南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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今回本当に遅れました。
年をまたいで遅れてしまいました。

申し訳ございません。


ほぼほぼ忘れられていると思うので簡単なあらすじを述べますと。

中忍試験、死の森のサバイバル中にとてつもなくデカいヘビに出会い、何とかそれを撃退したと思ったら、今度はそれをはるかに越える化け物のような草忍(大蛇丸)に出会った。

というところです。





あと、最初に断言します。
コトに大蛇丸の“器”としての価値はゼロです。
本来はネタバレなのですが、感想欄のコメント見る限りほぼバレバレみたいなので。


39話

「いろいろ気になる点はあったけど、とりあえずはこっちも合格ね」

 

中忍試験受験者の名も知らぬ草忍の顔を剥ぎ取り、なり替わっていた伝説の三忍、大蛇丸は圧倒的強者の立場からヤマト第9班をそう評価した。

 

第二試験の死の森での巻物争奪戦が始まってからこれまで大蛇丸が戦闘を行ったチームは9班ともう1組の合計2チーム。

いずれも以前から目をつけていたうちは一族の生き残りが所属する木ノ葉の班である。

 

最初に戦ったうちはサスケの所属するカカシ第7班はまさに期待通りであり、期待以上だった。

サスケのワンマンチームかと思いきや意外にチームワークもなかなかだったのは嬉しい誤算だ。

ただ唯一、サスケの眼がほとんど闇に染まっていなかったのが気がかりではあったが、“呪印”もしっかり刻んだことだし、今後染めていけばいいだろう。

 

そして、さっき戦ったうちはコトの第9班はというと、こちらはある意味期待外れであり、予想外でもあった。

 

(第一試験の時も感じたけど、うちはコトは戦士じゃなくて学者肌なのね。同じうちはでも、サスケ君とはまるで違うわ)

 

純粋な戦闘者、忍びとしての才能で器をはかるならばコトはサスケの足元にも及ばないだろう。

放たれた殺気に気づかない。

渦巻く悪意を察せない。

下手すればナルト以下の落ちこぼれ、正直、第一試験の“あれ”がなければとっくに見切りをつけていた。

 

ただしそれは個人での話。

 

間の抜けた能天気なおこちゃまでも、それすら作戦に組み込んでサポート(フォローともいう)できる優秀なカナタ(ブレイン)がいれば、脇をしっかり固めるマイカゼ(前衛)がいれば、十分活用できる。

 

そう、うずまきナルト(無鉄砲なウスラトンカチ)春野サクラ(足手まとい)をうまく利用してチーム一丸となって向かってきたうちはサスケのように。

 

(多芸、多彩、斬新かつ柔軟、チームとしての完成度でいえば、まだまだ粗削りだったサスケ君の班より上ね)

 

逃亡方法1つとってもセオリーから外れたものばかりで大いに楽しませてもらった。

特に最後の“あれ”は本気で度肝を抜かれた。

あの発想はなかったと素直に感心させられた。

 

そして、実際まんまと逃げおおせている。

伝説と謳われた三忍の一角、大蛇丸からだ。

 

(3人ともここで消すのは惜しいわね)

 

最初は周りのゴミを間引いて写輪眼を闇に染めるつもりだったが、気が変わった。

 

(こちらにもしっかり“呪印”を刻んだことだし、今回はこれでいいでしょう。全く、サスケ君といいこの子たちといい粒が揃っている木ノ葉は最高だわ)

 

 

 

 

 

 

「………なんとかにげきれた………のか?」

 

「どうかしらね、たんにみのがされただけかも」

 

カナタ(わたし)とマイカゼはひきつった顔で周囲に“あいつ”がいないことを確認し、息を吐いた。

まだ震えが止まらない。

正直、何で生きているのか不思議なくらいよ。

 

「まあとにかくいまはいきてることをよろこびましょう………コトはぶじ?」

 

「ぶじ………といっていいのやら」

 

とりあえず手近な葉っぱの陰に身を隠しつつ私たちは確認。

現在コトはあの草忍の噛みつき攻撃(首がめっちゃ伸びてたわ。どう考えても人間技じゃない)を受けて気絶している。

 

「………きぜつ? よね? しんでないよね?」

 

「わからない、とりあえずいきはしているみたいだが」

 

死んだように、というよりはむしろ糸の切れた人形みたいに動かない。

気を失っているというより、機能停止していると言った方がしっくりくる。

大丈夫よね?

 

 

 

 

 

 

これは夢ですね。

コト(わたし)はすぐに気づきました。

 

「………貴女は?」

 

『………お母さんもお父さんも、お姉ちゃんだって死なずに済んだはずなのに』

 

それもただの夢ではありません。

夢だけど、夢だと自覚できる程度には意識ははっきりしていて、それでいてどこか曖昧で。

そう、ちょうど九尾さんと邂逅した時と同じような感じ。

不思議な気分です。

まるで私の意識の中に私が認識できていなかった何かが紛れ込んで繋がったような………

 

九尾さんの時と違うのは、周囲の様子がさらにはっきりしないことと、対峙しているのが私自身だということです。

それも、今より幾分背が低いですね。

 

「昔の私?」

 

『どれだけ平和とか叫んでも、結局力がなければ何もできないじゃない! 私に力がなかったから………一族は滅んだ。あの時、もっと力が………力さえあれば!!』

 

幼い私が物凄い形相で叫びました。

驚きました。

私の中にこんな………

 

私はそんな幼い私を見て思わず………

 

『え?』

 

抱きしめました。

 

「良かった………ちゃんといたんですね。私の闇の心。正直、不安だったんですよ。どこにも見当たらないし見つけられなかったから。カナタにもオカシイってさんざん言われちゃいましたし」

 

『え? え??』

 

「ええ、ちゃんと分かってますよ。私は貴女なんですから」

 

戸惑ったような声を上げる幼い私を、私は優しく撫でます。

今の今まで認識できなかった、人として決して捨ててはいけない私の心の闇。

 

もう逃がしません。

 

『いや、待っ!』

 

「ひょっとしたら気づいていなかっただけで、貴女がいたからここまで頑張ってこれたのかもしれません。今までありがとう、私の陰、真なる私」

 

『何のことだ!? いや、それよりも何故精神が………これではまるで』

 

何時の間にか、足元から植物が生い茂っていました。

見る間に成長したそれらの蔓草は抱き合う私たちに絡みつき覆い隠してい行きます。

 

『こ、これはまさか千手の………よ、よせ! 私は、わたしは!!』

 

(わたし)(わたし)(わたし)(わたし)です、もういいんですよ。貴女は1人じゃないんですから。さア、ワタシトヒトツニナリマショウ?」

 

『やめろぉ! やめろやめロヤメロヤメロヤメ………』

 

 

 

「よし、いろいろ突っ込みたいところだけど、とりあえず頭冷やそうか愚かなる妹よ」

 

 

 

 

 

 

「―――んにゃ?」

 

「あ、めをさました」

 

「よかった………ホントいちじはどうなることかと」

 

私が目をあけて最初に飛び込んできた光景は、カナタとマイカゼが心底ほっとした様子で息を吐きだしたところでした。

空が暗い………夜ですね、気絶していた時間はおおよそ2~3時間といったところでしょうか。

 

「ごめんなさい………めいわくをかけました」

 

何やらまた足を引っ張ってしまった模様ですね。

 

「いいわよそんなこと。いつものことだし。むしろかんしゃしてるわ。コトがいなかったらおそらくさいしょの“さっき”をあびたじてんでうごくことすらままならなかったんだから」

 

「にげきれたのも、コトのふだのおかげだからな」

 

「にげきれたんですか………」

 

ということは、『あの術』は成功したんですね。

ぶっつけ本番でよくもまあ………あまりの綱渡り具合に今思い出しても心臓が止まりそうです。

見れば、カナタもマイカゼも未だに身体を小刻みに震わせています。

無理もありません、実際あの草忍さん、とんでもない人(?)でしたから。

 

 

札を用いた結界忍術による地雷作戦を展開すれば。

ワザと踏んで蹴散らされました。

 

煙球に紛れての撤退を試みれば。

風遁ですべて吹き払われました。

 

幻術による陽動を仕掛ければ。

さらに強力な幻術でもみ消されました。

 

木遁による防衛陣地を築いてみれば。

真正面から粉砕突破されました。

 

その次は火遁で、水遁で、風遁で、雷遁で、土遁で、写輪眼で、剣術で………事前に用意していた策はあっという間にネタ切れになり、必死に土壇場で考えた策であれこれあがいてみたものの、それこそ無駄なあがきにしかならず。

カナタの言霊の幻術は素で弾かれ、マイカゼの刀はまとめてへし折られ、私の札は発動する前に奪いとられ………

 

戦術ミスとか、準備不足とか、油断とか慢心とかそういうのじゃなくて。

 

ただただ単純に、上から叩き潰された。

ただただ純粋に、格の差で圧倒された。

 

結局逃げることすらできず、追い詰められるところまで追い詰められて、私たちはついに禁断のカードを切ったのでした。

 

禁符『超半化の術』

 

一切の加減なしで発動したそれの継続時間は今までで最長の24時間。

もちろん途中解除不能。

縮小倍率は驚きの100分の1。

 

ひとたび発動すれば丸1日アリと同サイズになってしまうという完全自爆符術を使うことで、私たちは最後の賭けに出た………というところで私は噛まれて気を失ったのです。

 

「なんとかいきのびることはできたみたいですけど………かんぱいです………」

 

あんなのでも下忍だなんて、本当、世界は広いです。

 

「まあ、つぎがんばりましょう。こんどあったときは………こんどこそしにそうね」

 

「しょうじき、もうにどとあいたくないな………コトはどうだ? うごけそうか?」

 

「なんとか」

 

右腕―――あの草忍さんに噛まれたところです―――に少しばかり違和感を覚えますが、それ以外はおおむね平気ですね。

………噛まれたところが痣というか、変な模様みたいに変色しているのが気になりますけど。

何でしょうこれ?

噛まれたときに何か注入された?

 

「だいじょうぶなの?………ものすごいふきつなんだけど」

 

「た、たぶん。いちおう、もくとんにめざめてからどくにはつよくなりましたし」

 

実はこれも原因がよくわかってないのですよね。

目覚めた木遁(千手の血統)のおかげなのか、はたまた九尾のチャクラの副作用なのか………

 

「あと、きぜつしているときになにかゆめをみていたようなきがするのですが………」

 

それも、かなり重要っぽい伏線が散りばめられた忘れちゃいけない系の。

しかし思い出そうとすればするほど記憶に靄が………

 

「………まあいいわ。いまはおいときましょう」

 

コトにわからないことが私にわかるはずもないし、とカナタとマイカゼ。

そんなところだけ買いかぶられても困るんですけど。

 

「あとでヤマトせんせいにそうだんするとして、そのためにもいまはぶじにいきのびるのがせんけつかな」

 

「そうだな」

 

「とにかく、もりのちゅうおうのとうをめざしましょう」

 

カナタもマイカゼも、もはや中忍試験のことは一切口にしませんでした。

そういう私も半ば諦めています。

集めていた巻物もなくしちゃいましたし、あんな下忍がいるんじゃなぁ………勝ち残れるわけないじゃないですか。

もっとも、今はあの草忍どころかそこら辺の虫にも負けそうなのですが。

 

「そもそも、はんかのじゅつのばいりつがむだにたかすぎるのよ」

 

「ですね。100ぶんの1じゃなくて、50ぶんの1くらいにしておけば………」

 

「たいしてかわらないだろそれ。それよりもまずはじゆうに………」

 

あれこれ言いあいながら、こそこそと身を隠す準備をする小さな私たち。

 

「コト、かんぜんかいじょとはいわないから、せめてこうかじかんをたんしゅくできない?」

 

「むちゃいいますねほんとうに!」

 

そんなこんなで死の森での最初の一日が過ぎていくのでした。

 

 

 

 

 

 

身体のサイズが100分の1になるということは、相対的に周囲の大きさや広さが100倍になるということです。

それがいったい何を意味するのか。

私たちは身をもって実感させられました。

 

「っく、私としたことが。身を隠すのに丁度よいサイズの穴が開いているからって不用意に飛び込み過ぎたわ………」

 

行けども行けども辿り着かない目的地。

何より、元のサイズと景色が変わりすぎてまともな方向感覚が働きません。

ちゃんと前に進んでいるのでしょうか。

 

「まさかアリの巣だったなんて」

 

「アリさんの建築技術は素晴らしいですね………こんなに小さいのによくもまあ」

 

張り巡らされた数々の天然の罠。

地下に築かれた迷宮で繰り広げられる命がけの脱走劇(要約。アリの巣でうっかり迷子になった)。

 

「痛感した………森は野生生物の楽園なんかじゃない。弱肉強食のただの無法地帯だっ!」

 

「ミミズだって、オケラだって、アメンボだって。みんなみんな生きているんだと悪い意味で理解させられるわ………友達にはなれそうにないけれど」

 

次から次へと現れる強敵たち(虫や小動物)。

大型の生物や本来争うはずだった他の受験生はどうなのかって?

あれらは台風とか嵐みたいな天災と同じカテゴリです、敵にすらなりえません。

矮小なる私たちはひたすら隠れてやり過ごすのみです。

そして、そんな野生にも慣れたころに襲い来る予想外の刺客。

 

「っふせろ!」

 

「っ!? これは!」

 

「リスです! でっかいリス! いや私たちが小さいんでしたか」

 

「下から見上げると意外にド迫力だな………」

 

「でもまあ、リスはリスでしょ。毒虫とかヘビとかイカに比べたらはるかにマシ―――△□○▽◇×!!!??」

 

「―――なんで、なんでリスの背中に“起爆札”が張り付いてるんですか!?」

 

「カミカゼ!? 自爆特攻なのか!? まさか私達を道連れに!?」

 

「こ、こいつかわいい顔してる癖になんて恐ろしいことを………ギャーこっち来たあぁぁああ!」

 

「大変です。急いで札を剥がしてあげにゃいっとぉあ!?」

 

「お前もう黙れ!」

 

「急いで逃げるに決まってるでしょおバカ!」

 

「ぶちましたねマイカゼ!? お父さんとお母さんとお姉ちゃんとサスケ君とカナタとサクラさんといのさんとヒナタさんとイルカ先生とスズメ先生と火影様とヤマト先生にしかぶたれたことないのに! 」

 

「ぶたれすぎだろ………」

 

それは人間の叡智と悪意が生み出した、自然ではない忍びの罠。

 

「何これ、隕石………じゃなくて苦無!? どっから飛んできたの!?」

 

「それよりも地面がオカシイです! こんな日当たりの悪い場所にこんな草が生えるわけがありません! それにこのあからさまにひっくり返されたばかりの石、土の色は………」

 

「よく見れば周りがブービートラップだらけだと!? まずいUターンだ!」

 

「出来るか! 後ろから小動物爆弾が迫ってきてるのよ!? このまま突っ込むしかないじゃない!」

 

無謀ともいえる突進。

己の直感のみを頼りに罠の隙間を掻い潜り、辿り着いた先に待っていたのは………

 

「眠っちゃダメ眠っちゃダメ眠っちゃダメ………」

 

「サクラさん!? それにナルト君にサスケ君が………」

 

「ついに3バカの妖精の幻覚まで………私もうダメかも。いやいや弱気になるな私! 私が2人を守らなくちゃ」

 

「幻覚じゃないって! こんな姿だけど私たちは本物の3バカ………って誰が3バカよ!?」

 

倒れ伏す仲間を必死に介抱する木ノ葉の同期でした。

 




NARUTO最強の忍びは誰なのかは議論の余地はあります。

でも、最強の細胞は間違いなく柱間細胞です。


彼女等はふざけているわけじゃないんですよ。
むしろ凄く真面目なんです。

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