「火影様……これを見てください」
アカデミー教師の1人が火影に1枚の札を差し出した。
うちはコトから没収した、囮の水分身に組み込まれていたものである。
「……これはまた」
現火影・猿飛ヒルゼンは眼を見開いて低くうなった。
水分身に限らず、「分身の術」とは自分以外の物質ないし空間にチャクラを流して自分に変化させ操作する術である。
いわば「変化の術」と「身体操作術」を複合した応用忍術だ。
アカデミーで習う忍術(隠れ蓑、縄抜け、金縛り、変化、変わり身)の集大成でもあり、それ故にアカデミーの卒業試験にもなっているが、やはり基本忍術でしかなく術者の意思を超えて自立行動するような高度な機能はない(完全に原理を異にする影分身の術は別にして)
しかし件の少女はその常識を覆した。
「彼女はいったいどこでこんなものを……」
「自作したらしい。……本人の言葉を信じるのであれば、だが」
うちはコトが自作したらしいその札は、紙面が真っ黒に見えるほどに緻密に術式が書き込まれていた。
それらは全て条件文と命令文。
こう聞かれたらこう答えろ。
この状況になったらこう行動しろ。
ありとあらゆる場面を想定し、その全てに的確で自然な行動をするように術式がプログラムされていた。
そう、まさにプログラムである。
「原理こそ単純ですが……もはや人工知能の領域ですよこれ」
「末恐ろしい少女ですな。これがうちはか……」
「いや、単なる血筋の問題ではあるまい。彼女が凄まじいのじゃ」
「しかし、だからこそ余計に―――
「―――勿体ないなぁ。コトがその気になったら学年で一番の優等生になれるのに」
空色の髪の少女、そらのカナタは残念で残念で仕方がないといった目で私を見つめてきました。
「その気ってどの気のことですか? 私はいつだって本気ですよ?」
「いやだから、今回の……水分身? だっけ? そういう忍術を無駄遣いせずもっと真面目なことに使えばってことだよ。そうすれば皆コトのこと見直すのに」
カナタは私をまっすぐに見つめて言います。
「それなのに、あの落ちこぼれのうずまき君と同レベルの評価しか受けてないなんて」
そういって、カナタは目の前で男子生徒と組手をしている金髪少年うずまきナルト君を示します。
あ、がむしゃらに突っ込んであっさり倒されました。
「むむ、いろいろ言いたいことはありますが、とりあえず3つほど反論することにします。まず1つ、私は術を無駄遣いなんかしていません」
そもそも術の正しい使用法って何なんでしょう?
間違った使い方って何でしょう?
どんな術も使い方次第だと思います。
戦闘用に編み出された忍術だからと言って、その忍術を戦闘にしか使わないなんてそれこそ勿体ない話です。
チャクラも、忍術も素晴らしい力です。
それこそ無限の可能性を秘めた夢の力です。
もっと別の使い方があるはずなんです。
敵を傷つけ倒すための、争いのための忍具の1つとしてではなく、もっと別の使い方が。
……悪戯に使うのが正しいのかと言われたら、反論できませんが。
それでも殺しなんかに使うよりかはよほどマシだと思います。
もっとも、いまだかつて誰にも理解も共感もされたことのない思想ですが。
「2つ。私は普段の授業は手を抜いてません。全力です」
「……本当に?」
「誓って本当です」
カナタは私のことをわざと手を抜いて本来の実力を隠した陰の優等生……だと考えているようですが、それこそ買い被りなのです。
確かに忍術理論などの授業は得意だといえますが、体術や手裏剣術は決して得意とは言えません。
むしろ苦手です。
総合成績では私は大体クラス全体で真ん中あたりという評価をされていますが、それは極めて妥当な評価なのです。
うちはだからって何でもできるって思うなよ。
サスケ君が別格なんです。
ちなみにその別格であるところのエリート優等生うちはサスケ君は、うずまきナルト君の次の組手相手に選ばれました。
ナルト君が一方的に突っかかっていき、サスケ君がそれを適当にあしらっています。
2人は先生にたしなめられて組手を始めます。
「そして3つ。これは彼の名誉のためにも言わせていただきますが……」
重要なことなので私は改めてカナタに向き直り、はっきりした声で
「ナルト君は決して落ちこぼれなどではありません。むしろ天才です」
次の瞬間、ナルト君がサスケ君に投げられて宙を舞いました。
周囲から黄色い声援が上がります。
むろん、注目されているのは投げ飛ばしたサスケ君です
人気者ですね……
「……」
「……」
「……ナルト君は決して落ちこぼれでは…」
「いいから、繰り返さなくても聞こえてるから」
ひらひらと手を振って私のセリフを遮るカナタ。
「あのさ……ひょっとしてコトはうずまき君のことが好きなの?」
恐る恐るといった様子でそうたずねてくるカナタ。
何でそういう話になるんですか。
「あのですね、私はそういう理由でナルト君を擁護しているわけでは「こ、こここコトちゃん!? もナルト君のことがすすす好きなの!?」違うって言ってるでしょうが!」
ええい、どっから湧いて出てきましたかこの日向のおかっぱは。
日向ヒナタさん。
木ノ葉の名門日向一族の女の子でアカデミーでは極めて珍しいサスケ君に靡いていないくのいちの1人です。
かくいう私とカナタもその1人ですが。
同じうちは一族ということで親戚という印象が強いせいか私自身サスケ君をあまり異性として意識していません。
物心つく前から顔を合わせていましたからね、ほぼ兄妹です。
カナタは単純に恋愛にまだ興味がない模様。
ヒナタさんもカナタと同じだと思ってたのですが……今の反応を見るに違うみたいですね。
さすが
なかなか見る目があるのです。
「まあ、それはそれとして…うずまき君のいったいどのあたりが天才なのかしら?悪戯の天才とか言わないよね?」
「無論違います。まあ、そっちの才能があるのも否定はしませんが」
あと、確証はありませんがギャンブルの才能もあるんじゃないかとひそかに睨んでます。
ここぞという時にとんでもない確率で何かを引き起こす意外性がありますから。
機会があれば賭場にでも連れ出してみたいものです。
きっと儲かりますよ~
……本当に多才ですね。
忍者にならなくてもやっていけそうです。
「それで?うずまき君の隠れた才能って?」
カナタはもちろん、ヒナタも興味津々の様子でこちらの言葉をせかしてきます。
別に隠れてませんけどね。
普通に一緒にいれば気づくはずなんですけどね。
哀しきかな、その『普通に一緒にいる人』がどういうわけか極端に少ないのでした。
話せば面白くていい子なのになぁ……なんで避けられてるのでしょう?
やっぱり悪戯行動がまずいのですかね?
「まあ見てくださいよ」
私はそういってナルト君の方に視線を移します。
現在彼は、とにかく誰でもいいから勝ちたいらしく手当たり次第に組手をふっかけては返り討ちにされるということを延々と繰り返していました。
あ、また別の誰かに喧嘩……じゃなくて組手を申し込んでます。
最初からカウントすれば、かれこれもう7人目になるのですよ。
「……どう見てもいいようにあしらわれているようにしか見えないんだけど?」
「この場合、勝敗の結果は問題じゃないんです。問題は倒されても倒されても立ち上がり続けていることなのです。
カナタはようやく気付いたのかぎょっとした目でナルト君を注視します。
地面を転がされ続けて泥だらけになってるので目立ちませんが、よくよく見ればその異常性に気づきます
あのサスケ君ですらタオル(最近イメチェンしたらしい桜色の髪の同級生女子に手渡されました)で汗を拭き、水筒(クラスの女子のリーダー的存在である金髪ポニーテールが渡していました)から水分補給をしているのです。
持久力に優れているどころの騒ぎじゃありません。
組手の授業の前には悪戯のせいで教師と逃走劇をこなしていたことも含めれば体力バカという表現すら生温い底なしのバカ体力なのですよ。
……まあ、問題はナルト君自身がその自分の才能に気付いておらず、仮に気づいても今のところそれを全く活かせないことなのですが。
才能の無駄遣い、というか、盛大な宝の持ち腐れ状態なのです。
「……倒れても倒れても立ち上がる、絶対にあきらめない。それがナルト君のすごさ?」
そしてヒナタさん、あなたは私の話をちゃんと聞いていたのでしょうか?
いやまあ、ナルト君のそういうところも凄いことは否定しませんけど。
それはまた才能とかとは別の話のような気がします。
「……はぁ~」
カナタは感心なのか呆れなのか分からない溜息をつきました。
そろそろ見学も終わりですね。
次はくのいちクラスが組手をする番です。
私はサスケ君に水筒を渡していた金髪ポニーテールに組手で華麗に組み伏せられ、イメチェン桜髪に「しゃ~んなろ~」という謎の掛け声のもとぶん殴られて宙を舞いました。
……私は運動苦手なのですよ。
主人公は解析タイプです。
感知タイプではなく解析。
つまり「戦闘能力たったの5か…ゴミめ」はできるけど
「チャドの霊圧が…消えた?」はできないということです。
いわゆる学者肌、強能力チートではなく、技術チートになりそうです。
それ以外は並です。
あからさまにインドア派なので体術は苦手。
というか、同じ学者タイプであるはずなのに戦闘力もインフレしてる大蛇丸がおかしい。
なお、水分身の解釈は作者の妄想です。
水分身に札を埋め込んで~の件は原作で大蛇丸が穢土転生の死体に札を埋め込んで感情を上書きして制御したのと似たようなメカニズムだと解釈してくれれば。