南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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今回はマイカゼ視点です。


閑話 その2

私こと、月光マイカゼは異形の怪人と対峙していた。

 

「フハハハハ! 諦めろ! お前では俺様には勝てない!」

 

勝ち誇ってあざ笑う怪人。

私は膝をつくが、それでも負けじと言い返す。

 

「絶対に諦めない! たとえお前がどれほどに強大な力を持とうとも、俺は決して屈しない! 世界の平和のために!」

 

「バカめ! 平和なんてこの世の何処にあるというんだ? 何処にもない! だからこそ俺様が作るのだ! 完全なる平和な世界を! 俺様の超幻術によって! お前は黙ってそれを見ているがいい!」

 

怪人は、大仰な身振りで私を蹴りつけてきた。

 

「ぐはぁ!」

 

なるべく派手に吹っ飛ぶ私。

そして力尽きたようにその場に倒れる。

 

傍らでコトがマイクを片手に叫ぶ。

 

「みんな~! マスクド・ニンジャがピンチだよ! 応援して~!」

 

「「「がんばれ~!!」」」

 

 

響く子供たちの声援。

それを受けて元気を取り戻した私は再び立ち上がる。

 

「バカな!? まだ立ち上がるというのか!? どこにそんな力が!?」

 

大仰な身振りで驚く怪人。

 

「お前には永遠に分からないだろう! これこそが正義を、平和を愛する絆の力だ! 食らえ! 体術奥義・超火遁幻術斬り大手裏剣二段おとしの術!」

 

やたら長い名前の必殺技を受けた怪人は「バカなああああああ!?」という断末魔の叫びと共に爆散したのであった。

 

 

 

「おつかれ~。いや~凄い殺陣(たて)だったよ!」

 

「やっぱり、本物の現役忍者は違うなぁ~」

 

「……恐縮です」

 

変化の術(へんしん)を解いてステージの上から降りた私を、依頼主は満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。

しかし、私はどうにも素直に喜べないでいる。

 

「……どうしたんだ? 元気なさそうだが」

 

そう聞いてきたのは、同じく変化の術で怪人に扮していたヤマト先生。

今は私と同様、ステージから降りて変化を解いていた。

 

「いえ別に……ただ、設定を鑑みた場合、私ではなくヤマト先生がヒーロー役をやるべきではないかと思っただけで」

 

「それは仕方ないよ。第九班の中で異形の怪人(オリジナルのそんざい)に変化できるのは僕だけだし」

 

「……そうですね」

 

違う。

本当に私が言いたいことはそんなことじゃない。

 

 

最初の任務は赤ん坊の子守だった。

 

次の任務はお使いだった。

 

その次は迷い猫探し。

 

どれもこれも私的には張り合いのない任務ばかり。

だからこそ私はヤマト先生に言ったのだ。

子守とか、お使いとか、迷い猫探しとか、そういう任務じゃなくてもっとこう、自分の剣術(とくぎ)を生かせるような任務をしたいと。

 

その結果、私はステージの上で子供たちの声援を浴びながら謎の仮面ヒーロー『マスクド・ニンジャ』に変身することとなったのである。

確かに剣術や体術を活かす任務ではある。

だけど違う、違うんだよ。

 

ヒーローショーは違う、なんか違うんだ。

これならまだ猫探しの任務の方が忍者らしい気がする。

 

「いいなぁ、私も司会者じゃなくてヒーローになりたかったです。それかマッドサイエンティストのオロチ」

 

「コトの体術じゃ殺陣ができないでしょ。悪役も無理ね、迫力がなさすぎる」

 

「むむむ、残念です……」

 

カナタにバッサリ切り捨てられて落ち込むコト。

 

「あ、でも『火』の自然チャクラを取り込んだ状態なら「司会者で我慢します」…そう」

 

代われるものなら代わってあげたい……ヒーロー役に不満があるわけではない、ないけどなんか違う。

というか、これは本当に忍者の仕事なのか?

 

「何言ってるんですかマイカゼ? むしろ忍術が使える忍びにしかできない仕事なのですよ!」

 

微妙な顔つきをしているだろう私に対して、落ち込んでいたコトは即座に復活し憤慨したようにそう言った。

ちなみにコトは現在普段の巫女装束ではなく、司会者用のカラフルで可愛らしい装いをしている。

びっくりするほど似合ってしまっている。

本当に忍者か? と突っ込みたくなるが突っ込めない。

というのも実際問題として今までの任務(子守とかお使いとか)で一番貢献しているのは彼女なのだ。

 

もはやDランク任務は彼女の独壇場と言っても過言ではない。

共通の見解として一番忍びに向いていないはずのコトが実際は一番任務で大活躍しているという事実。

何かがオカシイ。

なのに突っ込めない。

 

 

確かにコトの言うとおり、変化の術を応用した種も仕掛けもない超変身は忍者にしかできないだろう。

現実には存在しない怪物だって変化の術で着ぐるみいらず。

キレのある殺陣も現役忍者ならではだ。

その他の特殊効果や爆発などの演出も忍術で全てまかなえる。

足りない人手は、ヤマト先生の木分身とコトの影分身で。

その他の小道具や大道具などの舞台セットも全て木遁で解決……

 

無駄がない。

感動的に無駄がない。

なのに感じてしまう圧倒的コレジャナイ感。

 

「何をぶつくさ文句言ってるのよマスクド・ニンジャ。ヒーローらしくないよ」

 

「私がヒーローなのは舞台の上だけだ!」

 

というかカナタ、私をその名前で呼ぶな。

 

「慣れない仕事で戸惑ってるのは察するけど、子供の夢を壊さないようにね? 忍者(プロ)なんだから」

 

カナタはそういって机に向き直る。

貴女も私もまだ子供(12さい)のはずなんだが。

 

同じ班の一員として一緒に任務を遂行するうちに分かったのだが、コトの陰に隠れて目立たなかっただけでカナタも相当な変わり者だった。

というのも今回の演目の脚本を書いたのは何を隠そう彼女なのだ。

 

 

 

優秀な忍者にして、平和を愛する男ヤマトは、世界征服を企てる悪の狂科学者(マッドサイエンティスト)・ドクターオロチに捕われてしまう。

ヤマトの優秀な才能に目を付けたオロチは、アジトで1週間に渡ってヤマトに千手柱間の細胞を植え付け、木遁の能力を持つ改造人間に改造する。

しかし、ヤマトは脳改造の寸前、頼れる先輩にして同じ平和を愛する仲間カカシに助けられ、アジトから脱出。

以後、ヤマトは謎のヒーロー『マスクド・ニンジャ』として、オロチが送り出す怪人達と戦うのであった。

 

全ては愛と平和のために!

 

 

 

カナタ曰く、ヤマト先生に聞いた実話をモデルにしたらしい。

ちなみにヒーローの必殺技はコトの発案である。

 

「くれぐれも、脚本の文末に『この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです』と書くのを忘れないようにね?」

 

「もちろんですって」

 

再三にわたって念を押すヤマト先生に、カナタはほとんど面倒くさそうに答える。

 

「機会があったら他の劇も挑戦したいわね。ド根性忍伝とか」

 

「え~!? 続き書かないんですか?」

 

「書かないんじゃなくて書けないのよ。所詮素人だからね」

 

「大丈夫、カナタならきっと凄い脚本家になれますって!」

 

いやコトさん?

カナタは脚本家じゃなくて忍者ですよ?

 

ヤマト先生も苦笑いを隠せないでいる。

何かにつけて周到な先生も自分の話した過去の体験談がこんな風に面白おかしくアレンジされて舞台として披露されるとは予想できなかったに違いない。

 

「しかし、忍術にこんな使い方があったなんて……これならフィルムさえどうにかできれば、ショーの他にも簡単な映画だって撮影できるんじゃないですかね? エキストラや配役も全部、影分身変化の術でどうとでもなりますし」

 

「はっ、甘いわねコト。確かに忍術を用いれば大抵のシーンは撮影可能よ。でも圧倒的に足りないものがあるわ。優れた映画は優れた脚本と名監督が必要なのよ! こればっかりは忍術ではどうにもならないわ!」

 

「た、確かに……」

 

「さらには演技力も足りないわ。アカデミーで習うような感情を表に出さなくするだけの上っ面の演技じゃだめなの。必要なのは感情に訴えかける本物の俳優が繰り出す心に響く名演技! これは変化の術で誤魔化すことは不可能!」

 

「そ、それはもっともなのですよ……」

 

クワッと目を見開いてペンを頭上に高々と掲げて力説するカナタ。

コトは戦慄の表情で慄いていた。

 

何を言ってんだこいつら……

 

「……ひょっとすれば私は何処か舐めていたのかもしれません。所詮は創作だと。でもそれは間違いでした!」

 

「その通り! たとえフィクションでも、いやフィクションであるからこそ私たちは現実以上の夢と希望を演出しなければならない!」

 

「「おおお!!」」

 

気づけば、コトだけではなく依頼主やその他の役者さんも感銘を受けたように顔を輝かせていた。

 

「…照明の角度を調節してきます。まだやることがあるかも」

 

「俺はスピーカーだ」

 

「じゃあ私はセリフの練習を……」

 

一瞬の間の後、先ほどよりも明らかに大きいやる気と情熱を全身に漲らせて一斉に動き出した。

いや、もうすぐ次のステージが始まるのだが…

 

「それでもまだやれることがあるはずだ。俺は特殊効果のスモークをもう一度見てくる」

 

「私も手伝うのです!」

 

コトも負けじと手を挙げて裏方の男性についていこうとする。

 

「助かるぜ嬢ちゃん」

 

「ちょっと待て、司会者はどうするんだ?」

 

「はっ!? そうでした」

 

「仕方ないわね。私が代わるわ」

 

「ありがとうございますカナタ!」

 

次の瞬間、コトとカナタの服が瞬時に入れ替わった。

後で聞いたところ、空蝉の術の応用らしい……また無駄に便利な術を。

 

「よし、今度も張り切っていこう!」

 

「「「おお~!!」」」

 

 

コトに代わって司会者になったカナタは、舞台(ステージ)の上で天真爛漫そのもののとびっきりの笑顔を浮かべて―――

 

 

『良い子の皆~! こ~んに~ちは~☆』

 

 

―――カナタの背後で『☆』が散るのを見た気がした。

『きゃるる~ん』という謎の効果音とともに。

 

「さすがだな」

 

「ああ、さすが忍者(プロ)だ」

 

しきりに感心する依頼主。

すでに出番に備えてマスクド・ニンジャ(ヒーロー)に変身していた私は何も言うことが出来なかった。

 

 

「……次の任務はもっと違うのをお願いします」

 

「…善処しよう」

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、ヒーローショーの任務を無事達成した次の日の任務受付所。

『任務受付はこちらまで』と書かれた幕を下げているカウンターには受付の忍――受付管理忍(かんりにん)が着座しており、受け付けた依頼をA~Dの難易度に振り分けて、任務に適した忍者たちを指名していくのだ。

と言っても、結成したばかりである私達『第九班』はDランク以外の任務を受けたことがないが。

 

しかし、今回受付の管理忍から書類を受け取ったヤマト先生の言葉はいつもと少し異なるものだった。

 

「よし、今度の任務は、里を離れての長期任務になる。心してかかるように」

 

里の外での長期任務……ということはもしかして?

 

「いよいよCランク任務ですか?」

 

「いやDランクだ」

 

がっくり肩を落とす私。

ちょっと期待してしまっただけに余計に落ち込んだ。

人が斬りたいとか、血に飢えた狂人みたいなことを思っているわけじゃないけど……それでも剣を振るえるような任務をやりたい。

最近は大根くらいしか切ってないし。

 

「内容は波の国で橋作りの手伝いだ」

 

「おお、とうとうガテン系いったね」

 

カナタも苦笑を隠せないでいる。

依頼内容の節操のなさにはもう慣れたらしい。

 

「……それは忍者じゃなくて大工さんの仕事じゃないんですか?」

 

「そんなことないですよ。高い場所で命綱なしで作業できるのは忍びだけなんですから。何のために木登りの行を修めたと思ってるんですか?」

 

「少なくとも土木工事のためじゃねえっての」

 

大真面目な顔をしているコトに、間髪を入れずに突っ込むカナタ。

 

「まあまあ、それにそういう依頼が来るってことはそれだけ木ノ葉の里が平和でなおかつ信頼されているってことだ。信頼されてなければ忍びに子守なんて頼まないわけで」

 

「依頼する方も大概だと思いますけどね」

 

木ノ葉の里は変わり者が多いよね、と笑うカナタ。

自分もその1人であることに貴女は気づいているのか?

 

ともあれ、正式に依頼された任務であることに変わりはない。

 

「依頼主は里の門で待っているから。各自荷物をまとめて1時間後に門のところに集合。遅れないようにね」

 

「「「了解」」」

 

「私、里の外に出るの初めてなんですよね。波の国、楽しみです!」

 

「こらこら遠足じゃないんだから」

 

「カナタとマイカゼは楽しみじゃないんですか?」

 

「……少しだけ」

 

「……私もだ」

 

まあ、危険のないDランク任務で気を張り詰めていても仕方がないか。

心中複雑な内心をよそに、私たち第九班はいつもよりたくさんの荷物をまとめて、木ノ葉隠れの里を後にした。




カナタは構想の時点では、コトに負けず劣らずのお調子者でした。
プロフィールの趣味や今回の話はその名残です。
そのせいで普段とのギャップが凄まじいことになってます。

かつて感想で「実はカナタも忍者に向いてないんじゃないか」的な指摘を受けました。

そもそも忍者に向いている忍者が、「NARUTO」にどれだけ登場したでしょうか?
ナルトはド派手だし、サスケは上司の言うこと聞かないし、サクラは初期では桃色一色だし…他にも遅刻魔、面倒くさがり、引っ込み思案、ぽっちゃり系……

……カナタはまだ忍者向きだと思います。


それはさておき、次回から「波の国」編です。
原作に沿いますが、原作と同じ展開にはしないつもりです。
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