南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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ずいぶん遅くなってしまいました。

ナルト原作は完結しましたけど、この話はまだまだ続きます。


26話

カイザさんが見つけたというガトーのアジトは、林を突き抜けた先にある海に面した海岸にありました。

サスケ君が鋭い目つきでその建物を観察します。

 

「ここがガトーのアジトか」

 

油断のないその眼は刃のような危なげな眼光を放っていて……もはや殺気です。

なんというか、息をするように戦闘モードに入りましたね。

戦う気満々なのです。

まだ戦闘どころか敵に遭遇すらしていないのに。

そもそも私たちの目的は侵入作戦であって、見つかって戦闘になったらいけないってわかっているのでしょうか?

 

「言われなくても分かっている」

 

何の気負いもなくそう答えるサスケ君。

コト(わたし)も戦闘行為に比べれば隠密行動はそれなりだと自負していますが、その私から見ても場慣れ具合が半端ないです。

どれだけ戦闘慣れ、いや戦場慣れしているのやら。

再不斬との対決はそれほどまでに過酷だったということなのですかね。

まあ、それはさておきアジトです。

 

「大きいですね。アジトっていうからてっきり秘密基地みたいなひっそりした感じだと思ってたんですが」

 

実際のアジトは、物資の運搬用と思われる大きな貨物船が何隻も停泊していてちょっとした港町みたいになっていました。

 

秘密基地どころか、むしろ堂々としたその威容は、後ろ暗いところなんか何もない真っ当な海運会社のよう―――って確か表向きはそうなんでしたね―――にしか見えません。

 

「本当に後ろ暗いところがないなら、海からも陸地からも見通しが悪くて発見されにくいこんな場所に拠点を設けたりしないだろ」

 

それはもっともですね。

現に今の今までカイザさん以外の誰にも見つかっていなかったわけですから。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「見張りの数が多すぎる」

 

サスケ君に指摘されて私は改めて件のアジトを観察してみると、なるほど確かに周囲を警戒する見張りがそこかしこに散見できました。

堂々と入り口に立っている人から、隠れて見張っている人までたくさんです。

一応プロの忍びとは言え、新米ホヤホヤの下忍である私達にあっさり発見されてしまっているあたり1人1人の練度は低そうですが、それを補って有り余るほどに数が多いです。

しかも全員目つきが悪いというか、人相が悪いです。

あまり人を見た目で判断とかしたくないのですが、それでも刀や鈍器などの凶器であからさまに武装している連中を危険人物と判定しないわけにはいきません。

停泊している貨物船も、よくよく見れば海賊船っぽく見えるのです……海賊旗(ドクロ)はさすがに掲げてませんけど。

 

「警戒厳重ですね……」

 

「何か見られたくないものを隠している証拠だ」

 

なるほど、と納得する私。

さて、どうやって侵入しましょうか?

私なら変化の術で『仲間のフリして見張りを素通りする作戦』を決行しますけど。

 

「俺が指示する。従え」

 

サスケ君にはサスケ君の何か考えがあるんですね。

分かりました。

 

「いいでしょう。とりあえずプランを聞かせてください」

 

サスケ君が自信満々に語ったアジト潜入作戦は次の通りです。

 

 

1 まず苦無と小石を用意します。

 

2 小石を投げて見張りの顎にぶつけて気絶させます。

 

3 気絶した見張りが倒れて音を立てないように素早く苦無を投げて壁に縫いとめます。

 

4 1~3を繰り返し見張りを全滅させます。

 

5 見張りのいなくなったアジトに正面から堂々と侵入。

 

6 以上。

 

 

……これ、作戦と言えるのでしょうか?

 

「楽勝だろ?」

 

「無茶言わないでください」

 

成功するわけないでしょうがそんな曲芸じみた作戦!

 

 

 

 

 

 

作戦は成功しました……

驚くなかれ完遂までの所要時間はわずか十分。

これだから天才って生き物は理不尽です。

なんでそんな適当に拾って適当に投げた小石があんなに正確に飛ぶんですか?

 

「手裏剣術の修行をしたからに決まっているだろうが」

 

心底馬鹿にしたような……いや、ようなじゃなくて紛れもなくバカにした声音でサスケ君が言いました。

 

「いや私もその修行はしてましたけど、それでも普通あんなに正確に飛びませんよ!」

 

「じゃあ、修行が足りないんだろ」

 

そっけなく言い放ち、サスケ君は正面から堂々とアジトに侵入を果たします。

理屈は分かりますけど、なんとなく納得しかねるような……達人の扱う小石は素人の手裏剣に勝るとは言いますけど、それでも限度ってあると思うんですよ。

そんなモヤモヤを胸に抱きつつ私は慌てて後を追いかけます。

なんか、私必要ないんじゃないかなって気分になってきますね。

先の作戦も、私がやったことと言えばせいぜい石をサスケ君の元に運んだだけですし。

あまりに空しすぎるので一応気絶した見張りの事後処理は私が引き受けましたけど、これまるっきり仲間じゃなくて下っ端の役目ですよね。

違うんですよ確かに以前よりは距離が近くなったかもですけど私が望んでいる関係はもっとこう対等で……と、私がそんな取り留めもないことを考えているうちにサスケ君がアジトの扉のノブをガチャガチャさせています。

 

「っむ、扉が開かないな」

 

「そりゃ鍵くらい掛かってるでしょうよ」

 

というか不用意にドアノブに触らないでください。

トラップが仕掛けてあったらどうするんですか。

全く何をやって…………いや本当に何をやっているんでしょうか今日のサスケ君は?

さっきの作戦といい、今度といい、いつもの抜け目のないサスケ君とは思えないほどらしくない行動です。

 

「おい、見張りの連中は鍵持ってなかったのか?」

 

「その質問。せめてドアノブに手をかける前にできなかったんですか?」

 

「うるさい。いいから質問に答えろ」

 

「持ち物は一通り調べましたけど、持ってませんでしたね」

 

おそらく通常とは異なる方法で閉じられているのでしょうね。

鍵がかかっていることは確かなのに鍵穴が何処にも見当たりません。

どこかに隠されているか、あるいは……

 

「……もともと鍵のついてない扉だったみたいですね」

 

「……? じゃあなぜ開かない?」

 

「内側から結界系の封印札が貼り付けられています」

 

おそらくはガトーが用心棒として雇ったという忍の仕業でしょう。

これじゃチャクラや封印術について学のない一般人は手出しできませんし、プロの忍者でも暗号術式を解読できなければ突破は厳しいでしょうね。

見張りをあっさり無力化できたから楽に侵入できるかと思いましたが、さすがに一筋縄ではいかないようです。

 

「解除できるか?」

 

「できますよ。3時間くらい時間をくれれば」

 

術式の解除コードが解らない以上、解除するには総当たりするしかありません。

こうなると必要なのは知識ではなく時間と気力と根性です。

 

「30分でやれ」

 

「無茶言わないでください!」

 

「得意分野でくらい役に立て」

 

「サスケ君は限度って言葉を知らないのですか?」

 

いくら得意分野でも無茶ぶりし過ぎです。

 

「ったく、仕方ないな」

 

やれやれと首を振るサスケ君。

良かった、解ってくれましたか。

 

「はい、仕方ないんです。ですからここは一旦……」

 

「壊すか」

 

「いろんな意味でちょっと待ってください!」

 

短絡的にも程がある!

本当にどうしたんですかサスケ君!?

 

「お前ごときが3時間足らずで解除できるような封印なら強引に破壊することも可能なはずだ」

 

「そりゃ確かに可能かもですけど、そんなド派手なことをしでかしちゃったら私達の存在が一発で露見します! サスケ君はいったい何のために見張りを全滅させたんですか!?」

 

本当にらしくありません。

いったい何がサスケ君をそこまで無計画にさせるのでしょうか?

 

「デカい声を出すな。気づかれるだろ」

 

「―――っ!? ~~~っ!」

 

「それで? そんなに言うんだったら何か他に方法があるんだろうな?」

 

「そ、それは……」

 

思わず言葉に詰まりました。

落ち着け私、今ここで何か画期的な案をひねり出せばサスケ君も少しは私を見直すはず……

私は何かないかとひたすら周囲を見渡して―――

 

「―――あ、あそこを見てください。通風孔(ダクト)があるのです」

 

「確かに見えるが、それがどうした? まさかあそこを通って内部に侵入するとか言わないよな?」

 

「そのまさかなのですよ」

 

確かに普通ならあんな狭い場所を通るなんて不可能です。

しかし私はそれを可能とする忍術を開発しているのですよ。

これは紛れもないチャンス、今まで日の目を見ることのなかった研究の成果をお披露目する時が来ました!

 

私は札を2枚取り出して、1枚を自分のおでこに貼り付けると、もう1枚をサスケ君に差し出しました。

 

「これを頭に貼り付けてください」

 

「ふざけてるのか?」

 

「大真面目です」

 

渋々従うサスケ君。

素直で大変結構です。

さあ、準備は整いました。

 

「行きますよ! スペシャルアドバイザーにチョウジ君を招いて開発した超忍術!」

 

「チョウジ? おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 

不安げなサスケ君を無視して、私は札に込められたチャクラを開放しました。

 

発動! 忍法・半化の術!

 

 

 

 

 

 

もともと、秋道一族の秘伝忍術(ばいかのじゅつ)には多大な関心がありました。

切っ掛けは私のお姉ちゃんことうちはミハネです。

当時12歳のミハネお姉ちゃんは開眼したばかりの写輪眼で必死に倍化の術をコピーしようと奮闘していました。

いくら写輪眼でも秘伝忍術をコピーするのは無茶だと周囲から言われたのですが、お姉ちゃんは諦めませんでした。

なぜか?

 

『なぜなら、倍化の術とは! 身体の一部の肥大化(ほうきょう)カロリーの消費(ダイエット)を一度に行える究極の忍術だからよ!』

 

その時、私は初めて目から鱗が落ちるという感覚を経験しました。

さすがお姉ちゃんというべきか、なんというか。

素直にその発想はありませんでしたね。

 

『逆転の発想ってやつですね!』

 

『アイデアの勝利よ。そしてこの術のコピーに成功した時、私は真にイタチ君にも勝利するのよ!』

 

そんな感じで意気投合した私達姉妹は研究を重ね、一族が壊滅し私1人になった後も、継続的に研鑽を続けたのでした。

まあ結果は、お察しですけど。

写輪眼を開眼した熟練のうちは一族でもコピーできない秘伝忍術を、まだ写輪眼に目覚めてもいないひよっこの私が習得なんてできるわけがありませんでしたね。

しかし、当初の目的である倍化の術そのものの解明習得はならなかったものの、全く成果が得られなかったのかと聞かれたらそうでもないわけで。

この研究で私はある意味『倍化の術』そのものよりも得難い副産物を得たのです。

 

 

 

 

 

 

「やった! せいこうなのですよ!」

 

「おい! これはいったいなんだ!? せつめいしろ!」

 

「『はんかのじゅつ』ですよ」

 

またの名を『逆倍化の術』

名前の通り秋道一族の秘伝忍術『倍化の術』の効果をそのまま反転させた効果を発揮します。

 

 

つまり、大きくなるのではなく小さくなるのです。

 

 

この術のおかげで私とサスケ君は見事、通風孔を余裕で通れるサイズの小人に変化することに成功したのです。

いや~こうしてちゃんと成功しているのを実感するとなんだか感慨深いものがありますね。

思えば最初は失敗ばかりでした。

小さくなることはできても等身が崩れて頭だけが不自然に大きい二等身デフォルメキャラみたいになったり、服がそのままの大きさで取り残されて縮むと同時に素っ裸になってしまったりと散々でしたが、その甲斐はありましたよ。

 

「ふざけるな! もとにもどせ!」

 

「だからふざけてませんって。べんりなんですよじっさい」

 

この姿なら食べ物や飲み物の消費もずっと少なくて済むのです。

それにほら、こういう潜入にも使えるわけで。

 

「まあ、たしょうのリスクがないわけではないですけどささいなことですし、うらをかえせばかいりょうのよちがのこっているということで……ってああ!? なにしてるんですかサスケくん! かってにふだをすてないでください!」

 

サスケ君は乱暴におでこのお札(元の大きさのままなので異様に大きく見えます)をビリッと剥がすとそのままくしゃくしゃに丸めてどこかに抛り捨ててしまいました。

先ほどの小石同様、無駄に真っ直ぐ、鋭く、そして遠くに飛んでいくお札……なんてことを。

 

「くそっ、とっととしんにゅうしてもとにもどるぞ!」

 

「ああ、まってくださいよ!」

 

肩をいからせながらとっとこ走るサスケ君(小)を、私(小)はとてとて追いかけるのでした。

 

……主導権を握りそこなったことに私が気づいたのは、ずっと後の事でした。

 

 

 

 

 

 

密かにサスケとコトの2人を尾行していたはたけカカシは、サスケが丸めて放り捨てたコトの札を誰に気づかれることもなくこっそりと回収した。

 

「まったく、こんな危険な代物不用意に捨てないでちょうだいよ!」

 

くしゃくしゃになった札のしわを念入りに伸ばして、さらに巻物に挟み込んで封をし、縛る。

まるで門外不出の機密文書のような厳重なとり扱い。

否、「まるで」ではななく、「まさに」である。

 

「潜入任務は土遁で地下からってのがセオリーだったが……そう遠くないうちにその常識が変わるかもしれないな」

 

そう、コトの札はまさに忍びの常識をひっくり返すほどの可能性を秘めていた。

こんなのがあと何十枚もあると考えただけで、カカシは冷や汗が止まらない。

 

「テンゾ……ヤマトも苦労してるんだな」

 

カカシは誰にともなくそうつぶやくと、再び気配を消した。

 

 

 

 

 

一方、サスケとコトが独断でアジトに潜入捜査を開始してから一晩たっていた頃のカナタ達。

 

「……どうしてこうなったのかしら?」

 

霧に包まれた工事中の橋の上にて、カナタ(わたし)は誰にともなくそうつぶやいた。

 

 

 

今日も今日とで橋づくり(本当はその手伝いが依頼内容だったけれど、何時の間にやら主戦力になっていた)にやってきた私たちの目の前に広がる光景は完全に予想外だった。

 

工事に携わっていた波の国の職人たちが軒並み倒れている。

どう見ても敵にやられた後ですねはい。

 

「どうした! いったい何があったんじゃ!」

 

タズナさんが血相を変えて倒れている1人を助け起こす。

その人は小さく「ば…化け物…」とだけ言い残して気を失った。

とりあえず死んではいないという事実に私はほっと安堵の息をつく。

運が良かった……わけじゃないよねこれって。

 

「敵の襲撃か……当分ないと睨んでいたんだが当てが外れたな。しかもこの霧……」

 

油断なく周囲を警戒するヤマト先生。

辺りに立ち込めているこの霧、どう見てもただの霧じゃない。

おそらく霧隠れの術で間違いないでしょうね。

そしてこの術が発動しているということは……

 

「ね! ヤマト先生これって……これって()()()の霧隠れの術よね!」

 

緊張のためか、恐怖のためか、甲高い声で叫ぶ春野さん。

あいつとは、あいつのことよね……でも私としては正直信じがたい。

 

「あの、ヤマト先生? 一度仮死状態になった人間が3日足らずで戦線復帰するなんて可能なのでしょうか?」

 

「解らん。だが現にこうして霧隠れの術が発動しているということは奴が来ていると考えるべきだ」

 

油断なく周囲を警戒しながらそういうヤマト先生。

一見いつもと変わらず冷静に見えるが、普段から共に任務で活動している私には戸惑っているのが理解できた。

ヤマト先生にとっても、この状況は完全に予想の範囲外であるらしい。

 

はたけ先生の話では、一度仮死状態になった人間が元通りになるにはかなりの時間がかかるとのことだった。

故に最短でも1週間は鬼人・桃地再不斬の襲撃はない……はずだったのに。

 

しかし、現にこうして襲撃をかけてきている。

間違いなく奴だ。

七本ある霧の忍び刀のうちの一振り、断刀・首切り包丁を扱う霧隠れの鬼人。

桃地再不斬がここにきている。

しかも間の悪いことに、唯一再不斬と交戦経験があったはたけ先生はこの場にいない。

というか、木ノ葉の忍びの半数近くがこの場にいなかった。

 

いるのはヤマト先生と私とマイカゼと春野さん、それとタズナさんだけだ。

 

コトとサスケ君は昨日カイザさん捜索に出たまま、今日まで帰ってきていない。

2人に出会って説得されて帰ってきたカイザさんの話では、代わりにガトーのアジトに潜入しているらしい。

何無謀なことやってんだかうちはコンビ、エリートの血が泣くぞ。

サスケ君はともかく、コトは帰ってきたらほぼ確実にヤマト先生に大目玉をくらって、当分の間『私は上司の言いつけを破って勝手な単独行動に走りました』というプラカードをぶら下げて檻の中で生活することになるでしょうね。

 

そして、はたけ先生はそんな帰ってこない2人を探しに行ったっきり戻ってこない。

見事にミイラ取りがミイラになっちゃってる。

『俺の身体もほぼ復活したしな。ま、忍犬を使えばすぐだ』とか言っていたのに何やってんだ忍犬使い、その鼻は飾りなんですか?

というか、そんな便利な鼻があるなら最初からカイザさん捜索を手伝ってくださいよ!

 

ナルト君は修行のやりすぎで護衛についてくる体力が残っていなかったので、朝からカイザ邸のベッドで爆睡中。

何やってんだ体力バカ、肝心なところで体力使い果たしてどうすんのよ!

何とも恐るべきことに、彼は修行に夢中になりすぎて最初にカイザさんが姿を消したことにも気づいていなかったらしい。

確かにあの時、ナルト君は家にいなかったけど……私も含めて全員がナルト君に伝え忘れちゃったみたい。

どうやら互いが互いに「自分が伝えなくても他の仲の良い誰かが伝えるだろう」と思っちゃったらしく、結果、憐れナルト君は完全に蚊帳の外……

 

カイザさんをはじめとする波の国有志の自警団は相変わらず私達橋づくり推進派と別行動中でこの場にいない。

 

……なんで“こんなこと”にならないようにと必死になって頑張っている奴に限ってこの場にいないのよ。

 

なんでこうなったし……

 

いや、何も全部がこの場にいない彼らだけが悪いんじゃない。

そもそもこんなにメンバーがバラバラになっていたのは上忍2名含むほぼ全員が『襲撃は当分ない』と信じ込み、油断していたからよ。

 

想定よりもはるかに早い敵の回復。

ただそれだけの事実が、私たちの意表を突く正面からの不意打ちになってしまっている。

しかし、私が本当に不意を突かれたのは幸か不幸か()()じゃない。

 

『なんだ? カカシはいないのか、せっかくの写輪眼対策が無駄になっちまったじゃねえか……なぁ? (はく)

 

『そうみたいですね』

 

タズナさんの周囲四方を囲む形で周囲を警戒する私たちに、何処からともなく声が響いた。

霧隠れの術の副次効果なのか、はたまた別の術の所為なのか、声が変な具合に反響して出所がほとんど分からないけど、おそらく最初の渋い声が再不斬で、後の中性的な声が件の再不斬を仮死状態にして助け出した仮面の千本使いだろう。

 

そして私は、その仮面の千本使いの声に()()()()()()()()()()()()()()

 

(ヤバい、まさかあの時の綺麗なお姉さんが……)

 

 

 

私が彼女(?)と出会ったのは、コトと一緒に朝になっても木登りの修行に出かけたきり一向に帰ってこないナルト君を迎えに行った時だ。

 

何かあったのかと不安そうにしているコトをなだめつつ、そして私も若干心配しつつ、私達が修行していた林についたとき、ナルト君はその人と楽しそうに……とても楽しそうに薬草採集をしていた。

思わずちょっとキレてしまった私は悪くない。

散々人に心配させておいてこいつは……

 

それからいろいろあって、ナルト君から事情(いいわけ)を聞いたところ彼女(?)は、とある臥せっている大切な人の身体を治すため薬草を集めていたらしい。

その話を聞いて当然のごとく張り切りだしたのはお人好しの権化うちはコト。

 

コトは嬉々として懐から札を取り出して(まだ隠し持ってたんかい)木遁を行使し、自生している天然物より、数段上質な薬草をその場の即興で生やして見せた。

結果、お姉さんに大変感謝され「大切な人を守りたいと思った時こそ人は本当に強くなれるものなんです」とか、「僕は男です」とか、ためになる話や信じがたい事実などいろいろ言葉を交わして仲良くなった後、「またどこかで会いましょう」と再会の約束をして私たちは笑顔で別れたのだった。

 

めでたしめでたし……

 

 

 

なるほど。

つまり彼女(本人いわく彼)があの時言っていたところの『臥せっている大切な人』っていうのが、再不斬の事だったわけか……

 

いやはや、道理で異様に早く戦線復帰するわけよね。

コト特製のむやみやたらに高性能な薬草を煎じた薬なんか投与したら、そりゃ仮死状態の全身麻痺如きたちどころに快癒するどころか、下手すれば前より元気になっちゃうわ……いや~納得納得…………

 

 

―――ヤマト先生にバレたらコト共々殺される

 

 

「カナタ? 大丈夫か? さっきからやけに挙動不審だが……」

 

「だ、大丈夫よ! 問題ないわ」

 

マイカゼにいきなりそうたずねられて、思わず声が裏返った。

ヤバい、今の態度はあからさま過ぎた。

隠し事をしてると気取られたかも……

 

『よく見りゃカカシだけじゃなく随分メンバーが入れ替わってるな、あの威勢の良かったゴーグルのガキも、目つきの悪い黒髪のガキもいねぇじゃねえか』

 

「生憎とカカシ先輩の班は別件で忙しくてね。代わりに僕達が任務を代行させてもらっているよ」

 

ヤマト先生は再不斬の声によどみなく返事を返したところだった。

良かった、どうやら再不斬の警戒に手いっぱいで気づかなかったみたい。

 

『ほう……そうなのか。てっきり俺は写輪眼の反動でへばってるのかと思ったよ』

 

「そっちこそ、仮死状態から随分早く復活したみたいだね」

 

『幸運にも上等な薬が手に入ってな』

 

『ええ、()()()には感謝しないとですね』

 

「その()()()とやらが何処の誰だか知らないが、ずいぶんと余計なことをしてくれたもんだ……」

 

(ぎゃああああ!)

 

ヤマト先生と再不斬と白の余りにもド直球(ストレート)な会話に私は内心で絶叫した。

 

「カナタ?」

 

「大丈夫! 問題ないわ!」

 

今、私の顔は相当に強張っているに違いない。

この時ほど霧で視界が悪かったことに感謝したことはない。

 

『木ノ葉は本当に戦場にガキを連れてくるのが好きとみえる。しかも今回は女ばかり……震えてるじゃないか。かわいそうに。ある意味霧よりも残酷だな』

 

どうやら相手からはこちらの様子がよく見えるらしい。

違うから。

確かに震えてはいるけど、これそういう理由じゃないから!

私は内心で必死に『どうか余計なことは喋ってくれませんように……!』と祈りながら渋々戦闘態勢に移行するのだった。




とっとこ~走るよ~
小さくなる術って割と定番だと思うんですが、ナルトではついに登場しませんでした。

それはさておき、ちょくちょく回想で登場する姉が妙に存在感ある件……惜しいキャラでした。

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