南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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今回も遅れました。
定期投稿できる作者さんを僕は心から尊敬します。



だいぶ前の感想のコメントにて
『コトが木遁で草花しか出せないなら、ポケモンの技、つるのむちやはっぱカッター、リーフブレードなどを参考にした術を使ってみてはどうか』
という意見をいただいたことがあります。

今だから言いますが、非常に参考になりました。
ですけど、同時に甘いとも思いました。

何故つるのむちなのか。
何故はっぱカッターなのか。



くさタイプの技にはもっと凶悪な技があるでしょうに。


32話

九尾さんともっと話したいという思いもむなしく私の精神は半ば引きはがされるようにしてナルト君の精神世界から放り出されました。

出会いが唐突であれば別れもまた突然、ということなのでしょうか。

中途半端というか、不完全燃焼というか、何もかもが自分の意図とは無関係に始まり無関係に終わってしまったことがどうしようもなくもやもやするのです。

せめて九尾さんの名前の有無くらい最初の自己紹介で聞くべきだったと後悔しつつ私が現実世界に帰還して、真っ先に感じたのは暖かさでした。

 

「これは炎? じゃなくてチャクラ?」

 

私の全身が明るいオレンジ色のチャクラに包まれています。

なんとなく炬燵の光に似ている気がしました。

一度入ったらなかなか出られない、眠気すら誘うような心地よさ。

いったい誰のチャクラなんでしょう。

色を見る限りナルト君のとも九尾さんのとも違う気がするのですが。

 

「あれ、でもナルト君の身体から噴き出しているということはぐぶがぼごぼおおあ!?」

 

「はっ!? 俺は今まで何をぐぶがぼごおお!?」

 

暖かさの次に感じたのは冷たさでした。

まるで炬燵に潜り込んでまどろんでいたところをいきなり外に放り出されたかのような感覚……ってここ、よくよく見れば海の上じゃないですか!

文字通りの意味で冷水をかぶったことにより意識が一気に覚醒します。

そうでした! 九尾さんとの邂逅のインパクトですっかり忘れてましたが、もともとイナリ君を助けようとしたナルト君を追って海に飛び込んだんでした。

で、現在なぜかイナリ君は橋の上にいて私とナルト君だけが海に取り残されていると……何が起こったんでしょう?

 

「というかナルト君が沈む! 私も沈む!」

 

「コトちゃん!? なんで俺たち海に……なんで急にデカくなるんだってばよ!?」

 

「あ、ようやく半化の術が解けました!」

 

「このタイミングでかぁ!? ってかどうでもいいから頭の上から降りろってばぐぶごぼぼ……」

 

 

 

 

 

 

「……お前はどこまでふざけるつもりだ?」

 

海であっぷあっぷしていたところをヤマト先生の木遁でUFOキャッチャーの景品みたいにナルト君ともども橋の上まで摘み上げられた後、サスケ君に言われた開口一番のセリフがこれでした。

 

「……心外です。私は決してふざけてなどいません」

 

「へぇ……ふざけてないのか」

 

「はい、いたって真面目です」

 

私としてはウソ偽りのない心からの言葉のつもりでしたが、案の定というかやっぱりというか、その言葉を聞いたサスケ君が爆発しました。

 

「だったら! その頭は何なんだ!?」

 

サスケ君の指が指し示すその先―――というか私の頭なんですが―――そこには色とりどりの花々が咲き誇っているのでした。

 

「頭はお花畑ですとでもアピールしたいのかよ!」

 

「そんなわけないのです! てか私そんなにお花畑じゃないし! れーせーちんちゃくだし!」

 

「ウソつけ!」

 

「ウソじゃないもん!」

 

なお、それらの花々は海の中で絡みついてきた、とかではなく私の旋毛から生えてきたものです。

見た目にはまるで頭の上に花瓶がのっかっているみたいです……私の身体にいったい何が起こったのでしょうか?

さらに言えばその花の上に小さい兎の雪ちゃんがの乗っかっているから絵面的には物凄く珍妙なことになっているのでしょう。

……客観的に見る限り、ふざけていると思われてもしょうがないですねこれ。

 

サスケ君の手前認めるわけにはいきませんが。

 

「私は無実です!」

 

「ああそうだな無実だな、まだ花で実はつけてないからな! 上手いこと言ったつもりかよこのウスラトンカチが!」

 

「言い訳をさせてください! これには深いわけがあるんです……のはずです。たぶん!」

 

何分偶発的かつ突発的な現象であるがゆえに詳しい理屈とか原因はさっぱりなわけですが、それでも仮説や推論の類が全く浮かばないわけではないのですよ。

何せ心当たりはありすぎるほどにありますからね。

 

原因はおそらくナルト君の発していたオレンジ色のチャクラ、浄化された九尾さんのチャクラです。

あの生命力に満ちた力強いチャクラを直に浴びたことにより、私の細胞が活性化され木遁が暴発した……というのはちょっと苦しいでしょうか?

いや待て。

 

「よく見てください。ヤマト先生の木遁も同じく影響を受けているのです」

 

私とナルト君を海から引き上げる際に触れたんでしょう、いつもはヤマト先生の性格をそのまま形にしたかのような几帳面な四角四面の形状を保っているはずの角材はその形状を大きく崩して無秩序かつ自然のままに枝葉を茂らせています。

私以外の物的証拠が目の前にある以上、私のとっさの推論(いいわけ)もあながち的外れというわけでもないはず!

 

「そう、つまりすべての原因はナルト君の中にいる九みゅん!? (ひゃ)ヤマト先生(ひゃまひょへんへ)!?」

 

「(コト、残念だがそれ以上はダメだ)」

 

「(なんでですか!?)」

 

「(九尾の存在は木ノ葉にとって最重要機密なんだ)」

 

「(ではせめて花についてだけでも言い訳を! このままだと私はみんなから空気の読めないおバカさんだと思われちゃいます!)」

 

「(ああ、それに関しては大丈夫だ)」

 

「(?)」

 

ヤマト先生はこちらの口をふさいだままこの上なくいい笑顔で

 

()()()は十分に空気の読めないバカだ」

 

「ひょんにゃ~!?」

 

 

 

「ひどいです……私悪くないのに、不可抗力なのに」

 

結局、私はその後何の言い訳もさせてもらえませんでした。

みんなからのバカな子を見るような視線が痛い……でも甘んじて受け入れるしかないのです……

 

「……なんでそこで赤くなるのよ」

 

「うぇ!? べ、別に赤くなってません! 気のせいです……そういうカナタこそ頭のタンコブはどうしたんですか?」

 

もしかしてイカにやられて……いたらタンコブですむはずがないですよね?

 

「こ、これには深いわけが……うん、お互いそんなことを気にしてる場合じゃないでしょ。うん、今はあのイカをなんとかしないと」

 

「? ……そうですね」

 

やや気になりますが、確かにカナタの言うように今はそんなことを気にしていられるような状況ではありませんね。

暴れるイカを何とかしないことには波の国に未来はないのです。

問題は味方の足並みが全くそろわないことでしょう。

特にカイザさん一派とガトーさん一派を何とかしないと

 

「これは波の国全体の危機だ。今はいがみ合っている時ではない!」

 

「そうだ、同じ国に住む同士として共に戦おう!」

 

何とか……

 

「今なら何でもできる気がする……こんな気持ち初めて」

 

「私たちの力を1つにすれば、もうイカなんか怖くない!」

 

……あれ?

なんかみんなの様子が…

 

「ガトーたちとカイザのおっちゃんたちがなんだかよくわからないうちに仲直りしてるってばよ……サクラちゃんたちも妙に顔つきが爽やかというか憑き物が落ちたみたいな……」

 

俺の意識がない間にいったい何が? とナルト君が疑問だらけの顔でこっちを見つめてきます。

そんな目で見られてもわかりませんよ。

私は思わずとっさにカナタの方を見ましたが、なんか目をそらされるし……

 

「……カナタ?」

 

「こ、これはあれよ。なんか奇跡が起こって絆が芽生えたのよ!」

 

「っ!? そ、そうだったのですか!」

 

「すげぇってばよ!」

 

「そうなのよ凄いことが起こったのよ……」

 

これは燃える展開なのです。

私も頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

「……なんでそんなふざけた説明で誤魔化されるんだ……」

 

 

 

 

 

 

カイザさん一派とガトー一味が団結したことにより、一方的にイカにやられるだけだった戦況が変化してきました。

 

『ガトー操舵班は取り舵! 旋回してイカの側面に回り込め! カイザボウガン隊は矢を装填、ガトー大砲班の砲撃と同時に一斉射撃!』

 

発足した波の国連合(仮)の全軍の指揮を執っているのは意外なことにカナタです。

いや意外でもないのか。

彼女の忍法・拡音声の術を使えば隅々まで指示が届くのですよ。

スピーカーなしで声を大きく響かせるだけの単純な忍術なのに大活躍です。

Dランク任務で舞台に立った経験が活きましたね。

山中一族の秘伝であるテレパシー忍術『心伝心の術』と違い、味方だけでなく相手にも作戦とか筒抜けになるので対人戦闘には使えない手段なのですが今回の相手はイカなので問題なしです。

 

『白さん、今から3秒後に氷盾展開! カカシ先生と再不斬さんは5秒後に3時の方角に水遁発動! 薙ぎ払え!』

 

しかし、忍術で声色まで変えてノリノリだなぁカナタ。

作戦を考えている軍師役はあくまでヤマト先生であり、指揮官としての重責とかはないにしても物凄く生き生きしています。

荒くれだらけのガトー一派も、年寄り多数なカイザさんたち自警団も、誰一人として自分よりはるか年下の女の子に指示されていることに疑問を抱いていません。

カリスマ、というやつでしょうか。

 

「一応、人の上に立つ資質はある……ということなのかな?」

 

「いえヤマト先生、たぶんあればどっちかというと人の()に立つ資質だと思います」

 

つまりカナタは天性の扇動者(アジテーター)なのですよ。

偶像(アイドル)とか向いてるんじゃないでしょうか。

 

「……なんでこう僕の部下は忍びとは無関係なところばかり有能なんだ」

 

木遁で海面に足場を作りながらぼやくヤマト先生。

いいじゃないですか、別に忍びに関する才能だけがすべてじゃないですよ。

 

「それはそうとヤマト先生。そろそろ呪符を何枚か返してくれれば」

 

「ダメだ。コトはここを動くな」

 

すげなくそういうヤマト先生。

 

カナタは総指揮。

水面歩行ができるようになったサスケ君とサクラさん(一瞬でコツをつかみました……不公平通り越して理不尽です)はカカシ先生や再不斬さんと一緒に海面を走って遊撃。

海を走れないマイカゼやナルト君も白さんが海面に浮かべた氷や木遁を足場にすることで攻撃に加わっています。

皆頑張ってるのに私だけ「動くな」ってどういうことですか。

 

「私も何かしたいんですよ! 札さえあれば私にもできることが……」

 

「ダメったらダメ。ただでさえ綱渡りみたいな状況なのにこれ以上場をかき乱さないでくれ」

 

「そんなぁ~」

 

暗に、いや直接的に邪魔だといわれちゃいました……

いやまあ、理屈では理解できるんですが。

現状、イカとの戦局はわずかに押しているとはいえちょっとした要因でたやすくひっくり返るでしょう。

奇跡的に団結できたとはいえまだまだ油断なりません。

 

「仲間の足を引っ張らないのも立派なチームワークだ。大丈夫、コトの活躍の場はある。この戦いが終わった後、負傷者の治療のためにも今は札とチャクラを温存しておくんだ」

 

「了解です……」

 

ふがいない、こんなことならもっと戦闘用の忍術も練習しておくべきでした。

今更後悔しても遅いんですけどね、いや、遅いことはないか。

同じ失敗を繰り返さないためにも次は頑張りましょう。

 

そうこうしているうちに、再不斬さんの首斬り包丁がイカの触手をまとめて3本ぶった斬りました。

カイザさんたちのボウガンやガトーさんたちの大砲での牽制、ナルト君たちの陽動、カナタの指揮にヤマト先生の作戦、そのどれが欠けても無しえなかった一撃です。

まさにチームワークの勝利といえるでしょう。

少し複雑な気分ですが、本当に私の出番はなさそうです。

 

「ヤマト先生! チャンスですよ!」

 

「わかっているさ、このまま一気に畳みかけるよ。カナタ、合図を…………何っ!?」

 

ヤマト先生が驚愕に目を見開きました。

無理もありません。

 

「ああっ! 触手が……切れた触手がもう再生しています!」

 

どうやらあのイカは私たちが思っていた以上に厄介な難敵のようです。

少しくらいは怯むかと思ったのに、まるで応えていない様子でクレバーに暴れるイカを見て連合一同言葉を失っています。

 

「なんて奴だ……」

 

「……そういえば、カカシ先生の()()()()()()()()を受けた時もすぐに再生してましたっけ」

 

本当に何なんでしょうねこの超生物。

 

「つくづく化け物だな……こうなったらもう奴を海から引っ張り上げるしか……ってちょっと待てコト。今なんて言った?」

 

「? いやだから触手がすぐに再生……」

 

「そこじゃない! 教えてくれ、カカシ先輩はすでに雷切を使っていたのか!?」

 

「ライキリ……確かそんな技だったような……」

 

「いったいいつ……っ! いやそれよりも……何回使った?」

 

「ヤ、ヤマト先生? 目が血走ってますよ?」

 

顔近い近い!

急にどうしたんですか一体?

 

「そんなことはどうでもいい! それより早く答えるんだ」

 

「あ、あの時はいろいろいっぱいいっぱいだったので詳しくは覚えてませんが……確か5回くらいだったかなと」

 

小さい私や慣れない水上で動きが鈍いサスケ君を庇って、四方八方から迫りくるイカの触手相手に右手をバリバリさせながら大立ち回りを繰り広げたカカシ先生は活躍的にも物理的にも輝いていました。

さすがヤマト先生が自分より強いと認める先輩なだけありますね、すごく格好良かったですと私がそう言った瞬間、ヤマト先生が絶望の表情でその場に崩れ落ちました。

何故に!?

 

「ヤ、ヤマト先生?」

 

「……まずい、まずいぞ。このままじゃ……イカに勝てない」

 

「ええ!? でもさっきまでは十分に撃退できるって……」

 

言ったじゃないですか、とは続けられませんでした。

私がそう言い切る前に、戦っていたカカシ先生が力尽きたように動きを止め海に沈んだからです。

 

感情の読めないイカの目がギラリと鋭い眼光を放った気がしました。

 

 

 

 

 

 

「おいカカシ!? どうした!?」

 

「……すまない……」

 

「カカシィ!? ぐあっ!」

 

急に動きを止めて沈んでいくカカシに気を取られるというあまりにも大きな隙。

知恵が回るイカはそんな再不斬の隙を見逃しはしなかった。

 

「再不斬さん!」

 

大橋の支柱すらへし折るイカの触手による一撃をもろに受けて弾き飛ばされる再不斬。

白はすぐさま魔鏡氷晶による高速移動で救出に向かうが、それはガトーの武器商船を守りが手薄になる結果となった。

 

無防備になった武器商船に触手が叩き付けられる。

 

「うわああああああ!」

 

「ガトー社長! 船底より浸水! 止まりません!」

 

「このままでは沈没します!」

 

「ええい、いちいち狼狽えるでないわ! 貴様らそれでも海の男か!?」

 

もともと薄氷を踏むような危ういバランスで保っていた均衡だ。

一か所崩れるだけで、あっという間に崩壊した。

 

『各船員、船を反転! 危険水域を撤退したのち橋に乗り移れ! マイカゼとサスケ君は船の援護を! 何とか沈み切る前に全員脱出するんだ!』

 

カナタが必死に状況を打開しようと指示を飛ばすが、それすら悪手にしかならなかった。

 

連合を相手する場合、まずは頭をつぶすべし。

兵法の基本を戦いの中で学習したらしいイカは速やかに行動を開始する。

 

『ッ!? ヤバッ―――』

 

「木遁・木錠壁!」

 

間一髪、振り下ろされたイカの触手はカナタに直撃する前にヤマトによって阻まれた。

 

「危なかった……」

 

ちなみに身代わりになった木錠壁はバラバラに吹き飛んでいる。

明らかに一介の海生生物が出していい破壊力じゃないだろうと改めて思いつつヤマトは決断する。

 

もはやなりふり構っている場合ではない。

 

「コト! 札を返すからこれで船の救援に…………コト?」

 

いつの間にかコトがいなかった。

まさか、今の攻撃でどこかに吹き飛ばされたんじゃ……周囲を見回しているヤマトだったが、カナタがあっけらかんと答えた。

 

「あ、コトなら船が攻撃を受けた時すでに飛び出していきましたよ?」

 

「何ィ!?」

 

 

 

 

 

 

イカに船が沈められようとしているのを見て、私はほとんど無意識のまま飛び出してしまいました。

ほとんど反射的に懐に手を伸ばして、そこに呪符が1枚もないことに気づいて我に返りましたが、今更止まることなんてできません。

札がないなら、普通に印を結んで術を発動するまでです。

 

「―――子卯未酉戌申……」

 

術を呪符に込めず直接発動するのはずいぶんと久しぶりな気がしました。

故にこそ私は失敗しないよう丁寧に、しかしできる限り素早く印を結びます。

 

「コト! また勝手に―――」

 

後ろの方でなにやらヤマト先生が叫んでますがひとまずは無視ですごめんなさい。

 

「コト? お前何しに……」

 

「また勝手に飛び出してきたのか!?」

 

私が橋を渡って跳躍し船に乗り移ったとき、そこには同じように救援に駆け付けたマイカゼとサスケ君の姿がありました。

 

「……っ!? その印は!?」

 

マイカゼが驚きの声をあげます。

それもそのはず、今私が使おうとしているのは普段からよく使っている、しかし呪符なしでは今まで一度も発動に成功したことのない忍術なのですから。

だけど、気分が高揚しているせいか不思議と失敗する気がしません。

ナルト君のチャクラに包まれたときに感じた暖かさが胸の奥にまだ残っている気がしました。

 

―――巳!

 

「木遁の術!」

 

頭の花々がざわざわと動き出し袖口から青々としたつる草が生え、それにびっくりした兎さんが飛び上がります。

やっぱり! 思った通りできた!

 

「木遁!? でもそれって起水札と起土札を組み合わせないと使えないんじゃなかったのか?」

 

「そのはずだったんですけど、なんかできるようになりました!」

 

詳しい実験や検証ができてないので推測の域を出ないのですが、どうやら先のナルト君の九尾チャクラを浴びた影響で私の中に眠っていた木遁因子? 的なものが完全に目覚めたのが原因っぽいです。

もうこれからは札がなければ何もできない役立たずとは呼ばれない! ……かも。

 

「ふん、だが相変わらず花や草ばかりで『木』は出せないらしいな……」

 

「うぐ、そこには触れないでくださいよサスケ君」

 

確かにヤマト先生みたく木遁で木を操れたのであればこの場で船を修理するなんてこともできたんでしょうけど……私には無理ですごめんなさい。

天才ならざる凡人には得手不得手があるんですよ。

でもまあ、たとえ硬い木が出せないイコール何もできないというわけではないのですがね。

この世の全ての忍術は使いようです。

 

巫女服の袖口から飛び出した蔓をそのまま左腕に絡みつかせ、固定。

腕の先端に咲くのはラッパみたいな形をした大きな白い花です。

 

「木遁・百合鉄砲!」

 

花からプパパパパパッ、と軽快な音を響かせて勢いよく種が連続して飛び出しました。

狙いは当然目の前で船を襲っているイカです。

発射された種は過たずイカに命中しました。

 

「……全然効いてないぞ」

 

「そりゃそうだろう。文字通りの豆鉄砲だし」

 

「使えねぇっ!」

 

「いいんですよこの種はあくまで仕込みなんですから!」

 

「種だけに?」

 

「そう、種だけに……ってとにかく黙って見ててくださいよ!」

 

私は左手の百合の花を解除すると再び印を結びます。

ここからは今まで誰にも見せたことのない忍術です。

触手に植えつけられた種が一斉に芽吹きました。

生えだした植物の蔓がわさわさと蠢いて絡まりあい、触手を縫い合わせていきます。

 

「うお、これは!」

 

「触手の動きを封じた!」

 

ガトーさんの部下がはしゃいでいます。

もっと褒めてくれていいんですよ。

 

「名付けて木遁・宿木(やどりぎ)縛りの術!」

 

元ネタは『マダラの書(仮)』に記されていた突き刺した対象を内側から突き破る木の枝を放つ木遁・挿し木の術ですが、私のこれはそこまで硬くもなければ鋭くもありません。

習得難度が高いという以上に殺傷能力が高すぎて物騒極まりなかった高等忍術を私でも使えるよう適度にアレンジ、大幅にスペックダウンを施した結果せいぜい表面に絡みついて動きを封じるのが関の山という安心安全非殺傷忍術になりはてたのですが、それでも使い道はあるのですよ。

イカが触手に絡みついた蔓草を必死に振りほどこうとしていますが一向にほどける気配がありません。

 

「砕けないでしょう? そりゃそうですよね!」

 

ヤマト先生の木と違い私の蔓は硬くないから砕きようがありません。

柔らかいことは何も欠点ではないばかりではないのですよ。

九尾さんのチャクラの影響でより一層活性化されているのも相まって、そうそう千切れない強度になっているのです。

 

「コト。すごいな! 見直したよ!」

 

「ふっふっふ、もっと褒めてくれてもいいんですよマイカゼ?」

 

「……おいウスラトンカチ。そこで馬鹿笑いしてる暇があったら船を動かすの手伝え」

 

「サスケ君は意地悪です! ひとまず窮地は凌いだんですから少しくらい褒めてくれたって…………ってえええぇええっ!!?」

 

私はまだイカの執念を侮っていたようです。

なんとも恐るべきことにイカは触手が使えないと悟るや否や、身体ごと船に向かって突っ込んできたのでした。

 

「おい、まずいぞ!」

 

「このままじゃつぶされる!」

 

もともとが一般的な漁船をはるかに超える巨体のイカです。

確かにこの方法なら触手が使えなくても確実に船を海の藻屑にできるでしょうよ……なんてこったです。

 

「もうだめだ……」

 

「くそ! 俺はこんなところで!」

 

「ぶつかる―――」

 

イカの巨体が船に激突する……その瞬間に突然つんのめるようにしてイカの巨体が止まりました。

見れば、イカの後方でヤマト先生の長く伸びた木遁の手が、私の蔓をつかんでいます。

ヤマト先生と私の視線がぶつかり、交差しました。

言葉はありません、しかしそれでも私はヤマト先生の意図を正確に読み取りました。

私は印を結んで蔓を操作し木遁の手に絡ませます。

 

ヤマト先生も阿吽の呼吸もかくやという絶妙なタイミングで木の腕を高く跳ね上げました。

反動で蔓がビーンと張って伸び、木が大きく弧を描いてしなり……いうなればそれは天然素材の超特大釣り竿。

 

「これは……」

 

「名付けて、合同合作忍術・木遁・一本釣りの術!」

 

「正気か!? こんなものであのイカを吊り上げられるわけが……」

 

「確かに無理ですよ。ヤマト先生1人では」

 

サスケ君の言う通り、ヤマト先生だけではイカを吊り上げるなんて到底不可能です。

ですが……

 

 

『今こそ、波の国の英雄達の力を1つにする時! 引けえええ!』

 

 

「おおおおおお!!」

 

「イカに漁師の底力をモロ見せてやる!」

 

「超踏ん張れえええ!」

 

カナタの号令の元、カイザさんが、タズナさんが、橋に集結していた波の国の町民一同が一斉に竿をつかみ引っ張ります。

 

「私たちは1人じゃないんですよ!」

 

皆がいれば、私たちは負けないんです。

 

「俺も行くってばよ! 多重影分身の術!」

 

「私だって! しゃーんなろー!」

 

ナルト君やサクラさん、さらにはイナリ君まで加わった結果、じりじりとイカが引き上げられていきました。

当然、イカは暴れますが……

 

「野郎ども、ありったけぶち込め!」

 

ガトーさんの指示のもと、船員が大砲をバンバン撃ち込みました。

中には手に持っている剣や槍などを投げている人たちもいます。

もともと半壊状態で沈む寸前の武器商船です。

引き上げられない積み荷を全部使いきる勢いの大盤振る舞いにはさすがのイカも怯んだようで徐々に抵抗も少なくなっていきました。

 

「いける、いけるぞ!」

 

「よし、このまま―――何ィ!?」

 

いったい何度びっくりさせれば気が済むのでしょうかこのイカは。

 

「……っこいつ自分で触手を!」

 

「自切だと!? そんなことまでできるのか!?」

 

イカは蔓が絡みついていた触手を10本とも全部切り離したのでした。

いくら再生できるとはいえなんて大胆な!

いろいろと規格外な生物ですけど肝の座り方も半端じゃありません。

 

一応、蔓は胴体にも絡みついているはずなので拘束から完全に抜け出したわけではないのが幸いでしょうか。

イカとしても相当無理をしているのでしょう。

再生した触手は10本中3本しかなく、それも以前よりも一回りも二回りも細いです。

しかし、いくら細くなったとはいえ触手であることには変わりありません。

 

「武器を捨てて海に飛び込め!」

 

ガトーさんのその指示は悲鳴のように響きました。

文字通り身を削って放たれた死に物狂いの触手攻撃は今度こそ船を粉砕しつくし、私も含めた乗組員全員が沈む前に海へと脱出。

とりあえず船と一緒に木っ端みじんになった人はいないようで何よりですが、いよいよもって後がなくなってきました。

 

「……まずいぞ、あのイカ、船の次は釣り竿を壊す気だ」

 

私やマイカゼ、ガトーさんたちが仲間の無事を確認しつつ海に落ちてもがいているさなか、ただ一人水面歩行を習得していて海に落ちなかったサスケ君が暴れるイカを写輪眼で観察しています。

 

「確かにそっちもまずいでしょうけど、こっちも助けてください!」

 

特に腕を怪我しているガトーさんはうまく泳げないでいるらしく溺れそうで危ないんです。

 

いや、サスケ君の言う通り暴れるイカも無視していられる状況ではないのですが。

船からの妨害が消えた今、新たに生えた触手が自分を吊り上げようとしている釣り竿を破壊しようと3方から微妙にタイミングをずらしつつ襲い掛かります。

蔓の方は九尾さんのチャクラのおかげか切れる心配はなさそうですが、竿の方、ひいてはそれを支えるヤマト先生やナルト君たち町民一同はそういうわけにはいきません。

今攻撃されたら竿の跳ね上がる反動でまとめて海に投げ出されかねません。

とにかく触手をなんとかしないと……でもどうすれば……

 

再不斬さんと白さんが瞬身で現れたのはその時でした。

 

「ウラァ!!」

 

触手の攻撃をもろに受けて吹っとばされ満身創痍になっているにも関わらず、再不斬さんはその怪我の影響を感じさせない力強い包丁さばきで触手の1本を根元から切断しました。

切断された触手は遠心力によって明後日の方向に吹き飛んでいきます。

 

残る触手は2本。

 

「白、やれ」

 

「はい」

 

再不斬さんの命令を受けた白さんが速やかに反撃に移ります。

ただ、白さんのその背中にグロッキー状態のカカシ先生を担いでいます。

ちゃんと救出されていたことに安堵しつつも手が塞がっている状態で白さんはいったいどうやって触手を攻撃するつもりなのでしょう……ってえええ!?

なんと、白さんは右腕でカカシ先生を担ぎ、残った左腕だけで印を結び始めたのです。

いやそれは結ぶって言っていいのやら……というかそんなのあり!?

 

「秘術・千刃水晶!」

 

驚愕する私たちを置き去りにして白さんの水の刃は触手を瞬時に切り刻んだのでした。

 

『……片手の印とか……なんて非常識な!』

 

「……貴女にだけは言われたくないのですが……」

 

言霊使い(カナタ)の呆れたような声に白さんが突っ込みます。

もっともすぎる突っ込みですね。

 

「お前もな呪符使い」

 

よし、何はともあれ2本の触手を撃ち落としました。

しかし、それでも残り1本が止まりません。

 

再不斬さんも白さんもこれ以上の攻撃は間に合いそうにありません。

カカシ先生は動けない、ヤマト先生は竿を支えるのに手いっぱい、ナルト君もサクラさんも同様です。

ガトーさんたちの武器は残らず船と一緒に沈んでしまいましたし、私とカナタとマイカゼは海を走れません。

せめて同じタイミングで攻撃してくれれば先のように再不斬さんか白さんが触手を数本まとめて斬り飛ばすことも可能だったのに……ってまさかイカはそれを阻止するためにわざわざ時間差をつけて攻撃を?

 

「………もうダメです」

 

勝てない、と敗北を強くイメージしたその時でした。

 

「うおおおおおお!」

 

海面を蹴り、触手めがけて真っすぐに突っ込んでいく影がありました。

いえ、影という表現は的確ではなかったかもです。

何故ならその人の腕は眩いばかりに光を放っていたから。

 

目に見えるほどに極限まで一点集中されたチャクラ。

集中したチャクラが空気とこすれあって発生する『ヂヂヂヂ』という独特の音。

圧倒的なチャクラが肉体を活性化させることによって生まれる、爆発的な超スピード。

 

見間違えようがありません。

これはカカシ先生の―――

 

「雷切!」

 

まさに矢のごとし。

眼で追うことすら困難なほどのその超高速の突きは見事最後の触手を断ち切りました。

でもなんで?

 

「なんで? サスケ君がカカシ先生と同じ術を!?」

 

ま、まさかカカシ先生が最初に使ったのを写輪眼で見てコピーしたとか…?

そんなバカな!

いくら写輪眼があるからって……でもそうとしか……

 

……天才ってことなんでしょうね。

常識外れ過ぎてもはや感動しかないです。

 

『……よ、よし! イカの最後の悪あがきは今ので完全に封殺したわ! 者ども引けー!』

 

いち早く我に返ったカナタが再度号令をかけます。

 

その数十分後、ようやくイカの巨体は全て橋の上に引っ張り上げられたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら私は、私たちはまだまだイカを過小評価していたようです。

 

「……いったいいつから?」

 

「たぶん、自分の触手を10本とも自分で切り離した時、でしょうね」

 

「ああ、確かにそれ以外のタイミングはないな」

 

「……なんて奴だ」

 

皆、思い思いの表情で()()を見つめています。

乾いた笑みを浮かべる者。

悔しそうにする者。

怒りをあらわにする者もいますがそれはごくごく一部です。

大多数の表情は驚愕、そして呆然。

目の前の光景が信じられない、信じたくないという思いであふれていました。

 

「切り離した触手で変わり身とか……いったいどこでこんな小技覚えたのやら」

 

「さあ、どっか遠くの北の海で喧嘩友達のタコにでも習ったんじゃない?」

 

カナタが現実逃避気味に冗談を口にしましたが、誰一人として笑う者はいませんでした。

 

 

目の前に横たわっているのは長大な、しかしイカ本体からすればあまりに矮小な触手1本。

未だ活きてぴくぴく動いているそれが、それだけが私たち波の国連合の総力の、あまりにも割に合わない釣果でした。




「しょうがねーよな……サスケ……お前は特別だった……だがな俺はお前以上に特別だ」byイカ

……いや、本当はこんなはずじゃなかったんですよ。
ただ、登場するキャラ全員に見せ場を作ってあげたいなぁとか考えて、それに合わせて敵役のイカを魔改造していったら愛着がわいてしまっていつしかこんな怪物に……


なお、カカシ先生が雷切を5発使ってますけど、誤字ではないです。
コトの治療で全快以上に回復していたが故の数字です。
つまり、最初に合流した時点で「限界など、とうの昔に超えている」状態だったわけです。

あと、コトが千手の血統、即ち木遁を完全覚醒しました。
今後コトは札がなくても木遁が使用可能になります。
このためだけにわざわざ原作介入してまでナルトたちと行動させ九尾と邂逅させたといっても過言ではないです。

使用する木遁の元ネタですが……突然ですが僕はエルフーンが好きです。
伝説や600属なんかとは全く別ベクトルの強さ、ズルさを発揮するあの緑の悪魔が大好きです。

マダラの花樹海降臨(ねむりごな)なんかもそうですけど、くさタイプは単純なステータスや威力以外の要素で戦局を左右する技、ポケモンが多くて楽しいです。
術名、百合鉄砲か種魔神願かですごく悩んだんですよね。


あとは後日談を投稿すればイカ……波の国編は終了です。

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