直接的な感想は言いませんが、バトル物の少年漫画というより恋愛物の少女漫画に近いシナリオで個人的には大満足でした。
ナルヒナ万歳!
ただ…コトの割り込む余地はないよなぁと改めて実感します。
当たり前ですが。
そして個人的に注目している原作キャラが全く登場しなかったことに泣いた……大した見せ場もなくフェードアウトとか、漫画キャラとしてはある意味死ぬより壮絶な末路です。
それはそれとして。
前話で登場した半化の術に対し「変化の術で小さなものに化ければ事足りるんじゃないの?」という意見が結構あったのでその考察というか僕の見解を少し。
興味がなければ飛ばしてください。
まず前提として「小さなものに変化すること」は可能かどうかですが、これは原作にもそういうシーンは登場しているので可能です。
以下、サイズまたは形状が著しくかけ離れた何かに変化した者(変化後の姿)で
ナルト(風魔手裏剣影風車、赤丸、瓦礫など)
秋道一族一同(巨大化した自分)
赤丸(犬塚キバ、双頭狼)
犬塚キバ(双頭狼)
猿猴王・猿魔(金剛如意)
八尾の尾(キラービー)
他にもいるかもしれませんがこんな感じで。
こうして並べてみると、なんとなく共通点らしきものが見えてきます。
まず全員がチャクラを膨大に持っている、ないし持っているであろうということです。
ナルトは言わずもがな、赤丸とキバは変化時兵糧丸ドーピングでチャクラ倍増状態でした。
火影が口寄せした猿魔はいかにも特別っぽいし、八尾の尾は尾獣の一部、秋道一族はチャクラに加えてカロリーも消費して倍化しています。
このことから変化の術は燃費が悪い術であることが推察できます。
もし変化の術がローコストな術なら、中忍試験編の死の森にて大蛇丸はわざわざ化ける対象である草忍の顔をはぎ取ったりしないでしょう。
変化で十分です。
原作でも長時間にわたって変化の術を持続させたキャラはナルト(原作3話)以外登場していません。
おいろけの術、ハーレムの術なども一瞬の陽動でしか使われていません。
以上により、変化の術でのサイズ変化は可能ではあるがナルトなどのチャクラが有り余っている者か、秋道一族の様にチャクラ以外の何か(カロリーなど)で消費を補える特別な忍びしか使えないと結論しました。
「ふふ……」
無意識のうちに零れた笑みは誰に気づかれることもなく濃い霧の中に溶けて消えた。
不謹慎であることは重々承知しているが、それでも私こと月光マイカゼは今回の襲撃に少しばかり浮かれていた。
下忍になってから来る日も来る日も野良仕事の依頼ばかり、不満こそ口には出さなかったがそれでも退屈せずにはいられなかった。
決してやりがいがなかったわけではない。
しかし張り合いがあったわけでもない。
命の危険のない安全で簡単な依頼。
楽ではあったが楽しくはない任務を淡々とこなす毎日に辟易しつつ、気づけばそんな日常にも慣れと諦めを感じるようになってきていた。
橋づくりの長期任務が舞い込んできたのはそんな時だ。
最初こそ今回の任務も特に何事もなく終わるだろうなと悟りにも似た漠然とした諦観を抱いていたが、ゴロツキの襲撃を最初に徐々に風向きが変化し始めた。
明かされる波の国の切羽詰まった実情。
繰り返される嫌がらせという名の襲撃、他里の忍びとの初めての戦闘。
決して楽ではなかったが、それ以上にやりがいを感じていた。
そして現在、私は第九班の一員として工事中の大橋の上にて名高き霧の忍刀七人衆の一角と対峙している。
同じ刀使いの端くれとしてこれほど熱くなる対戦もそうないだろう。
私は興奮冷めやらぬまま意気揚々と刀を抜いて……
―――頭から冷水をかぶせられたような感覚と共に一気に酔いが覚めた。
そして自覚する。
私は調子に乗って酔っていたのだと。
息が苦しい。
まるで空気が薄くなったかのようだ。
喉の水分が一気に干上がり、酸欠の様に口をパクパクさせ、冷や汗が止まることなく流れ落ちる。
それなのに私は、深呼吸はおろか汗をぬぐうことすらできなかった。
ちょっとでも不用意に動けば、眼球の動き1つでさえ気取られ殺される。
それがはっきりと認識させられてしまう。
それほどまでに濃密かつ暴力的な破壊のイメージ。
ここまで考えてようやく私は“これ”が何なのかを理解した。
ああ、これが鬼人・再不斬の殺気か。
手が震える。
頭の中が真っ白になり、何を考えているのか解らなくなる。
戦いたいとか、本物の戦いを経験したこともないガキが何をほざいていたのかと数瞬前の自分を殴りたくなる。
忘れるはずがないのに、刀の扱い方を忘れそうになる。
こういう時の構えはどうするんだっけ?
上段? 下段? いやそもそも握りは……
「取り乱すな」
私の混乱した思考を、ヤマト先生の静かな声が断ち切った。
「確かに
僕がついているから安心しろとか、絶対に殺させはしないとか、そんな気遣いの言葉は一切出てこない。
何処までも実務的で現実的なヤマト先生の冷静な声が逆に私の心を安定させてくれた。
混乱が徐々に収まっていく。
忘れていた呼吸の分を取り返すように大きく息を吸い、吐く。
浮かれるのは不味いが、それ以上に委縮するのはダメだ。
落ち着け、冷静になれと自分に言い聞かせる。
大丈夫、ヤマト先生の言うとおり地の利はこちらにある。
此処は建設途中の橋の上。
例え霧で視界が最悪でも、何処に何があるかは全て把握している。
何せ実際に物資や工具を手に取って橋を建設していたのは私たちなのだから。
文字通り手に取るように分かる。
落ち着いた私を見て、ヤマト先生はさらに言葉を重ねた。
「何より海、水辺からはだいぶ離れている。カカシ先輩が手を焼いたという水遁の術は発動できないはずだ……」
「……確かに」
大橋の上なので、地図上の平面で言えばここは海上に位置しているが、肝心の海面は橋のはるか下だ。
ヤマト先生の言うとおり、あそこからここまで水を引っ張り上げるのは相当に困難なはず……
と、ここまで考えて私は不意に思考を停止した。
顔の大部分を布で覆い身の丈に迫るほど巨大な包丁を担いだ大柄な男の水分身が、周囲にずらりと並んだからだ。
水遁使ってるじゃないか。
「誰が、何を発動できないですって?」
「……大規模な水遁に訂正するよ」
カナタの冷めた突っ込みにヤマト先生が苦笑い交じりで言葉を返す。
先ほどまで何やら取り乱していたカナタもどうにか気持ちの整理を付けたらしい。
まあこの程度の水遁の術なら問題はない。
水龍弾や大瀑布の術でまるごと流されたりするのでなければまだ対処法はある。
それはそれとしてこの水分身達、冷静になって改めてよくよく観察するとなんというか……
「……クオリティ
「確かに、これじゃあ単に人の姿に化けて動いてるだけの水の塊だ」
無意識のうちに漏れたのであろう、カナタの呟きに私は全面的に同意した。
おそらく戦いに使う駒としての機能だけを追求した結果なのだろう。
武骨で大雑把な水分身だ。
「……一応、君たちに言っておくが、水分身とは本来そういう術だからね?」
暗にコトの水分身を比較対象にするな、と言うヤマト先生。
確かに、あの呼吸やら鼓動やら体温やらに加え、血液の循環から内臓、細胞の1つ1つにいたるまで精密に再現していたコトの水分身とは比べ物にならない、というか比べちゃいけないのだろう。
ヤマト先生の言うとおりあれは例外というか、いろんな意味で問題外だった。
「さて、無駄話は終わりだよ……来るぞ!」
再不斬の水分身軍団がニヤリと嗤い、一斉に襲い掛かってくる。
私はそのうちの1体を難なく斬り裂いて―――
「―――っ!?」
意外なほどに重たい手ごたえに驚愕した。
とりあえず斬って水に戻すことには成功した、したのだが、それでも想像よりもずっと堅い、というより強い!
「うそ!? 水分身なのになんでこんなに頑丈なの!?」
カナタも同じように驚愕の声を上げている。
「だから! コトのあれと比べるなと言っただろう!」
戦闘の最中にも関わらずヤマト先生の叱責が飛んだ。
ふがいない。
「っく!」
どうやら『水分身=水風船並に脆くすぐ壊れる』と無意識に刷り込まれていたらしい。
よもやこんなところまで染められていたとは。
侮りがたしはコトの水分身の影響力、おかげですっかり力の入れ具合を間違えてしまった。
戸惑う私を好機と見たのか、即座に襲ってくる2体目の水分身再不斬。
私は内心ひやひやしながらそれを刀でいなす。
水分身の偽物とは言え、断刀・首切り包丁の重い手ごたえが手を痺れさせる。
だがさすがにもう慣れた!
「遅い!」
元々、重くて小回りの効かない巨大包丁なのだ。
しかもそれを振るっているのは本体より数段スペックの劣る水分身。
見切れない道理はない!
あっさりと2体目の分身を切り捨てて水に帰した私は、その勢いを殺さぬままにすぐさま3体目の首を狩った。
4体目、5体目、6体目―――次第に加速している己を実感しつつ、私は無心のまま刀を振るう。
―木ノ葉流・
血しぶきの代わりに水しぶきが舞い散った。
花の様に、あるいは木ノ葉のように。
「よくやった、マイカゼ」
「…はい」
気づけば、周囲の水分身は全て元の水に戻り、あたりを濡らす水たまりになっていた。
実戦で刀をまともに振るったのは初めてだったが……うん、滑り出しとしては悪くない、戦える!
「ホー、水分身を見切ったか。結構な数を用意したつもりだったんだがな……あの
「そうみたいですね」
水分身を全滅させたことで、いくら分身をぶつけても無意味だと判断したらしい。
いよいよ本物の忍び刀七人衆のお出ましか。
そして、再不斬の隣には白と呼ばれた長い黒髪に仮面をつけた謎の忍者。
あいつが例の……
「カカシ先生の言った通りね。ったく、どの
サクラさんが憤慨したように声を荒げる。
1度騙された身としてはいろいろ思うところあるのだろう。
「(…………やっぱり間違いないわ)」
そして仮面忍者を見て何やら思いつめた顔をしているカナタ。
詳しい事情はさっぱりだが、こっちはこっちで何やら思うところあるらしい。
そして私自身も彼もしくは彼女には何やら感じ入るものがあった。
カカシ先生から唯者じゃないということは聞いていた。
しかし、実際対峙してみると唯者じゃない以上に得体が知れない。
なんだかよく分からないナニカを前にしたような……というかこの感覚、前にどこかで味わった覚えがあるぞ。
何処だったか……
「大した少女ですね」
「いくら水分身がオリジナルの10分の1程度の力しかないにしても、あそこまでやるとは…」
褒めているような会話を交わす再不斬と白。
だがそれはこちらを認めているからではない。
上から目線の、圧倒的強者の余裕のセリフだ。
姿こそ先ほどの水分身と同じだが、それ以外は全く違う。
10分の1とは言ったが、
「だが先手は打った」
空気が変わったのを肌に感じた。
来る!
「行け!」
「ハイ」
再不斬の命令を受けて即座に、仮面忍者――白が瞬身でこちらに急接近してくる。
こっちが先か!
超スピードで振るわれた千本を私は難なく刀で受け止めた。
「……っ! 凄いですね。先の水分身より相当速く仕掛けたはずですが」
「それでも見切れない速さではない!」
先の水分身は本当に油断して戸惑っただけである。
それに、いくらなんでも刀で千本に力負けする気はない。
間合いも威力も重さも千本より刀の方がはるかに上なのだから。
やや力任せに、それこそ細い千本毎両断するつもりで刀を振るう。
しかし白は、千本の微妙な力加減だけで刀の威力をやり過ごし、受け流してしまう。
こんな握りも何もない針で……!
私は過去、同じ刀や苦無などで武装した相手との戦闘訓練の修行を一通りこなしている。
だが、さすがに千本を近接武器に使う相手との戦闘訓練なんてやったことがない。
動きも間合いも他の武器とはまるで異なり、はっきり言って物凄くやり難い!
「タズナさん、倒れているギイチさんたちをこの場から離れた場所に運んでくれますか!カナタはマイカゼの援護を頼む! サクラはタズナさんから離れないように」
「超任せとけ!」
「了解!」
「うん!」
ヤマト先生の指示を受けた3人がそれぞれ行動を起こした。
タズナさんはギイチさんを肩に担いで運び、ヤマト先生とサクラさんはそのタズナさんを護衛。
そしてカナタは苦無を構えて白に向かっていく。
「白さん…だっけ? 正直、私はあんまりやりたくないんだけどね…!」
「僕もですよカナタさん。君たちを殺したくはないのですが……」
カナタの苦無は、難なく白の千本に弾かれた。
私の刀も弾かれ、お互い距離を取る。
2人がかりでもダメか……しかもどう見ても余力を残している。
本当に強い。
それとカナタ、何かあるとは思っていたがやっぱり初対面ではなかったんだな。
「いろいろあったのよ。ヤマト先生には内緒ね」
「……後で詳しい事情を頼むよ」
私はそういって刀を身体の後方にそらして構える。
木ノ葉流剣術・居待月の構え。
交叉法、所謂カウンター狙いの防御の構えだ。
白はそんな私を見て嘆息。
「やはり引き下がってはもらえないのですね」
「それはダメよ。ここで私たちが引き下がったりしたらあなたはタズナさんを殺しちゃうじゃない。それとも何? どうかこんなこと止めてくださいって言えば、白さんはこの場から引いてくれるの?」
心底疲れ切ったような、あるいは全てを諦めたような、そんな力の抜けた声でカナタはそう言う。
顔見知りらしいが、それでも引いてくれるとは欠片も考えていないようだ。
「…そうですね。お互い無理な注文でした」
白も残念そうに……本当に残念そうにそう返した。
仮面越しでも分かる。
どうやら私達を殺したくないというのは、演技とか建前だけの話ではなく心からの本音であるらしい。
甘い……いや、この場合は甘いのではなく優しいのか。
参ったな、さっきとはまた別の意味で戦いにくくなってしまった。
「しかし次、貴女達は僕の攻撃を避けることが出来ない。すでに先手を2つ打っていますから」
「2つの先手?」
「1つ目は辺りにまかれた水……」
私はここにきてようやく理解した。
最初の水分身は私たちを攻撃するためではなく、
「そして2つ目に僕は君達の動きを封じた」
「「!?」」
悪寒を感じた私はすぐさまその場から飛びのこうとして―――失敗した。
いつの間にか、足元にまかれていた水が凍りついて私とカナタの足をその場に貼り付けている。
「チャクラを氷に……いや、冷気に変えた!?」
「ウソ! 忍術の五大性質変化に冷気なんて……まさか血継限界!?」
なるほど、先ほど感じた悪寒の正体はこれか。
精神的な要因じゃなくて物理的に寒かったんだな……じゃなくて、これでは動けない!
「よくご存知ですね。その通りです。動けないでしょう? したがって、君達は僕の攻撃をただ防ぐだけ」
動けない私達を前に、白は悠々と印を結んだ。
周囲にばら撒かれた水が宙に浮かび、鋭い千本に形を変える。
千本の狙いは当然私達2人。
まずい、逃げられな―――
「秘術・千殺水翔!」
―――瞬間、私たちの周囲に千本の雨が降り注いだ。
「クククク…まあ、白が相手なら当然の結果だな」
再不斬が嗤う。
今動けば、再不斬を抑える者は誰もいなくなり、タズナさんを護衛のサクラごと殺すだろうことは容易に予想できることだった。
「随分とあのお面の部下のことを信用しているらしいね」
「信用? 違うな、単なる事実だ。白は強い。この俺よりもな」
再不斬の物言いに僕は内心で驚愕した。
白が強者であることはもはや疑いようもないが、それでも鬼人・再不斬を凌駕するほどとは思わなかった。
(はったりか? ……いや)
思案し無言になる。
再不斬は興が乗ったのかさらに言葉を紡ぐ。
「俺はあいつがガキの頃から徹底的に
「よほど自慢らしいね」
再不斬から少しでも情報を得ようと会話を続ける。
「部下に恵まれて良かったな。羨ましい限りだよ」
よってこれは作戦であって僕の本音ではない。
本音ではないのだ……!
「ククク、白に比べりゃ、お前の連れているガキなんざ
「な、なるほど」
何なんだこの敗北感。
何が辛いってほとんど何も言い返せないのが本当に辛い。
僕の部下だって才能とか実力だけなら誰にも負けないくらい優秀なはずなのに……なんでこんなにも違うんだ。
いや、それでも言われっぱなしは癪だ。
「とてもためになる自慢話をありがとう。お礼にこっちも少し自慢話をしてあげるよ」
「ん?」
「僕の部下もそっちの部下に負けず劣らず有能なんだよ。……それ以上に問題児なんだけどね」
いや本当に才能とか実力だけならコトとかマジで有能なんだからね。
あとはちゃんと立派な忍びらしくしてくれさえすれば……
「はっ、安い見栄だな……」
と、再不斬はそこまで言いかけて絶句する。
水煙の晴れた先に、白の秘術・千殺水翔に貫かれたはずのヤマトの部下2人が、先と全く同じ場所に無傷で佇んでいた。
「バカな!? 白が術の制御を失敗しただと!?」
再不斬は驚愕に目を見開く。
驚いているね、無理もない。
そしてさらに驚くことになるよ。
チャクラを練り上げ、印を結ぶ。
水と土の性質を合成し生命エネルギーを発生させる。
「木遁!? まさかお前も……!?」
「血継限界が自慢みたいだけどね。だが、木ノ葉にとってそれは特別であっても決して珍しいことではないんだよ」
他里に木ノ葉隠れの里の特徴を聞いたら、ほとんどの者が口をそろえて甘い忍び里だと答えるだろう。
そしてそれは間違いじゃない。
木ノ葉は甘い忍び里の代名詞だ。
だがそれは決して弱点でもなければ欠点でもない。
甘いということは器が大きいということ。
来る者拒まず全てを受け入れるということ。
血継限界を迫害してきた歴史を持つ『霧』とは根本的に分母の数が違うんだよ。
「木ノ葉の忍びをあんまり舐めるなよ。鬼人」
「……外れた?」
白さんが術の結果に驚愕の声を上げている。
そりゃそうよね。
逃げ場のない空間、避ける隙のない弾幕、動けない対象。
失敗する要因なんか皆無のはずなのに、放たれた水の千本は1本残らずそれて見当違いの場所に突き刺さっている。
なまじ才能のある天才有望人だったから、余計に信じられないのでしょうね。
自分が忍術の制御に失敗しただなんて。
正確には私が失敗させたんだけど。
「まあギリギリだったんだけどね。正直危なかったわ」
「っく!」
白さんはもう一度とばかりに印を結ぶ。
今度は先ほどよりも数段慎重に、より正確に。
でも無駄。
私にはもうそれは効かない。
卯丑子酉戌申午「卯辰子」未壬……「何!?」
完璧だったはずのチャクラのコントロールが乱れる。
白さんが結んだ印とは別に
結果、放たれた水の針は見当違いの方向に飛んでいく。
その隙に私とマイカゼは両足の氷を強引に引きはがそうと力を込める。
思い出すのは木登りの修行、あの時の要領でチャクラを一気に練り上げ……脚へ!
パキン、と。
氷というよりむしろガラスが砕けるような甲高い音を立てて氷が割れ、脚の拘束が外れた。
「よし!」
私は苦無を両手に構えて白さんに切りかかる。
隙を突いたつもりだったけど、マイカゼのそれより数段劣る私の苦無は当然のごとく余裕をもって受け止められた。
両手の苦無2本を片手の千本1本で受け止めるとか、やっぱり何度見ても反則じみてるわね……でも今はこれで良い。
私は鍔迫り合いの格好のままチャクラを練る。
「丑兎申酉……」
「…まさか!?」
信じられないようなものを見たような、いや
隙だらけだよ。
雷遁・感電派!
瞬間、私の身体から電気が迸った。
電流は苦無を伝って千本に流れ、白さんを痺れさせる。
今よマイカゼ!
「木ノ葉流・下弦の舞!」
同じように氷の拘束から脱出していたマイカゼが下からすくい上げるように斬撃を放つ。
刀が当たった……と思った瞬間に白さんの姿が消えた。
「瞬身っ! マイカゼ、今の当たった!?」
「いや浅い、外れた!」
どうやら一瞬白さんの瞬身の方が速かったみたい。
というより私の雷遁がショボかったのか……性質変化難しいのよね。
「いえ、当たってますよ」
白さんは私達から少し離れた場所に姿を現していた。
弱いとはいえ私の雷遁はそれなりに効いたのか、プスプスと煙を上げている。
アフロにはなってない。
その足元には斬り裂かれてぱっくり割れた仮面が転がっていた。
確かにマイカゼの刀は当たってはいたみたい。
そして衆目にさらされる白さんの素顔。
相変わらず綺麗ね。
マイカゼがその端正な素顔を見て驚愕。
「女性だったのか……」
「いえ僕は男です」
「なん……だと!?」
マイカゼ、さらに驚愕。
こら、しょうもない理由で隙を作るな。
まあ、驚くのも無理ないけど。
「驚いたのはこちらの方ですよ。カナタさん、まさか印を唱えて僕の印に割り込むなんて」
「そんな驚かれるような大層なことはしてないわよ」
原理としては幻術に近い。
相手の五感に働きかけ脳の経絡系を流れるチャクラをコントロールし幻を見せるのが本来の幻術。
だけど私がやったこれは完璧にコントロールするんじゃなくて、あくまでほんの一瞬相手の
というか、その程度しかできない。
つまり私のしたことは、いわば数字を順番に数えている人の耳元でデタラメな数字を囁いて混乱させるだけの、悪戯程度の小技でしかないのよ。
でも、今はそれで十分。
「水を水晶みたいに硬質化して針のように飛ばす。綺麗な術よね。精密で繊細で芸術的。まさに高等忍術。でも、だからこそちょっと横やりを入れて乱すだけで容易く術式が崩壊し誤作動を起こす」
「特異な術です……血継限界ですか?」
「むしろ秘伝に近いかしらね」
秘伝と言うか、コト直伝と言うか。
ちなみにこれを考案した本人は『
他人の術に介入し効果の阻害や意図的な誤作動を誘発させる、まさに才能を無駄遣いする術式マニアの問題児ならではの発想よ。
凡才の私には到底思いつかないわ。
「でもまあ、そんなわけだから……形勢逆転ってことで」
もう私達に忍術は効かない。
「まさか、あの白が……」
その再不斬が驚愕に眼を見開いていた。
「言っただろう、木ノ葉を舐めるなとね。こう見えても僕のチームは天才揃いだ」
もっとも、本人達にその自覚は全くないようだけど。
カナタは自分にない発想を生み出し続けるコトや純粋に身体能力で勝るマイカゼに嫉妬しているし、マイカゼはマイカゼで頭の良い同期2人に囲まれて劣等感を抱いている。
そしてこの場にいないコトもまた、「うちはの落ちこぼれ」である自分にない素養を持つ2人を心底羨んでいた。
改めて思う。
心底惜しいチームだと。
これで自信さえつけば下忍最強チームも夢じゃないはずなのに。
さらに言えば、僕の言うことを聞いてくれさえすれば……!
特にコト!
天才というプラスも、問題児というマイナスが掛かってしまっては極大のマイナスでしかないというのに!
「ククク…ククククッ」
「?」
突如嗤いだした再不斬に僕は首をかしげた。
「白…分かるか、このままじゃ返り討ちだぞ…」
「ええ…」
再不斬の声を聞いた白の纏っていた空気が変化した。
比喩的表現ではなく、物理的に。
白の身体からドライアイスの様に白い霧が発生し、周囲に冷気が立ち込める。
「残念です…」
まずい。
「カナタ! マイカゼ! すぐにその場から…」
「もう遅い」
すぐに2人のところに駆けつけようとした僕の前に再不斬が立ちふさがる。
そうこうしているうちに、白の忍術が発動した。
「秘術・魔鏡氷晶!」
今回はカナタ回でした。
本文にて白の「血継限界ですか?」という質問に対しカナタが「むしろ秘伝」と答えていますが、ここで血継限界と秘伝の違いについて考察。
血継限界
先祖代々から受け継がれた特別な性質変化を可能にする『先天的』特異体質。
秘伝
特殊な環境、投薬、専門知識などで植えつけられた特別なチャクラを生み出せる『後天的』特異体質。
前者の例は、白、うちはの写輪眼、など。
後者の例は、シカの角薬や丸薬などを服用しているであろう奈良、秋道一族。
蟲を寄生させる油女一族などです。
投薬改造大好きな大蛇丸本人やその部下達も秘伝に分類されるんじゃないかと思いました。
首が伸びるあれとか異様に長い舌とか鬼童丸の蜘蛛忍術とか。
そしてカナタの能力『
強いて言うならサイが保有する突然変異の特異体質『絵心』と同種。
コトの符術と同じく手を使わない忍術発動法で、手で印を結ぶのではなく、印を唱えることで術を発動できる能力です。
魔法使いの呪文詠唱と言えば大体あってます。
そして夢印詠唱は
両手がふさがっていても術が発動できる一見便利な能力ですが、聞く人に知識があればどんな術を発動しようとしているのか丸わかりになる、つまりいちいち技名を叫ぶようなものなので忍者らしくはないです。
致命的なのは原理的に『口から吐き出す系の術』は発動できないこと……
本当はコトが自分用に考案したのですが、「うちはの落ちこぼれ」であるコトには幻術の素養が全くなかったので習得できず、代わりに幻術タイプだったカナタが習得したという裏話があったり。
カナタは声や歌などで嵌める聴覚型幻術使いです。
そして設定段階ではツインテールでした。
……歌が得意な空色のツインテール少女、一体誰がモデルなのか(すっとぼけ)
今後カナタやサイの体質が子々孫々に受け継がれて一族と呼べる程に数が増えれば血継限界と呼べるかもです。