ONE PIECE FILMを原型がなくなるぐらい粉々にするお話   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。たぶん前後編になります。


ONE PIECE STAMPEDE 前

 

 

 

 未だ海賊王は立たず、誰も見たことがなく、夢物語のひとつであったワンピースを目指し、各地の有力な海賊が中心に凌ぎを削っていた大航海時代以前。

 

 ここは偉大なる航路(グランドライン)前半の海と、後半の海の境界である赤い土の大陸(レッドライン)の経由点に立つ街。巨大な海洋植物であるヤルキマンマングローブで出来ているため、ログポースの貯まらないシャボンディ諸島である。

 

 また、シャボンディ諸島は、明確な区分けがされている訳ではないが、1~29番は無法地帯、30~39番は繁華街、40~49番は観光関係、50~59番は造船所、60~69番は海軍駐屯地、70~79番はホテル街が多い傾向にある。

 

 そして、ここはその中でも無法地帯と化している一桁台の番号が振られたヤルキマンマングローブが生える場所で、無法地帯でもそれなりに酒場などがちらほらと建ち並んでいた。

 

 そんな中、背がとても高く軍服を着て、金髪を後ろに流した髪型をした体格のいい青年が、1枚の手配書を持ちながら無表情で辺りを見回している。

 

「この辺りにいる筈だ……」

 

 そう呟いたその青年が持つ手配書の写真には、手足を緑色の硝子のようなモノに変えながら、歯を見せて眼前の海軍達を威嚇するように笑うピンクブロンドの髪をした大女が写っていた。

 

 そして、名前と懸賞金にはこうある――。

 

 

水飴のポムダムール

懸賞金:19億8000万ベリー

 

 

(こんな怪物が今シャボンディ諸島に来てるってんだ……さぞ強いに違いねェ……)

 

 そう思った彼は手配書から顔を上げ、それまで無表情だった顔から口角だけを上げて笑って見せる。武者震いのようなものだろう。

 

 彼の名はダグラス・バレット。

 

 "戦争の終わらない国"出身の母親に捨てられた孤児であり、後に敵国だった軍事国家ガルツバーグに拾われ、軍隊ガルツフォース(GF)の部隊長ダグラス・グレイ部隊所属の少年兵として"9番目の弾丸"と呼ばれる最強の兵士となる。この場合、ダグラスとは将軍の名前で、バレットとは弾丸を意味するため、ダグラス将軍の弾丸という意味となり、彼が生まれながらの戦争の駒として扱われていた実態が伺えよう。

 

 しかし、同じ少年兵からの迫害と裏切りや、彼を恐れるようになったダグラス将軍の裏切りを受け、仲間だと家族同然だと信じていた者からの2度に渡る裏切りにより、失望と怒りのまま暴れ回った末にガルツバーグを滅亡に追いやるという"ガルツバーグの惨劇"をたった14歳で引き起こした張本人である。

 

 それからは海賊となり、この1年間で、偉大なる航海(グランドライン)前半の海にいる有力な海賊に手当たり次第に戦いを吹っ掛け続けたが、誰ひとりとして彼に勝てた者はいなかった。彼が生まれながらに天才的な覇気使いと言うこともあったが、やはりバトルセンスによるものが大きいだろう。

 

 そして、彼は遂にある決断をした。それは後に四皇と呼ばれることになるような懸賞金10億超えの大海賊と戦うということである。

 

 四皇とは今の時代よりも後世で謳われた偉大なる航海(グランドライン)の後半の海で、皇帝の如く君臨する海賊のこと。大海賊時代以前の海賊ならば、ゴール・D・ロジャー、エドワード・ニューゲート、金獅子のシキ、シャーロット・リンリン、カイドウ等が挙げられる。

 

 そんな後に四皇と呼ばれるあるいは四皇クラスの大海賊中で、懸賞金額自体は最も低いが、戦闘力という一点に置いてのみ、ほとんど四皇と遜色ないと言われている。女海賊がひとりいる。それが手配書にあったシャーロット・ポムダムールに他ならない。

 

 と言うのも、シャーロット・ポムダムールは当時15歳で、30代だった母親のシャーロット・リンリンとの殺し合い(親子喧嘩)の末に、互いに重傷を負ってビッグマム海賊団から離反している。故にその実力は今のダグラス・バレットと同じ年齢で既に四皇と遜色ないレベルだということになろう。

 

 しかし、ポムダムールがビッグマムを押しやって四皇になっている訳でも、四皇が最初から五皇になっている訳でもないのは、単純にビッグマム海賊団から離反して以来、偉大なる航海(グランドライン)後半の海である新世界から活動拠点を前半の海に移し、ほとんど新世界に戻っていないからだ。

 

 ちなみにビッグマム海賊団を離反する直前の懸賞金は11億4000万ベリーであり、未だにシャーロット・リンリンを除くビッグマム海賊団の船員が超えることなかった。故にビッグマム海賊団最強の船員だったことは、兄弟姉妹どころかビッグマム自身すら認めるところであろう。

 

 また、ビッグマム海賊団にいた頃のポムダムールは、水飴のポムダムールというより、"シャーロット家の最高傑作"や、"小ビッグマム"等と他の海賊や身内に呼ばれるほど冷酷無比で圧倒的な実力者かつ、"万国(トットランド)"の実現をシャーロット家の誰よりも以上に尽力していたらしいとの情報がある。

 

 そんな女傑がどんな者なのかと考えつつ、遂に無法地帯にもポツンと佇む酒場の前で手配書と同じ容姿と体格をした女を発見し――。

 

 

 

「んがー……」

 

「おい、ポム姉。起きろ」

 

「ポ、ポム船長……こんなところで寝ちゃダメだわ!」

 

「ポム船長! 起きてくださいよ! 人が通れなくなってますって!」

 

「ぐごー……えへへぇー……もう飲めないよぉ……すぴー……」

 

「船長ー!?」

 

「久しぶりに寄ったが、ポム姉は変わらんなぁ……」

 

 

 

 バレットは手配書と、5m以上の身長が酒場の出入り口の前で横たえているせいで、全力で通行の邪魔をしており、それにも関わらず、ふにゃりと破顔した表情で気持ち良さそうに眠っている女性を3度ほど往復した末、首を大きく傾げた。

 

 しかし、彼女の周りにいる比較的若い十数名の船員がエルフ、アラクネ、スキュラ、ラミアといった常時発動型のゾオン系の能力者。魚人と手長族や、天界人と首長族、ミンク族と三ツ目族と言った非常に奇妙なハーフの異種族とおぼしき容姿をした者が多いこと。また、ビッグマム海賊団の船員(家族)とおぼしき者がいることで、本人だということをバレットは辛うじて理解する。

 

「おい……」

 

「ん? ああ、悪いな。今ポム姉をどうにかして退かすから少しだけ待っていてく――」

 

「違う。酒場の利用客じゃねぇ」

 

 バレットがポムダムールと同じぐらい背が高く、口元をマフラーで隠している短髪の男に声を掛けると、利用客と間違えられたためにそう返す。

 

「なに……? なら何をしに来たんだ?」

 

「ソイツと戦いに来た」

 

 バレットはポムダムールの弟とおぼしき男にポムダムールを見ながらそう告げると、そこにいる船員らと弟がざわめき出す。

 

「か、カタクリさん……よりにもよって今はマズいですよ!?」

 

「ああ……悪いが明日の朝にでも日を改めてくれ。今のポム姉は――」

 

「んむぅ……? 戦いィ……?」

 

 弟――カタクリと呼ばれた者はバレットに日を改めるように諭そうとしたが、その前にむくりとポムダムールが寝惚けたような様子で体を起こす。相当酔っているらしく、上半身がフラフラと揺れていた。

 

 しかし、それを見たカタクリは驚愕に目を見開くだけでなく、畏怖に近い感情を抱いているようにも見え、他の船員も同じように見えた。

 

 そして、直ぐにバレットの方に振り返ったカタクリは焦燥した様子で声を荒げる。

 

「イカン……ダメだ逃げろ! 泥酔しているときのポム姉に喧嘩を挑んだら――――殺されるぞ!?」

 

「ああ?――」

 

 疑問符を浮かべながら、その次の言葉を言おうとした瞬間、バレットはこれまで感じたことがないほど凄まじい衝撃を腹に受ける。

 

「がぁ――!?」

 

 そのまま、体をくの字に折り曲げられ、近くのヤルキマンマングローブの幹まで吹き飛ばされて突き刺さった。

 

 

 

「いーよぉ……ひっく……うぃー……うぇへへー!」

 

 

 

 そして、バレットがいた場所には、黒い拳で他の全体が緑色の水飴で出来た腕が浮かんでおり、それは地面で体を起こしたままのポムダムールの髪の毛から伸びていた。明らかに問答無用で、戦う前の相手に先手を打ってきたのは彼女である。

 

 ポムダムールは立ち上がると、千鳥足でバレットを殴り飛ばした方向へゆっくりと歩いていく。

 

 そんなポムダムールを見て、カタクリは額に手を当てて大きく溜め息を吐いた。

 

「ポム姉は"悪酔い"で、様々な実力者に喧嘩を吹っ掛けたり、天竜人を殴り飛ばしたり、気に入らない国の王城を木っ端微塵にしたり、裏の組織を壊滅させたり、海軍支部の建物を使い物にならなくしているせいで、懸賞金がどんどん膨れ上がっているんだ……!」

 

「お前ら! 一帯の人間を避難させるぞー! 船長の"悪酔い"だー!」

 

「ポム船長が暴れるわー!」

 

 船員が酒場や周囲の人間に避難勧告を呼び掛け始める中、ヤルキマンマングローブの幹から飛び出たバレットは、弾丸の如く一直線にポムダムールへと殺到した。

 

「腑抜けた奴だと思えば、パンチはやるじゃねぇか!」

 

 バレットは歯を見せて笑みを浮かべたまま、ポムダムールへと殴り掛かる。鍛え抜かれた覇気を纏う黒い拳は神速の一撃と言え、当たりさえすれば四皇でも確実にダメージを与えるほどに強靭なものであった。

 

 そして、それはポムダムールの胸部に直撃する。

 

「なに……?」

 

 しかし、バレットが感じたのは空を切る手応え。見れば彼の拳はポムダムールの胸部を突き破っており、その接触部がドーナツのように穴が開き、穴の外側だけが緑色の水飴状に変化している。

 

(コイツ……!? まさか、見聞色の覇気で攻撃を予知して回避することで、武装色の覇気で防御しなかったのか!?)

 

「うぇへへー……!」

 

 そして、最小限の動作で回避したと言うことは、それだけ強力な反撃が出来るということも意味している。

 

 実際、気持ち良さげに笑顔で調子外れな笑い声を響かせつつも、ポムダムールは両手足を緑色のガラスのような質感に変化させており、その上に両足は膝まで、両腕は肘までが武装色の覇気で黒く染まっていた。

 

 その武装色の覇気はバレットですら、目にした瞬間にマトモに受ければマズいことになると確信し、全身に鳥肌が立つほど圧倒的で、おぞましいほど洗練されたものであり、バレットは防御のために全身を武装色の覇気で硬化する。

 

「どーん!」

 

「――――!?」

 

 そして、ポムダムールの口から吐かれた調子外れな擬音と共に、カウンターとして最速で放たれた膝蹴りがバレットに突き刺さり、くの字に体を折り曲げられる。

 

「どどーん!」

 

 更に間髪入れずに、ポムダムールの片腕が折り曲げられた体の背に突き刺さり、バレットごと自身を沈み込ませる。

 

「どっどどーん!」

 

 最後に沈み込んだ体勢で、真下から掬い上げるように放たれたアッパーがバレットの胸部に突き刺さり、花火のように空高く打ち上げられた。

 

「まだまだこれからよぉ……!」

 

 その瞬間、バレットのいる上空へ向けて、両腕の肘から先を頭上でクロスさせつつ武装色の覇気を刃へと変え、空へと向ける。

 

(――――なんだ!!!?)

 

 吹き飛ばされながら、ただならぬ覇気を肌で感じ取ったバレットは空中を足場にして、反射的に横へと大きく跳んだ――その刹那である。

 

 

威国(いこく)ぅぅ……!」

 

 

 バレットがいた場所を巨大な槍で抉り取ったかのように空間そのものが貫き穿たれ、夜空へと抜けた果てしない威力と範囲の斬撃は、雲海を円形にくり貫くだけに留まらず、それを中心とした雲に、クモの巣状のひび割れを刻んだ。

 

「――な……!?」

 

 バレットはその余りにも想像絶する破壊力に自然と声を漏らして驚くと共にあることに気がつく。

 

(避けた……? 俺がアイツの攻撃を……?)

 

 それを感じたバレットは避けた自身を恥じつつも、避けさせられたことに憤慨し、全身に覇気を滾らせる。それによって、バレットの全身は真っ青に染まり、怒りに歪んだ表情も合わせて、さながら青鬼のような風貌に変わる。

 

「テメェ……!」

 

 そして、空を一歩蹴ると、即座にポムダムールの目の前まで到達し、その大砲のような両腕を引き絞り、拳を構えて一気に振り下ろす。

 

 

最強の一撃(デー・ステエクステ・ストライク)!!」

 

 

 それはさながら青鬼の放つ嵐のような無数の拳だった。

 

 常人どころか、覇気を覚えた者でさえ、ほとんど目にすら止まらない程の数と速さを異様な威力で繰り出されたそれは、敵だけでなく味方さえも畏怖を抱くような圧倒的な暴力である。

 

 それは当然、ポムダムールを襲い、その全身に余すことなく突き刺さる――。

 

「んー? 当てなきゃ意味ないわよぉ……?」

 

(嘘だろ……!?)

 

 しかし、直立不動のまま佇むポムダムールは、バレットの拳が体に触れる直前で、その部分だけが体に穴が開き、拳を引けば即座に再生することを繰り返し続けるという異様な光景が繰り返されていた。

 

 未来視と言えてしまえる程の見聞色による先の先。言ってしまえばそれだけの技能なのだが、それを出来る人間がこの世にどれだけ存在するというのだろうか。

 

(なんでコイツ泥酔した状態で、これだけの見聞色が使えるんだ!?)

 

「べぇつにぃ~?」

 

 そう呟くと、ポムダムールは両腕に覇気を纏わせ、バレットの拳の嵐に合わせて拳を放ち始め、それはすぐにバレットと拳と完全に拮抗した打ち合いへと変わる。

 

「ぐっ……!?」

 

「手が2本より増えてる訳じゃないから楽勝よぉ――」

 

 しかし、それどころか、恐ろしい速度でポムダムールの攻撃の手は加速していき、それにバレットも負けじと返すが、徐々に彼の方が手数で負け、体ごと押され始め――。

 

「グガァ!?」

 

「ほーら……こんな風にねぇ」

 

 遂にバレットの顔面に一撃、ポムダムールの拳が突き刺さり、彼方へと吹き飛ばされた。彼はゴロツキや海賊の船が並ぶ船着き場にあるひとつの船の船体に突き刺さり、ようやく止まった。

 

 見ればバレットを殴ったものは拳ではなく、メデューサの髪のように丸まった尖端が覇気で強化されたポムダムールの髪であった。全てが水飴へと置き換わっているその髪は、20近い数の拳となっており、寧ろそこまで2本の腕のみで粘ったバレットの底力を讃えるべきであろう。

 

「あれぇ……?」

 

 しかし、何故かバレットが飛んで行った方向を見ながら、ポムダムールは大きく首を傾げる。そして、酒気にまみれた吐息を吐き出してからポツリと呟いた。

 

「ちょっと大きくなったかしらぁ?」

 

『まだまだァァァ!! "鎧合体(ユニオン・アルマード)"ォォォ!!!』

 

 そこには数隻の船を組み合わせて巨大ロボットを作ったのような奇妙な存在がポムダムールの少し前方に降り立ち、それから放たれる叫び声は間違いなくバレットの声だった。

 

 ポムダムールは一切知らないが、バレットはガシャガシャの実を食べた合体人間。船着き場にあったガレオン船を多く含む全ての船と合体し、70m近い巨大なロボットのような姿へと変貌したのである。

 

 その上、全身を紫色の覇気で強化するという常人には出来よう筈もない、莫大で強靭な覇気による荒業をしており、バレットが見掛け以上に強化されていることは明白である。

 

『喰らぇぇ!!』

 

「すごーい――」

 

 そして、バレットから放たれた大木の切り株のような拳をポムダムールは感心するばかりで避けずに命中する。それにより、吹き飛ばされた彼女は近くのヤルキマンマングローブの幹へと衝突し、深々と突き刺さった。

 

『ナメるなよ……? 戦いはこれからだ……!』

 

 更にバレットはポムダムールへ追撃を掛けようと移動し――。

 

 

「ポムダムール」

 

 

 ポムダムールの突き刺さったヤルキマンマングローブの幹から広がり、葉とシャボン玉、更には海面につくギリギリの根の部分に至るまでの全体が、緑色の水飴へと変換され、彼女が突き刺さった場所を中心に飴玉のような球形に集まり始めたことにバレットは驚く。飴の中にポムダムールは見られないため、完全に己の全身を水飴へと変えているらしい。

 

 ポムダムールがいるであろう水飴の球体は、1本のヤルキマンマングローブを取り込んだことで、巨大な質量を持つ。

 

『デエース・ヴェール』

 

 そして、それから女性を象った緑色の巨大な手足が生え、次に胴体が作られ、最後に頭と髪が形成される。そこにいたのは、飴細工で作られた100m近い女神像であった。

 

 また、見た目はポムダムールにどことなく似ており、更に両腕には右手に飴で出来た手斧、左手には飴で出来たほぼ手斧と同じサイズの剣が握られており、明らかに豊穣や安寧を司るような女神ではないことが伺える。

 

 さながら戦の女神像は体格はロボットと化したバレットには遠く及ばず、スラリとしつつも豊満で女性的なフォルムだが、それ故に女性の巨人族のような人間らしい巨大さは、却って前に立つ者に恐怖を掻き立てることだろう。

 

『ドギーさんとブロギーさん直伝のぉぉ……』

 

 すると、再びポムダムールは威国を放った時のように上段で腕を構える。前と違うのは飴で出来た武器を使っているため、構えと振り上げ方が若干異なることであろう。

 

 更にポムダムールの全身が覇気により更に硬化され、エメラルドグリーンの色を帯び、紛れもなく彼女が本気で何かを放ってくるということが理解できた。

 

(来いっ! 今度こそ受け止めて――)

 

 バレットは次こそは、さっきポムダムールが放った威国のように避けないで受け止めようと、ロボットの全身にこれまで以上に覇気を滾らせながら構える。

 

 間違いなく、四皇クラスの女が放つ。世界最強クラスの一撃を予感されるそれは、バレットの血を沸騰させ、間違いなく人生最大の強敵との戦いに自然と笑みを強めて、心を昂らせ――。

 

 

『エルバフの槍――』

 

(――――――――死ぬ)

 

 

 ――――最後に避けられない死の予見を与えた。

 

 受ける受けない以前に、直感的にそれを覚えたバレットは唖然とする。ポムダムールが繰り出すであろうそれは、人間が個人で受け止めれていい代物ではないことを、直感的に理解したのだ。

 

 しかし、既に発射体勢に入っているそれをバレットは避ける術はなく、彼は自身にこのような感覚を与えたことに唖然としながら、ただことの成り行きを見た。

 

 そして、覇気の収束と放出を感じ、それと共にポムダムールの腕が振り下ろされ――。

 

 

 

『"破国(はこく)"――――!?』

 

「そこまでだポム姉」

 

 

 

 攻撃の直前、ポムダムールの頭部の目の前に小舟を抱えた彼の弟――カタクリが現れ、小舟を顔面に向かって投げつけた。

 

 当然、ただ小舟が投げ付けられただけでこれほどの覇気の使い手には一切意味がないが、小舟に詰まっていたモノが、女神像と化したポムダムールの顔面に降り掛かる。

 

『――――!? ぺっ……! ぺっ……! しょ、しょっぱい……力が抜ける……』

 

 それは悪魔の実の能力者共通の弱点である海水であった。カタクリは小舟で海水を掬いとった状態で、攻撃を中断せざるを得ない溜めの長い攻撃の発射タイミングに顔面に当てることで無理矢理、ポムダムールの攻撃を停止させたのである。

 

 全身を水飴に変換しているポムダムールの顔面に海水を浴びせることは、彼女と言えど看過できることではなく、攻撃の体勢が崩れ、両手の手斧と剣の切っ先を地面に落として、立ったまま項垂れる。

 

『あ゛ー……』

 

 そして、水を掛けることにはもうひとつ意味があった。

 

「ポム姉、酔いは覚めたか?」

 

『うーん……ちょっとだけぇ。私、今まで何をしてたのかしらぁ……?』

 

「まだ、少し酔ってるな……とりあえず、女神形態を解いて水を飲んでくれ」

 

『ふわぁい……』

 

 あくび混じりにポムダムールはそう言いつつ、彼女の体の体積がみるみるうちに減ると共に、水飴に変換したヤルキマンマングローブの代わり、飴細工のヤルキマンマングローブが出来上がっていく。

 

 それをまだロボットの形態のまま、何とも言えない様子をしていたバレットに、人間形態に戻ったポムダムールは、戦闘の余波で抉れたと思われる辺りの散々足る状況を見つつ、彼に対して呟いた。

 

「アナタ、酔ってる私に挑んだのね。また明日、シラフの時に戦ってあげるから今は収めなさい」

 

『ああ…………』

 

 流石に興が削がれたバレットは拳を下ろし、合体を解除した。

 

 ちなみに、ポムダムールが飴細工に変えたヤルキマンマングローブは、強固で温度耐性がある上に濡れても決して溶けないため、シャボンディ諸島の新たな名所になったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、つええ……!」

 

 それから1週間。バレットは毎日のようにポムダムールに挑み続けた。それも周りへの被害を鑑みて、互いに悪魔の実の能力を使用せず、武器も使わないという、能力と戦闘スタイルの特性上、バレットにしか利点のない条件である。

 

 しかし、ポムダムールは常時纏っている硬過ぎる覇気と、未来視と呼べるレベルまで卓越した見聞色の覇気の先の先を読んだ動きにより、1度足りともダウンすら奪えず、逆に自身が倒されていた。

 

(コイツは……1人だが……どうにも1人だから強くなったようには思えねぇ……一体その強さはなんなんだ……?)

 

 そして、バレットは人生で初の連敗を味わいながらも、同時にポムダムールの中に自身が信じる"1人だからこそ強い"という生きる上で培ったものとは全く別の何かを感じていた。それが、ポムダムールの強さの根源ならば、知りたいという疑問と渇望もまた覚える。

 

「アナタも懲りないわねぇ……」

 

 ポムダムールは酒瓶を傾けて煽りながら、自身の船の甲板で、満身創痍で膝をつきながらも眼光だけはギラついたままのバレットにそんなことを呟く。

 

 毎日、半日ほどバレットとの喧嘩に付き合っているため、その呟きは寧ろ、今さらと言うべきかも知れない。

 

 まあ、シャボンディ諸島を離れ、自身の船に気がつけば数十人に増えた船員を乗せて、行き先に宛があるわけでもない船旅をしているだけのため、ポムダムールとしては暇潰しと運動程度の認識なのかも知れない。

 

「必ず……俺はいつかあんたを倒して世界最強になる……!」

 

「別にいいわよ。いつでも来なさい。アナタぐらい愚直な奴の相手なら、気楽でいいわ」

 

 そう言って笑うポムダムールの瞳は、子供を見るような生暖かいものに感じ、バレットはその視線が嫌いだったが、何故か同時にどこか寂しげにも見えたが、それを気にするほど彼は彼女の中身に目を向けてはいなかった。

 

 こうしてバレットは、水飴のポムダムールとその船員による海賊旗ではなく、ただの白帆が張られただけのポムダムール海賊団に船員と言うよりは、挑戦者として乗り込んだのであった。

 

 

 

 







 まだ、ONE PIECE STAMPEDEは原型がありますね……もっと壊さなきゃ(使命感)

 そろそろ、なーんとなくポムちゃんがビッグマムから離反した理由がわかるかもしれません。その辺りとバレットの内面が変わるのは次回になります。



~2話での年齢~
ポムダムール
20歳
バレット
15歳
カタクリ
18歳



○悪酔い
 ポムちゃんの特性。母親の食いわずらいと若干似たようなもの。ポムダムールは泥酔しているときに、精神的に退行したり、全く自制が効かなくなったり、有り得ないことを信じるようになったり、非常に好戦的になったり、泥酔中は記憶が飛んだりといった全てをほぼ必ず引き起こす。
 そのため、泥酔しているポムダムールに戦いを挑んだり、仲間や家族と認識している者が脅かされたり、己の信念に反するようなことが起きようものならば、一切の加減をせずに本気で相手を倒すか殺すか、原因を絶つまで止まらなくなる。一切の加減をしないということは、島の状態を全く考えずに威国や破国を用いる四皇クラスの実力者が暴れまわるため、島を物理的に消滅させたことも1度や2度ではない。
 水を顔に浴びせるか、飲ませれば直ぐに治るのだが、世界最高クラスの未来視を持つ見聞色の覇気により、予知されるため、並大抵の者や方法ではまず不可能。
 ちなみにポムダムールは悪酔いを自覚しているが、1杯だけ自分へのご褒美に等と言いつつ、気付いたら軽く数樽開けて泥酔するまで止まらなくなったり、キッチンドランカーだったり、酒を絶つと少し手が震えたりするため、自分の意思で酒絶ちをするのはかなり難しい。



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