だ。
だけど今回は見える範囲だけでも10体は居る。
『まぁ……いつもに比べればすごく多いけどさ、慌てずに戦えば私だけでも大丈夫だよ。』
重厚な足音が絶え間なく聴こえる。
囲まれるといけないから、なるべく少しずつ群れから離して倒すのがいいだろう。
その際に複数の機械生命体がこちらに気付いてしまったら、戦うどころではなくなる。
気を付けなければ。
『…………。』
気配を消して物陰から様子を窺う。
一番近い怪獣型がこちらに向かって歩いてくるのが見えたが、どうやら10Dの存在には気付いていないようだった。他の怪獣型はどれも別の方を向いている。
チャンスだ、と10Dはポッド107に指示しライトを点滅させた。
暗闇で不規則に光る明かりを見つけた怪獣型が思惑通りに10Dの潜む物陰にゆっくり近寄ってくる。
『……よしよし、いい感じ。』
足音が目前まで迫るタイミングで10Dはライトを消させ、別の建物の陰に移った。
怪獣型は正体不明の光を見失い、辺りを見回して探している。
また物陰からライトを出し、誘き寄せる。
ここまで来たらもう大丈夫だろう。順調に群れから距離を置いたところで10Dは小剣を握り締めた。
『ポッド、行って。』
その言葉に従ってポッド107が物陰から飛び出した。
強めにライトを灯し、怪獣型の注意を反らす。
挑発するように飛ぶポッド107を追い掛けようと怪獣型が10Dに背を向けた。好機を逃すまいと10Dは死角から急所を狙って小剣を振るう。
直後、攻撃を食らった怪獣型が10Dの存在に気付いて奇声を上げた。金切り声のような汚い咆哮だ。
紫色の光が怪獣型の機体から薄く洩れる。
それを見て10Dはポッド107に灯りを消してこちらに戻るよう指示をした。すぐさま飛んで来たポッド107を連れて怪獣型から距離を取る。
『来るよ。』
10Dがポッド107に合図し、慣れた様子で怪獣型の後ろ側へ回り込むように走った。
途端、10Dの背後を紫色の光線が突き抜けていく。
同じ場所に立ったままで居たら確実に当たっていた。光線を気にもせず10Dは走り続け、怪獣型との距離を見計らって高く跳んだ。
怪獣型は、背中で溜めたエネルギーを口から放射した後の戦闘体勢に戻るまでのインターバルが少し長い。
その数秒間を利用して、10Dは無防備な怪獣型の機体目掛けて武器を突き立てた。
重力を伴った一撃が怪獣型機械生命体の心臓部を貫く。事切れた敵が爆発する前に10Dは小剣を引き抜き、怪獣型の背中から飛び退いた。
『まずは1匹。どんどんやっつけよう。』
破片が散らばる音を歯牙にもかけず、群れの方へ威勢良く向かう。
〈こちら14O。……10D、大丈夫ですか?〉
また誘き寄せようとポッド107の明かりを付けた直後、14Oからの通信が入った。
『大丈夫。今のところ順調だよ。』
〈応援要請に3名の隊員が応えてくれました。あと30分もしない内に全員揃うはずですから、物陰に隠れて待機していてください〉
光に気付いた1体を先程と同様に誘導しながら答える。
『まだやれるよ。なにも敵を一斉に相手する訳じゃないんだからさ、特に問題ないよ。いつもとちょっと違うだけ。』
心配する14Oを宥めるように10Dが余裕たっぷりに微笑んでみせた。
〈はぁ……くれぐれも無茶だけはいけませんよ。危なくなったらすぐに逃げなさい〉
そう言い残し、14Oが通信を切った。
今回は強く止めることもなく手短だ。10Dが敵と対峙している真っ最中だということは多分バレているだろう。
『心配いらないよ……っ!。』
怪獣型の飛び蹴りを避けながら10Dがポッド107にレーザーを撃たせる。バランスを失い横転した怪獣型の両脚を大剣で圧し壊す。
立ち上げれなくなった怪獣型が無い脚をバタつかせ、むやみやたらに光線を放った。横一閃に通る光線を間一髪飛び跳ねて避ける。
『危な……っ。』
ポッド107に一瞬だけ掴まり、エネルギーを吐き終えた怪獣型に目掛けて小剣を振り下ろした。
金属を擦り合わせたような鳴き声を上げ、そのまま爆破して飛び散る。
そうしてまた次の怪獣型を誘き寄せては倒すのを繰り返し、最初に確認した数の半分は減らすことが出来た。
「報告:順調ではあるものの、注意散漫になり始めている。推奨:待機もしくは退避」
『もうすぐ加勢来るんでしょ?。だったらあと少し頑張って良いところ見せよう。』
「不同意」
ポッド107のつれない返事を聞きながらも尚10Dは同じような作業を続け、遂には最後の1体を残すのみとなった。
『アイツで最後かぁ。みんなが来ないうちに任務終わっちゃいそうだね。』
ポッドも14Oも心配しすぎだよ、と10Dが揚々たる態度で笑う。
『一気に突っ込むよ!。』
今回は物陰に隠れることなく、広場を1体で彷徨く怪獣型に向かってまっすぐ走って向かう。
『ポッド、レーザー。』
まだこちらに気付いていない怪獣型にレーザーを放った。
衝撃で重心がズレ、怪獣型が少しよろけて傾く。その瞬間押し倒すように10Dが飛び掛かり、小剣を怪獣型の機体に刺して切り払った。
1発で仕留めたと10Dは確信し、流れのままに敵の亡骸を蹴って更に奥へ跳ぶ。
回転して着地を決めたと同時に背後で爆破音が響いた。偶然にも十字路の真ん中でそんな事になったため、10Dは自然と得意げな表情になっていた。
やってやった、と満足げに10Dが振り返る。
「警告:敵機械生命体の増加」
後ろから追いかけてきていたポッド107がそんな事を言う。ガトリングの照準は定まっていなかった。
10Dの両側の通路から紫色の光が溢れる。
次の瞬間、10Dを貫こうとばかりに鋭い光線が射出された。
『…………っ!!。』
後ろ返りで避け、すぐさま通路を窺う。
左右の通路から合わせて5体の怪獣型機械生命体が現れた。
『しまった……!。』
言葉と共に10Dがポッド107を連れて走り出す。元来た道は塞がれてしまった。
「報告:そっちは崖」
『わかってる。でも他に道がないの。』
走りながら後ろを窺う。5体とも10Dに向かって迫ってきている。
射たれる光線や火炎放射を寸でのところで避けて先へ進んだ。
『あぁ、もう崖が見える……。』
焦った様子で立ち止まり、10Dは仕方無しに怪獣型の方に向き直る。
『ポッド。戦ってる内に元来た向こう側に行き着けるだろうって算段はどうかな。』
「報告:低確率かつ無謀」
『はは……同感。でもやらないよりマシでしょ?。』
「同意」
『あーあ、待機しとけば良かった。』
乾いた笑い声の後に溜め息がこぼれた。
10Dは小剣を構え、迎撃体勢に入る。ポッド107もまたクールダウンを済ませてレーザーの準備を整えた。
眼前で紫の光がほとしばる。
『……こういう時に限って、応援って来ないよね。』
放たれた光線を避け、10Dは敵の懐に潜り込んだ。内部のコアを貫き、振り返る動作のままに腕を大きく振るう。スウィングの動きで近くに居たもう1体にも斬撃を浴びせた。
火炎と光線が高頻度で放たれ、それを避ける10Dを追撃しようと尻尾や飛び蹴りが襲う。
激しい攻防を繰り返していた10Dは疲れ果てた様子で一度距離を取った。ポッド107も忙しなく稼働しているため、クールダウンに時間が掛かっている。
『はぁ……キリがない。』
さっきから守ってばかりで、敵にダメージを与える機会が回ってこない。
来た道側へ行きそのまま逃げる作戦も思い通りにいっていない上、怪獣型に少しずつ押され崖の際に一層近付いていた。
距離を取ったものの、怪獣型はすぐに追い掛けてきて次々に攻撃を浴びせていく。
1体だけなら何の問題もないのに、と10Dは悔しそうに顔を歪めた。
勝算は駆け付けてくれる応援の仲間でしか望めない状況だ。一緒に戦えば、あっと言う間に片付けられるだろう。けれど未だに来る気配はない。
避けることに精一杯になっている10Dは自爆して切り抜けようかとも迷うが、それでトドメを刺せるかどうかは甚だ疑問であり非常に不確実な方法なため即決には至れなかった。
今は戦えるだけ戦おう。手足がもげたら自爆しよう。
絶え間なく続く猛攻を紙一重に躱す。大きな外傷はないものの、少しずつダメージが蓄積していった。
人工皮膚が所々裂け、スカートの端が焦げて崩れていく。
大丈夫。四肢が動く限りは大丈夫だ。武器が握れるのならまだ救いはある。どうにか生き延びて拠点に戻らなくては。
私はまだ壊れるわけにはいかない。
いつか14Oと交わした約束を思い返しながら、10Dは小剣を握り直した。
まさかこんなに時間が掛かったなんて。
散々走ってようやく駆け付けた隊員がボロボロになった仲間の姿を目の当たりにする。嘆息しながら、こちらに気付いていない怪獣型機械生命体の背を四〇式拳鍔で叩き潰した。
怪獣型が悲鳴を上げて絶命していく最中、応援要請をしていた仲間が驚いた様子で隊員を見た。
『5B!!。』
次の怪獣型を攻撃しながら呼び声に応える。
「元気そうで何よりよ、10D」
2体目を倒して次を殴りにいく。足蹴を真っ正面から拳で受け止める。重いけれど、圧し勝てばいいだけだ。
壊れた3体目に踵を返して5Bは10Dに近寄る。
残りはたったの1体。10Dだけで倒せるはずだが、義体の損傷や疲弊もあってか手こずっているようだった。
「大丈夫なの?」
『5B!。大丈夫じゃないっ……来てくれないかと思った!。』
寸でのところで攻撃をかわしながら返事をする10Dは少し怒っているように見えた。けれどその口は安堵したような笑みも浮かべているようにも思える。
いずれにしろ、疲れきった表情からは正しい感情など読み取れない。
「だらしないわねぇ。さっさと倒して帰るわよ」
間に合って良かったわ。
そう思いながら5Bが怪獣型に向かって拳を振りかぶる。
その時、最後の怪獣型が光線を放ちポッド107を撃ち抜いた。
呆気に取られた様子の10Dと、少し遠くへ弾き飛ばされていくポッド107を視界の隅で捉える。
『……ポッド!。』
10Dがポッド107へ手を伸ばすのと5Bが怪獣型を叩き潰すのはほぼ同時の事だった。
「10D、諦めなさい!」
そっちは崖よ。急いでそう伝えようとしたが、既に10Dは崖の縁を蹴飛ばして空中でポッド107を掴まえていた。
飛び散る怪獣型の部品と爆発に視界を遮られる。
けれど5Bは確かにその目で、崖に落ちていく2機の姿を確認した。
あの崖はかなり深い。底が見えないくらいだ。落ちたらきっと衝撃で義体は破壊するだろう。
けれどポッドが居るならおそらく大丈夫だ。ゆっくり着地し、やがてポッド107が10Dをサルベージするはず。
そう見込んだ5Bは直後に到着した他の隊員と共に崖下を覗いて待機したが、いくら待っても淵の景色は暗く沈んだままだった。
LOADING - システム起動中…
システムチェック開始
メモリーユニットチェック:グリーン
戦術ログ:初期化
地形データ:ロード開始
バイタルチェック:グリーン
MP残量チェック:100%
ブラックボックス温度:適正
ブラックボックス内圧力正常
IFF起動
FCS起動
ポッド通信接続不可
DBUセットアップ
慣性制御システム起動
環境センサー起動
装備認証:完了
装備状態チェック:クリア
システム:オールグリーン
戦闘準備完了_