南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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客観的に見た方が主人公の異常性がよく分かることに最近気づきました…


11話

思えば、うちはコトは最初から浮いた存在だった。

理由はいろいろとある。

木ノ葉が誇るエリート一族だからであり、その中において白いその外見が異様であったからでもあり、何より本人の奇行が目立ったからでもあった。

 

空野カナタがその奇行を最初に目撃したのは、アカデミーに入学してまだ間もない頃、とある空き地の近くを通りかかった時だった。

 

「……うちはさん?…何やってんだろ?」

 

入学当初は、同じうちは一族のうちはサスケ同様、やっぱりすごい才能のある優等生なんだろうと噂されていた白い少女は何やら一生懸命な様子で作業していた。

チョコチョコとせわしなく手を動かす様が小動物チックで微笑ましい。

 

うちはコトは遠目から眺めるカナタに気づくことなく、やたら達筆な字で『火』と大きく書かれた札を足の裏に貼り付けていた。

 

いや本当に何やってるんだろう?

 

この時点で十分に奇行だと言えるが、次の瞬間にはその奇行は問題行動に昇華した。

 

足の裏に札をベタベタに貼り付けた白い少女は立ち上がる。

そして小さな拳を天高く突き上げて―――

 

「ふじゅつ・かとんそうてんとっぱ!」

 

―――少女が飛んだ。

足の裏から炎を噴き上げて勢いよく宙を舞った。

 

顎が外れるんじゃないかってくらい口をあんぐりあけて固まってしまったカナタは悪くない。

 

「やった! やったのですよ! 私はついに…ついに……きゃあああいや~たかいたかいこわいたすけてぇえええぇえ~」

 

炎の線を空に描きながらまっすぐ飛んでいたのはほんの最初だけで、あっという間にバランスを崩したうちはコトはふらふらと不安定に飛び回ってどこかの部屋に向かって墜落する。

ガッチャ~ンという大きな音を立てて窓を突き破ったうちはコトはそのまま部屋の中に飛び込んでいった。

 

『きゃあああ!?』

 

『うわあ!? ななななんだってばよお前!? 俺のカップメンがあああ!』

 

『あいたた…って、そ、そんなことよりもんだいはこっちなのですよ! このままじゃへやがかじになっちゃうのです! みずみずみずってうわっちちちちあちちち』

 

『なんかあしがすげ~燃えてるってば…ってこっちに来るなってばよ!』

 

何やら部屋の中は大騒ぎになっているらしい。

飛行する非行少女、とか下らないことを考えていたカナタはその悲鳴に我に返る。

カナタは慌ててバケツを片手に件の部屋に突撃した。

 

良く晴れた、いつもより青い空のある日の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

あれから1年ちょっと。

私はコトがどういう奴なのか大体は理解したつもりだ。

天才と紙一重のバカであり、底抜けに前向きで懲りるということを知ろうとしない。

失敗を糧に前に進み、進んだ先でさらなる大失敗を繰り返す。

極めてまれな極々一部の成功例も、実用性はあっても需要がまるでないような、おおよそ本人以外には全く価値が理解できない代物ばかり。

確かに凄いといえば凄いんだけど、なんか違う。

 

そんな微妙なものばかり生み出す悪い意味でポジティブな明るい少女……何だけど。

 

いくらなんでも最近のコトは明るすぎやしないだろうか?

先の悲劇にしてもそうだ。

どうやら切り替えたわけでも乗り越えたわけでも吹っ切ったわけでもない様子だ。

 

以前の水分身みたいなおかしさは感じない。

ただ、足りない。

なにかとても重要なものが欠け落ちてしまったかのようなアンバランスさ。

 

以前からその整った白い外見故、どこか人形みたいな印象があったが、最近のコトは以前に増して作り物めいた印象を受ける。

それも頭に「壊れた」もしくは「イカレタ」「狂った」が付くタイプの。

 

私がそんないぶかしげな視線を向けているとは露知らず、コトは今日も今日とて相も変わらずだ。

 

「見てください。まずは右手に『起水札』」

 

また、バカなことを始めたらしい。

以前と全く変わっていない……少なくとも行動は。

 

「次に左手に『起土札』です」

 

コトは両手に持った性質の違う2枚の札を十字に重ね合わせて地面に手をついた。

そして何やら気合一発、札に練り込まれたチャクラと術式を同時開放する。

その結果―――

 

「―――どうですか?」

 

「いやどうって言われても…」

 

地面から双葉が生えてきたねとしか…これがなんだっていうの?

 

「なんだって私は、異なる2種類の属性、『土』と『水』を組み合わせることによりチャクラを生命エネルギーに性質変化させたのですよ!」

 

超凄いんですよこれ! とコト。

確かに説明を聞くと凄そうだけど実際起きた現象は地面から指の先ほどの小っちゃい双葉が生えただけだし。

 

「地味じゃない?」

 

「地味!? 生命を新たに生み出すという文字通りの神業が地味!?」

 

ガーンとショックを受けたように固まるコト。

その後そんなぁ~とへなへなと崩れ落ちる。

いやだって、ねえ?

 

「いや良いです」

 

すぐに顔を上げるコト。

相も変わらず、いやいつにもまして立ち直りが早い。

 

「今でこそこの規模ですがもっと極めればいずれ…」

 

ぶつぶつと術の理論を高速でつぶやき始めるコト。

 

まただ。

私は思わず顔をしかめた。

 

最近コトが良くするようになった表情だ。

前を見ているように見えて、その実どこも見ていない。

ここじゃないどこか違う世界を覗こうとしているような、虚ろな表情だ。

私はコトのこの表情がどうしようもなく好きになれない。

 

極めて、極めた先で、さらにその先の何を目指しているのやら。

コトは本当に神になるつもりなの?

 

神になって何をするつもりなのか…

 

(まあ、コトが将来何になるにせよ。私には関係のないことか)

 

コトのことが理解できないことはいつものことだ。

ならばこれはいつものことであり、いつものコトだ。

いつも通りのコトだ。

 

ならば私も、いつも通り適当に話して、適当に傍にいればいい。

 

これまでも。

 

そしてこれからも。

 

 

 

 

 

 

カナタは全然分かってないのですよ。

これがいかにすごいことなのか理解しようとしません。

というより、意図して理解しないようにしている節すら感じます。

意地悪です。

 

現在、私たちのくのいちクラスは野外実習中です。

なんでも、女を武器? にするための一環として花の勉強をするのだとか。

今一歩そっち方面には疎いので関連性がよく分からないのですが、この環境は内緒話をするのに極めて好都合なのです。

 

何せ、生徒が広範囲に散開するので教師の注意が散漫になってくれるのですからね。

おかげで隠れてこっそり忍術の実演とかもできちゃいます。

口うるさいんですよねスズメ先生。

 

 

 

今回私が行った実験は、チャクラから何とか生命エネルギーを作り出せないかと試行錯誤した結果です。

出来ないとは思いませんでした。

実例をその身でもって体験してますし、何よりチャクラは『火』や『風』にだって変化しちゃうんです。

ならば、『生命』だって可能なはず。

むしろ元が身体エネルギーと精神エネルギーであることを考えたら生命エネルギーの方がよほど近いのではないでしょうか。

 

そんなこんなであれこれ試行錯誤した末、『符術』をより発展させる形で私の目論見は実現したのです。

 

通常の印を組んで発動するタイプの忍術発動形式では、性質の異なるチャクラを2種類以上同時に発生させることは原理的に不可能です。

火遁を使いながら、同時に水遁を使うなんて普通の人には無理です。

右見てる時に左も見ろって言ってるようなもんなのですよ。

 

ですが、札にあらかじめ性質変化させたチャクラを練り込んでおいて任意のタイミングで開放するという方式の私の『符術』なら、本来不可能なはずの異なる属性チャクラの同時放出が可能となるわけです。

アイデアの勝利なのですよ。

 

この方法を思いついたとき私は、札の種類次第でチャクラの属性をパズルみたいに組み替えて、生命に限らず新しい性質変化を作り放題……にできるかと思いましたがそれはさすがに無理でした。

少なくとも現状は。

 

生命エネルギーへの性質変化に限らず、基本の五大性質変化以外の性質変化を発生させるのはとてつもなく困難であるということを思い知ったのです。

考えてみれば当たり前の話なのですよ。

仮に土遁と水遁の術を同時に発動して何の工夫のもなく合わせたところで泥水の濁流になるだけで新しい性質変化になるわけがないのです。

 

結局、五大性質変化全10通りの組み合わせを片っ端から試したのですが結局成功したのは『水』と『土』の組み合わせだけでした。

うちはの『火』を除けば、私の基本性質と同じなのです。

何か相性とかあったのですかね。

『生命』と相性がいいとか、何かの運命を感じさせなくもないです。

 

これを改良発展させていけばいずれ……

 

「……まあ、その話はこれくらいにして、そろそろ真面目に授業しない?」

 

「む?」

 

やけに強引な話題変換ですねカナタ。

そんなにつまらなかったですかね。

凄いんだけどなぁ~

 

「いや、そういうわけじゃ……でもほら、他の子はみんな真面目に「キャー先生ええええ!」」

 

 

……なんか今、トリカブトの花を口にくわえて涙目で爆走する同級生が視界の端をよぎったのですが……

いや確かに毒があるのは根っこだけでそれ以外は無害かもしれないですけど……というか、どんな状況なのでしょう?

 

 

「……真面目?」

 

「あ、そういえばさ! あっちの方はどうなったの?」

 

カナタがこれまた強引に話題転換。

あっちってどっちですか?

 

「いやほら、コトが前に頑張ってたやつ……『謎チャクラ』がどうとか」

 

「あ~あれですか。あれは諦めました」

 

「諦めた!? コトが!?」

 

「というより、今の時点でやれることがなくなってしまったというか」

 

カナタさん。

私が諦めるのがそんなにおかしいですかそうですか。

 

 

かつて『謎チャクラ』の極悪な副作用を文字通りその身をもって味わった私でしたが、その経験は決して無駄ではありませんでした。

この副作用、取り込み方次第によっては抑えることができる可能性が浮上したのです。

 

気づいたのは異なる2つ以上の属性の『謎チャクラ』を同時に取り込んだ時でした。

 

『水』と『土』から発生させた『謎チャクラ』を同時に取り込んだところ、『土』の副作用である体型変形は発生したのですが『水』の体色変化は起こらなったのです。

 

このように取り込む属性の組み合わせ次第では副作用が片方発生しないのですよ。

 

『土』と『雷』だと、激痛は走るが体形変化は起きず

 

『風』と『雷』だと、意識は遠くなるが激痛は走らず

 

しかし『水』と『風』だと両方の副作用が発生して…

 

 

そうやって何度も組み合わせを変えて副作用の有無を確認していった結果―――『火』は取り込まないのですかって? 完全に抑えられるという確証を抱かない限り取り込みません―――ある法則の仮説が浮かび上がってきたのですよ。

 

ポイントは五大性質変化の優劣の法則です。

『火』に『風』をぶつけると『火』はさらに激しく燃え上がり、しかし『水』をかけると消えてしまう~というあれです。

 

どうやら各属性の『謎チャクラ』はこの法則に従って隣り合った属性の副作用を打ち消しているのではないかと考えたのですよ。

そう考えれば『水』と『風』を取り込んだ際にどちらも打ち消されず両方の副作用が発現したのも説明がつくのです。

『水』と『風』は相関図では隣り合ってませんからね。

 

つまり、『火』は『風』の意識が遠のくのを防ぎ、

『風』は『雷』の激痛を抑え、

『雷』は『土』の変形を打消し、

『土』は『水』の変色を中和して、

『水』は『火』の狂暴化を鎮静するということです。

 

この仮説のもと何度か実験を繰り返したのですが、どうやら大当たりみたいですね。

理屈がわかれば話は簡単です。

扱いにくい『謎チャクラ』、これの副作用を完全になくすにはどうすればよいのか。

 

決まっています。

『火』『水』『風』『土』『雷』、5つの属性の『謎チャクラ』をバランスよく同時に取り込めばよいのです!

 

そうすれば互いの属性が互いの副作用を無効化、相殺、調和された謎チャクラとして取り込めるはずなのですよ!

 

 

 

…………いや無理でしょ。

 

 

 

無理です無理無理。

明らかに実現不可能机上の空論です。

なぜなら今の私では1つだけでもいっぱいいっぱいなのですから。

最高に調子がいい時に限界まで無理しても2つが限界です。

5ついっぺんにとか夢のまた夢です。

もし取り込んだら逆に『謎チャクラ』に取り込まれちゃいます。

 

「もし取り込まれたらどうなるか……」

 

「…どうなるの?」

 

「ネズミさんで試したら、急にカエルになって石になっちゃいました」

 

「……は? ネズミがカエル? それはあれ? 忍法・カエル変えるの術とかいうダジャレなのかしら?」

 

「冗談じゃないんですよ。本当にカエルになったんです」

 

また、次に試したらヘビになりましたけどね。

そしてその次はキツネ。

その次はウシ。

タヌキ、変な植物、イヌ、ナメクジ、ネコちゃん…そしてその次は以下省略。

 

どうやら『謎チャクラ』は、いやもう『自然エネルギー』で確定でいいですかね。

『自然エネルギー』はアンバランスで不安定な状態で取り込むと、それこそ不自然に変色したり変形したり狂暴化したりして異形の怪物に成り果ててしまいますが、バランスよく取り込むと、バランスのとれた生物―――つまり実在する野生動物に変化しちゃうみたいなのですよ。

そしてさらに完全に取り込まれると最終的には化石(自然そのもの)になってしまうと。

強大な力にリスクはつきものですが、なるほど大自然の力はなかなかどうしてハイリスキーなのです。

 

「そんなの取り込んでよく無事だったわね……」

 

「ハハハ」

 

「……実はもう人間やめてたりはしないよね?」

 

「そんなわけないです」

 

いくらなんでもそれはないですよ。

毎回、取り込んだ自然エネルギーはきちんと体外に放出していますし、ネズミさんだってきちんと……

 

 

 

…大丈夫ですよね?

 

 

 

 

 

 

「バカな…木遁じゃと!?」

 

うちはコトの様子を遠眼鏡の術で観察していた火影・猿飛ヒルゼンは驚愕に目を見開いた。

木遁は初代火影・千手柱間だけが使うことのできた血継限界だ。

うちは一族であるコトはもちろん、1人の例外を除けば誰にも使用できない筈だ。

 

しかし、水晶玉に移っているコトが使った術は小規模ながらも間違いなく木遁。

チャクラを生命の源にする秘術である。

 

「いったいなぜ……いや」

 

ヒルゼンは疲れたように首を振ってどっかりと椅子に座りなおしキセルを吸った。

立ち上った煙がユラユラと天井に上っていく。

 

千手の血がなければ扱えない筈の木遁をなぜうちはコトが使えたのか。

答えはすでに出ていた。

可能性だけで考えれば別段不思議じゃないのだ。

 

うちは一族の中でもコトの家系、南賀ノ神社の巫女の血筋は特別なのだから。

 

ヒルゼンは部屋の壁に掛けられた歴代火影の写真を見やる。

注目するのは左から2番目。

 

「…先代…扉間様…どうやら千手の血はうちはの中においてもしっかり根付いていたようですぞ」

 

そこには短い白髪を逆立たせた鋭い目つきの男が写っていた。

 

 




オリ設定の嵐再び。

回想でコトが使った術の漢字表記は「符術・火遁蒼天突破」です。
鉄腕ア○ムを連想すれば大体あってます。
なぜ風遁にしなかったし…

疑似血継限界のネタは符術を思いついた時からずっと考えてました。
というか、ナルトも風遁以外の性質変化覚えたら影分身で同じようなことができそうな気がするのは僕だけでしょうか…

ヒルゼンさんも使えそうなのに使わないのは、異なる属性チャクラの合成ってかなり難しいんでしょうね。
少なくともネギまの咸卦法程度には。

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