藤丸立夏は父親で、藤丸マシュが母親。 作:ジャーマンポテトin納豆
相変わらず外は吹雪いていた、ある日のこと。
空調システムで室温を整えられていなかったらほんの数分も掛からずに凍死する、そんな世界に囲まれたカルデアで、新しい命が産声を上げた。
我らがマスターと、マシュの間に出来た赤ちゃん。
「わっ、わっ、ど、どうしましょう……!?」
「大丈夫、そのまま抱っこしてあげて」
赤ちゃんを抱っこしたのは、初めてだから戸惑ってしまったけれど、とても不思議な感覚だった。
アレクセイが生まれた時はまだ私も小さくて抱っこなんてとても出来なかったですし。
とっても小さくて弱々しくて、とても可愛くて、温かくて、ふわふわ。
どうしようも無く、幸せな気分だったのだけはよく覚えている。
それからと言うもの、私はこの子に熱心に、執着するようになった。
生前、確かに前半は皇帝の娘として満ち足りていた人生だった。
だけれど後半は、特に死ぬまでの幾らかの間はお世辞にも良いものとは言えなかった。
弟のアレクセイは病気に苦しんでいたし、私達にも十分な食事を与えられたわけでもない。
監視についていた反乱軍の兵士は、終いには私達の物を盗み出した。
そして最後には家族、侍従皆諸共皆殺し。
せめてもの救いは、男達に乱暴されなかった事ぐらい。
だけど家族を殺された憎しみは消えないし、人間はとても憎いけれど、皆は別。
勿論この子も。だから今はこの小さな新しい命に、沢山の愛情を込めて接してあげないと。
産まれてから一ヶ月。
名前が決まって大騒ぎ。
私も嬉しかった。
「ハル」
名前を呼んで掌に指を置くと握ってくれる。
生前は少女から女になることも出来ず、勿論子を産むなんて事も出来なかった。
だから、余計に愛おしくて愛おしくて仕方がない。
自分が産んだわけでも無いのに、想いが溢れて仕方がない。
何でだろう。
不思議でしょうがない。
だけど、その気持ちに嘘偽りはないのは確かで、いつでも何時迄も側に居て見ていられる。触れていられる。
目が開いて、父親譲りの綺麗な蒼色の双眸がこちらをじっと見る。
「初めまして、私の可愛い、可愛いハル」
それに答える声はなかったけれど、確かに私をじっと見つめていた。
それから毎日会いに行って触れて遊んで。
一人で歩ける様になるとカルデアの中をあちこち探検して回るその姿は愛らしい。
霊体化して後ろを付いて行ったり、ヴィイと三人で歩いたり。
刑部姫が作ってあげたのであろう、段ボール製の剣とオリガミで作って貰った兜を被って、お供にカヴァスやロボ、フォウを連れてとことこ歩いているのをよく見かける。
まだ小さいから、大した距離を歩けない。疲れると籠の中に入ってロボが籠を咥えて探検しているのをよく見る。
部屋にいるとドアを叩く音が。
何日か前にお茶会をしましょう、と誘っていたハルが訪ねて来たのね。
「おねえちゃん!」
「いらっしゃい、ハル」
案の定ハルが立っていた。
今日はどうやらロボやカヴァス達は居ないらしく、一人だ。
小さくて可愛らしい口で、元気良く私の名前を呼んでくれるのが嬉しい。
思わず口元が緩んでしまう。
ハルを部屋に招き入れて私とヴィイ、それにハルの三人だけの秘密のお茶会。
しまってあった秘蔵のお菓子とジャムを出して。
まだ小さいハルは私たちが普段使っている大きさの椅子に座ると背が足りないから、ヴィイに頼んで丁度良い高さに氷で調節する。
隣に椅子を持っていって、並んで座ってお茶会の始まり。
まぁハルは紅茶よりもお菓子の方が好きだから、紅茶そっちのけで目一杯頬張って美味しそうに食べているけれど。
「ほら、そんなに頬張らなくても誰も取らないわ。もっと落ち着いてゆっくり食べなさい」
「うん」
美味しそうに頬張る姿は、とっても可愛い。
思わず笑みが漏れてしまうほどには。
「もう、こんなに口周りを汚して。ほら、拭いてあげるからじっとなさい」
「んー」
口の周りに食べかすが付いているから布で優しく拭う。
「ありがとー」
「どういたしまして」
にこー、っと笑ってありがとうって。
この笑顔の為なら何でも出来ちゃう。
ひょい、とその軽くて小さな身体を抱き上げて膝の上に乗せると同じようにヴィイを抱える。
「びー」
まだヴィイと発音出来ないから、拙い発音で呼ぶ。
ハルはヴィイと良く話す。
と言ってもハルが話してそれにヴィイが身振り手振りなどで答えるようなものだけれど。
ハルのことをちゃんと家族だと認識しているヴィイは色々な形で答える。
単純に手や足を動かして答える時もあれば、氷の結晶を宙に浮かべたり氷花を形作ったり。
氷の花、と言うのは誰が見ても綺麗だと思うように、ハルもそれを作ってもらうと嬉しそうに笑う。
それに対抗してこの前はスカディ様がものすごーく大きな氷の彫像を作り上げて大騒ぎになった。
終いにはニホンのサッポロユキマツリみたいに皆がそれぞれ雪や氷で色々と作り始めて、結局収集が付かなくなったりした。
「ねぇハル?」
「なにー?」
「今日はヴィイとどんなお話をしているのかしら?」
「えっとね、はたけのよーすとか、きのうくーにいちゃんがおっきいかぼちゃくれたこととか」
「そう、良かったらお姉ちゃんも混ぜてくれないかしら?」
「いいよー」
「ありがとう」
ふにゃっ、と人好きのする様な優しくて柔らかい笑みを浮かべる。
ハルを膝の上に乗せていると、じんわりと幼児特有の高い体温が伝わってくる。
暑いのは苦手だけれど、ハルの体温ならば幾らでも。ハルとなら暑い場所にも行けちゃうわ。
身振り手振りをしながら採れたカボチャが如何に大きかったのか、どんな手伝いをしたのかを懸命に伝えて来るその姿に、胸の奥がじんわりと暖かくなって癒される。
イパチェフ館でのあの日から、ハルに出会うまで決して感じることのなかった、本当の意味で知ることの無かった、幸せ、と言う感情。
「どーしたの?」
「いいえ、何でもないわ」
「ほんと?」
「えぇ、本当よ」
少しだけ、泣きそうになる。
それを感じたハルは私の方を見て、心配そうに聞いてくる。
あぁ、とっても優しい子。
大好きよ。
数年後。
小学校に通うようになり始めて色々と外の世界の常識を学んで来る事が多くなった。
それが原因だからか最近、ハルが私だけじゃなくて他の皆と仲良くするのを少しだけ恥ずかしく感じるようになってきたらしい。
お風呂に一緒に入ろうとすると逃げようとするし、一緒に寝ようとベッドに潜り込むとこれまた逃げようとする。
がっちり掴んで離してあげないけれど。
でもいけないわ、これはとってもいけないわ、由々しき事態よ。
もし全力で拒否されたら、私発狂するわ。自信を持って言える。
だから手を打たないと。
と言う事で。
「どうしたの?」
「ちょっとお姉ちゃんとお話しましょう」
「いいよ」
今も変わらず、手を繋いで部屋に向かう。
「さて、と。ハル」
「なに?」
「最近、お姉ちゃん達の事、避けてるわね?」
「え“っ、いや、そんな事は無いと思うけどなー……」
少し問い詰めると目を逸らしてシラを切り始める。
ふぅーん?良い度胸じゃない。
「嘘はいけないわ。本当の事を言わないと、どうなるかしら」
「うぐ……、いや、別に避けてな、いよ?」
「そんな自信なさげに言っても説得力も何もないわ。本当の事を話しなさい」
問い詰めると。
「だけどさ、友達が普通この歳にもなってお姉ちゃんと一緒にお風呂入ったり寝たりしないって言ってた」
「あら、そんな事を言う友達もいるのね」
まぁ実際、普通ならそうでしょうね。
ですがここはカルデア。
普通が普通ではない場所。
「ハル、それはあくまでもお友達がそうなだけよ」
「だけど、皆大体おんなじ様に言うよ?なんならすごく仲悪いって」
「そんなもの私とハルには関係無いわ。いい?」
「なに?」
「世の中にはね、こんな決まりがあるの」
「お姉ちゃんは弟を沢山可愛がって甘やかさないといけない。弟はお姉ちゃんに沢山可愛がられて甘やかされないといけない」
口から出まかせみたいなレベルですけど、えぇ、これは決して利己的な為ではありません。
皆の為です。
狂った私が世界を凍り付かせたりしないようにするために必要な事です。
「……」
明らかに疑っている目で私を見る。
えぇ、疑う事はいいことよ。だけどお姉ちゃんを疑うのは良くないわ。
でも、そうね。
「疑っているなら、皆に聞きに行きましょうか。それで皆が頷いたなら、私が言うことは正しい」
「分かった」
ハルと手を繋いで、皆を尋ね歩く。
やはり皆も私と同じように、ハルが避けている事を気にしていたらしく激しく同意してくれた。
ふふん、カルデアにはハルの味方しかいないけれど、同時にその味方はハルの敵ばかりなのよ。
外堀を埋めて、逃れられないようにする。
「そーだったのか……!」
なんて言いながら納得してくれた。
……まぁ、これを信じちゃうハルが心配ですけれど、そこは私が守ってあげればいいだけの話ですし。
あれから、やっぱり少し恥ずかしがりながらも避ける様なことはなくなった。
前みたいに抱き着いてきてくれたりするようになって、嬉しい。
まぁ結局数年後に嘘だった、とバレる訳だけれどその頃にはハルは一々気にしなくなっていた。
ハルが産まれてから十七年の年月が経った。
時が過ぎるのは早い。
私よりも、うんと小さくて、守られる側だったのに今じゃ私よりもずっと大きな身長と、逞しい身体になった。
まだまだ師匠軍団からすれば弱いらしいけど、この世の中にハル相手に正々堂々戦って勝てる人間なんていないような気もする。
それでも私のことを姉と慕ってくれて、嬉しそうに駆け寄って来てくれて、名前を呼んでくれる。
昔は私が抱き上げていたのに、今は私が抱き上げられる側。
沢山の物事を見て聞いて経験して、すごく成長して。
精悍な顔付きになった。
だけどやっぱり可愛いことには変わりない。
「ハル」
「姉さん、どうしたの?」
「こっちに来なさい。ここに座って」
椅子に座らせて、風呂上がりの頭を拭いて、櫛で小さかった頃よりも幾らか硬くなった髪をとかし、梳く。
「自分で出来るよ」
「あら、愛しの姉に髪を梳いてもらってそんな事を言う口は凍らせちゃうわよ」
「そんな無茶苦茶な……」
口では言いつつも嬉しそうにしている辺り、満更でもないのね。
ヴィイは相変わらずハルの膝の上。
嬉しそうにしているのが分かる。
最近、学校が忙しくてハルと過ごす時間が全体的に減った。
部活に入っている訳でもないけど、毎日の三分の一を学校で過ごしているし、帰ってきてからも鍛錬があったり睡眠時間とかを考えるとやっぱり少ない。
夏休みとかはこれ見よがしに連日連夜、激しい鍛錬に打ち込んで、数週間野山に放り出されてサバイバルをしたりしているから結局遊べない。
それでも週に二日、ちゃんとお休みはあるんだけれどそれじゃぁ、足りないわ。
夜は部屋に忍び込んで一緒に寝ていますけど、やっぱり物足りない。
私は英霊で、ハルは人間。
いつか必ず別れないといけない日が来る事は、頭では分かっている。
だから、その日が来ても後悔しないようにしたい。
そう思うのは、いけないことかしら。
ある日のこと。
ハルに私達の正体を話した。
私達がどんな存在で、どこの誰なのか。
だけどハルは、
「そっかー」
の一言で済ませてしまった。
割と皆、覚悟して話したつもりだったのにそれだけで済まされて呆気に取られてしまった。
慌ててなんとも思わないのか聞いてみると。
「まぁ、嘘を吐く理由も無いし、あれだけ色んなことが出来るしで、確かにそうなんだろうけど、なんて言うか王様だ、とか言われても普段の皆を知ってるから実感無いんだよね。酒好きでだらしがない、それによくやらかす。そんなの見てたらねー」
けらけらと楽しそうに言いながら笑うハルは、思い出一つ一つが大切で仕方がないと言わんばかり。
「それに、皆が何処の誰で大昔にどんな事をしたのかとか関係無しにさ、俺にとって皆は家族だから。大好きな姉さん兄さん爺ちゃんおじさんだから」
何事も無く平然と言い放ったその言葉は、温もりに満ちていた。
それでも何故か納得出来ない面々は直接ハルに物申していたけど、態度は変わらず。
結局、懐柔されてしまった。
私も、自分がアヴェンジャーに成り得る事を伝えたのに。
ハルは、笑って。
「どうでもいいよ、そんなの。あ、姉さんの復讐心とかじゃなくてね?俺の中で、アナスタシア姉さんは変わらず姉さんだから。ヴィイも、大切な家族だから」
泣いてしまった。
どうしようもなく、涙が溢れて、溢れて仕方がなかった。
けれどその涙は、怨恨の涙じゃなくて安堵や幸せ故の涙だと断言出来る。
だって、とても暖かかったんですもの。
「ハル、ぎゅっとしなさい」
「急だなぁ」
「いいから、お姉ちゃんを抱き締めなさい。弟たるもの、姉の言う事は聞いておくものよ」
「はいはい」
あぁ、私の可愛いハル。愛しい弟。
私よりも身長が大きくなっても。
特訓で身体付きが逞しくなっても。
顔付きが精悍になっても。
例えどんなことがあっても貴方は私の大切な子。
どんな事があっても、私は貴方の味方。
だから、私を一人ぼっちにしないでね。
アナスタシアお姉ちゃん
春君が人目を憚らずにお姉ちゃん達とイチャつく原因を作った人。
悪戯を教えたのはアナスタシアで、次に教授がバレたりしない様にって洗練させた。悪戯に関しては、大体悪いのがこの二人。
生前の事もあってか相当入れ込んで可愛がっている。
可愛がっているなんて表現が生易しいぐらいだけど。
もし、春君の身に何かあったら泣きながら髪を振り乱して発狂する。
バーサーカーになる。
マジ世界が氷漬けになる。
スゥーッ……。
どうしてこうなった?
あれぇ?書いてるうちにテイストが変わっちゃったぞ?
おっかしいなぁ……。
追記
書いたら出るんじゃないんですか!?
なんで水着アナスタシア来てくれないの……?春君待ってるよ……?