難産がどうとか以前の問題としてキャラが多すぎた……喋らせるだけで一苦労でした。
それはそれとして、
話は変わりますが僕はナルトと言う漫画の特徴の1つに「純粋悪がいない」があると個人的に思ってます。
大蛇丸しかり、マダラ然り、オビト然り。
ゼツにしても結局は親を想っての行動でしたし、カグヤやゾンビコンビにしても物理的にではなく精神的にハラワタ見せる展開になっていたら何か変わっていたんじゃないかと思いました。
そして、この二次創作のガトーさんはそんな思いから原作になかった捏造設定を多分に盛り込んでほぼ別人と化しています。
原作では特に内面を語ることも改心することもなく逝ってしまったわけですが……彼だけ例外とか考えたくなかったですから。
ナルトのド派手な登場に続いて巨大イカの出現、それに追われて海上を走るはたけカカシ先生とその忍犬、その後に続くうちはサスケ、の上に乗っている
(……なんだこれ?)
ほんのついさっきまでヤマト先生は霧隠れの鬼人再不斬と、私こと月光マイカゼとカナタは仮面の千本使い白と割とシリアスに戦闘していた筈である。
その筈なのに……目まぐるしく変化する状況に、私は全くついていけない。
初めての実戦だから仕方がない、なんて言い訳は通用しないのは百も承知だ。
だけど、いやだからこそ私は動けない。
この場合、どう動くのが正解なんだ?
タズナさんを避難させ自分達も撤退?
それともこの隙をついて再不斬や白を攻撃するのか?
あるいはイカの迎撃?
どうすればいい?
いったいどうすれば……ふとあたりを見回すと春野サクラが何やらぶつぶつ呟いているのに気付いた。
サクラと言えばアカデミー時代、座学トップの優等生だ。
ひょっとして彼女ならこの状況でも冷静で的確な判断を……
「……コトに良く似た白い小さな女の子、でも瞳はサスケ君と同じ写輪眼…………まさか!? サスケ君とコトの隠し―――」
「んなわけあるかこの脳ピン!」
前言撤回。
ちっとも冷静なんかじゃなかった。
今の今までサスケの頭の上の存在に気付かなかったあたり、どれだけサスケの事しか見ていなかったのかがよく分かる。
それに突っ込んだカナタもそうだけど皆相当に混乱しているな。
脳ピンってなんだよ。
「脳みそピンク。略してみた」
「……そうか」
どうでもよかった。
そうこうしているうちに、カカシ先生たちが海面を蹴って一足跳びに橋の上にのぼってくる。
おおよそ半日振りに第七班と第九班を合わせた木ノ葉2小隊計8名が橋に揃った。
「カカシ先輩!? 今まで一体どうして……それにあのイカは一体……」
「ヤマト。とりあえず説明は後だ。というか、実は俺もなんでこうなったのかよく分かってなくて…………想定外の事態に振り回されているのはどうやらお互い様らしいな」
忍犬をひきつれたカカシ先生は再不斬と白の存在に驚愕しつつも油断なくその左目の写輪眼で彼らを睨みつけた。
「再不斬の隣の子は……」
「お察しの通り、面は割れていますが件の千本使いですよ。さらに氷遁の使い手でもあります」
「なるほど、やっぱり再不斬の仲間だったか。しかも血継限界保持者とは」
「どうやらオレの予想、悪い方だけ的中しちゃったみたいね」とぼやくカカシ先生。
上忍2人と霧の2人が睨みあっているさなか、それ以外の木ノ葉の面々(+タズナさん)はカカシ先生とはやや離れた場所に着地して荒い息を吐くうちはサスケに駆け寄った。
頭上のコトとウサギが酷くマヌケだが決して誤解してはいけない。
サスケは未だかつてないほどに消耗してボロボロになっていた。
「サスケ君! 大丈夫!?」
「ハッハ~、だっせーなぁサスケちゃんよぉ! そんなにイカが怖かったのかなぁ~!?」
「ああ、……本気で死ぬかと思った」
「お、おう!? ……それは……災難だったってばよ??」
ここぞとばかりに挑発したナルトだったが、サスケに真顔で返されてちょっと引いていた。
珍しい光景である。
「どうしたよ? 笑えよウスラトンカチ」
「笑えねえ……というか、笑ってゴメンってばよ……」
「……どうやら本気の本気で超ヤバかったらしいのぉ」
タズナさんの呟きに私は内心で同意する。
あの何時も余裕の表情を崩さないクールなサスケがこんなになるなんて。
「(サスケ君、なんかちょっと卑屈になってる……嫌いじゃないわ!)」
そしてサクラは本当にぶれないな、彼女の背後でもう一人のサクラが狂喜乱舞している姿を幻視したぞ。
ナルトにとっては残念かもだけど、どうやら脈はなさそうだ、良かったなコト、ヒナタ、あとカナタもか?
そして件のコトはというと、貼り付けたような妙に薄っぺらい不気味な笑顔を浮かべたカナタにウサギごとつまみあげられ握りしめられていた。
「それで、コト? いったい今度は何したのかな?~ 超特濃の成長促進剤的な何かを海に流して海中の生物を突然変異させた? あるいは時空間忍術を暴発させて異世界の海獣でも口寄せしたのかしら?」
「そんな非常識で不条理なこと出来るわけないじゃないですか! カナタは私をなんだと思ってあひゃひゃひゃいひゃいいひゃい!?」
「誰が、非常識で、不条理、ですって?」
カナタにグニグニと握りつぶされて「きゃ~」と甲高い悲鳴を上げるコト。
こっちはこっちでぶれないなぁ。
「だったら、あのイカはなんなのよ!?」
「知りませんよそんなこと! むしろ私が聞きたいくらいです! 何でもかんでも原因が私だって思われるのは激しく心外なのですよ!」
「日ごろの行いがバカすぎるのよ! こっちはコトの所為でとんでもないことになったんだからね!」
「コトの所為?」
「どういうことだい?」
「そうなんですよ。聞いてくださいよヤマト先生にカカシ先生。この子ったら出会ったばかりの見知らぬお姉さん、というか件の仮面さんで名前は白さんっていうらしいですけどその人に言われるままにほいほい薬草とか渡しちゃった所為で再不斬があっという間に回復してなんでもありません」
カナタ、たぶんその「なんでもありません」は白骨死体に人工呼吸するくらい手遅れだと思うぞ。
カカシ先生とヤマト先生が頭痛を堪えるように頭を抑える、特にヤマト先生。
もう
そりゃそうだろう、いくら霧で隠れていても隠しきれないほどにカナタの態度があからさまにおかしかったのだから。
……そういえばこの事態で一番大騒ぎしそうなナルトがやけに静かだな。
と思っていたら、ナルトは白の顔を見て目を見開いていた。
コトも同じくびっくり顔で白を見つめている、お前等もか。
「お、お前はあん時の!?」
「奇遇ですね! あの時の薬草は役に立ちましたか?」
「……ああ、その節はどうも。ナルト君にコトさん……ですよね? なんか随分と小さくなって……それになんで雪まで」
「雪? ああ、この子って貴方の飼いウサギだったんですね。これは私の術の効果です。いろいろあったんですよ~」
「そうだったんですか……あの……今更僕がこんなことを言うのもなんですが、そういうことは内緒にしておいた方がいろいろと都合が良かったのでは? ……特に薬草とかの話は」
「「?」」
今や完全に無表情になっているヤマト先生と、全てを諦めたかのような乾いた笑みを浮かべているカナタの顔をちらちらと気にしつつそう言った白に対し、ナルトとコトはそろって首を傾げた。
ダメだこいつら。
それにしても余裕だなぁ、サスケがキャラ崩壊するほどの事態に巻き込まれたとは到底思えないほどの平常運転ぶりに私はまるでついていけな―――っ!?
不意に周囲が暗くなった。
霧や雲で陰ったのではない、とてつもなく大きなもの、つまりイカが作り出す影に橋がまるごと包まれたのだ。
とうとう橋のすぐ近くまで追い付いてきたか。
遠くでも十分に威圧感を感じたが、近くによると一段と……
「……気持ち悪っ!?」
サクラの叫びが、この場にいるすべての人物の心の声を代弁していた。
サスケはこんなのに追われていたのか。
そりゃ写輪眼も開眼するはずだ。
コト曰く、写輪眼は恐怖で開眼するらしいし。
エリート一族の血継限界も楽じゃないな。
イカの何考えているか全く読めない目玉がギョロりとこちらを向く。
来る!
建設途中の橋の支柱にも匹敵する太さの触手が真上から振り下ろされる!
しかし振り下ろされた触手は、突如出現した透明な壁に弾かれた。
これは白の氷遁? 橋全体をカバーするほどに巨大な氷のドームが、白自身、再不斬だけでなくこの場にいる全員を守るように展開していた。
「白……どういうつもりだ?」
「…………再不斬さん、この子たちは僕に………この戦いは僕の流儀でやらせて下さい」
白のその一言は、なんというか私の耳にはとてもとても言い訳がましく聞こえた。
これはまるで……
「イカなんかに獲物を横取りされたくないってことか…」
……まるで、無意識に身体が勝手に動いてしまい、後になって慌ててそれっぽい理屈をその場ででっち上げたみたいだ。
「ありがとうございます! 助かりました!」
コトが空気を読まずにニコニコ笑顔でお礼を言うのを見て今ようやく私は気づいた。
最初に向き合った時からなんとなく既視感を感じていたが、白ってコトに根っこの部分が物凄く似ているのだ。
つまりは物凄くお花ばた……お人好しなのである。
ただし、コトが良くも悪くも開けっぴろげなのに対し、白は仮面でその本質を押し殺そうとしている……けれどふとした瞬間にその仮面がはがれて優しい裏が出て来てしまうようだ。
これは育った環境の違いだろうか……うん、コトもそうだけど白も負けず劣らず忍び向いてないな! 奥さんとかお嫁さんとかの方が天職なんじゃないかな、どう見ても尽くすタイプだし、いや白は男だそうだから主夫か?
「白、相変わらずお前は甘いヤローだお前は」
「違いますよ、白さんは甘いんじゃなくて優しいんです!」
「ナチュラルに会話すんなコト、立場的には一応敵なんだから」
その場合、旦那さんというか家主は再不斬かなぁ……何気に白の本質に気づいているみたいだし。
言わずとも気持ちを汲む主人の鑑、何気にいい人なのかも。
以心伝心、まさしく夫婦みたいだ。
良いなぁこういうの―――とか、考えている間にイカが二本目の触手を振り下ろしてきた。
氷の壁がメキメキと音を立てて軋み、白の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
このままじゃ……そう思った矢先だ。
何処からともなく飛んできた矢? が『ドスッ!』とイカの触手に突き刺さった。
弓矢? いやあれはボウガンの矢か?
「それ以上この島の平和を脅かす怪物は…島の全町民の全勢力をもって! 生かしちゃおかねェッ!!」
「カイザ!? お前たち!?」
ふと気づけば、カイザさんを筆頭に思い思いの武装をした波の国の人たちが橋の上に集まっていた。
「って、ちょっと待ってなんでイナリ君までいるんですか!?」
「へへッ、ヒーローってのは遅れて登場するもんだからね!」
血相を変えて叫ぶコトの意図が伝わっているのかいないのか、ちゃっかり自分もボウガンを装備して得意げに笑うイナリ君。
「違う違う今はそういう事が言いたいんじゃないんです! 小さい子供は避難してください! ここは危ないんです!」
「小さい子供って……どう見てもあんたの方が小さいじゃん。というかあんた誰?」
……こういうのなんて言うんだっけ?
ドングリがクリを笑う? なんか違うような。
イナリ君は当然のごとくコトの忠告に耳を貸さず次の矢をボウガンに装填する。
というかさっきの矢はイナリ君か。
勇敢なのは男の子として大変結構ではあるけれど、イカにはまるで効いてないぞ。
巨大なイカからすればボウガンの矢なんてちょっと棘が刺さった程度にしかならない。
イカにダメージを与えたければ、この程度ではなくもっと強力な……大砲でも持ってこないと……『ドコォン!』……!?
突如、轟音と共に飛来した大砲の砲弾がイカの胴体に着弾した。
ウソォ!?
「んな!? いったいどこから……」
「海の方からだ……な、なんだあの船は?」
いつの間にか大型の貨物船が海上に浮かんでいた。
イカにやられたのか船体のあちこちに真新しい傷が見える上、見るからに堅気じゃないと思われる荒くれの厳つい船員が甲板に犇めきあっている。
物凄い人数だ、いや人数も凄いが武装も凄い……次から次へと今度はいったい何なんだ?
「あれはガトーカンパニーの武器商船!?」
「……ここまで来たのか」
「無事だったんですね……良かったです」
サスケ、何故そこで苦い表情を浮かべる?
コト、何故安堵する?
まさかあいつらとも顔見知りなのか?
このうちはコンビは本当に今の今まで何をしていたんだ?
黒いスーツを着たサングラスの男が船員たちを代表するように先頭に立った。
船員の中で唯一武装しておらず、代わりに杖を突いている。
怪我をしているのか左腕に包帯を巻いているが、それでも大きな存在感を放っていた。
あれがあの武器商船の船長だろうか?
「島の全町民の全勢力、ねェ……だったら俺達も含めてもらわなきゃねェ」
「ガトー!」
カイザさんがその男を見て驚愕の声を上げた。
あれが世界有数の大富豪ガトー!
「ガトー、どうしてお前がここに来る? それになんだその部下共は!?」
「決まっているだろう? そのイカの化物を退治しにだよ」
再不斬の殺気混じりの問いにガトーはまるでひるむことなく余裕で応える。
「こいつにはうちの大事な積荷を積んだ船を何度も沈められてねェ。困り果てていたところだったんだ。どうだい? ここは同じ国の住民として1つ共闘と行かないか?」
「よそ者の分際で……」
「そりゃお互い様だろう英雄カイザ様よぉ?」
苦々しく顔をゆがめるカイザさん。
そんなカイザさんを無視してガトーは再不斬の方を睨みつけた。
「再不斬、依頼人として正式にターゲットの変更を要求する。タズナの暗殺はいったん中止し今はこのイカを仕留めろ。霧の忍びは他里の忍びよりも水辺、海戦に秀でていると聞く。出来んとは言わせんぞ」
「……まさか、そのために
「さらに言えば抜け忍ということもあって報酬も正規の忍びより安く済む。金もかからんまさに一石二鳥の良い手だろう? ……ま、作戦ミスがあったとすればお前だ再不斬。本来実力確認のための前座だったはずの老いぼれ抹殺にここまで手こずるとは……霧隠れの鬼人が聞いてあきれるわ」
「もうお前ひとりに任せちゃおけねえからな!」
「しょうがないから加勢してやるぜ小鬼ちゃんよお!」
ガハハギャハハと口汚く笑うガトーの部下たち……口悪いけどこれは味方と判断して良いんじゃないだろうか?
「……悪いなカカシ、それとそっちの木遁使いは……ヤマトとか言ったか? 残念だが決着はお預けだ。俺にタズナを狙う理由がなくなった以上、お前等と戦う理由もなくなったわけだ」
「ああ……そうだな」
「え? 良いのかってばよ!? こいつは前にタズナのオッチャンを殺そうと……」
「小僧、俺たち忍びはただの道具だ。利用する者が殺せと命令すれば誰であろうと殺すがそれはあくまで任務、金のためだ。もうお前等に興味はない」
切り替え早いなぁ、さすが抜け忍でもプロと言う事か。
「やっぱり良い人でしたね。一緒にがんばりましょう! 白さんに再不斬さん!」
「……ええ、よろしくお願いします」
「……」
コトは全く切り替わってないな。
それなのに切り替えるまでもなく一貫してこっち方向だったから結果的に無問題になってしまっている。
おかしいだろそれ。
「ふざけるな!」
「誰がお前たちなんかと!」
「そりゃこっちのセリフだぜ!」
「老いぼれ、子供、役にたたねぇ雑魚は引っ込んでろ!」
島の町民とガトーの手下が海を挟んでいがみ合っているのを見て私は不覚にも安心してしまった。
そうだよな、普通そうなるよな。
ほんの少し前まで殺し合いをする敵だったのだから、切り替えられなかったらこうなるのは必然……のはずだ。
「み、みなさん仲良く……」
「してる暇はなさそうだね」
コトのセリフをヤマト先生が遮る。
イカの巨体が水面から跳ねた。
触手が頭上を覆いつくし橋全体に覆いかぶさるようにして突っ込んでくる。
まずいな、体当たりで橋ごと押しつぶす気だ。
「そうはさせん」
いつの間にか再不斬とカカシ先生が瞬身の術で海に移動し肩を並べて立っている。
「合わせろ、カカシ」
「ああ」
丑申卯子亥酉丑午酉子寅戌寅巳丑未巳亥未子壬申酉辰酉丑午未寅巳子申卯亥辰未子丑申酉壬子亥―――
物凄い量の印を物凄い速度で結ぶ2人。
―――酉!
「「水遁・双龍弾の術!!」」
瞬間、瓜二つの全く同じ術が同じ威力と規模を持って同時に発動した。
海から立ち上った二頭の水の龍が螺旋を描くように絡み合いながら巨大イカに激突し、大きく吹き飛ばす。
吹き飛んだイカはひっくり返って海面に叩きつけられ大きな水柱を発生させた。
「す、凄い……」
打ち上げられた水しぶきが飴のように降り注ぐ最中、私はそうとしか言葉が出なかった。
術の規模も印を結ぶ速度も凄まじいが、それ以上に何が凄いって即席チームなのにここまで息をぴったり合わせられることがとんでもなく凄い。
これが上忍のチームワークなのか。
「さすがは写輪眼のカカシ」
「ま、この術を見たのは二度目だからな」
頼もしい。
下手すればこの二人だけでイカを退治できてしまうんじゃないかという気さえしてくる。
「うわぁ! ボウガンの矢が!」
「バカ野郎、何処狙って……うわあぶねぇ!」
「お前等こそ大砲をどっち向けてやがる! 俺達を殺す気か!」
「砲弾の流れ弾がこっちに!」
周囲が足を引っ張りさえしなければ、だが。
イカが派手に吹っ飛んだ結果、ガトー組と町民組の狙いがそれぞれそれて流れ弾が交差する形で互いの陣地に降り注いでしまっている。
ガトーとカイザさんがそれぞれ集団をまとめようとしているが皆浮き足立って上手くいっていない。
「みんな落ち着け!」
「どいつもこいつも、貴様らそれでも傭兵か!」
「……こりゃ参ったね」
「どうするんですかヤマト先生?」
「どうするも何も、敵は海の怪物だ。水上歩行ができないことにはほとんど何も出来ないだろう」
「だったらヤマト先生だけでもカカシ先生の加勢に……」
「ダメだ。この状況で君たちから目を離すのはリスクが高すぎる」
この子は特にね、とコトに目をやりながらいうヤマト先生のセリフが正論過ぎて何も言えない。
っく、私達にはどうすることも出来ないのか。
苦無や手裏剣を投げるにしてもイカ相手ではほとんど通用しないだろうし……
「せめて遠距離忍術が使えたら……」
「そうだカナタ! 確かアンタ音の幻術使えたわよね!? ここから届かない?」
「確かに使えるし届くでしょうけど、届いたとしてもイカ相手に通用するのかしら? そもそもイカの耳って何処よ? というか耳あるの?」
「そ、それは……」
カナタの疑問には、サクラでもさすがに答えられなかった。
いくら優等生でも忍者はイカ博士じゃないのだ。
「サスケ! さっき海走ってたよな!? コツとか……」
「死にかけろ。それで死ななかったらできるようになる」
「お、おう……」
サスケの顔がマジだった。
いろんな意味で冗談ではない……けど実感こもりすぎて突っ込めない。
「こうなったら木遁で船を造ってそれを足場にするか……いやだが…………っ!?」
ヤマト先生は小声でぶつぶつと何やらつぶやいていたが唐突に閉口した。
カカシ先生と再不斬の巧みな連係で相当に追い詰められたらしいイカが苦し紛れの破れかぶれで触手をむちゃくちゃにのたうちまわらせ、振り回し始めた。
触手の動きがどんどん早くなっていき、ビュビュビュン! と空気を切り裂く音が鳴り響く。
先端はもはや霞んで見えな……ってこれはいくらなんでも速過ぎ!?
「―――っ! 全員モロ何かに掴まれ!」
カイザさんの悲鳴のような叫びとほぼ同時に、もはや鞭みたいな速度で振るわれた触手の1本が橋の支柱をぶっ叩き根元からへし折った。
遠雷のような轟音と共に心臓に悪い振動が橋全体を襲い、大きく傾いていく。
「うわあああぁぁぁ!!」
落ちていく。
橋の上の資材が、資材を運ぶクレーンが、何より橋の上に集まった町民たちが。
皆揃って荒れ狂う海へと落ちていく。
「そうはいくかってばよ! 多重影分身の術!」
「マイカゼ! サスケ君と春野さんも!」
「ああ!」
「ふん!」
「分かってるわ!」
私達はとっさに木登りの行の応用で傾く橋に張り、落ちていく町民の何人かを捕まえる。
ヤマト先生が木遁で足元から角材を何本も生やして町民を捕まえ一斉に引き上げる。
ヤマト先生に次いで大活躍なのはナルトだ。
影分身による人海戦術で次々と町民を避難させていく。
しかし、それでも足りない。
落ちていく人全員をカバーしきれない。
「あ……」
「イナリ!」
私たちの手をすり抜けたその時のイナリは信じられないと言った顔をしていた。
何が起こっているのか分からない、理解できない、そんな呆然とした様子で悲鳴を上げることもなく真っ逆さまに頭から荒れ狂う海へと落ちていく。
「イナリィィィイイ!!」
この時も真っ先に飛び出したのはナルトだった。
傾いた橋の上を全力で駆け下り、影分身も使わずそのまま落ちていくイナリに向かって跳ぶ。
「ナルト!」
なりふり構わず、誰よりも早く飛び出し空中で懸命に手を伸ばすナルト。
だがそれでも届かない!
もう駄目かと思ったその時、小さな影がナルトの背中を蹴って跳躍した。
小さな影がナルトのさらに前、イナリに向かって手を伸ばしそしてつかむ。
「届いたのですよ!」
「コト!?」
「ってあの子何時の間に!?」
ナルトが飛び出したコトの足をつかむ。
3人が空中でつながった。
私は思わず「やった!」とそう叫びかけて……ふと気づく。
確かに手は届いたしつながったけど、一体それがどうしたっていうんだ?
結局、ナルト(水面歩行未収得)とコト(半化の術継続)とイナリ(一般人)+ウサギ(?)は互いの手を放すことなくくっ付いたまま、仲良く一緒に荒れ狂う海へと落ちていった。
ポッチャーンという水音が酷く遠くマヌケに響く。
浮かんでこない。
「……え?」
「えっと……」
私たちがあまりの出来事に呆然としている間に、それは起こった。
海面が爆発した。
「うおおおおおおああああああああああああ!!!」
絶叫。
声は確かにナルトなのに、私はどうしても獣の咆哮を連想させた。
続けてチャクラ。
周囲の空気を一変させるほどのとてつもなく膨大なチャクラが噴き出していた。
しかも妙に禍々しい。
気づけば、大暴れしていたイカも、それを迎え撃っていたカカシ先生や再不斬もお互いにいがみ合っていたガトー一味や町民たちまで水を打ったように静まりかえっていた。
「……なんだこれは?」
いろいろ理解の追い付かない展開が立て続けに続いているが、今度と言う今度はもう訳が分からない。
「……ナルト?」
一体何が起こったのか。
事実だけを端的に言えば、ナルト達が海に落ちたと思ったら、海から禍々しい朱いチャクラを纏った超怖いナルトが獣じみた何かを叫びながら海を割って現れた。
その背中にはイナリとコト(とウサギ)がくっついているが、現在彼が猛烈な勢いで吹き出すチャクラに煽られてロデオのカウボーイのごとく揺られている。
吹き飛ばされていないのはコトが何やら術を発動させて必死に繋ぎ止めているからか。
うん、何処から突っ込めばいいのかすら分からない。
いやはやなんというか……さすが、コトを抑えて意外性ナンバーワンに輝くだけあるなぁ。
「…………こういうのをなんていうんだったか。キコリの泉?」
「全ッ然違う! ってか泉じゃないしというか悪くなって飛び出してくるとか逆だしもう意味わかんないしかもなんで海に立ってるのよついこの間まで木登りすら出来なかったはずでしょふざけんな!!」
なんかもういろいろとキャパオーバーしたらしいカナタの絶叫が、いつの間にか静まり返っていた周囲に大きくこだました。
貴方が落としたのは落ちこぼれのナルトですか?
それとも九尾のナルトですか?
はい、そんな感じでナルトも覚醒。
展開がかなり無理やりですが。
……シリアスって難しい。