まちカドまぞく二次短編集   作:鈴索

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内容的にタイトル(名前)負けしています。
キャラ崩壊等、ご注意ください。


ミカン「桃にボーイフレンドができたみたいなの!」

 新たな魔法少女、陽夏木ミカンがせいいき桜ヶ丘にやって来てしばらくのこと。

 夏休み、補修帰りのシャドウミストレス優子ことシャミ子の元に彼女が慌てに慌てて駆けつけたのであった。

「シャ、シャミ子! 大変よ!」

 午後も3時を越え、街を包む空気はいつも以上にのんびりと気が抜けていて、人通りもまばらなこの河川敷も例外ではなかった。ただシャミ子はといえば少々事情が違っていて、ミカンの感情が昂ると(他人が)呪われ体質の影響をもろに受け、超局所的な雨雲に打たれ小石に蹴躓(けつまず)きあまつさえコミカルでカラフルな大蛇に追いかけられていた有様であった。

「ど、どうしたんですかミカンさん……」

 満身創痍の体ながら、濡れた制服を引っ張りつつシャミ子が訊ねた。ミカンはミカンで呼吸を整えて、ちょっとの間インターバルが生まれる。三度の深呼吸で、ようやく落ち着いた。

「桃が……桃に……」

「ま、まさか桃に何かあったんですか!?」

「桃に、ボーイフレンドができたみたいなの!」

 嘘のような沈黙が流れた。見事に、その場が固まった。長時間の勉強疲れが吹き飛ぶ、正に爆弾発言だった。

「は?」

 轟きが遅れてやってくる雷さながら、二人分の驚愕が夕刻ののどかな空と河川敷に響き渡った。

『「どええぇぇぇぇえぇ!?」』

 一人はシャミ子であるとして、もう一人の声は大蛇のお腹の中から出てきた。勢い吐き出された奇怪なこけしめいた造形の像が発する、シャミ子のご先祖様の声だった。

「も、桃に好きな男の人が……」

 シャミ子は放心でご先祖を助けることを忘れていて、ご先祖自身も助けを呼ぶことを忘れ、道端に転がった。

『ミカンよ。何かの間違いではないのか?』

 代わりに拾い上げてくれたミカンに率直に訊ねたが、彼女はゆるゆると首を振った。

「いいえ。確かにこの耳で聞いたの。そう、あれは桃がトレーニングから帰ってきたときのことだったわ……」

 

 時は遡り昨日の夜に至る。役所めいて大きな千代田家に居候しているミカンは、そろそろ床に入る準備を終えたところだった。

 戸口の鍵が開く音がして、ただいまとジョギングを終えた桃の声があとに続く。心なしか調子が上がっているように聞こえて、出迎えついでにミカンは玄関へ顔を出した。

「おかえりなさい、桃。何かいいことあった?」

「ん、まぁ、ちょっとね」

 昔よりそっけなくなった彼女にしては珍しく同意したのだった。これにはミカンも少々興味が湧いて、眠い眼を擦りながら話を続ける。

「なになに、私に教えて頂戴な」

「近所の子と仲良くなった」

「へぇー、今のあなたが積極的に交流するなんて珍しい。女の子?」

「ううん。男の子」

「へ?」

 このとき、何らかの誤解が生じかねないことをお互い意識していなかった。とりわけ、桃の口から男の子という言葉が出た時点でミカンは色々と思考が明後日の方向へ旅立ってしまっていた。

「いままで余り懐いてくれなかったんだけどね」

「と、年はどれくらい?」

 何を問うべきか、幾つも浮かんだすえ毒にも薬にもならない質問が抜き出される。桃は靴を脱ぎながら困り気味に返した。

「うーん……私より若い、んじゃないかな」

「年下!?」

 まさかの返答の連続で、いよいよミカンの呪いは暴発寸前であった。

「何かそんなに驚くことあった?」

「とっても!……えぇと、私もう寝るわっ」

「わかった。おやすみ」

「えぇ、おやすみ……」

 その後、氷のように冷たい水が、シャワーを浴びようとした桃を襲った。

 

「……という次第よ。あれこれ悩んでたら頭こんがらがっちゃって、逆にそのあとぐっすり眠っちゃった」

『それで思い出して相談に来たというワケか。お主も大概マイペースよな』

 いまいちピンと来ないがとかくミカンの説明は以上であった。聞き終えた辺りで、思い付く限りの反論をまぞくは試みる。

「で、でもでも、その話だと単純にちっちゃい子と遊んであげてるとも捉えられませんか?」

『時間帯を考えろ。夜だぞ、夜』

「うぐっ」

 ご先祖の鋭い指摘にさっそくアイディアが詰まった。気の動転した状態では何を考えるにも難しく、ミカンもこめかみに手を当てて、どうしたものかと考え込んでいる。そんなところへ、落ち着いた別の声がかかった。

「シャミ子、ミカン」

「「どひぇっ!?」」

 二人が驚いたのも無理はない。声の主は桃本人だったからである。瞬間、突風が吹きすさび、飛ばされそうになるご先祖の像をシャミ子が慌てて引き留めた。

「……何かあった? 呪いがすごいことになってるんだけど」

 風が止んだところで、桃がそう切り出した。スポーツウェア姿から見るに日課として体を鍛えていたようであったが、彼女もまた呪いの被害を少なからず受けていたのだろう。

「そ、それはごめんなさい。今落ち着くわっ」

 宣言の通り深呼吸を再び繰り返し、ようやく息を落ち着かせる。やけに挙動不審な二人を見やりながら、桃は不思議そうに首を傾げた。シャミ子が補修であることを知っていたから、ミカンが彼女に偶然会ったのだろう程度に考えていたのである。

『なぁ桃よ。お主ぼ……』

「ご先祖っ」

 ご先祖の単刀直入な突っ込みを遮って、密かに耳打ちする。

「ここは私にやらせて下さい」

『じゃが……』

「お願いします」

 シャミ子の真剣な調子にあっては、流石のご先祖様もおもしろそうという理由で茶化す訳にはいかなかった。沈黙を了承と判断したシャミ子は桃に向き直った。

「桃」

「なに?」

 どうにも噛み合わない空気の流れるなか、思い切って口を開いた。

「昨日ミカンさんに話してた子に会わせてください」

「ちょっ、シャミ子っ」

 ご先祖様の言葉もストレートだったが、こちらは更にその上をいっていた。かなりの緊張の一手だったが、予想に反して桃はあっさり了承した。

「うん。いいけど」

「えっ、ほんとですか?別に無理しなくても……」

「いや、むしろ今くらいの時間帯の方が会えると思う」

 もうちょっと抵抗するものかと思えば拍子抜けといった感じで、シャミ子は困惑の色を隠せなかった。どこまで親しいのかとかどんなお相手なのかとか、問い(ただ)したいことは山ほどあったがそれゆえ上手く言葉に出来ない。

「もしかして……」

『そのもしかだろう』

 ふと、やりとりを見届けていたミカンが何かしらに気が付いた。ご先祖も同様だった。

『しかし万が一ということもあるからな。見に行くこと自体は間違ってないと思うぞ?』

「そ、そうね。ご先祖様の言う通りだわ」

 二人だけ密かに納得したことをシャミ子にも共有しようかと思ったけれど、悶々と考え込んでいて話しかけられる雰囲気ではなかったので、とりあえず機会をうかがうことにした。

「じゃ、行こうか」

 桃がすたすたと歩き出して、シャミ子たちはその後に続く。

「あの、その子はどんな方なんですか?」

「まぁ、かわいい」

 シャミ子のどんよりした口調の問いに、ちょっとの思案を重ねて桃は答える。ミカンの支えるご先祖がすかさず探りを兼ねた茶々を入れた。

『可愛い系とは意外なチョイスだな桃色魔法少女よ。余はもっとマッチョな奴が好みかと』

「筋肉は関係ないと思いますが……」

 呆れる桃の視線がご先祖の像に注がれる。一方で更に精神的ダメージを受けているのはシャミ子であった。

「まさかの筋肉を否定!」

「あ、あのね、シャミ子」

 見かねたミカンが気づきかけている誤解を解こうとするが、彼女はどうにも自分の世界に入ってしまっているようで声が届いていない様子。

「……私、こうなることがあるかもしれないということ、まったく考えてませんでした」

 ポツリと呟くシャミ子に、隣に寄っていた桃がその変な態度に気が付いた。

「シャミ子、調子悪い?どこかで休もうか?」

 何かおかしい。そう思ってミカンの方を見ると、彼女はどうも申し訳なさそうに手を擦り合わせていた。両腕の間に挟まるご先祖も表現しようのない微妙な顔付きになっている。

「でも、私もミカンさんも、桃と一緒にいる時間が楽しくて、大切なんです」

「だから、お願いだ。どうか他の誰かのところになんか行かないで!」

 言うや言わんやの内に、堰を切らしたように涙をぽろぽろ流して、シャミ子は桃にしがみついた。

「シャミ子……」

 事情を聞くよりも宥めることを優先しようと、桃はその涙を拭った。何かの勘違いらしいことはミカンたちの様子から承知していたが、誤解を明かす前にシャミ子の純粋な想いを無碍(むげ)にしたくなかったのである。

 なああぁん

 そんなところへ、野太い猫の鳴き声がのんきに響いた。三人(とご先祖)が見れば、太った白と黒のぶちの猫がのしのし歩いてきて、桃の足元にすり寄った。

「ねこ?」

 ただシャミ子だけが、目を腫らしながら疑問符を浮かべていた。

「やっぱり、男の子っていうのは……」

「私も気が付いた。シャミ子もミカンも、彼を人間と取り違えていたんだ」

 そう言って、よくなついているその猫を優しく持ち上げ、シャミ子に渡した。受け取ったシャミ子は半ば茫然として、幸せそうな猫の顔を眺める。

「見た目年下っぽくて……」

『筋肉も関係ないな』

「そういうこと。夜のジョギングで見かけて、何度か会う内にさわらせてくれるようになった」

 桃の淡々とした説明についさっきの自分の必死のお願いが相まって、一気に恥ずかしさが込み上げ、シャミ子の顔がおもしろい勢いでのぼせていく。冗談みたいに紅くなった頬と耳から湯気が立ちそうなほど。

「ミ、ミカンさんん……」

 もはや辛うじて勘違いの主を恨みがましく呼ぶのが精一杯だった。他意はなかったものの原因はやっぱり自分なので、流石にミカンも謝るほかなかった。

「ごめんなさいシャミ子! あとで何かおごったげるから」

『余の分のお供えも頼むぞ!』

 関係ないご先祖の横槍は一旦置いておいて、シャミ子は彼女の平謝りに頷いて返した。

「私も、気がつかなかったですし……」

「こちらとしては、シャミ子の気持ちが聞けて良かったかな」

「き、きさま! 調子に乗ってぇっ」

 桃がフォローにならないフォローを投げて、微笑んだ。結果的に、色々ある内の弱みをまた一つ、宿敵に握られてしまったのである。

 やんわりと夜のとばりが降りてくる街に、まぞくの悔しさと安堵の叫びが渡るのであった。

「これで勝ったと思うなよぉーっ!」





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